冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~ 作:斉宮 柴野
前半は衛宮邸のギャグ多め、後半は各陣営の戦闘開始という流れになります。
いつも通り、原作とは大きく異なる独自設定・独自展開を含みますので、問題ない方のみお楽しみください。
【衛宮邸】
「こ……これが、本物の聖剣エクスカリバー……」
道場の中央。光を弾き返す黄金の輝きが、網膜を鋭く刺激する。
獅子心王リチャードは恭しく両手で剣を受け取ると、感極まったように口元を震わせた。指先から伝わる魔力の残滓に、彼の心臓が高鳴っているのが傍目にもわかる。
「……いや、それ俺の投影だからな?」
至極真っ当な事実である。しかし、光の反射に目を細めるリチャードの耳には、その言葉は微塵も届いていない。
「なんと神々しい輝き!この手触り、この魔力!まさに伝説に聞く星の聖剣そのものではないか!」
「だから聞いてるか?偽物だぞ。俺が魔術で作っただけのただのレプリカだ。本物じゃないからな」
「ああ、素晴らしい!まさか俺の人生で本物のエクスカリバーをこの手に握る日が来るとは!騎士としてこれ以上の誉れはない!」
「本物じゃないって言ってるだろ!どんだけ人の話を聞かないんだあんたは!」
腹の底からこみ上げる脱力感を振り払い、声の限りに事実を突きつける。額にじんわりと浮かんだ汗を拭うことも忘れ、士郎は言葉の通じない英雄の背中を睨みつけた。
だが、リチャードの瞳には黄金の輝きしか映っていない。
「でもすごいぞ、士郎!これほどの精度なら、俺の宝具を使っても威力が変わらないだろう!」
「威力が変わらないって、そりゃ元からそういう魔術だからな。見た目だけじゃなくて中身まで構成を読み取って複製してるわけだし」
「シロウのその剣は、私への愛の結晶と言って良いでしょう」
「はあ!?なんでそうなるんだよ!」
予期せぬ言葉の飛礫に、士郎の脈拍が跳ね上がる。全身を駆け巡る動揺を隠す余裕すらなく、声のトーンが裏返った。
「だってそうでしょう?私の剣をそこまで精巧に再現できるということは、シロウが私のことを日頃から四六時中、熱い視線で見つめているという確固たる証拠です」
「いや、武器の構造を解析してるだけであって、お前自身を見つめてるわけじゃないからな!魔術の工程の話をしてるんだぞ!」
「照れる必要はありませんよ、シロウ。私への溢れんばかりの愛が、その剣の輝きとなって見事に表れているのですから。マスターからの愛を一身に受けるサーヴァントとして、これほど誇らしいことはありません」
「愛の結晶って……お前、いつからそんな自信過剰なキャラになったんだ?王様みたいなこと言い出してないか?」
ズキズキと痛み出したこめかみを指で押さえる。その横で、リチャードはさらに感動の度合いを深めていた。
「愛の結晶……!マスターとサーヴァントの絆がこれほどまでに深いとは!俺は今、とてつもなく美しいものを目撃している!これぞまさに騎士道ロマンの極致!」
「あんたも変な方向に納得するなよ!誤解が広がるだけだろ!」
「それにしても、この聖杯戦争は戦争たり得ず、か。平和なのは良いことなのだろうが……戦うべき敵がいないというのも、騎士としては少しばかり退屈でもあるな」
指先で黄金の柄を撫でながら、リチャードがふと寂寥の念を瞳に浮かべる。その横顔を見て、士郎は居住まいを正して言葉を継ごうとした。
「それでも、大聖杯の謎を解く上で、何が待ち受けているかは――」
その時である。
「マスターーー!!!」
鼓膜を劈くような絶叫が、平穏な埃の匂いを切り裂いた。
