冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~   作:斉宮 柴野

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この回では
・騎士王はやっぱり魔女扱いされます
・円卓は昼ドラになります
・誰も嘘をついていません


モルガン確定演出

「おい……征服王。あれには誘いをかけんのか?貴様のその大雑把なスカウト活動、あの狂犬にも適用されるのか?」

 

ランサーさんが、呆れたような声で尋ねる。彼の視線の先。そこには、闇そのもののような黒い霧に包まれた甲冑の騎士――バーサーカーが佇んでいる。

 

あの黒い霧、ドライアイスじゃないわね。もっとこう、CG合成をリアルタイムで投影しているような、粒子の細かさを感じる。冬木市の技術班、またいい仕事してるわ。

 

「いや、あれには話が通じそうにないからなぁ。それに……」

 

ライダーのおじさん(征服王)が、顎を撫でながら苦笑いする。彼のような豪快な男でも、対話の糸口が見つからないらしい。無理もないわ。さっきから「ア……」とか「ウ……」とかしか言ってないし。完全なアドリブ任せの役者さんか、あるいは「セリフなし」という縛りで演技力を試されているベテランか。

 

「A……Arthur……rrrrr!!!!!」

 

言葉?いや、獣の咆哮に近い。重低音が腹に響く。5.1chサラウンドシステムがフル稼働してる感じ。

 

「あのように、言葉も失っている様子。交渉の余地はない。心なしか、あの霧の向こうから聞こえる声は、理性をかなぐり捨てた獣のそれだ」

 

うーん、どうやらさっき私が推理した「徹夜明けのADさん」説は、ちょっと修正が必要かも。ADさんにしては、殺気が本気すぎる。

 

あれは……そう、「狂戦士(バーサーカー)」という役柄に魂まで売り渡した、憑依型俳優の究極系ね。セリフがない役って難しいのよね。動きと、唸り声だけで感情を表現しなきゃいけないから。

 

チャップリンの無声映画にも通じる、高度な身体表現。……まさか!!私の中で、ある一つの推論が閃く。彼は「見せない」ことで「魅せて」いるのだ。あの黒い霧。あれはただの雰囲気作りじゃない。観客の想像力を掻き立てるための、意図的な「情報遮断」!

 

「あいつ、ステータスも全部隠されてる……。マスターにも見えないなんて、どういう能力だ?普通、サーヴァントならある程度の情報は読み取れるはずなのに……エラーしか返ってこないぞ!?」

 

ウェイバーくんが、戦車の端っこで悲鳴を上げている。可愛い。パニック演技が板についてきたわね。でも、君のその疑問、座長である私が解決してあげる。

 

「ああ、それはそういう演出(宝具)があるからですね。あの黒い霧が、個人の特定を阻害するフィルター効果を持っています。舞台裏を見せないための『暗幕』みたいなものですね。肖像権保護のモザイク処理みたいなものと言ってもいいでしょう」

 

「はあ!?モザイク!?な、何言ってるんだあんた!」

 

「見ればわかりますよ。あの霧の粒子、不規則に乱反射して、観測者の視覚情報を撹乱してるんです。一種のジャミングですね。ハイテクだわぁ」

 

現代の演劇は、ここまで科学技術と融合しているのね。プロジェクションマッピングの次は、光学迷彩か。勉強になるわ。

 

「見ればわかるけど!あれをどうやって……。宝具だぞ!?伝説の具現化だぞ!?ジャミングとかそういうレベルじゃなくて、概念的な……」

 

「みんなできますよ?ほら、コツさえ掴めば」

 

 

 

私の瞳の奥で、幾何学模様がギュルギュルと回転する。

 

解析開始。対象:バーサーカーの纏う黒い霧

 

宝具名:『己が栄光の為でなく』

 

構造:使用者の輪郭を曖昧にし、ステータスを隠蔽する幻術系スキル

 

 

 

……ふむふむ。なるほどね。力の波長をランダムに変化させて、認識阻害のフィールドを形成しているわけか。設計図は見えた。あとは、私の回路を使って、同じ出力を再現するだけ。簡単だわ。スマホのフィルタアプリを使うような感覚ね。よし、出力調整。色は……黒だと悪役っぽいから、私は「聖女」らしく白で行こうかな。スイッチ、オン。

 

シュウウウウウ……ッ。

 

私の足元から、純白の蒸気が噴き出す。光の粒子を含んだ、聖なる霧だ。瞬く間に私の全身を包み込み、輪郭をぼやかしていく。ソフトフォーカスがかかったアイドルの宣材写真みたい。いい感じ!美肌効果もありそう!

