冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~   作:斉宮 柴野

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今回は、第5次聖杯戦争の本格的な開幕回です。
ただし、戦争らしい開幕は一切しません。


規格外たちの召喚夜

さてさて皆さん。

 

第5次聖杯戦争の開幕って、誰も彼もが「いよいよ戦争だ」と決意を顔に張り付けていたくせに、実際に蓋を開けてみれば、そこに戦争の気配なんて一切なかったの。

 

最初に幕を開けたのは、血で血を洗う闘争ではなく、致命的な配役事故。

そして身内の恥の盛大な露呈。

夢も希望もないわね。でも、喜劇と悲劇は常に等量に訪れる。それがこの冬木という舞台の絶対法則なのよ。私が保証するわ。

 

私だってすべてが終わった今だからこそ、こうして当時の状況を俯瞰して語ることができるのだけれど。

私はもう演出家を気取るわけじゃないけれど、後から各陣営の動向をすべて繋ぎ合わせてみると、本当に見事なまでの群像劇になっていたのよ。

 

例えば、遠坂邸の地下工房。

あそこはいつだって、空気だけは一流の設えだったの。完璧な照明、選び抜かれた調度品、滞りなく流れる魔力。

唯一にして最大の欠陥は、そこに住まう人間たちが、肝心な局面でことごとくピントがずれていたことね。

 

工房では、すっかり見事なヒロインの顔つきに成長した凛ちゃんが、召喚陣の前に凛然と立っていた。

十年前はただツンツンと尖るだけの小娘だったというのに。今やその表情も立ち姿も、一枚の絵画のように美しい。

さすがは遠坂の血筋。見栄えがよく、カメラ映えも抜群。ヒロイン適性は申し分なし。ただ、性格に少々の難があるだけ。

 

「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。来たれ!天秤の守り手よ!!」

 

力強い詠唱が響き渡り、魔力が枯渇していたはずの空間から、網膜を焼くような派手な閃光が迸る。

 

ほら、始まったわ。意味不明なシステムの不具合。

相変わらずひどい仕様ね。この大聖杯、果たしてまともに機能する気があるのかないのか、最後まで読めなかったの。

 

光の奔流から姿を現したのは、目に鮮やかな赤い外套を纏った浅黒い肌の長身の男。

 

第一印象を述べるなら、クールで頼りがいのある実力派。舞台挨拶で余計な口さえ滑らせなければ、確実に人気票を集めるタイプね。

けれど、こういう手合いに限って、予想外の生々しい現場にはとことん脆いのよ。

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した。これは、なかなか稀有な状況のようだ」

 

低く、落ち着いた響きのいい声。

おそらく彼の中では「まずはクールに状況を分析し、謎めいた雰囲気でマスターの心をつかむ」という完璧な台本が出来上がっていたのだと思う。

残念ながら、立ち回る相手が悪すぎたわ。

 

「見事だ、凛。一発成功のようだな。歓迎しよう、アーチャーのサーヴァント。私は君のマスターの父で、遠坂時臣と言う」

 

時臣さんが、いつもの完璧な父親スマイルを浮かべて一歩前へ出る。

ああ、おやめなさい。その時のあなたは頼れる保護者なんかじゃない。数分後には無残に心をへし折られる、哀れな被害者なのだから。

 

「お父様は下がってて!私がアンタのマスター!遠坂凛よ!!早速だけど、アンタはどこの英雄!?真名は?宝具は何!?」

 

「いきなりだな。しかし、言えないな。真名は秘匿するのが基本だ。そう簡単には」

 

「ん?んん???」

 

恋愛絡みの事象における女の直感というものは、時に魔術すら凌駕する恐ろしい精度を誇るのだから。

 

「どうしたのだ?凛。そんなに見つめては失礼だぞ」

 

「クロに似てるなーって思って」

 

「クロエ君に?」

 

「うん。肌の感じとか、目つきとか、骨格とか。あと、なんか、むかつく感じが」

 

「最後の評価が雑だな」

 

アーチャーの眉が、ほんのわずかにピクリと動く。

その微細な反応を、凛ちゃんの据わった瞳は見逃さなかった。

 

はい、確信に変わったわね。もう逃げられないわよ、哀れな弓兵さん。

 

