冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~   作:斉宮 柴野

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今回は金ピカと黒騎士が出ます。
たぶん本人たちは真面目です。


金ピカ大家と黒騎士AD

「一晩の間に、我以外に王を称する輩が湧くとはな……不愉快極まる」

 

黄金の粒子が舞う。街灯の上。そこは本来、カラスや野良猫が留まる場所であって、人間が、それも全身金ピカの鎧を着込んだ成人男性が仁王立ちする場所ではない。物理法則とか、建築基準法とか、そういう細かいことを一切無視して、その男はそこに立っていた。

「……うっわ、眩しっ」

 

あの役者さん、すごい衣装ね。小林幸子のファン?

紅白歌合戦のトリを務めるつもりなのかしら?

 

あの輝き、LEDやスパンコールじゃない。金属光沢だ。純金?それとも金メッキ?いや、私の目が正しければ、あれは混じりっけなしの24金の塊だ。

総重量、推定50キロオーバー。それを着て、あんな細い街灯の上にバランスよく立っているなんて……体幹トレーニングの達人か。

 

予算、青天井なの?冬木市の演劇祭、スポンサーに石油王でもついてるの?悔しいけど、視覚的インパクトでは完敗だわ。あの態度のデカさ、間違いなく「主演」級。それも、物語の最後に立ちはだかる「ラスボス」候補ね。

 

「……ふむ」

 

相手が「王」を演じているなら、こちらはどう出るべきか。さっきまでは「物理で殴る聖女」として暴れ回っていたけれど、相手の芸風に合わせて柔軟に対応するのが即興劇の極意だ。

 

あそこまで完璧に「傲岸不遜な王」を作り込んでいる相手に、タメ口で絡むのは二流のすること。キャラが喧嘩しちゃうわ。

 

ここは一つ、相手を立てて、「忠実な臣下」あるいは「畏怖する民衆」のポジションを取ることで、彼の「王としての格」をさらに引き立ててあげる。それが名脇役の仕事よ。

 

今だけは聖女から臣下ムーブで!!

 

「高みにおわします王よ。発言と問いを投げる不敬をお許し頂けますでしょうか?」

 

どうよ。この切り替え。さっきまで「オラァ!」ってランサーをホームランしてた女とは思えないでしょ。ギャップ萌えってやつよ。

 

「ほう……。地を這う雑種が、王を見上げるが如き不敬……万死に値するところだが、その殊勝な態度に免じて許そう。興が乗った。偽りの聖女よ。何用か?」

 

許された。チョロい。やっぱり王様キャラは、持ち上げられると弱いのね。

 

「雑種」呼ばわりはちょっとカチンとくるけど、まあいいわ。彼の中では人類=犬猫と同レベルの設定なんでしょう。ペット扱いされるのも、悪くないプレイだわ。

 

……ん?今、なんて?「偽りの聖女」……!

失礼な!!私は本物よ!いや、これは「ジャンヌ・ダルクという役」への当てつけね。「お前のような小娘に、救国の聖女が務まるか」という、ベテラン俳優からの厳しい煽り。

 

「君の演技は嘘くさいんだよ」というダメ出し。……いいわ。受けて立つ。その挑発、私の役者魂に火をつけたわよ。

 

この高慢ちきな王様ムーブ、あとであっさりやられる「噛ませ犬」か、それとも物語を支配する「真の支配者」か……。私の「目」で確かめさせてもらう!

