冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~   作:斉宮 柴野

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※この作品では
・アーサー王は魔女扱いされます
・征服王は正解です
・切嗣は心労が増えます

ご了承ください。


魔女の濡れ衣と、竜の咆哮

「くっ……!侮辱するか!ならば受けてみるがいい!我が不可視の剣閃を!!」

 

セイバーちゃんが地を蹴る。速い。さっきの涙目はどこへやら、今は鬼の形相で突っ込んでくる。

 

でも、その手元はやっぱり「手ぶら」だ。ヤケクソ気味に踏み込み、見えない剣を大きく振りかぶっている。普通なら「素手で殴りかかってくる女の子」にしか見えない。痛々しい。役者として、小道具を忘れたことを認められない彼女のプライドが、見ていて辛い。でも、ここで「持ってないでしょ?」と指摘し続けるのは野暮というもの。

 

彼女は今、必死に「剣がある演技」をしているのだ。ならば、座長である私がすべきことは一つ。彼女の「パントマイム」に合わせて、一流のリアクションを返してあげること。それが即興劇の愛であり、先輩としての務めだ。

 

「仕方ないわね……。付き合ってあげるわ、その『エア剣』に」

 

私は旗を構える。来る。彼女の手元で、空気が渦巻いている。私の眼が、その空気の流れを青白い光のラインとして視覚化する。なるほど。風圧を使って、あたかも「剣があるかのように」見せかけるトリックね。送風機でも袖に仕込んでいるのかしら?冬木の特効技術、侮れないわ。軌道は……右斜め上からの袈裟斬り。その「風のライン」に合わせて、自分の旗の柄を差し出す。タイミングを合わせて、あたかも「硬いものがぶつかった」かのような演技をするために。

 

せーの、ドンッ!ガギィィィン!!

 

激しい火花が散る。重い衝撃が、旗を通じて私の腕に伝わる。えっ?すごい。本当に金属と金属がぶつかったような感触。そしてこの火花。火薬仕込み?それとも、超高圧縮された空気がプラズマ化したの?

 

「手応えがない!?我が剣をいなしているというのか……!?」

 

「いい気迫ね!まるで本当に腕に衝撃が来たみたいな迫真の演技!ブラボーよ!」

 

すごいわ、この娘。私の腕が痺れるくらいの衝撃を、「演技」だけで表現してる。私がうまく腕を引いて衝撃を逃がしていなければ、本当に骨が折れていたかもしれないくらいのリアリティ。この娘さん……実はパントマイマー出身の天才なのね!!フランスのマルセル・マルソーもびっくりよ。

 

「貴様……!ふざけているのか!?」

 

「ふざけてないわよ、真剣よ!その『見えない剣』、重量感たっぷりで素敵だわ!でも、詰めが甘い!」

 

旗を回転させ、彼女の「見えない剣」を弾き返す。キンッ!また乾いた音が鳴る。

音響スタッフ、タイミング完璧すぎる。どこにスピーカー隠してるの?セイバーちゃんがたたらを踏んで下がる。

 

「ジャンヌ!お下がりを!!行け、海魔たちよ!聖女の舞を邪魔する羽虫を食い潰せ!!」

 

「あ、ちょっとジル!邪魔しないで!」

 

私の制止も虚しく、ジルがまたあの気味の悪い本を開く。地面からボコボコと湧き出す海魔たち。ヌルヌルの触手が、セイバーちゃんに襲いかかる。おお、ジルもやる気ね!

 

下がって応援、やっぱりジャンヌ・ダルクのポジションはこれだわ。指揮官として、後方から戦局を見守る。それもまた一興。セイバーちゃんが「見えない剣」を振るう。ズバッ!ズババッ!海魔たちが切り裂かれ、肉片になって飛び散る。すごい。エア剣でここまで切断描写ができるなんて、彼女のマイム力は物理法則すらねじ曲げているの?

