冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~   作:斉宮 柴野

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『冬木アクターズラプソディ』、これにて堂々の終幕!
……って、ドヤ顔で言いたいところなんだけどさ。いやいや、ちょっと待ったである。

最後の最後が、下半身すっぽんぽんのヒロインで締まるとか、どう考えても放送事故レベルの大惨事でしょうが。私の大女優としての威厳とか誇りとか、あの消し飛んだ布地と一緒に虚空へ消え去ってるじゃないのよ。そんな黒歴史を公式エンディングとして残すわけにはいかないの。絶対に。

というわけで、強引に仕切り直しである。

改めまして。ナビゲーター兼、ヒロイン兼、元・人類悪の分体にして、今はちゃんと戸籍も服も持ってる真っ当な人間、聖上真樹です。
今日はね、あのすったんだの大騒動のあと、冬木の愉快な(そして大体めんどくさい)仲間たちがどんな明日を迎えたのか、私が責任を持って語っていくわ。

いわば後日談。でも、ただのオマケじゃないわよ。役者が舞台を降りたあと、何食べて、どこで寝て、誰と喧嘩して誰とくっついたかっていう、ぶっちゃけ観客が一番気になってる俗っぽいところだけをギュッと煮詰めた、超重要なアンコールなんだから。


舞台を降りても、人生は続く

聖杯戦争、実は終わってなかった件

 

まず最初に、超大事な前提を確認しておくわね。

実はさ、特異点がドカーンって消えたからって、『第四次聖杯戦争』のシステム自体がその場で「はい終了ー!」ってなったわけじゃないのよ。ここ、地味に重要。

だって、あの最終決戦の時点でちゃんとルール通り退場してたサーヴァントって、ジルだけだったんだから。

 

キャスターが消えて、ビーストも消えて、私も一回消えかけて。それでみんな、すっかり「あー、終わった終わった、お疲れー」みたいな顔して座り込んでたけど、よく考えたらシステム的にはまだ絶賛継続中だったわけ。

 

でもね、その事実に一番「あ、そう……」ってやる気がなかったのが、当の参加者たちだったのよ。

そりゃそうでしょうよ。あれだけ世界の外側みたいなヤバい舞台で、命も精神も尊厳もゴリゴリ削り取られた直後によ?「はい、では通常営業に戻りますので、引き続き聖杯を奪い合って殺し合ってください」とか言われても、心がついていくわけないじゃない。

 

切嗣さんなんて露骨に「もう無理、帰る」って顔してたし、ケイネス先生は魔力すっからかんで顔面蒼白だったし、ウェイバー君は蹲ってるし、アルトリアちゃんは私を見るたびに「頼むから服を着なさい」って怒ってくるし。

全体的に、陣営問わず継戦能力がメンタル面から木っ端微塵だったの。

 

そこへよ。王様が、いつもの「我が気分こそが世界のルールである」みたいなドヤ顔で、とんでもないことを言い出したわけ。

 

「フハハハハ!貴様らは今回、実に我を楽しませた。よって褒美をとらす!我が宝物庫の財を以て現世に定着させてやろう!!」

 

私、思わず「は?」って素で声が出たわ。いや、絶対全員出てたと思う。

 

何をそんな、商店街の福引きでティッシュ配るみたいなノリで受肉の奇跡をばら撒いてるのよ。サーヴァントの現世定着って、そんな雑なノリでやっていいもんじゃないでしょうが。

 

でも、王様はマジだった。

宝物庫の奥から、なんかよく分からない神代のチートアイテムをジャラジャラ引っ張り出してきて、サーヴァントたちをまとめて強引にこの世に固定しちゃったのよ。

 

今思い出しても意味不明すぎる。魔術理論的に絶対どこかの偉い人に怒られるやつなんだけど、実行犯が英雄王ギルガメッシュだから、なんか宇宙の法則が妥協して成立しちゃったのが最高に腹立つわ。

 