 

私の瞳の奥で、幾何学模様がギュルギュルと高速回転を始める。

 

解析モード、フル稼働

 

対象:黄金のアーチャー

 

距離:垂直方向に15メートル

 

パラメータ:測定不能

 

……すごい。なんだこれ。彼の内側にある力の量、ダムが決壊したみたいに溢れ出してる。普通のサーヴァントが「コップ一杯の水」だとしたら、彼は「源泉掛け流しの温泉」

 

いや、「黄金のなる木」か。質が違う。彼の力は、ただのエネルギーじゃない。

 

「富」だ。「所有」という概念そのものが、形を持って輝いている。目が熱い。サングラス欲しい。

 

でも、この眩しさ、この圧倒的な「圧」。模倣する価値がある。あの「俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの」というジャイアニズムの極致に至るメンタル、ぜひ私の演技の引き出しに加えたいわ。

 

「貴方様は『王を称する輩』……と仰いました。先ほど名乗られた征服王イスカンダルや、騎士王アーサーを騙るモルガン……彼らを『輩』と断じるその自信。ならば貴方様は、地上の凡俗な王とは格が異なるとお見受けしましたが……いかに?貴方様にとって『王』とは、いかなる定義なのでしょうか?」

 

どうだ!!深遠なテーマを投げかけてみた。これで「力が強いやつが王だ!」みたいな脳筋な答えが返ってきたら、ただの悪役Aね。さあ、どう答える、金ピカさん?

 

「くく……愚問だな。真理を問うか、雑種。よかろう。教えてやる。この世の宝はすべて我の所有物。王とは即ち、我一人のこと。天上天下、過去未来、森羅万象に至るまで……すべては我の蔵にある財の一つに過ぎぬ。残りはすべて、我の庭を荒らす泥棒に過ぎぬのだ。騎士王も、征服王も、そして貴様もな。……我の許しなく息をすることすら、本来ならば万死に値する罪と知れ」

 

なるほど。彼のキャラクター設定は、「人類最古の王」にして「全知全能の支配者」。だからこそ、他の英霊たちを「雑種」と呼び、宝具を湯水のように使い捨てる。

 

「自分のものだから、どう使おうが勝手だ」という理屈。……かっこいい。悔しいけど、かっこいいわ。その絶対的なエゴイズム。役者として、憧れる境地だわ。私もいつか、舞台の上で「この劇場の空気は全部私のものよ!」って言ってみたい。

 

「なるほど……。感服いたしました。つまり、貴方様はこの聖杯戦争の『主催者』であり、この世界の『地主』であらせられると。……大変失礼いたしました。私としたことが、大家さんに挨拶もなしに土足で上がり込んでいたとは」

 

「……ほう?大家、か。奇妙な例えだが、当たらずとも遠からずだな」

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「……なるほど。他の人間を『雑種』と呼ぶ王。それは神の視点。恐らくは紀元前。神代の支配者。そしてこの傲慢さ。……歴史の教科書、1ページ目。人類最古の英雄譚。御意を得て言葉を紡ぎます。貴方様の真名に得心がいきました。言の葉に乗せることを許可頂けますか?」

 

「面白い……。宝具も見せず、我が『格』のみで当てると申すか……。ならば外れれば命はないと思え……」

 

彼の背後の空間が波打ち、数本の槍や剣が切っ先を私に向ける。不正解なら即串刺し。

 

過激なクイズ番組ね。でも、外す気がしない。私の「眼」は、彼の魂の色すらも見通しているのだから。

 

「『全てのものを国の果てまで見通した』『全てを味わい、全てを知った』『知恵を極めた』『深淵を覗き見た人』ウルク第1王朝第5代の王、ギルガメッシュ」

 

それは、彼を称える叙事詩の一節。粘土板に刻まれた、人類最古の文学。

 

私は演劇の授業でこれを暗唱させられたことがある。あの時は「なんて長いセリフなの」と閉口したけれど、まさかこんなところで役に立つとはね。人生、何が伏線になるか分からないものだわ。

 

「……………ふむ。救国の聖女よ。その眼、本物だな。我の威光だけで真実に辿り着くとは、なかなかの審美眼だ。大儀である。不敬は許そう」

 

彼は音もなく街灯からふわりと降り立つ。重力なんて最初からなかったかのように、羽毛のように軽やかに着地する。

 

そして、私と同じ目線に立つ。近くで見ると、その顔立ちはさらに整っていた。神々しいまでの美貌。でも、性格の悪さが滲み出てるのが玉に瑕ね。

 

 