直後、耳をつんざく鋼の激突音。視界の端を、網膜を焼くような真紅の閃光が通り抜ける。
「侵入者が来る形跡などなかった!!それなのに!!」
アルトリアが瞬時に魔力で編み上げた見えない剣を構え、前方へと殺気を放つ。道場の中央には、全身を青い装束で固め、禍々しい赤い槍を構えたサーヴァントが立っていた。
「へえ……サーヴァントが二人ねえ。随分と過剰労働だな。ブラック企業も真っ青だぜ」
剥き出しの敵意が、チリチリと肌を焦がす。影の中から姿を現した青い槍兵は、獰猛な牙を覗かせながら士郎を射抜いていた。鼻腔を掠めるのは、むせ返るような闘気と微かな鉄の匂い。
「誰だお前は!どこから入り込んだ!」
全身の筋肉を硬直させ、士郎が瞬時に臨戦態勢をとる。
「挨拶代わりの一撃を防がれるとはな。だが、次はないぞ。それにしても坊主、学校とやらで俺が刺した心臓が再生したのか?そんな蘇生魔術があったとはな。大したもんだ」
口の端を歪め、青い槍兵が感心したように喉を鳴らす。
「……???な、なんの話だ?」
心臓を刺された記憶など、彼の脳内のどこを探しても存在しないからである。
「とぼけんなよ。ついこの間、俺がその心臓をぶち抜いただろ。お前、床に倒れて死にかけてたじゃねえか」
「いや、俺は学校なんか行ってないし、心臓も刺されてないぞ。見ての通りピンピンしてるだろ」
「はあ?嘘つけ!あの赤いコート着た生意気なアーチャーとやり合ってた時に、お前が覗き見してたから口封じに刺したんだろうが!」
「赤いコートのアーチャー?誰だそれ。うちにはそんなやついないぞ」
「いやいや、お前と一緒にいただろ!ツインテールの女のマスターと!」
「ツインテールの女?凛のことか?凛なら自分の家にいるはずだぞ。それにお前の言うそのアーチャーってのは、凛のサーヴァントじゃないのか?」
「だからそう言ってんだろ!お前ら一緒にいただろうが!どうなってんだよ……俺の記憶がおかしいのか?」
自身の記憶と目の前の現実が噛み合わない。槍兵の網膜に焼き付いているはずの光景が、まるで蜃気楼のように揺らいでいた。
「ランサー??いったい誰のサーヴァントだ!?なぜ俺の家にいる!」
「それをベラベラ喋るサーヴァントがいると思うのかよ!?どこの世界に初対面で手持ちのカードを全部見せるバカがいるってんだ!その心臓……今度こそ貰い受ける!!」
抑えきれない焦燥と怒りが、爆発的な脚力となって床板を軋ませる。踏み込んだ足元から舞い上がる埃の粒を置き去りにし、真紅の穂先が雷光の速度で士郎の胸元へと迫った。
「マスター!俺が前に出る!!」
「はっ!そんな模造品の剣で!!おもちゃで俺の槍が防げるかよ!」
「俺が手にしたものはみな!エクスカリバーとなる!!」
概念を付与する宝具の光が、道場を真昼のように照らし出す。士郎が投影した剣と魔槍が激突し、爆風が壁を大きく揺らした。
「素晴らしい!!これほど魔力を込めても折れないとは!!士郎、お前の投影は最高だ!まさに芸術品!」
火の粉を浴びながら、リチャードの瞳は無邪気な子供のように輝いていた。指先から伝わる反動の心地よさに、彼の魂そのものが歓喜に打ち震えている。
「貴様……まさか、騎士王!!」
槍兵の喉から驚愕が漏れる。眩い光の斬撃を放つその姿を見て、目の前の男をアーサー王だと誤認したのだ。
「おお!なんということだ!!それ程までに俺の勇姿が、憧れの王の如く輝いているというのか!!」
「は?憧れの王?」
「…………」
リチャードは胸に込み上げる熱情に語彙を奪われ、ただキラキラと瞳を潤ませている。