「ちょっとアーチャー。そこに屈みなさい」

 

「何?」

 

「いいから」

 

「いや、何をする気だ」

 

「早く」

 

この血筋の女が放つ、有無を言わさぬ圧力は絶大よ。

アーチャーは抗いきれず、半歩後ずさりながらその場に屈み込んだ。

 

そこで素直に止めておけば、まだ傷は浅かったはず。けれど凛ちゃんは、その苦労性の顔面を両手でがっちりとホールドした。

 

「ちょっ、おい!?何を」

 

「士郎!!」

 

断言。あまりにも早く、そして声が大きい。

 

「アンタ、士郎ね!!!」

 

「なっ!?い、いや、私はその士郎とかいう男ではない!」

 

彼のこめかみを、冷や汗が美しく流れ落ちていく。

あまりにも分かりやすすぎるわ。未来の衛宮士郎、あなたもっと演技のレッスンを積んでから来なさいよ。英霊の分際で、素の動揺を前面に出しすぎなのよ。

 

「嘘よ!その眉!その目つき!その、なんか理不尽に苦労してそうな顔!士郎に決まってるじゃない!」

 

「理屈が雑すぎるだろう!」

 

「証明してあげるから、今すぐズボン脱ぎなさい!!」

 

「は?」

 

「え?」

 

アーチャーと時臣さんの声が、見事なユニゾンを奏でる。

そこだけ完璧に息を合わせてどうするつもりなの。

 

「り、凛!?」

 

「年頃の娘が、初対面の男性に向かって何を言っているのだ!?」

 

「初対面じゃないもの!」

 

「何?」

 

「左足の付け根の内側にホクロがあるはずよ!士郎なら!」

 

ああ、今の乾いた音。たぶん、時臣さんの矜持と精神が真っ二つにへし折れた音ね。

 

「そこよ、股の内側!早く見せなさい!」

 

「見せるわけがあるか!!」

 

「やっぱりあるのね!?」

 

「いや、違っ」

 

「お父様下がって!ここからは女の戦いよ!!」

 

「どこにも女の品位が見えんのだが!?」

 

時臣さんの端正な顔面から、みるみるうちに血の気が引いていく。

手塩にかけて育てた愛娘の口から、突如として「男の股間のホクロ情報」が飛び出したのだから。

 

しかも、その対象はよりにもよって衛宮士郎。

お父様の脳内では、危険を知らせるアラートが全方位から鳴り響き、情報処理が完全に追いついていない様子ね。

 

「そ、そうだ!なぜ知っているのだ!?」

 

やはりそこを聞いてしまうのね。親としては聞かずにはいられないわよね。

でも、凛ちゃんが素直に答えると思う?思うわけないでしょう?

 

案の定、彼女は頬を薔薇色に染めながらも、勝ち誇った視線を外さず、最後の一撃を投下した。

 

「そりゃあ、私たちの仲じゃない。言わせないでよ」

 

終劇。

遠坂時臣、ここに完全機能停止。

 

声を発することも、指先を動かすこともできず、立派な彫像と化してその場に縫い止められる。工房に新たな石柱でも建立されたのかと思ったわ。

 

愛娘の貞操、未来の婿候補の発覚、そして聖杯戦争の開幕。それらが一斉に束となって殴りかかってくれば、人間は誰しも固まるほかないのよ。

 

「ち、違う!誤解だ!」

 

「じゃあ見せなさいよ!」

 

「その二択がおかしいんだ!」

 

「ねえ、士郎。将来の、その、お嫁さんは、私?それとも桜?」

 

「なぜそこに桜が出てくる」

 

「出るでしょ普通!!」

 

「いや出ない!少なくとも今の私は、そういう話をするために召喚されたわけでは」

 

「答えなさい!!」

 

はい、もう収集不可能。

これ、聖杯戦争の皮を被った恋愛リアリティショーよ。しかも親同伴の。史上最悪の企画じゃないの。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

さて、遠坂邸が「未来の旦那(仮)の股間検証」という前代未聞の事態で大炎上していたころ。

間桐邸の地下では、また全く異なる性質の火花が散っていた。

 

「なあ桜、本当にまた召喚するのか?ランスロットがいるんだし、わざわざ予算を使わなくてもよくないか?」

 