 

「おお!!奇跡だ!!ジャンヌの姿が、神のヴェールに包まれた!!なんと神々しい……!まさに天界から降り立った天使そのもの!!」

 

隣でジルが、両手を合わせて拝んでいる。相変わらず反応がいい。彼は私の専属ファンクラブ会長に任命しよう。

 

「はあああああ!?コピーした!?あのサーヴァント、敵の宝具を見ただけでコピーしたぞ!?ありえない!……いや、魔法か!?」

 

少年。落ち着いて。これは魔法じゃなくて、技術よ。

 

「ほう……!芸達者なことだ!あの狂騎士の専売特許かと思えば、貴様も使えるとはな。聖女というのは、案外器用なものなのだな」

 

「ね?ただの照明効果です。怖がることはありませんよ。ちょっと力の周波数をいじって、光の屈折率を変えるだけですから。日曜大工レベルの話です」

 

「見て盗む」。これぞ役者の基本。

 

先輩の演技も、敵の技も、全て自分の糧にする。この「コピー能力」こそが、私が大女優になるための最大の武器なのだから。……あ、でもこれ、ずっと出してると視界が悪いわね。足元の瓦礫につまずきそう。私はスッと霧を晴らす。

 

その時。

 

ドォォォォォンッ!!!!

 

地面を揺るがす踏み込み音。バーサーカーが、突如として動き出した。合図もなしに。完全なアドリブ?

 

それとも、彼なりのタイミング?彼の標的は、黄金の王ギルガメッシュでも、豪快な征服王イスカンダルでもなく――。

 

「Arthurrrrrrr!!!!!」

 

咆哮と共に、黒い塊が一直線に突っ込む先。そこにいるのは、セイバーちゃん――モルガンだ。

 

「っ……!!」

 

セイバーちゃんが反応する。バーサーカーの手には、さっき引き抜いた街灯(鉄柱)が握られている。彼はそれを、まるで小枝のように軽々と振り回し、猛烈な勢いでセイバーちゃんに襲いかかる。速い。そして重い。遠心力が乗った鉄塊の一撃。当たればミンチ確実。

 

「我を無視するとはな!雑種!!」

 

街灯の上から、ギルガメッシュさんの怒声が飛ぶ。彼は不快げに、背後のゲート・オブ・バビロンを展開する。自分の目の前で、自分以外の獲物を狙うなんて、王のプライドが許さないらしい。ヒュンッ!宝具が射出される。しかし。

 

ガギンッ!

 

バーサーカーは、振り返りもせずに鉄柱を振るい、背後から迫る宝具を叩き落とした。いや、叩き落としただけじゃない。その衝撃と反動を利用して、さらに加速してセイバーちゃんへ突っ込む。

 

器用すぎる!背中に目がついてるの?それとも、殺気だけで感知した?スタントマンとしてのレベルが高すぎるわ。

 

「くっ!なぜ私を狙う!!」

 

セイバーちゃんが黄金の聖剣で防御する。

 

ドガァァァァン!!

 

力負けしている?あの細腕で、よく耐えてるわ。でも、なんで?なんでバーサーカーは、他のサーヴァントを無視して、執拗に彼女だけを狙うの?個人的な恨み?それとも、脚本上の因縁?

 

……待って。彼が叫んでいる言葉。「Arthur(アーサー)」。さっきは「朝(徹夜明け)」だと思ったけど、この状況でADさんが女優さんを襲う理由がない。となると、やはりあれは人名だ。「アーサー」。私はポンと手を叩く。繋がった。シナリオの全貌が見えたわ!

 

「わかりました!あの騎士の真名が!!」

 

「流石だな……。誰だ?あの狂犬の正体がわかるというのか?」

 

ライダーのおじさんが、興味深そうに身を乗り出す。私はビシッと、戦い合う二人を指差す。探偵役の見せ場パート2よ!

 

「『Arthur』と叫んでいるのが何よりの証拠!彼は狂ってなお、アーサー王を探しているのです。あるいは、アーサー王の名を呼び続けているのです。忠犬ハチ公のように!そして、なぜ『モルガン(セイバー)』を執拗に狙うのか。疑問に思いませんか?普通なら、一番目立つ金ピカの人(アーチャー)とか、一番強そうな筋肉の人(ライダー)を狙うはずです。でも彼は、あえて一番小柄な彼女を選んだ。それはなぜか!」

 

「それは、彼女がアーサー王を陥れた張本人だから!!」

 

「だから私はモルガンではな……っ!!」

 

セイバーちゃんの反論は、バーサーカーの鉄柱攻撃によって遮られる。

 

ガンッ!