結果、聖杯戦争はそこで実質的に終了。

大聖杯のシステムくんもパニックになったんでしょうね。二週間くらいずっと不機嫌そうに霊脈をギシギシ軋ませたあと、ぷつんと音を立てて完全に機能停止したわ。

 

次の起動が六十年後なのか、それとも完全にぶっ壊れたのか、専門家でも意見が割れてるらしいけど、私としてはどっちでもいい。もし本当に六十年後に再起動するなら、その頃の私は間違いなく立派なおばあちゃんなんだから。腰叩きながら特異点とかビーストとかやってられないから、できればこのまま永遠に寝ててほしいわ。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

さて、ここからは個別の後日談よ。

まずは衛宮家。ここはもう、あの死闘のあとに一番『所帯染みた』陣営になったと思うわ。

 

切嗣さんにアイリさん、舞弥さん、イリヤちゃん、士郎くん、そしてアルトリアちゃん。人数だけ見ればかなりの大家族だけど、組み合わせがカオスすぎるのよ。

 

住まいは深山町の無駄に広い武家屋敷。いわゆる衛宮邸ね。切嗣さんが「ああいう場所なら結界も張りやすいし、子供も走り回れる」とか尤もらしいこと言って買い取ったらしいけど、ぶっちゃけ、あれだけ血みどろの騒動があったあとで、ようやく心から休める『家』が欲しかっただけだと思うわ。

 

アイリさんはそこですっかり良きマイホームマザーをやってる。もちろん、ただのふわふわした奥さんじゃないわよ。あの人、いざという時の肝の据わり方と分析力がエグいから、家の中で誰かが揉め始めると、最終的に全員アイリさんのところに裁定を仰ぎに行くの。

 

見た目は妖精さんみたいに可愛いのに、家庭内の実権を完全に掌握してるのは間違いなくあの人ね。

 

舞弥さんはだいぶぐいぐいやってたみたいで幸せそうだったわ。

 

問題はアルトリアちゃんよ。

あの子、マジで士郎くんに激甘なの。聞けば、士郎くんを保護する時、ほとんど一目惚れみたいな勢いだったらしいじゃない。

 

火事だか事故だかのヤバい現場で、他人のために手を伸ばしてたあの子を見て、「この少年は騎士です!!」って魂撃ち抜かれちゃったらしいわ。重い。判断が早すぎる。そして何よりチョロい。

 

で、勢いそのままに「今日から私が保護者になります!!」って宣言したはいいものの、現代日本の戸籍制度が、異界の騎士王のパッションだけで動くわけないじゃない。結局、お役所仕事とかの実務は全部切嗣さんが被る羽目になったのよ。

元・魔術師殺しが書類の山と格闘してるとか、涙ぐましいにも程があるわ。お疲れさまです。

 

イリヤちゃんの引き取り作戦も、なかなかの珍事だったわね。

切嗣さん、最初はめちゃくちゃ気合入れてたのよ。「アインツベルンの多重結界を正面突破する」「警備の隙を突く」「最悪、実力行使も辞さない」って、魔術師殺しモードに入ってて。綺礼さんまで「うむ。人助けは、正義の味方の立派な役目だな」とか真顔で言い出して、アサシンさんも無言で影にスタンバイ。

 

でもね、その決死の奪還作戦が始まる前に、アサシンさんが全部終わらせちゃったの。

 

「連れてきました」

 

その一言と一緒に、近所のコンビニから帰ってきたみたいなテンションでイリヤちゃんの手を引いて現れた時は、さすがの切嗣さんも完全にフリーズしたらしいわ。

 

魔術工房の防衛機構とか何百年の神秘とか、アサシンさんの「いました」で全部木っ端微塵よ。

 

イリヤちゃん本人は「わーい!日本だー!」ってキャッキャしてたから結果オーライなんだけど、一番の悲劇は切嗣さんの見せ場が完全に消滅したことね。あの人、そういう不完全燃焼の時、ちょっと背中が丸くなるから分かりやすいのよ。

 