よしっ!正解!やっぱりこの人、自分のこと知っててくれると喜ぶタイプだわ。「俺のこと知ってる?知ってるよね?だって俺だもん」っていう、承認欲求と自尊心の塊。「面倒くさい大御所俳優」のあしらい方と一緒ね。とりあえず持ち上げて、過去の栄光を語らせておけば機嫌がいい。楽屋挨拶の基本テクニックよ。

 

「ありがとうございます。過分なお言葉、痛み入ります」

 

「うむ。して、貴様。我の財宝を狙う盗人ではなさそうだが……何の用だ?」

 

「いえ、ご挨拶をしたまでです。ですが……戦争は別儀……でございましょう?」

 

彼は「王」として君臨しているが、同時に「参加者」でもあるはずだ。なら、戦う意志はあるのか。あるいは、私たちを下等生物として見下して、高みの見物を決め込むのか。

 

「無論だ。だが、興が削がれた。雑種同士のじゃれ合いに、王が口を挟むまでもない。我は観客席で、貴様らの滑稽な踊りを眺めるとしよう」

 

そう言って、彼は踵を返す。撤収モードだ。どうやら、今夜の彼の出番は終わったらしい。

 

ズズズズズ……ッ!!!!

 

「おい……あれは誰だ……?余の他にもまだ客人がおったか」

 

戦車の上で、アレクサンドロス――ライダーのおじさんが警戒の声を上げる。

 

ウェイバーくんが「ひぃっ!」と彼のマントにしがみつく。

 

霧の中から、ゆらりと人影が現れる。全身を漆黒の鎧で覆った騎士。その姿は輪郭がぼやけ、まるでこの世のものではない亡霊のようだ。鎧の隙間から、赤い光が漏れ出している。目だ。理性を失った、狂獣の瞳。

 

「アアアア……アアアアア……ッ!!!」

 

言葉にならない叫び。それは怨嗟か、悲嘆か、あるいは純粋な殺意か。鼓膜がビリビリと震える。普通の人間なら、この声を聞いただけでSAN値チェックが入るところだ。でも。

 

「……ん?ダークソウル系かしら?」

 

すごいスモーク。演出さん、ドライアイス使いすぎじゃない?酸欠になるわよ。そしてあの禍々しい鎧のデザイン。表面が波打ってる感じとか、あの独特のくすんだ金属光沢。どこかで見たことあるわ。ゲームの実況動画で。

 

「は?だーく……そうる……?闇の……魂……?」

 

最新のゲーム事情には疎いみたいね。教えてあげるわ、ジル。

 

「フロム・ソフトウェアっていう会社が出してる、激ムズのアクションゲームのことよ。世界観がダークファンタジーでね、こういう『汚れた鎧の騎士』がたくさん出てくるの。あの『死にゲー』のボスキャラみたいな動き……中の人、相当なスタントマンね。あの重心の低さ、そしてゆらゆらと揺れる予備動作。あれは『初見殺し』のモーションよ」

 

「ほほう……。異界の騎士ですか。興味深い」

 

バーサーカー。クラス名としてはそう呼ばれるだろうけど、私の中では「フロム騎士」というあだ名がついた。彼が手に持っているのは、ひん曲がった鉄柱。恐らく、そこら辺の街灯を引き抜いて武器にしたのだろう。ワイルドだわ。即席武器を使うなんて、ジャッキー・チェンへのリスペクトも感じる。

 

「ア……ア……アアアア……サアアアアアアア!!!!」

 

「『朝』……?……ああ!撮影が押してて『朝になっちゃうよ!』って叫んでるのね!?大変ね、ADさん!」

 

繋がった。あの黒い霧。あれは深夜の撮影現場の劣悪な環境を表している。あの汚れた鎧。あれは連日の激務で風呂に入れないスタッフのメタファー。そして、あの悲痛な叫び。

 

可哀想に。きっと「巻きでお願いします!」って言いたくても、上司が怖くて言えないストレスが、彼をあんな怪物に変えてしまったのね。現代社会の闇だわ。ブラック企業案件よ、これ。

 

「えっ?AD……?アシスタントディレクターのことか?あいつが?」

 

甘いわね、ランサーさん。彼の背中に漂う哀愁が見えないの?