 

それとも、海魔の中に自爆装置が入っていて、彼女の動きに合わせて破裂してるの?だとしたら、特撮ヒーロー番組並みの手間がかかってるわね。私は顎に手を当て、戦う彼女を見つめる。それにしても、彼女は誰を演じているのかしら?女の子で騎士。金髪。そして、この凄まじい身体能力。……ピンと来た。

 

「あ!分かったわ!貴女、ブラダマンテでしょ!シャルルマーニュ十二勇士の!」

 

「……は?」

 

セイバーちゃんが海魔を蹴り飛ばしながら、キョトンとした顔をする。違うの?白羽の騎士。恋に生きる乙女騎士。イメージぴったりだと思うんだけど。

 

「違います!!私は……ブリテンの……!」

 

「ブリテン?イギリス?」

 

「!!セイバー、いけないわ!!」

 

あ、口が滑っちゃった?「ブリテン」って言っちゃった。決定的なヒントだ。

 

「あ、あばばば……!!」

 

可愛い。ドジっ子属性まであるなんて、あざといわね。ブリテン。アーサー王伝説の舞台。金髪の騎士。そして、あの不遜な態度と、頑なに名乗れない事情。

 

さらに言えば、「剣が見えない」という奇妙なギミック。アーサー王ならエクスカリバーを見せびらかしてナンボでしょう?それを隠すということは、見せられない理由がある。あるいは、剣を持つ資格がないとか?……繋がったわ。全てのパズルが!私はポンと手を打つ。

 

「そうか!分かったわ、貴女の真名が!!」

 

「くっ……!」

 

「なに!?どうなのだジャンヌ・ダルクよ!彼女は何者だ!」

 

『教えてくれ!その『見えない剣』の正体を!!敵の真名を知れば、我が陣営の勝利は揺るがない!』

 

皆が私の言葉を待っている。この注目。この緊張感。最高だわ。探偵ドラマの解決編で、犯人を指差す瞬間の高揚感。私はビシッと、セイバーちゃんを指差す。勝ち誇ったように。高らかに。

 

「貴女の真名は……モルガン・ル・フェね!!」

 

シーン。時が止まる。波の音すら遠慮したように消える。

 

「……は?」

 

あれ?反応が薄い。図星すぎて声も出ない?

 

「その騎士の真似事は、弟アーサーへの当てつけでしょう!?だから誇りある名乗りを選ばないのよ!王の座を狙う卑屈な魔女だからだわ!!」

 

モルガン・ル・フェ。アーサー王の姉であり、敵対者。魔女でありながら、王位継承権を主張する複雑なキャラクター。だからこそ、剣を持たず、しかし騎士の格好をして皮肉っているのだ。「見えない剣」は、魔術による幻影。だからこそ、物理的な実体がないのだ。辻褄が合う!完璧すぎる!

 

「それに、その性格!一見真面目そうに見えて、実はドジっ子で激情家!まさに『妖妃』と呼ぶに相応しいエキセントリックさだわ!貴女、役作り完璧よ!」

 

「ぐううううううううっ!!!!!」

 

 

 

◇◇

 

 

 

「なるほど……!見えない剣にも納得がいく……!セイバーともあろうものが剣を隠すなどという卑怯な真似をするはずがないと思っていたが、貴様が魔女モルガンだと言うのならば辻褄が合う!」

 

イケメンは何をしても画になるけれど、得心した顔もまた可愛らしい。

彼の中でのモヤモヤ――「なんでこのチビっ子は剣を見せないんだ?」という疑問が、私の名推理によって氷解したのだ。

 

『流石はジャンヌ・ダルク……。慧眼というべきか。あの瞳、やはり本物の審判者のものかもしれん。サーヴァントの真名を見抜くスキル……ルーラーの特権か』

 

闇の中から、ケイネス先生(仮)の感心したような声が響く。お褒めに預かり光栄です。

 

ふふん。どう?この完璧な推理。「弟を憎む姉」というドロドロの解釈。愛憎渦巻くブリテン王室の確執。ただのチャンバラ活劇に、シェイクスピアのような重厚な人間ドラマを付与するこの手腕。舞台が締まるわぁ。私の演出プラン、冴え渡ってる。

 

「ち、違います……!違います!!私は……私はぁぁぁ!!」

 

セイバーちゃんが震えている。顔を真っ赤にして、プルプルと小刻みに。可愛い。小動物がいじめられてパニックになっているみたい。

 

彼女はバッと後ろを振り向き、アイリスフィールさんに食ってかかる。その勢いは、もはや主従関係を超えていた。

 