「おい、なんだこいつ。気持ち悪いぞ。聖剣振り回しながら目がハートになってるじゃねえか」
「ランサーのサーヴァント!!貴公のその槍捌き、さぞ名の知れた英雄とお見受けする!是非、名を名乗られよ!!騎士の礼をもって迎え撃とうではないか!」
「聖杯戦争で名乗りも糞もあるかよ!!脳筋が!!!」
全力で拒絶の意志を示す槍兵をよそに、リチャードは士郎を振り返る。
「マスター!!どうか俺に名乗りを上げる許可を!」
「……別に良いぞ。名乗れ。好きにしろ」
士郎は疲労感を滲ませながら手で合図を送った。
「感謝する!我が名はリチャード!獅子心王リチャードである!」
「チッ、騎士王じゃねえのかよ。紛らわしい真似しやがって。どこの誰だか知らねえが、聖剣のパチモン振り回してるただのコスプレイヤーかよ」
その対面。敵の苛立ちとは裏腹に、士郎の脳内では高速で魔術回路が駆動していた。網膜に映る真紅の槍。その外殻から内面へと意識を潜らせ、設計図の糸を一本ずつ解きほぐしていく。
「士郎……あの槍、わかりますか?」
「………ああ。構造の解析、完了。武器の伝承との照合も完了だ。あれは『ゲイ・ボルグ』放てば必ず心臓を貫く、因果逆転の魔槍だ」
「となれば、アイルランドの光の御子。クー・フーリンですね」
「なっ!?なぜ一瞬で我が真名を!!貴様ら、何者だ!どこで俺の情報を仕入れた!」
隠していたはずの札をあっさりと読み上げられ、槍兵は目を剥いた。アルトリアは一歩前に出ると、凛とした声で告げる。
「ふふ、隠し事は無用です。誇り高きケルトの英雄よ。あなたのその槍はあまりにも有名ですからね」
「チッ……こざかしい真似を。おい、そこの小娘!!何者だ!!」
『小娘』
その単語が道場に響いた瞬間。
張り詰めていた空気が、文字通りピタリと静止した。
「……小娘!!今、小娘だと!!」
アルトリアの華奢な肩が、小刻みに震え始める。怒りだろうか。否である。彼女はゆっくりと顔を上げ、花が咲き誇るような満面の笑みを浮かべた。
「シロウ!どうしましょう!私、あのランサー倒せません!私のことを、小娘と言ってくれました!!」
歓喜に頬を染め、弾むような声が響き渡る。
「…………え?」
「どうしたのだ?騎士王は?なぜ敵の言葉にそんなに喜んでいるのだ?」
「あれが騎士王……??」
事態の急転直下に、槍兵の思考回路は完全に焼き切れていた。想定していた命の削り合いはどこへ消えたのか。場を支配する異様な熱気の中で、彼だけが氷水にでも浸かったかのような孤立感を味わっていた。
「あー……。最近、姉さんから『ババア』扱いされて、結構根に持ってたから……それだと思う」
「はあ?姉さん?ババア?」
「ええ!私の精神は永遠に若々しいというのに!私の肉体は聖剣の力で成長が止まっているだけなのですから、見た目年齢を基準にするべきです!ですがどうですか!初対面のこのランサーは、私のことを小娘と!つまり十代の若者として認識してくれたのです!」
「いや、ただ単に見た目が子供っぽいからそう言っただけだと思うぞ……」
「なんと素晴らしい審美眼!彼こそ真の英雄です!ケルトの英雄は女性を見る目がありますね!」
「おいおいおい、なんで敵を褒めちぎってんだよ。さっきまで臨戦態勢だっただろ」
抗議の声を上げる士郎の言葉も、完全に舞い上がった少女の耳には届かない。
「リチャード!私はランサーに助太刀をしようかと!!」
「おお!誉れ高き騎士王が、この俺と手合わせをしてくれるのか!!光栄の極み!!」
「何がどうなってやがるんだよ……!?」