それでも今の衛宮家は、たぶんかなり上手く回ってるわ。

士郎くんは朝からせっせと台所に立ってるし、イリヤちゃんは全力で妹兼姉兼娘みたいな謎のポジションを満喫してる。アルトリアちゃんは食卓に正座して、真顔で白米を山盛り五杯はおかわりする。

 

切嗣さんは内心いろいろ重いもの背負ってるんだろうけど、それでも昔みたいに血塗られた世界じゃなくて、家の中の小さな食卓に視線が向くようになった。家族を守るって、世界を救うよりずっと狭いけど、ずっと繊細で難しくて、でもたぶん一番、彼にとって現実的な仕事なんでしょうね。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

次はアーチャー陣営……って言いたいところだけど、あそこはもう魔術師の陣営っていうか、ただの巨大企業グループよ。

ギルガメッシュ王は受肉した瞬間に「この時代の富も、すべて我のものである!」とか言い出して、頭おかしいスピードで現代社会に順応……というか侵略し始めたわ。なんかよく分かんないうちにベンチャー立ち上げて、さらに分かんないうちに既存の大企業を次々買収して、気がついたら経済ニュースのトップ飾ってたんだから。意味が分からない。

 

私、テレビで見たわよ。

『彗星の如く現れた若手起業家、ギルガメッシュCEO!』って女子アナが興奮気味に喋ってるの見て、飲んでたお茶盛大に吹いたもの。若手って何よ。人類史で言ったら誰よりも古株の最長老でしょうが。

 

しかも隣には、長身で緑色の髪を束ねた、無駄に美しい秘書さんがニコニコ立ってるの。あれ、どう見てもエルキドゥさんよ。ビシッとスーツ着て、爽やかな笑顔で資料抱えてるんだけど、周囲の男性社員が明らかに心奪われてるのが画面越しでも分かったわ。

 

本人は「僕はただ、友のサポートをしてるだけだよ」って涼しい顔してるんだろうけど、周りを狂わせてる自覚がないのが一番タチ悪いのよ。

 

王様本人は、この面倒くさい現代の会社経営すらも、ただのゲーム感覚で楽しんでるんだと思うわ。人を使うのも、組織を動かすのも、富を集めるのも、あの人にとっては全部『支配』の延長。しかもムカつくことに、めちゃくちゃ結果出してるのよね。現代資本主義に古代王が適応しすぎでしょ。

 

一方、時臣さんはちゃんと地に足がついた生活してる。というか、あの人が最終的に一番「真っ当な社会人」の枠に収まったんじゃないかしら。もちろん遠坂基準の真っ当だけど。

遠坂の当主として土地とか資産とか霊脈の管理をきっちりやりつつ、家では凛ちゃんのお父さんをちゃんとやってる。桜ちゃんのことに関しては、まだ完全に整理しきれてない感じはするけど、それでも昔みたいに「魔術師の掟だから」って逃げる人ではなくなったわ。

 

完璧じゃなきゃいけないっていう呪縛が、いい意味で一回バキッと割れたのよ。人間、割れても案外死なないし、ヒビが入った隙間からこそちゃんと家族が見えることもあるって、今のあの人は分かってるはずよ。

 

ちなみに、私と綺礼さんが今住んでるマンション、あれ遠坂家の持ち物なのよ。知った時は冬木の狭さに目眩がしたわ。世界を救った恩義があるからって、家賃はほぼタダ同然の破格にしてもらってる。

 

綺礼さん、そういうとこで変な見栄張って「正規の家賃を払うべきだ」とか言い出しかけたんだけど、私が「家計の防衛線を守るのも妻の務めよ!!」って全力で押し切ったわ。生活は戦いなのよ、甘く見ないでよね。

 

凛ちゃんは相変わらず素直じゃない態度とりつつ、確実に桜ちゃんのこと気にかけてる。わざわざ難しい魔術書を借りに行くって口実作って、間桐の家に行ってるのがバレバレなのよ。そういう不器用なとこ、可愛いじゃない。

 

あの姉妹が本当にわだかまりなく向き合うには、まだまだ時間がかかるだろうけど。でも、その「いつか」を焦らず待てるだけの余裕が、今の彼女たちにはある。そこが、絶望しかなかった昔とは違うのよ。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