「アイリスフィールうううう!!もう無理です!名乗ります!名乗らせてください!!令呪で止めても名乗りますよ!魔女扱いなんて死んでも御免被る!!」

 

「セ、セイバー……落ち着いて……」

 

「落ち着けません!私は騎士王です!誇り高きブリテンの王です!なのに、あろうことか宿敵の姉上……あの性悪魔女と間違われるなんて!!これ以上の辱めはありません!!切腹ものです!!」

 

「せ、切腹は日本の文化よ……」

 

アイリスフィールさんがおろおろしている。可哀想に。プロデューサーとしての立場と、女優のメンタルケアの板挟みね。でも、セイバーちゃんの剣幕は止まらない。彼女は地団駄を踏む。ドンドンッ!アスファルトが割れる。子供の駄々っ子みたいだけど、破壊力が怪獣並みだ。

 

「もういいわ……。行ってきなさい、セイバー。貴女の名誉を守りなさい」

 

ついに、アイリスフィールさんが折れた。許可が出た。GOサインだ。セイバーちゃんの表情が、パッと輝く。

 

「感謝します、アイリスフィール!!」

 

私と、ランサーさんと、ジルを見据える。その瞳に、王者の光が宿る。風が巻く。

彼女の手元を隠していた不可視の結界が、嵐のように吹き荒れる。バシュゥゥゥゥン!!空気が弾ける音。そして、そこ現れたのは――黄金の輝き。

 

「見るがいい!これぞ我が誇り!星の聖剣!!」

 

眩しい。直視できないほどの光。LED何万個使ってるの?その光の中から、一本の剣が姿を現す。美しい。装飾、輝き、そして何よりその存在感。美術スタッフ、本気出しすぎでしょ。

 

国宝級の小道具だわ。セイバーちゃんは、その黄金の剣を高々と掲げ、腹の底から叫ぶ。

 

「我が名はブリテンの赤き竜!!アーサー・ペンドラゴンである!!」

 

ドオォォォン!!

 

宣言と同時に、黄金の魔力が奔流となって吹き荒れる。コンテナがまたいくつか飛んでいった。私の髪もバサバサと煽られる。すごい出力。まさに「王」の名乗り。

 

完璧なカタルシス。普通なら、ここで「おお……なんと……!」とひれ伏すのが正解のリアクションだろう。……でも。私は、その光景を冷静に分析していた。

 

「……うっわ……」

 

思わず声が出る。あのタイミングで「実はアーサーでした」っていうどんでん返し……。

 

いや、違うわね。これは高度な演技よ!!騙されちゃいけない。彼女はさっきまで「見えない剣」を使っていたのよ?

 

それが、追い詰められた途端に「実は聖剣でした」って見せびらかす。つまり、これは……。『モルガンが、弟のアーサーになりすまして、悪評を広めようとしている』という、二重構造の演技!!

 

すごい。鳥肌が立った。そこまでやる?自分の正体がバレそうになったから、あえて敵対する弟の姿を借りて、「ほら、アーサー王ってこんなに野蛮でヒステリックなんですよ」とアピールする作戦?

 

なんて陰湿!なんて狡猾!そして何より、なんて役者魂!!拍手を送りたい気分だ。彼女の計算高さに。

 

「……さすがモルガンね!自分が落とした株を、弟に押し付けるなんて……。まさにハマり役だわ!最高のヴィラン演技ね!!悪役の鑑よ!」

 

「…………は?」

 

「え?今、名乗りましたよね?アーサーだって。聖剣も見せましたよね?」

 

「ええ、見せてもらったわ。素晴らしい小道具ね。どこで作ったの?贋作にしては精巧すぎるわ。通販?アマゾン?」

 

「本物だ!!誰が贋作か!!」

 

「はいはい、そういう『設定』ね。分かってるわよ。でも、騙されないわ。貴女の本質は、その剣の輝きよりも、もっとドロドロした執念深さにあるもの」

 

甘いわよ、お嬢さん。私の目は誤魔化せない。

 

「弟の名を騙って戦場を混乱させ、アーサー王の名誉を失墜させる……。それが貴女の狙いでしょう?怖い怖い。女の嫉妬って怖いわねぇ」

 

「違うと言っているだろーーーーっ!!!話を聞けええええええええ!!!」

 