「待て待て待て!お前ら、一応マスターとサーヴァントだろ!?なんで仲間割れして俺に味方しようとしてんだよ!俺はお前らの敵だぞ!」
「細かいことは気にするな、青い槍兵よ!私の若さを認めてくれた君への、これはほんの恩返しだ!」
「恩返しで味方を殺そうとすんじゃねえよ!聖杯戦争舐めてんのか!少しは緊張感を持て!」
「マスター!俺は憧れの騎士王と戦えるなら、もう聖杯などどうでもいい!!さあ来い、我が王よ!」
「お前も目的を見失うなよ!バカばっかりかここは!」
「シロウなら自分でなんとかできるでしょう。それよりも、私の若さを認めてくれたこのランサーとの友情が優先です!」
「おい、サーヴァントの自覚どこ行ったんだよ。俺をあっさり見捨てるな」
「シロウ、私を止めても無駄ですよ。今の私は、若さを証明するためなら何でもする無敵の存在です!」
「いや、誰も止めてないけどな。勝手にやってろ」
小娘と呼ばれたことで完全に思考を放棄し、味方であるはずの騎士に刃を向ける少女。それに歓喜し、得物を構えて迎え撃とうとする限界の騎士。
「おい坊主、お前これ普段からどうやって収拾つけてんだよ。俺、なんかお前が可哀想になってきたぞ」
「……慣れだ。そのうち何も感じなくなる」
◇◇
【冬木郊外】
夜の森。深く冷え込んだ空気に肌を刺され、イリヤスフィールは無意識のうちにコートの襟を強く握りしめた。
「モルガン、やっぱり今日は空気がおかしいよ。肌に触れる魔力が、いつもみたいに澄んでいない。なんだかとても重くて、泥みたいにまとわりついてくる感じがする」
視線はすがるように、隣を歩くサーヴァントに向けられる。
「マスター、私の後ろから絶対に離れないでください。通常の聖杯戦争ではあり得ないほどの、歪な魔力の渦がすぐそこまで迫っています」
前方を射抜くモルガンの視線には、普段の余裕は微塵もなく、ただ純粋な警戒の念だけが張り詰めていた。展開された魔力の障壁が、周囲の木々を霜で覆っていく。
「巨大な魔力の渦って、他のマスターが仕掛けてきたってこと?でも、こんなにあからさまな魔力放出なんて、見つかってくださいと言っているようなものじゃない」
「ええ。人間の魔術師が制御できるような代物ではありません。まるで、自然災害そのものが歩いてくるような……」
ズシン。
足元の土を通して伝わる重い振動が、森全体を揺るがす。木々の枝から鳥たちが羽ばたき、冷たかった夜の空気が急速に熱を帯びていく。
「きゃっ……!なに、地震!?」
バランスを崩しかけたイリヤスフィールを、モルガンが魔力で支え、背後へと下げる。
深く生い茂る森の太い木々が小枝のようにへし折られ、圧倒的な筋肉の隆起を持つ威容が姿を現した。
「■■■■■■■■■■!!!!!」
天に向かって放たれた咆哮。言語の形を成さない、純粋な殺意と破壊衝動だけを詰め込んだ叫びが、鼓膜を打ち据え、空間そのものにヒビを入れるかのような錯覚を引き起こす。
「……あれは、ただの英霊ではありません。神に連なる者です」
「神に連なる者って……まさか、神霊クラスのサーヴァントが喚ばれたって言うの!?そんなの、大聖杯のシステムでも不可能なはずじゃない!」
「本来のルールならばその通りです。ですが、目の前に不可能が存在している以上、現実として受け止めるしかありません。あの威圧感はただの英雄の枠に収まらない。マスター、私の魔術で視界を奪った瞬間に、全力でこの森から離脱しますよ」
「逃げるの!?あなたでも勝てない相手なの!?」
「勝敗の問題ではありません。あれと正面からぶつかれば、余波だけでこの森が消し飛びます。あなたの安全を最優先にするのが、私の唯一の使命ですから」