 

「そうよ。見て、あの血走った目。あれは3徹した人の目よ。私にはわかるわ。大学の演劇サークルでも、公演前日はあんな顔をしたゾンビが部室を徘徊してたもの。殺意じゃないわ。締め切りへの恐怖よ。納期という名の魔物に追われているのよ」

 

「……いや、あれはどう見ても殺意の塊だが」

 

同情の涙を禁じ得ない。頑張れ、ADさん。貴方の苦労は、きっとエンドロールの片隅に小さく載るはずよ。

 

「アア……ア……サァァァァァァァ!!!!」

 

バーサーカーが、セイバーちゃんに向かって突進を開始する。すごいスピード。重厚な鎧を着ているとは思えない、獣のようなダッシュ。鉄柱を振り上げ、セイバーちゃんの脳天を砕かんとする勢い。

 

「危ない!セイバー!」

 

ガギィィィン!!

 

寸前で、ランサーさんの槍が鉄柱を受け止める。

 

「くっ……重い……!なんだこのデタラメな腕力は!」

 

「ああっ!ランサーさん、止めちゃダメ!彼はセイバーちゃんに『進行表』を渡そうとしてるだけかもしれないわ!コミュニケーション不足ね……。言葉を失うほど疲弊してるのよ……」

 

「そんなわけあるかぁぁぁ!!殺しに来てるだろどう見ても!!」

 

現場のトラブルは、いつだって意思疎通の欠如から生まれるものよ。ここは私が仲裁に入るべきかしら?

 

「……汚らわしい。我が庭に、狂犬まで放し飼いにされているとはな。見るに堪えん」

 

帰ろうとしていた彼が、足を止めている。その顔には、先ほどまでの余裕はない。あるのは、純粋な不快感。彼は、自分の美しい庭に、汚泥が撒き散らされたことに腹を立てているようだ。

 

「王よ。いかがなされますか?」

 

私が尋ねると、彼はゲート・オブ・バビロンを展開した。空中に浮かぶ黄金の波紋。そこから、無数の宝具が顔を覗かせる。今度は一本や二本じゃない。十、二十……いや、もっと。

 

「掃除だ。雑種は雑種らしく、土に還るがいい」

 

ヒュヒュヒュヒュンッ!!

 

あれ、全部国宝級の武器なんでしょ?もったいない。リサイクルショップに売ったらいくらになると思ってるの。

 

「アアアアッ!!」

 

彼は手にした鉄柱を振り回し、飛来する宝具を次々と弾き飛ばす。カキン!カキン!さらに、弾いた剣の一本を空中で掴み取り、それを自分の武器として振るう。

 

「な……!?」

 

「貴様……!我が財にその汚い手で触れたか……!万死!!いや、永劫の責め苦に処してくれるわ!!」

 

うわぁ、派手。花火大会かな?私は旗を傘代わりにして、ジルと一緒に物陰に隠れる。

 

「すごいですねジャンヌ。あれが『王の財宝』……。そしてあれに対抗する黒騎士……。神話の再現ですぞ」

 

「うん、すごいわ。予算の使い方が荒いわね。でも、あのADさん、相当器用よ。投げられた小道具をキャッチして、自分のものにしちゃうなんて。アドリブの天才かもしれない」

 

「ガハハハ!愉快愉快!今宵の宴は退屈せんなぁ!」

 

「笑い事じゃないよライダー!僕たちも巻き込まれるってば!」




ギルはたぶん「大家」って言われたの初めてだと思います。

次の助演指導の相手は誰が良い??

  • 衛宮切嗣
  • 言峰綺礼
  • ケイネス・エルメロイ・アーチボルト
  • ウェイバー・ベルベット
  • 遠坂時臣
  • 間桐雁夜
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