その顔は、さっきよりもさらに紅潮し、血管が浮き出ている。キレ芸だ。カンニング竹山も裸足で逃げ出すレベルのキレ芸。

 

「なんと……なりすましだったのか!?狡猾な!恥を知れ、魔女モルガン!!」

 

ランサーさんが激昂する。彼もまた、私の解釈に完全に同調している。「騎士王がこんなヒステリックなわけがない」「聖剣を見せびらかしてドヤ顔するなんて品がない」「つまり、これは偽物だ!」という論理的な思考回路が、瞬時に形成されたのだ。

 

『これが魔女か……。危うく騙されるところだったな。聖剣の輝きすら模倣するとは、キャスタークラスの幻術か?恐ろしい女だ』

 

ケイネス先生も納得している。皆、私の脚本の上で踊っている。気持ちいい。

 

「貴様ら……!!貴様らぁぁぁぁ!!私の剣が偽物だと!?私の名乗りが嘘だと!?ならばその体で確かめてみるか!!」

 

「ほら、すぐそうやって暴力に訴える。アーサー王はもっと冷静沈着な人物として描かれることが多いのよ?キャラ崩壊してるわよ、モルガンちゃん」

 

「うがーーーーっ!!!」

 

セイバーちゃんが剣を振り回す。黄金の光が乱舞する。

 

危ない危ない。でも、当たらない。怒りで動きが大雑把になってるから、私の「目」なら余裕で見切れる。この娘さん、キレ芸もすごいわ!あとで絶対に連絡先聞こうっと。私の劇団にスカウトしなきゃ!「劇団・冬木アクターズ」の看板女優になれる逸材よ。

 

特に、この「理不尽な状況に追い込まれた時のリアクション」が天下一品だわ。いじりがいがある。

 

「ねえ、セイバーちゃん。事務所どこ?フリー?今度ウチの公演に出ない?『マクベス』の魔女役とか絶対似合うと思うんだけど」

 

「黙れ!斬るぞ!今すぐ斬るぞ!!」

 

「ギャラは相談に乗るわよ?カツ丼一杯でどう?」

 

「私は王だ!飯で釣られるか!!」

 

お、食いついた。「飯」に反応したわね。王様もお腹は空くのね。可愛い。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「訂正しろ!!今すぐに!!私はアーサー王だ!!誰が魔女か!!誰が姉上か!!」

 

すごい。めちゃくちゃ泣きながら斬り掛かってくるわね。顔はぐしゃぐしゃで、鼻水も出てるんじゃないかってくらいの形相だけど、その剣速は衰えるどころか加速している。

 

うーん、これはまずいかも。もしかして、彼女の最大の見せ場である「真名公開」のシーンを、私が先にネタバレして台無しにしちゃったかしら?推理小説の犯人を最初のページでバラされたような絶望感を与えてしまった?だとしたら申し訳ない。女優さんのプライドを傷つけちゃったかも。でも、泣くことないじゃない。泣き顔も可愛いけど、魔女役ならもっとこう、妖艶に笑ってごまかすくらいの余裕が欲しいわね。

 

「落ち着いてモルガン!魔女が泣くと、せっかくの魔法が湿気て使えなくなるらしいわよ!マスカラも落ちちゃうわよ!」

 

私はなだめるように、手にした巨大な旗をブンブンと振る。これが意外と効果的な目くらましになるのよ。

 

「違うと言っているでしょうに〜〜!!」

 

セイバーちゃんの渾身の一撃。彼女の足元のコンクリートが爆ぜる。あ、これ直撃したら私の「聖女の鎧」でも防ぎきれないかも。緊急回避!……と思った瞬間。

 

ドプンッ!ヌチャアッ!

 

地面から湧き上がった赤黒い肉塊が、セイバーちゃんの進路を塞ぐ。ジルが召喚し続けている海魔たちだ。彼らは忠実にも、私の盾となるべく自らの身体を差し出したのだ。

 

「ジャンヌには指一本触れさせぬぞ、女狐め!!」

 

「ジル、ナイスアシスト!でも絵面が汚い!」

 

うわぁ、スプラッター。これ、R指定入るんじゃない?でも、そのおかげで直撃は免れた。……あ、なんかセイバーさんが海魔をまとめて吹き飛ばして、こっちに飛んできたわ。すごい馬力。タコ足配線みたいに絡みついた触手を、力任せに引きちぎって突っ込んでくる。鬼だ。あの可憐な少女のどこにそんなパワーが?