無数の氷の槍がモルガンの手元に展開され、眼前の脅威を牽制するための計算が高速で組み上げられていく。
◇
【間桐邸庭】
「聖杯戦争に、あんなのが呼び出されるんですか?」
桜は、庭の敷地全体を白い虚数の影で満たしながら、静かな微笑を浮かべていた。
ドラコーと共に視線を向ける先には、目元を禍々しい布で覆い、両手に鎖のついた短剣を構えた紫髪の女性ライダーが立っている。その足元からは、無数の蛇が這い回るような不気味な気配が漏れ出していた。
「ううむ。余がすでにこの聖杯戦争におけるイレギュラーである以上、何ともいえんが……他の陣営にもずいぶんと厄介な者が紛れ込んでいるようだな」
ドラコーは赤いドレスの裾を揺らし、目の前の敵の力量を測るように目を細める。
「ふん、随分と手の込んだ防衛陣地だ。虚数属性の魔術など、そう簡単にお目にかかれるものではない。それに、そこの赤い女。お前からは英霊としての真っ当な気配を感じない。ひどく歪で、吐き気がするほどの悪性だ」
ライダーの声には感情の起伏がなく、ただ鎖の擦れる音だけが静寂に響く。
「吐き気がするとは、余に向かってずいぶんと無礼な口を叩くではないか。その目隠しは飾りか?余の美しさが理解できないとは、哀れな女だ」
「私の美意識はお前のような派手なものには向いていないだけだ。それに、この目隠しは私自身の力を抑え込むための封印でもある。お前たちのような得体の知れない存在を前にして、いつまでも手加減をしてやる義理はないからな」
「桜、あの女は危険だ。魔力そのものよりも、あの隠された両目から、嫌な呪いの気配がする」
「ええ、わかっています。あれは魔眼ですね。視線を合わせただけで対象を物理的に破壊するような、最高級の神秘です」
桜の意思に呼応するように、足元の影が静かに、そして確実にライダーへと這い寄っていく。
「ほう、私の魔眼の正体に気づくとは、なかなかに優秀な魔術師だ。だが、気づいたところで防げるものではない。……まあよい。私の真の視界に触れ、その身を永遠の石へと変えるがいい」
布へとかけられた指先が、ゆっくりと動く。
「石だと?余を彫像にでもするつもりか?笑わせるな。余の身を縛るものなど、この世のどこにも存在しない。桜、余の炎でこの庭ごとあの女を焼き尽しても構わんか?」
「庭が燃えるのは困ります。兄さんも家にいるかもしれないですし。私が影で彼女の動きを封じますから、ドラコーはその隙に決めることができますか?」
「当然だ。あの鎖が余に届く前に、灰に変えてやろう」
◇
【路上】
「なんで僕のところにも敵が出るんだよ!僕はマスターじゃないぞ!!令呪だって持ってないんだから、僕を狙う意味なんてどこにもないじゃないか!!」
前方には、眩いほどに白銀に輝く鎧を纏った、威風堂々たる騎士が立ちはだかっている。
「慎二様。お下がりください。……敵は、一筋縄でいく相手ではありません」
慎二の背後から進み出たのは、同じく白銀の鎧を身に纏う清廉な騎士、ランスロットである。彼は自身のマスターではない慎二を庇うように、静かに刃を抜いた。
「お下がりくださいって、後ろも前も逃げ道なんてないじゃないか!なんでお前は僕の後ばっかりついてくるんだよ!そのせいで僕まで標的にされてるんじゃないか!」
足の震えが止まらず、へたり込みそうになる恐怖を怒りに変換し、慎二はランスロットの背中へと感情をぶつける。
「光栄ですね。ランスロット卿。まさかこのような極東の地で、再びあなたと剣を交える機会が巡ってくるとは」