そしてランサー陣営。

ここは一番『その後始末がめんどくさい』空気がプンプンしてるわ。

 

ケイネス先生はロンドンの時計塔に無事帰還。ディルムッドさんとソラウさんも一緒よ。神代の英霊を現代に連れ帰ったってだけでも特大の爆弾なのに、今回の聖杯戦争でのトンデモ戦果やら生還劇が重なって、時計塔の権力図がぐちゃぐちゃに動いてるらしいわ。

 

 

本人は「私の卓越した研究成果と家格を思えば当然だ」ってドヤ顔してたけど、内心相当胃が痛い日々を送ってるはずよ。

 

だって、いろんな派閥が利用しようと群がってくるんだもの。「特に『アニムスフィア』…天体科の連中が妙に馴れ馴れしく距離詰めてくるんだよ……」って、こないだ電話でボヤいてたわ。

 

有望株として囲い込みたいんでしょうね。時計塔なんて、魔術の学府って名前被ったただのドロドロ政治闘争クラブなんだから。

 

でも、そんな権謀術数の渦中で、一番イキイキしてるのがソラウさんなのよ。

受肉したディルムッドさんを「私の最高の騎士よ」って堂々と連れ歩けるのが、もう楽しくて仕方ないらしいの。

 

あの人、普段はツンケンしてるけど、好きなものを公に愛せる環境を手に入れると無双するタイプなのね。ディルムッドさんの方も、主君のケイネス先生への忠誠は絶対キープしつつ、ソラウさんの歩幅にちゃんと合わせて付き従ってる。その三人のバランスが、外から見るとドギツイのに、当人たちは妙に安定してて平和みたいなのよね。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

ウェイバー君は、時計塔に復学できた上に、なんとケイネス先生の助手ってポジションに収まったわ。

これ、あの子の人生考えたらめちゃくちゃエモい展開よ。あんなに一方的に反発して、無茶な戦いに飛び込んで、最後は背中預け合った恩師から「じゃあ私の下で働け」って言われるんだから。人生って本当に面白い台本かくわよね。

 

しかもあの子、教育分野でメキメキ才能伸ばしてるらしいの。自分が劣等感で泥水すすった経験があるから、壁にぶつかってる生徒の痛みが誰よりも分かるんでしょうね。

 

ただ。

あの子の輝かしい未来には、『ライネスちゃん』っていう極悪な時限爆弾がスタンバってるらしいのよ。ケイネス先生の親族で、頭が良くて性格が最悪で、他人をおもちゃにするのが大好きな女の子。で、その子が今、ウェイバー君にめちゃくちゃ興味津々らしいわ。

その話聞くたびに「ウェイバー君、まだ生きてる……?」って天を仰ぎたくなるわ。

強く生きて、マジで。

 

イスカンダルさんに至っては、もう発想が斜め上すぎてついていけないわ。

受肉して数日で「世界征服の第一歩は、現代最強の国を掌握することだ!」って言い出して。

普通そこから企業買収とか行くじゃない?でもあの人、『アメリカ大統領選挙に出馬する』とか言い出したからね。スケールがでかいのか大雑把なのか分かんないわよ。

 

今はスノーフィールドとかいう、いかにも後で厄介な事件が起きそうな胡散臭い街で、市議会議員から地道に活動始めてるらしいわ。いきなり大統領じゃなくて段階踏んでるのが妙に律儀で笑う。現代の選挙制度を分厚い本で真面目に勉強してる姿想像しただけで腹筋がよじれるわ。

 

でもね、侮れないのよ。

あの人が街頭で演説始めると、人が吸い寄せられるように集まるの。当然よね、歩くカリスマなんだから。政策論争とか全部無視して、圧倒的な勢いだけで票をもぎ取っていく未来しか見えないわ。しかも本人の中ではそれが現代民主主義への最大のリスペクトになってるんだから、もう手がつけられない。

 