 

いいタイミングだ。バーサーカーさん、間の取り方がうまい。私のセリフを邪魔しない絶妙な合いの手ね。

 

「聞いてください、この悲しき物語を!円卓の騎士において、誰よりもアーサー王を愛し、しかし裏切り、後悔に苛まれた騎士。彼は死してなお、王への忠義と、王を貶めた魔女への憎悪に燃えているのです!」

 

雨に濡れる騎士。去りゆく王の背中。そして、影で笑う魔女モルガン。完璧なドラマだ。泣ける。全米が泣くわ、これ。

 

「彼は彼女(セイバー)がモルガンだと見抜いているのです!だからこそ、理性を失ってもなお、本能で『敵』を排除しようとしている!なんという忠義!なんという執念!あの騎士の真名は……湖の騎士ランスロット!!」

 

胸に手を当て、感動に打ち震える。そして、ビシッと指を突きつける。

セイバーちゃんの動きが止まる。鉄柱を受け止めていた剣の力が、ふっと抜ける。

 

「な……なんだと……っ!!」

 

瞳が激しく揺れている。その動揺を、周囲は「図星を突かれた反応」と受け取る。

 

ほら、やっぱり!みんなの顔に「なるほど!」って書いてあるわ。

 

「ランスロット……まさか、貴公なのか……?あの黒い騎士が……私の友、ランスロットだというのか……?」

 

……うまい!なんて演技力!

「かつての同僚が変わり果てた姿で現れた時のショック」を、ここまでリアルに表現できるなんて!ほらね!知り合いだった!あの動揺の仕方、元同僚に対する「気まずさ」そのものよ!

 

「あ、久しぶり……え、お前そんなになっちゃったの?」みたいな。社内恋愛がこじれて別れたカップルが、数年後に同窓会で再会した時のような気まずさ。リアルだわぁ。

 

「A……Arthur……!!!」

 

バーサーカー(ランスロット役)が、さらに激しく攻撃を仕掛ける。セイバーちゃんは、防戦一方だ。彼女の剣に迷いがある。かつての友を斬れないという葛藤か、それとも「モルガンだとバレた」という焦りか。もちろん後者だけどね!

 

「見なさいジル!あの迫真の殺陣!感情が乗ってるわ!愛憎入り混じる刃の交差!これぞ演劇の醍醐味よ!」

 

「おお……!ジャンヌがそこまで仰るなら、間違いありません!あの騎士の狂気、まさに愛ゆえの暴走!美しい!」

 

 

 

◇◇

 

 

 

「なるほどな……。狂犬!なかなかの忠義ではないか」

 

さっきまでの不機嫌さはどこへやら、今はご満悦の様子だ。やっぱりこの人、わかりやすい。自分の庭で面白いショーが行われているなら、文句は言わないタイプね。寛容な大家さんだわ。

 

「主君を裏切った己を恥じ、狂奔してなお、主君の敵(魔女)を討たんとするか。我の庭で見せる余興としては悪くない。道化には道化なりの華があるというもの」

 

彼はグラス(中身は最高級のワインだろう)を傾ける仕草をする。持ってないけど。エアグラス?それとも私の目に見えてないだけ?どちらにせよ、彼の評価基準は「退屈か、そうでないか」

 

そして今の状況は、彼にとって合格ラインを超えたらしい。

 

『それにしてもモルガンの業の深さよ……。実の弟を破滅させ、あまつさえその騎士までも狂わせるとは。魔女の所業、恐るべし』

 

闇の中から、ケイネス先生(仮)の感嘆の声が響く。彼もまた、私の脚本にどっぷりと浸かっている。

 

もはや「セイバー=モルガン」説は、この場の共通認識となりつつあった。

 

だって、状況証拠が揃いすぎているもの。剣を隠す卑屈さ。ランスロットに狙われる因縁。そして何より、あのヒステリックな性格。魔女以外の何物でもないでしょ。

 

「許せぬ……。騎士として、その在り方はあまりに醜悪!同じ時代を生きた者として、貴様の歪んだ執念には反吐が出る!」

 

ランサーさんは騎士道の体現者だ。だからこそ、「弟になりすまして悪名を広める」という陰湿なやり口が許せないのだろう。熱い男だ。

 

でも、ちょっと単純すぎない?もう少し裏を読んだ方がいいと思うけど、まあその直情的なところが彼の魅力でもあるわね。

 

「だから……!私は……騎士王だって……言っているだろう……!!」

 

セイバーちゃんが半泣きでバーサーカーの鉄柱を受け止めながら、必死に弁明している。

 

その顔は涙と煤でぐちゃぐちゃだ。可哀想に。でも、その悲痛な叫びも、私には「言い訳」にしか聞こえない。「私はやってない!」と叫ぶ犯人ほど、怪しいものはないのよ。サスペンスドラマの鉄則だわ。……それにしても。彼女の演技、ちょっと雑じゃない?