立ちはだかる白銀の騎士は、燃え盛る太陽のような圧倒的な熱量を放ちながら、深い覚悟を秘めた声で語りかける。
「……私に弁明の余地はない。だが、今は退くわけにはいかないのだ」
ランスロットは剣の切っ先を僅かに下げ、哀愁を帯びた瞳でかつての同胞を見据える。
「あなたは王を裏切り、円卓を崩壊に導いた。私の心には、今もあの悲劇の日の記憶が焼き付いています。あなたが私の兄弟たちをその手で討ち取った日のことが。私怨で剣を振るうことは騎士道に反する。しかし、この聖杯戦争という戦場において、あなたを討ち果たすことに何の躊躇いもありません」
「ちょっと待ってよ!なんなんだよお前ら、知り合いなのか!?だったら話し合いで解決しろよ!僕は無関係なんだから、ここから逃がしてくれよ!」
「太陽の騎士に、二度の負けはない!逆賊よ、お覚悟を!」
「……行くぞッ!!」
ランスロットもまた迷いを振り切り、刃を構えて正面から突撃する。激突する二つの光が夜の静寂を打ち砕き、閃光が路上を真昼のように照らし出した。
◇
【遠坂邸】
「士郎!!アンタ、ちゃんと私を守って勝たせなさいよ!!もし私の家に傷一つでもつけたら、ただじゃおかないからね!!」
「凛、だから外で私をその名で呼ぶなと言っているだろう。それに、今ここは家の中ではなく、立派な戦場だ。家が傷つくことなど気にしている余裕はないぞ」
主の言葉に内心で呆れを覚えつつも、アーチャーの両手には瞬時に陰陽の夫婦剣が投影されていた。その瞳は、眼前の敵の挙動を油断なく観察している。
三十重にも張り巡らしたはずの魔術障壁が、いとも容易く内側から破られていた。侵入者は、結界の構造そのものを熟知しているかのように、最も脆い結節点を的確に破壊してきたのだ。
二人の前に立つのは、アーチャーと非常によく似た体格を持つ男。肌は土気色に沈み、髪は短く刈り込まれた坊主頭。全身からは、肌を刺すような暗い殺気が漂っている。
「ふん、随分と手ぬるいものだな。こうも甘く、そして脆弱な防衛陣地しか構築できないのか。見ていて反吐が出る」
男は嘲りのこもった低い声と共に、両手に握った無骨な二丁の拳銃を構えた。
「あの黒い坊主頭!なんかものすごくムカつくわ!なによあいつ、アンタの親戚か何か!?顔の作りは似てるけど、醸し出してるオーラが最悪すぎるじゃない!」
凛の胸の奥で、自身の領域を踏みにじられた怒りが燃え上がる。
「……それについては全面的に同意する。非常に気に食わん。というより、直感的に存在そのものを否定したくなる。まさか、聖杯はこんな悪趣味な可能性まで引っ張り出してきたというのか」
アーチャーの顔に強い嫌悪感が浮かぶ。目の前の男が何者であるか、理屈ではなく魂のレベルで理解していた。
「可能性だろうがなんだろうが関係ないわ。私の結界を土足で踏みにじった罪は、きっちりその命で払ってもらうわよ!アーチャー、出し惜しみはなし!一瞬で片付けるわ!」
「了解だ。マスターの命とあらば、あの不愉快な面をこれ以上見なくて済むように、全力で排除させてもらおう」
「威勢が良いのは口だけか。理想に溺れ、現実の泥を這う覚悟もない無能どもが。その甘い幻想ごと、私の弾丸で撃ち抜いてやろう」
交わるはずのない過去と未来。
同じ起源を持ちながら全く異なる結末を迎えた二つの魂が、狭い地下工房の中で殺意を衝突させる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ついに冬木市全域で、規格外サーヴァントたちが動き出しました。
誰が誰とぶつかるのか、そして士郎の胃がどこまで耐えられるのか、感想をいただけると嬉しいです。