 

どういう「返し」で受けようかしら……。旗で受け流す?それとも、また物理でカウンター?その時。

 

ゴロゴロゴロ……ッ!!!!

 

夜空を割るような雷鳴。いや、轟音。全員の動きが止まる。私も、セイバーちゃんも、ジルも、ランサーさんも。

 

空を見上げる。そこには、紫電を纏いながら降下してくる、巨大な物体があった。

それも、ただの戦車じゃない。筋肉隆々の二頭の神牛が牽引する、古代の重戦車だ。車輪からは雷がほとばしり、空気を焼き焦がしている。

 

ズズズズズズンッ!!!!

 

「皆のもの控えよ!王の御前である!!」

 

……すごい。冬木市って本当に演劇都市なのね!このタイミングで特撮バリの重機が登場するなんて!あれ、リース代いくらするんだろう。まさか自作?

 

だとしたら、冬木工業高校の生徒とかが卒業制作で作ったのかしら。クオリティが高すぎる。そして何より、あの乗っているおじさん。赤髪の短髪、髭面、そしてはちきれんばかりの筋肉。マントをなびかせる姿は、まさに「豪傑」そのもの。

 

キャラが濃い。セイバーちゃんの悲劇的な涙も、私の電波な聖女演技も、全部持っていかれそうな存在感だ。

 

「皆、剣を収めよ!聖杯を前にして、無粋な小競り合いは王の興を削ぐ!」

 

「む……。何者だ、貴様は」

 

ランサーさんが警戒して槍を構える。セイバーちゃんも、涙目のまま剣を止める。ライダーのおじさんは、ニカッと笑って胸を叩いた。

 

「我が名は……」

 

おっと。名乗りタイムね。でも、待って。ここまでのお膳立てがあれば、彼の正体なんてバレバレじゃない?ここは私がズバリ言い当てて、博識なところをアピールするチャンス!

 

「ストーーーップ!!!」

 

「おお?」

 

スポットライトは、私とおじさんに当たっている。

 

「皆まで言わないで、王様!わかってます!このジャンヌ・ダルク、貴方が誰なのか、その演出を見れば一目瞭然ですとも!」

 

甘いわよ、冬木のキャスティング。分かりやすすぎるわ。

 

「おお!流石は聖女よ。……王の言葉を遮った不敬、見事当てられたら不問にしよう。そこのモルガンも、貴様に当てられたようだしな」

 

「だから違うと言っているだろぉ!!」

 

横でセイバーちゃんが叫んでいるけど無視。今はクイズの時間よ。

雷。牛。戦車。そして「王」というキーワード。

 

「その雷を纏った牛の戦車……。『ゴルディアスの結び目』を両断した伝説を持つ、フリギアの神牛戦車と見たわ……。なら、普通に考えればその戦車の持ち主だったゴルディアス王……あるいは、その息子ミダス王……。でも、貴方のその覇気、ただの王ではない。東方遠征、ヘファスティオンとの友情、そして早すぎる死……。貴方は『王』と言った。なら答えは一つ!マケドニア王国の君主にして稀代の戦略家、世界をその足で踏破せんと欲した覇王!『アレクサンドロス三世』!!!それが貴方の真名ね!!」

 

ライダーのおじさんが、ニヤリと笑みを深める。楽しそうね。私も楽しいわ。どうだ!完璧な回答!歴史の偏差値70越えの推理!

 

「うむ!!!見事なり聖女!!痛快痛快!!確かに余は征服王アレクサンドロス3世である!今はイスカンダルと名乗っておるがな!」

 

イスカンダル。ペルシャ語読みね。渋い。やっぱり、私の目に狂いはありませんでした。

 

「……となると、やはりジャンヌの眼力は本物か。初見のサーヴァントの真名を、宝具の特徴から瞬時に見抜くとは……。となると、やはりセイバーはモルガンか。ジャンヌの言に間違いはないようだ」

 

「は……?」

 

セイバーちゃんが凍りつく。ランサーさんの論理展開。

 