 

泣いたり喚いたりするのはいいけど、もっとこう、「魔女としての矜持」みたいなものが見たいのよ。悪役なら悪役らしく、不敵に笑うとか、高笑いするとか、そういう「魅せる演技」をしてほしい。ただの駄々っ子じゃ、観客(ギルガメッシュとか)が飽きちゃうわよ。座長として、ここは一言言っておかなきゃ。

 

「アルトリアさん!ダメですよ!!」

 

ビシッ!!私は戦場の真ん中で、腰に手を当てて怒鳴る。

 

「な、何を……!?」

 

「ちゃんと(脚本通り)やりなさい!ランスロットを見てみなさい!狂気の中に哀愁を漂わせる、あんなに見事な(演技)立ち回りをしているのに!セリフがなくても感情が伝わってくる、あの(表現)力!貴女はどうですか!みんなこんなに見事に立ち回っているのに、貴女だけですよ、泣いたり喚いたり……。役に入り込めてない証拠です!」

 

彼は「A……Arthur……」と唸りながら、悲壮な決意で鉄柱を振るっている。その背中には、裏切りの罪悪感と、それでも果たしたい忠義の炎が揺らめいているように見せてる。名演だ。助演男優賞は彼のものよ。

 

「わ、私は必死に……!必死に戦っているだけだ!!」

 

「それがダメなんです!『私はアーサーだ』なんて見え透いた嘘にしがみついて!いつまでその設定を引きずるつもりですか!英雄としての自覚はないのですか!それとも何ですか、魔女だから性格が捻じ曲がっているという役作りですか!?だとしたら、ちょっとアプローチが安直すぎます!もっと深みを出して!内面の葛藤とか、愛憎の裏返しとか!」

 

「うぐぅ……!!」

 

図星か。いや、単に私の剣幕に押されているだけかもしれないけど。でも、周囲の空気は完全に私の味方だ。

 

「うむ、然り。魔女よ。余も興ざめだ。これ以上、この聖杯戦争を嘘と涙で汚すならば、余が戦車で轢き潰して誅することになるぞ。王たるもの、己の在り方には誇りを持つべきだ。貴様のその態度は、王としても、魔女としても、中途半端に過ぎる」

 

彼もまた、私の演出論に賛同してくれている。わかる男だ。厳しい。征服王のダメ出しは、物理的な重みがある。「轢き潰す」って、比喩じゃなくて本当にやりそうだから怖い。

 

「………………」

 

誰も信じてくれない。聖処女も、征服王も、英雄王も、騎士も。全員が彼女を「嘘つきの魔女」として見ている。四面楚歌。完全なる孤立無援。可哀想に。でも、これが芸能界の厳しさよ。実力(演技力)で黙らせられないなら、甘んじてその汚名を受け入れるしかないの。

 

「くくっ……。魔女よ。我の庭を土足で汚すとは……。身の程を弁えよ。だが、その無様なあがき、道化としては楽しませてもらったぞ。涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして、必死に弁明するその姿……喜劇としては一級品だ」

 

彼は本当に楽しそうだ。人の不幸は蜜の味って顔してる。酷いこと言うなぁ。でも、否定はできない。

 

彼女の必死さは、ある意味で滑稽なほどのリアリティがあった。ふぅ……。ちょっと言いすぎたかしら?でも、彼女のためを思ってのことよ。ヒールならヒールらしく、堂々と振る舞ってこそ役者だもの。中途半端にいい人ぶったり、被害者ぶったりするのは一番良くない。悪女なら悪女らしく、華麗に散りなさい。

 

「さあ、ランスロット!気が済むまでおやりなさい!このジャンヌ・ダルク、貴方の忠義(復讐劇)を特等席で見届けます!舞台袖から応援していますよ!」

 

「おおお!なんと慈悲深い!狂える魂すらも肯定する聖女の愛!!ジャンヌよ、貴女の瞳は全ての罪を許し、全ての業を包み込む海のごとし!!」




ランスロットは何も間違っていません。
周囲が全部間違えただけです。

次の助演指導の相手は誰が良い??

  • 衛宮切嗣
  • 言峰綺礼
  • ケイネス・エルメロイ・アーチボルト
  • ウェイバー・ベルベット
  • 遠坂時臣
  • 間桐雁夜
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