ただ、ブケファラスに乗って公道パレードするのだけは交通違反だからマジで止めてほしい。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

そして、一番ヤバかった間桐家。

ここの結末は、ぶっちゃけ『桜ちゃんが全部持っていきました』で終わるわ。

 

あの子、本当にあの間桐の当主になっちゃったのよ。暴力で乗っ取ったんじゃなくて、法的な手続きとか魔術的な継承儀式を完璧にクリアして、堂々と実権握ったの。

 

お爺様の遺言状の解釈とか直系の継承権とか、周りの大人がギャーギャー言ってたらしいけど、結論は「桜様ばんざーい」で綺麗に片付いた。凄すぎるわ。

 

途中で鶴野さんだかが「血の繋がりがー!」って騒いだらしいけど、桜ちゃんが静かにニコッて笑った瞬間、部屋の空気が凍って全員黙ったらしいわ。あの子の笑顔には段階があるのよ。ぽかぽかした笑顔と、全部飲み込む笑顔と、相手を物理的に黙らせる絶対零度の笑顔。あの場で出たのは間違いなく三番目ね。逆らった人たち、ご愁傷様です。

 

慎二君との関係も、なんかとてもいい感じみたい。

これは本当に奇跡よ。劣等感が爆発して妹に嫉妬する前に、世界がちょっと優しい道を用意してくれたのね。だから今の慎二君は、相変わらずちょっと偉そうで生意気だけど、普通に妹の面倒を見る『お兄ちゃん』のままでいられてる。

 

「おい桜!この俺様が遊んでやるぞ!」って部屋に乗り込んできて、桜ちゃんに「お兄様、ありがとう。でも後でね」って軽くあしらわれてる図、めっちゃ平和で泣きそうになったわ。あの二人は、本来ああやって他愛ない日常を過ごすべきだったのよ。

 

そして、ランスロットさん。

今は間桐家の『白亜の万能執事』やってるのよ。字面だけ見ると頭おかしいでしょ?でも現実なの。

 

広い庭の草むしりから、不審者撃退の警備、スーパーの特売日の買い出し、来客対応、プロ顔負けの料理に完璧な掃除。全部、息を吸うようにこなしてる。オーバースペックとかいう次元じゃない。

円卓最強の騎士を家事労働にフルコミットさせるとか正気の沙汰じゃないけど、本人が憑き物落ちたみたいに穏やかな顔して庭木を剪定してるから、もう何も言えないわ。

 

ただ、桜ちゃんが最後にぽつりとこぼした言葉だけは、ちょっとゾッとしたわ。

 

「私の羽化の時は、まだまだ先のようです。でも――いずれ、人類は神に至るのでしょうね」って。

 

十年後とかもっと先に、また世界巻き込むトンデモルートを開拓しそうでマジで怖いんだけど。でも同時に、今のあの子なら本当にそこまで行っちゃうんだろうなって妙な確信もあるの。

今はまだ人間として、当主として、妹として、いろんな役を器用にこなしてるけど。その全部をやり切ったあとで、彼女は誰も見たことない新しい舞台を作るんでしょうね。底知れないけど、あの子らしいわ。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

さて。

長々と語ってきたけど、最後は私の話で締めさせてもらうわね。

 

もう知ってる人もいるだろうけど、改めて言わせて。

私、聖上‥‥言峰真樹は――言峰綺礼さんと、結婚しました!!

 

はいそこ!盛大な拍手!!

 

世界滅亡の危機だったその年に、よりによって冬木教会で挙式よ。しかも神父役が綺礼さんのお義父様の言峰璃正神父。控えめに言ってカオスすぎる絵面よね。元・人類悪の分体と元・破綻者の代行者が結婚して、聖堂教会の神父が祝福するって。

 

バチカンから異端審問官がすっ飛んできそうな案件なのに、なぜか現実では無事に成立しちゃってる。この世界のガバガバ具合には感謝しかないわ。

 

ウェディングドレスは、さすがに自前の魔眼で投影とかいうケチくさいマネはしなかったわよ。ちゃんとプロに仕立ててもらった。そこは女として譲れないじゃない。舞台衣装と一生に一度のドレスは別腹なんだから。