1.ジャンヌはイスカンダルの真名を当てた。

2.ジャンヌの目は確かだ。

3.なら、ジャンヌが「セイバーはモルガンだ」と言ったのも正しいはずだ。

 

完璧な三段論法。ロジカルシンキングの勝利ね。セイバーちゃんは、ガクガクと膝を震わせている。彼女の頼みの綱であるアイリスフィールさんを見る。

 

「ア、アイリスフィール……?否定して……。彼らに言って……。私はアーサーだと……」

 

「……セイバー、落ち着いて。……魔女だと思わせておけば、あちらの警戒を誘えるわ。有利よ。切嗣もそう言っているわ。『そのまま誤認させておけ』って」

 

「アイリスフィールまでぇ……!」

 

「私は……アルトリア・ペンドラゴン……。ははは……ただの姫騎士でーす……。魔女でーす……」

 

真っ白に燃え尽きている。あしたのジョーみたいになってる。可哀想に。

 

でも、ん?アルトリア?それが彼女の本名なのかしら?

 

アルトリアさん。うん、響きがいいわね。やっぱり日本語上手いわね。地毛の金髪も綺麗だし。先輩として、フォローを入れてあげなきゃ。

 

「ねえ……アルトリアさん?」

 

「おお!ジャンヌ・ダルク!ついに私をアーサー王だと認めて……」

 

その瞳に、一縷の希望の光が宿る。ごめんね、その期待には応えられないの。だって、貴女の「モルガン演技」があまりにも素晴らしかったから。

 

「モルガンは稀代の魔女……。そんなに必死に弟のフリをするなんて、うますぎて素晴らしいわ。その『悔し涙』も、魔女の執念深さの表現なんでしょう?感動したわ」

 

「ぐはああああっ!!!」

 

よし、褒めておいた。これで彼女も、役者としての自信を取り戻してくれるはずよ。

 

……あれ?なんか泡吹いて気絶しかけてるけど、大丈夫?まあ、ジルが「素晴らしい!」って拍手してるから、大丈夫でしょう。

 

それにしても。さっきから、視線を感じる。ランサーさんやライダーさん、ジルたちの視線じゃない。もっと遠く。もっと冷たくて、無機質な視線。

 

私の「眼」が、戦場の外側にある「観察者」の存在を捉えている。あそこのクレーンの上。それと、あっちのコンテナの陰。

 

間違いなく、撮影クルーがいる。こんな深夜に、あんな高いところから撮るなんて、撮影魂を感じるわ。

 

この「聖杯戦争」というリアリティショーを記録するための、隠しカメラマンたちね。ご苦労様です。私の活躍、ちゃんと撮れてる?モルガンちゃんの泣き顔、アップで抜いた?私は、クレーンの方角に向かって、ニッコリと微笑む。そして、小さく手を振る。ファンサービスは、アイドルの基本だからね。

 

「見てるー?プロデューサーさん?私、頑張ってるよー!」

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

○冬木市・クレーン上(狙撃地点)

 

「……気づかれた!?この距離で!!」

 

ありえない。ここは埠頭から1キロ近く離れたクレーンの頂上。夜闇に紛れ、熱源遮断のマントを羽織り、完全に気配を殺しているはずだ。

 

なのに。あの女――自称ジャンヌ・ダルクは、正確にこちらのレンズを見据えている。偶然?

 

いや、違う。彼女はニッコリと微笑み、あろうことか、小さく手を振っているのだ。まるで、友人に挨拶をするかのように。あるいは、獲物を品定めするかのように。

 

「……なんだ?口が動いている……」

 

『精・度・が・甘・い・ですよ。命・取・り・です』

 

「……っ!!!暗殺の精度が悪いだと!!?……プロの僕に、ただの少女がダメ出しをしたというのか……!」

 

彼女の唇が、ゆっくりと、しかしはっきりと形を作る。そのメッセージを読み取った瞬間、衛宮切嗣の心臓が早鐘を打った。

 

ライフルを握る手が汗ばむ。見透かされている。僕の迷いを。ケイネスを撃つか、彼女を撃つか、逡巡があったことを。

 

彼女はそれを見抜き、「そんな甘い殺気では私には届かない」と警告してきたのだ。化け物か。

 