「大丈夫ですよ、兄さん」

 

声の響きだけを切り取れば、まさに舞い降りた天使。けれど、その内側に潜む絶対的な支配力を知る者からすれば、逆らうことの許されない裏番長よ。

 

「ランスロットさんのマスター権は、兄さんに偽臣の書で一時的にお渡ししましたから。魔力供給は私の残りで回せます」

 

「その説明、なんか割引券みたいに言うなよ」

 

「だいたい同じです」

 

「同じなのかよ」

 

間桐の兄妹が、十年前の惨状からは想像もつかないほど、ごく自然に言葉を交わしている。

 

素晴らしいわ。人間は、身を置く環境次第でここまで劇的に変われるのね。たまに覗く桜ちゃんの瞳の奥が底なし沼のように恐ろしい点を除けば、ほぼ理想的な兄妹の姿と言っていい。

 

「天秤の守り手よ」

 

桜ちゃんの静謐な詠唱に応え、召喚陣から溢れ出したのは、光ではなかった。

どろりとした、重く黒い泥。

 

演出の意図としては、これ以上ないほど分かりやすい禍々しさ。あの子にかかれば、呼び寄せる英霊すらも容赦なく「間桐の色」に染め上げられてしまう。

 

泥の海から立ち上がったのは、豪奢なドレスを纏った小柄な少女。

頭部には角、背には尻尾。顕現したその瞬間から「私はただ者ではない」という傲慢なオーラを全身から放っていた。

 

「我が名はドラコー。ソドムの獣、ドラコー。クラスは『ビースト』」

 

出たわね。超大物配信者のような仰々しい名乗り。自ら進んで肩書きを盛るタイプ。

 

「ふふ、ははははは!こいつは傑作だな!ただの人間が獣を喚び落とすとは!貴様、とんでもない当たりを引いたぞ!ギャラは高くつくからな!」

 

偉そう。呆れるほどに偉そう。

新人役者の分際で、現場入りした一秒後には座長の顔をしている。そういう図太さは嫌いじゃないけれど、今回ばかりは相手の格を見誤ったわね。

 

「また、偉そうな王様みたいな子が来ましたね」

 

「おい桜、なんかコイツやばくないか?ビーストって、あの十年前のアレと同じだろ!?」

 

「そうですね。系統としては近いです」

 

「近いで済ませていいやつか!?」

 

パニックに陥る慎二くんをよそに、桜ちゃんの足元から音もなく虚数の影が広がり始める。

無言。ただ静かに。

けれど、その圧倒的な圧力だけで、地下室の酸素が急速に失われていく錯覚に陥る。

 

「ふふ、よろしくお願いしますね、ドラコーさん。奇遇ですね、私もいずれ獣に至る予定の、いわば同業の後輩です」

 

紡がれた言葉の裏にあるのは、明確な生存権の剥奪予告よ。

 

ドラコーの傲慢な笑みが、一瞬にして凍りついた。

 

「は?」

 

「ですから、仲良くしましょう?」

 

仲良くしなければ、この泥の底へ沈める。

その無言の宣告を前に、勝敗は一瞬で決した。

 

間桐陣営、召喚開始からわずか三十秒。頂点に君臨する桜ちゃん、その足元で震える新人ドラコー、そして胃痛を抱える慎二くんという、揺るぎないヒエラルキーが完成した瞬間だった。

 

「兄さん、紅茶を淹れてください」

 

「え、僕が?」

 

「はい。ドラコーさんは甘いもの、好きですよね?」

 

「う、うむ。いや、そんなことは」

 

「好きなんですね」

 

「好きだが」

 

「そうですか。ではショートケーキも用意しましょう」

 

有無を言わさぬ見事な仕切り。

人類の脅威たる獣を、ショートケーキ一つで手懐ける間桐の現当主。あまりにも強大すぎるわ。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

さて、視点を切り替えましょう。

次なる舞台は我が家。諸悪の根源、言峰家よ。

 

弁明しておくけれど、私は継母として最低限の情操教育は施してきたつもりなのよ。

「初対面のサーヴァントには優しく、笑顔で、決して威圧することなく接しなさい」と。それは至極まともな母親の務めでしょう?