 

みんなも、なんだかんだ文句言いながら来てくれたわ。あのバケモノ連中が教会の長椅子に並んでるだけでちょっとした特異点だったけど、そこは「世界を救った英雄へのご祝儀だから!」って強引に押し通した。

 

一番のやらかしは案の定イスカンダルさんよ。

あの人、謎にテンション上がって教会の中で『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』展開して、数千人規模のむさ苦しい英霊たちと万歳三唱ぶちかましたのよ。結婚式で固有結界張るバカがいる!?普通やらないでしょ!?

私「ちょっと!恥ずかしすぎるからやめて!!」って叫んだんだけど、時すでに遅し。隣見たら綺礼さんは「うむ、賑やかで何よりだ」とか真顔で頷いてるし、ギルガメッシュ王は最前列でドヤ顔でワイン飲んでるし、アルトリアちゃんは真面目に祝辞のメモ見直してるし。地獄絵図よ。

 

でもまぁ、今思えばあんな大観衆(物理)に全力で祝われるなんて一生に一度の奇跡だし、最高の思い出になったわ。二度目は絶対にお断りだけどね。

 

結婚後の綺礼さんはっていうと、「真の正義の味方になるための過酷な訓練は、家庭を持ってからが本番だ」とか謎のストイック理論を展開してるわ。何その修行僧みたいな新婚生活。

 

でも実際、代行者としてのヤバい任務はめちゃくちゃ真面目にやってる。吸血鬼まがいの連中追っかけて世界中の紛争地帯に単身で乗り込んだりしてるのよ。

しかも、『誰も殺さずに完全に無力化する』っていう、あの人の本質からしたら吐き気がするほど非効率でめんどくさい縛りプレイ付きで。

 

見送るこっちの身にもなってほしいわよ。絶対効率悪いし、ストレス溜まるし、敵からしたら生かさず殺さずでタチ悪いし。

 

でも、綺礼さんはその道から逃げない。楽しいからやってるわけじゃないの。いつも心底つまんなそうな虚無顔で仕事行ってる。でも、その『つまらなさ』を丸ごと引き受けて、それでも正義をやるって決めたなら、それがもう彼の生き方なのよね。

 

で、肝心の私はっていうと。

当然、誰もがひれ伏す大女優への階段を華麗に駆け上がってる……って、言いたいところなんだけど。現実はそんな甘くなかったわ。

 

だって私、魂を持って演劇の世界に戻ってきて初めて気づいたのよ。中身が空っぽのまま表面だけ取り繕ってた頃より、自分自身の『魂』が詰まってる今のほうが、芝居って何倍も難しいってことに!

 

昔は「誰かの魂をスキャンしてコピペする」っていうチートが使えた。ジャンヌでも聖女でも狂人でも、それっぽく見せられたの。でも今は違う。今の私は、『言峰真樹』っていう生身の人間の感情を削り出して演じなきゃいけない。

それがもう、自分でも笑っちゃうくらい下手くそでぎこちないのよ。

 

小さなアングラ劇場で主演もらった時もそう。客席見たら観客たったの十五人。距離近すぎ、逃げ場なしの密室劇。

 

終わったあと、見に来てた綺礼さんが悪びれもせず真顔で「本日の観客は、見間違いでなければ十五人だったかな?」とか言ってくるのよ。悪意がない分マジで腹立つわ。

 

「笑うなこの悪人(夫)!こっちはゼロから地道にやり直してる最中なんだから大目にみなさいよ!」って怒鳴ったけど、内心では自覚してるの。いまの私の演技が、絶賛泥臭い発展途上だってことくらい。

 

でもね、だからって舞台を降りる理由にはならないわ。

昔の私は、中身が空っぽだから本当の役者にはなれないって絶望してた。今の私は、血の通った魂を手に入れたからこそ、こんなにも不格好なんだって知ってる。

 