あの笑顔の裏に、どれほどの修羅場を潜り抜けてきた経験が隠されているというのか。切嗣はスコープから目を離さず、しかし引き金を引く指を止めた。撃てない。今撃てば、確実に「返される」。

 

あの旗が、物理法則を無視してここまで飛んでくるビジョンが脳裏をよぎる。

 

 

 

◇◇

 

 

○埠頭・地上

 

「ふふふ。どうかしら、今のリップサービス」

 

クレーンの上に向かって、もう一度ウインクを送る。あそこのカメラマンさん、ちょっと手ブレがひどかったのよね。遠くから狙ってるのはわかるけど、プロなら三脚くらいしっかり固定しなさいよ。「ピントが甘いですよ。映像作品にとってピンボケは命取りです」って教えてあげたんだけど、伝わったかしら。顔が見えないけど、きっと今頃「ありがたいご指導だ!」って冷や汗かいて感謝してるに違いないわ。後でOKテイク送ってね。

 

「なんてことしでかしてやりますか、このバカはーーーっ!!!」

 

あら。振り返ると、巨大な牛の戦車の端っこで、小柄な少年が頭を抱えて叫んでいる。あのアレクサンドロスさん――ライダーの戦車に同乗している少年。華奢な体つき。おかっぱ頭。そして、今にも泣き出しそうな情けない表情。

 

……いい!すごくいいキャラしてる!あの大柄で豪快なライダーとの対比が最高だわ。「ボケとツッコミ」「野獣と子羊」「ベテラン俳優と新人子役」

バディものとしての完成度が高い。彼がライダーの「助演」ね。

 

「おい小僧!嘆くな!王の出陣であるぞ!胸を張れ!」

 

「張れるかぁぁぁ!!なんで真正面から突っ込むんだよぉぉ!!隠密行動って言葉を知らないのかぁぁ!!」

 

微笑ましい。アドリブでじゃれ合ってるのね。雷がバチバチ言ってるけど、私の「聖女の鎧」は絶縁加工済みだから平気平気。

 

「ちょっと失礼しますよー」

 

「ひぃっ!?き、来た!あのヤバい女が来たぞライダー!!」

 

「ヤバい女」。失礼ね。「ミステリアスな主演女優」と呼びなさい。でも、その怯え方も堂に入ってる。演技指導が行き届いてる証拠だわ。私は少年の前まで行き、屈み込んで目線を合わせる。そして、聖母のように優しく微笑む。これ、ファン獲得のための鉄板スマイル。

 

「貴方がライダーのマスターですね。とても良い顔をしています。怯えの中に、微かな野心と、それを上回る『巻き込まれ体質』のオーラが見えます」

 

「は、はあ……?な、何言って……」

 

「貴方もいつか、大物になれるでしょう。そのリアクション芸、磨けば光るわよ。お名前は?」

 

「え?あ……ありがとう……?……ウェイバー……ウェイバー・ベルベットです……」

 

「ウェイバーくんね。いい名前。芸名?それとも本名?どっちでもいいけど、響きがキャッチーで素敵よ」

 

小動物みたいで可愛い。

 

「しっかり彼、ライダーさんを支えてあげなさい。彼はアドリブが多いタイプだから、貴方がツッコミを入れて軌道修正してあげないと、番組が尺内に終わらないわよ?」

 

「あ、アドリブ……?いや、こいつは全部本気で……」

 

「そうそう、その調子。『こいつは本気なんだ!』って信じ込むメソッド演技法ね。徹底してるわねぇ」

 

いいわぁ。この「大御所と新人」の対比。この物語、私が主演として最高に盛り上げてあげるんだから!ウェイバーくんはポカンとしているけど、ライダーさんは豪快に笑っている。

 

「ガハハハ!聖女よ、余の臣下を気に入ったか!こやつは少々肝が小さいが、鑑識眼だけは確かだぞ!」

 

「ええ、気に入ったわ。将来有望ね。サインもらっておこうかしら」




モルガン説はちょっとやりすぎたかもしれません。
でもセイバーなら泣きながら怒ると思いました。

次の助演指導の相手は誰が良い??

  • 衛宮切嗣
  • 言峰綺礼
  • ケイネス・エルメロイ・アーチボルト
  • ウェイバー・ベルベット
  • 遠坂時臣
  • 間桐雁夜
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