 

あの夜も、実際に私はそう口酸っぱく説教していたの。

問題は、私の隣に陣取る綺礼さんが、常に余計なノイズを混ぜ込んでくることだったのよ。

 

「いい?カレン。サーヴァントを喚んだら、まずはフレンドリーに挨拶するの。信頼関係は第一印象が命よ。笑顔、笑顔!」

 

「うむ。にこやかな笑顔で接するのだ。私のように」

 

手本として提示された夫の笑顔は、どう好意的に解釈しても、裏路地で獲物を狙う通り魔のそれだった。

 

「やめなさい!!その顔は参考資料じゃなくて事案なのよ!!」

 

私の必死のツッコミも虚しく、カレンは親の指導など端から聞く耳を持っていなかった。

 

「はあ」

 

「来たれ。天秤の守り手よ」

 

淡々とした詠唱の果てに、召喚陣が冷ややかな光を放つ。

他の陣営とは明らかに異なる、底冷えのするような気配。静寂の奥底に、得体の知れない『何か』が蠢いている感覚。ひどく嫌な静けさね。

 

光の中から現れたのは、金髪に青いリボンをあしらった、愛らしい西洋の少女だった。

顔立ちは人形のように整い、声も綿毛のように柔らかい。

けれど、彼女の背後に揺らめく影は、到底可愛らしいとは呼べない代物だった。鍵穴を模したような、底なしの黒い気圧。

 

魔術の素養がない人間がひと目見ただけでも、「ああ、これは絶対に触れてはいけないものだ」と本能で理解できるほどの異質さ。

 

「ええと。あなたが、私の、マスター?」

 

「はい。あなたの飼い主です」

 

初手からアクセル全開のドS発言。

 

「やめなさい!!」

 

反射的にカレンの口を両手で塞ぎ込んだ。

 

「なんで初対面の女の子にそんなこと言うのよ!?ごめんねえ!そうよ、この子がマスターよ!ちょっと口が悪いだけの不器用な娘なの!」

 

秒速の火消し作業。母親という生き物は、いつだって割に合わない労働を強いられるのよ。

 

「こんにちは。私、アビゲイル。アビゲイル・ウィリアムズ。私が、フォーリナー、で、あなたがマスター、なの?よければ、アビーって呼んでくださいな」

 

あらかわいい。

背後に渦巻く気配は絶望的に恐ろしいけれど、本人の仕草は無性に庇護欲をそそる。

 

「フォーリナー、ですか。なるほど。神父の娘には、ふさわしい異端ですね」

 

ああ、だめ。その目は絶対にだめ。

退屈しのぎの極上の玩具を見つけた時の、サディスト特有の目よ。

 

「カレン!その顔やめなさい!あんた今、すごく悪い顔してるから!」

 

「継母、安心してください。私はまだ何もしていません」

 

「『まだ』ってつける時点で、ミリ単位も安心できないのよ!」

 

アビーは無邪気ににこにこと笑っている。

おそらくこの子自身も、相当に危うい境界線上に立つ存在なのだろう。

 

だからこそ、狂気を孕んだ者同士の間にだけ通じ合う、奇妙なシンパシーが生まれてしまう。私の背筋を、強烈な悪寒が駆け抜けた。

 

「ねえ、あなたのおうち、面白いわ」

 

「そうですか。私は退屈しない玩具箱を求めています」

 

「カレン!!」

 

「事実しか言っていません」

 

やめなさい、その歪んだ幼年性癖みたいな感想は。

 

「異端には異端を、か。悪くない」

 

「乗るな!絶対に乗るな!」

 

かくして言峰家には、「腹黒ドS娘」と「クトゥルフの深淵を覗かせる異端少女」という、劇薬どころかコンクリート詰めにでもして封印すべき最悪のデュオが誕生してしまった。

将来が不安?ええ、私も全く同じ気持ちよ。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

冬木の市街地で低予算のドタバタコメディが繰り広げられているのとは対照的に、郊外の高台では、まったく毛色の違う重厚なシリアス映画の撮影が進行していた。

 

マリスビリー・アニムスフィアと、魔術王ソロモン。

 