だったら、その下手くそさを全部抱えて舞台に立つしかないじゃない。むしろここからが私の本当の第一幕よ。大根役者上等。魂がぎっしり詰まった大根なら、煮込めば絶対いい味出るんだから。

 

ただ、我が家には手放しで褒めてくれない超厄介な辛口評論家が一人いるのよね。

カレンよ。あの子、マジで口が減らないんだから。

 

「やり直しですか?妥当な評価ですね。お母様は筋金入りの『大根役者』ですから。中身が空っぽの機械的な演技はあんなにお上手なのに、愛なんていう陳腐な魂が混ざった途端、なぜか見るに耐えないものになりました。ええ、最高の喜劇だと思います」

 

「ふざけんなこの性悪娘!」

 

「お父様、お父様、聞いてください。血の繋がりすらない継母が、弱き私を虐げるのです。哀れな私を救済してください、正義の味方」

 

腹立つでしょ!?この苛立ち分かる!?

しかも綺礼さんがまた真顔で「真樹、幼い子供の戯言に大人が本気になるな」とか嗜めてくるのよ。いやその背中の生き物、子供の皮被った悪徳金融業者だからね!?騙されないでよ!!

 

普通で、奇妙で、でも間違いなく私が自分で選んだ『私の人生』だ。

 

ビーストの権能が強引に作った完璧なハッピーエンドはもうない。

神様が用意してくれた絶対失敗しない台本もない。

明日のページは白紙のまま。

 

事故るかもしれないし、大失敗して泣くかもしれないし、また三流役者って酷評されるかもしれない。綺礼さんが怪我して私がブチ切れる日もあるだろうし、カレンに口で負けて悔し泣きする夜だって絶対ある。

でも、それでいい。いや、それがいいのよ。

 

人生っていう即興劇は、そういうもんでしょ。

台本なんてなくて、先が見えなくて、時々息止まるくらい痛い。

でも、自分の言葉で喋って、自分の足で立って、自分のタイミングで笑える。そんな舞台なら、私は何度だって立ってやるわ。

 

ねえ、神様。

もし特等席から見てるなら聞いときなさい。

 

私はもう、誰かに都合のいいハッピーエンドなんて押し付けられなくて結構です。

理不尽に泣く日があっても、無様に転ぶ日があっても。

舞台で噛み倒して、家で娘に刺されて、夫に真顔でダメ出しされても。

それでも私は、この予測不能な人生の続きを選ぶ。

 

だって、狂おしいほど愛おしいじゃない。

理不尽でめんどくさくて、でも確かな熱がある、この毎日が。

 

だから今日も幕は上がる。

観客が十五人でも、百五十人でも、たった一人でも。

私は胸を張って、最高の笑顔で舞台の真ん中へ歩み出るわ。

 

『人生』っていう、最高の即興劇の、たった一人の主演女優としてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……さて、私から語る後日談はこんなところね。

長々とお付き合いいただいて、最後まで見届けてくれたお客さんには、本当に感謝してるわ。

 

もしまたどこかの劇場で、派手な役被って足掻いてる私を見かけたら、その時は惜しみない拍手をお願いね。できれば野次は控えめで頼むわ。

 

それでは皆様、改めまして。

 

『冬木アクターズラプソディ』、これにて完全終幕!!




ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。

正直に言うと、この話は途中で何度も「これ、ちゃんと最後まで書き切れるのか……?」と不安になりました。勢いだけで走っているように見えて、実際かなり綱渡りでしたし、何度も筆が止まりかけました。それでも最後まで完結まで持ってこられたのは、間違いなく読んでくださった皆様のおかげです。

思っていた以上にたくさんの方に読んでいただけて、感想や反応をいただけて、本当に嬉しかったです。真樹たちのこのめちゃくちゃな舞台を、最後まで見届けてくださってありがとうございました。

『冬木アクターズ・ラプソディ』はこれにて完全終幕となりますが、彼女たちの人生はまだまだ続きます。
そして次回作、『冬木アクターズ・ラプソディ【stay night】』でも、また新しい舞台をお見せできたらと思っています。
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