彼らの動向は、先の三組とは根本的に空気が異なっていた。

笑いの要素など微塵もない。いや、探せばあるのかもしれないけれど、少なくとも彼らには観客を笑わせる気など毛頭ない。

 

ハリウッドの超大作映画のロケハンにでも来たかのような、傲慢で冷ややかな視線で冬木の街を見下ろしていた。本当に感じの悪い男ね。

 

「ここが冬木か。どうだい?ソロモン。初めて見る現代の感想は」

 

傍らに控える魔術王は、静謐な瞳で眼下の街の灯りを映し出していた。

 

「思ったより、悪くないさ。神秘は薄い。でも、それだけ人間が人間だけで前に進んでいるということだろう?喜ばしいことだ」

 

はいはい、善人善人。

こういう「混じり気のない本物の善性」って、私たちの泥臭いギャグ時空には少しばかり眩しすぎるのよね。

 

「私としては、もう少し必要なんだがね」

 

「大聖杯の魔力は枯渇している。だが、私の悲願を達成するには、この極東の儀式が不可欠だ」

 

ああ、もう。こういう言い回し、本当に反吐が出るわ。

初手から「悲願」だの「不可欠」だのと大仰な単語を並べ立てる輩は、例外なくろくでもない破滅のシナリオを懐に隠し持っているものよ。

 

この男は、私たちが繰り広げるドタバタ劇を、ただの片田舎の痴話喧嘩としか認識していない。もっと先、冬木という枠組みを飛び越えた、人類史という途方もない規模の台本を描き出そうとしている。

 

その瞳に宿る冷徹さは、紛れもない本物だわ。

 

でもね。

だからといって、こちらが大人しく舞台を明け渡してやる義理はないのよ。

 

あなたがどれほど壮大で高尚な企画書を振りかざそうとも、この冬木という狂気の現場においては、派手に暴れ回った役者こそがすべてを掻っ攫っていくの。

 

舞台の歯車を強引に回すのは、いつだって生身の馬鹿と、空気を読まない天才と、決して後ろを振り向かないヒロインたちなのだから。

 

当時の彼らに向かってそう言い放ってやりたくなるわ。

 

「どんな大物プロデューサー気取りだろうと、この冬木の主役の座は渡さないわ。あんたの気取ったシリアス超大作なんて、全部まとめて極上のコメディに上書きしてやるんだから」ってね。

 

──と、まあ。

今でこそ強気に啖呵を切れるけれど、事の全容を知った当時の私が、事態がここまでカオスを極めていたことにどれほど頭を抱えたか、想像できるかしら。

 

 

 

 

 

聖杯戦争とは、本来もっと無機質で、殺伐としていて、冷徹な理屈だけで回るべき儀式のはず。

触媒、相性、霊脈、令呪、契約。そういった血の通わない単語で構築されたシステムだったはずなの。

 

それがどうして、あの夜の冬木では、人間の生々しい感情や、隠したい恥部、身勝手な欲望によって、ことごとく上書きされてしまったのか。

 

ホクロ一つで空気が臨界点に達し、ショートケーキ一つで人類の脅威が沈黙し、微笑み一つで深淵の少女が懐き、傲慢な野心一つで魔術師が街を睥睨する。

 

理屈なんて、とうの昔に崩壊している。

でも、一つの舞台芸術として見れば、これほど正解めいた光景もないのよ。

 

第5次の開幕には、戦争の気配なんて微塵もなかった。

けれど、喜劇と悲劇は常に等量に訪れる。

これこそが、まさしく冬木アクターズ・ラプソディにふさわしい狂騒の幕開け。

 

最悪で、最高。

だから私は、何度あの夜の顛末を思い返しても、腹を抱えて笑ってしまうのよ。

 

あんたたち、本当にどうしようもないくらい、最高の役者だわ。




ここまで読んでくださってありがとうございます。
今回は各陣営の召喚を一気に並べて、「この聖杯戦争、最初からだいぶおかしいぞ」という空気を前面に出した回でした。

遠坂、間桐、言峰、そしてマリスビリー側まで、それぞれ違う種類の面倒くささを詰め込めたので、書いていてとても楽しかったです。
好きだった召喚シーンや、今後気になる組み合わせがあれば、ぜひ感想で教えていただけると嬉しいです。
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