冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~ 作:斉宮 柴野
そして、ついに冠位英霊が登場します。
シリアスとギャグが入り混じる、いつもの冬木をお楽しみください。
私の名前は言峰真樹。二十九歳。夫と三人の子供がおります。
現在、間桐のお家の跡地にて、未来からやってきた我が子たちと感動の再会中。お母さん、立派になった二人を見られて嬉しいわ。嬉しいんですけどね?
その母親に「獣に戻れ」とは、どういう教育を受けてきたのよ!
未来の私、ちょっと出てきなさい。あなたの子供たち、久しぶりに会った母親への要求がおかしいわよ。いえ、今の私の子供でもあるんですけど!
そもそも獣って、どうなればいいわけ?
綺礼さんに夜這いでもかける? 私から上にのしかかって、今日は寝かせませんよと迫ればいいのかしら。ううむ、それなら経験が――。
「マキよ……何を考えているか大体想像がつくが、それは断じて違うぞ」
御指摘をいただいてしまった。
「む……私の思考を読むとは、流石は王様ね」
「貴様は昔から……む?」
何よ、その途中で止まるの。続きが気になるでしょうが。
呆れ顔だったのに、今は笑ってもいない。私の顔、その下、また顔へ。何かついてる? この状況だから、泥も煤もついてるでしょうけど。
「王様。気づかれましたか?」
白野ちゃんまで、何なの。
「いや……まさか……。我が……?」
「そういうことです」
いや、どういうことです!?駄目だ、説明してくれそうな顔じゃない!
「ちょっと! 二人で分かり合ってないで、私にも説明しなさいよ! 何があるの!?」
「何でもない。そなたは自分のやるべきことを考えよ」
「え? まあ……考えてはいるけどさ」
考えた結果を今、断じて違うと否定されたところなのよ。
できれば正解の方も教えていただけませんかねえ。
「要するに、真樹さんは何をすればいいんだ? ビーストになることの是非は置いといても、方法が分からなきゃ始まらないだろ」
そう、それ! 士郎君、よくぞ聞いてくれました!
「えいやあ、でなれるものでもないんでしょう?」
イリヤちゃん。それで済むなら、お母さん、とっくに叫んでるわ。えいやあでも、とりゃあでも、お望みとあらば腹の底から声を出しますとも。
「マキは前回、私たちを『格付けチェック』なるものに巻き込んでいました。魂のあり方を観測し、操り、私たちを全人類の縮図とすることで、儀式を完成させたのです」
……え?
アルトリアさん。今、それ、私の話をしてるのよね?
格付けチェック。うん、言葉は分かる。そんなことをやったような気もする。けど、魂を観測して、操って? 全人類?
ちょっと待って。私、何をしたんだっけ。
綺礼さんに抱きついたことは覚えてる。あの時、下半身がすっぽんぽんで。いや、そこは今あんまり詳しく思い出したくないけど!
その前よ。その前に、私は――。
「……私、そんなことやってたっけ?」
「なるほど。儀式としては即席でしょうが、成立はします……ね」
モルガンにまで納得されてしまった。専門家のお墨つき。では実施した本人から一言。
まったくついていけておりません!
でも、そうか。一度できたことなら、もう一度同じことをすれば。
「分かった! 格付けチェックをもう一回やればいいのね!」
「もちろん、もう一回やればいいってことじゃないけどね」
りっちゃん、母の名案をもうちょっと大事に扱って!
「……違うのかあ」
駄目だ。さっきから思いつくたびに却下されている。そりゃ私だって、その、儀式? に詳しいわけじゃないけど。前にやったというなら、少しくらい思い出せてもよくない?
「では、あの時のように『役を被る』というのは? マキ様はプリテンダーとしての適性を持っておられる。ビーストを演じたうえで、グランドも騙す……そういう筋書きなら」
ランスロットさんまで期待を込めた目で見てくる。
困るって。そんな大役を振られても。
「何を言ってるの? 私、役者じゃないのよ?」
……ん?
口に出してから、引っかかる。
役者じゃない?
「いや、舞台女優は今でもやってるけど。家事の合間の趣味みたいなものだし、そんな……」
そんな、何?
続きが出てこない。
私、今、自分で何て言った?
痛い。指を当てると、押さえたところから奥へ響く。ちょっと待って、頭痛まで追加しないでよ。考えなきゃいけないこと、もう十分あるんだから。
知ってる。知らない言葉じゃない。ランスロットさんにそんなふうに頼られたことも、あったはずで。
その時、私は何と答えた?
ああ、もう。肝心なところで出てこない。台詞を忘れた時なら、相手の台詞を聞いて――。
違う。舞台の上じゃない。
私はここにいる。綺礼さんの妻で、カレンの母で、白野と立香の母で。そうよ、そこは間違えようがないでしょう。
綺礼さんと結婚して、子供が生まれて、その前には。
「……綺礼さんと会ったのは、駅前の、あのカフェで」
そう。あのお店。
「あの人から声をかけてきて……」
言える。こっちはちゃんと言える。
なのに、何でこんなに気持ちが悪いの。
「……ナンパ?」
綺礼さんから?
振り向こうとして、肩をつかまれる。そのまま胸へ引き寄せられて、顔を見る間もない。ちょっと、強い。いつものふざけ方じゃないでしょう、これ。
「どういうことだ……? 真樹……」
綺礼さんこそ、どうしたの。私を抱きしめるのに、そんな力を入れなくてもいいのに。
顔を上げる。怒ってる?
違う。こんな顔、私。
「綺礼さん……?」
ちゃんと触れる。そばにいる。私の名前も呼んでくれる。
「そうよね。綺礼さんは私の夫で……正義の味方で……」
「お前は私に、正義の味方を張り通すこと、生きる意地を教えてくれた。大丈夫だ。お前なら……」
うん。それは、覚えていたい。
あなたに何を言ったのか。どんな顔で言ったのか。きっと私は、いつものように偉そうに。そうでしょう? あなたの生き方に口を出して、勝手なことを言って。
思い出せ、私。何で、こんな。
「お母さん」
こんなに大きくなっても、りっちゃんって呼んでいいのかしら。さっきまで、あんなに普通に呼べていたのに。
「お母さんは、僕たちのお母さんであることは間違いないよ。だから、不安にならないで」
白野ちゃんも、その隣にいる。
私の子供たち。
ええ、そうよ。二人の顔を見た時、嬉しかった。大きくなったんだなあって。それは今も覚えてる。ついさっきのことなんだから、忘れたりしない。
「……うん」
頭が痛い。綺礼さんをつかんだ手を離せない。
カフェで声をかけられて、知り合って。
だったら私は、いつ、この人に生き方を教えたの?
◇◇
まずい。
真樹さんの様子も気になる。師匠のあんな顔も初めて見た。頭の上から、またあの音だ。
見上げると、夜空の亀裂は七つ。さっきより広い。
真樹さんをあの状態のまま戦わせるなんて無理だ。少し時間を取って、落ち着いて話を――。
「私たちの干渉も、どうやら世界は許せないみたいです。こうなったら、実戦の中でお母さんのビーストへの道を模索しましょう」
白野、お前。
「実戦……? まさか……」
足音。
誰だ。
目を凝らす前から、背筋に力が入る。息を吸いたいのに、深く吸えない。気づいていなかった。俺、こんなに肩を固めていたのか。
何を持っている。どっちから来る。
見えた。着物。腰に、刀。
「グランドサーヴァント……!」
これが。
なのに、もう目の前かよ。
着物の色も、草履で下りてくる足取りも、はっきり見える。
こっちへ向ける顔には、気負いすら感じられなかった。
こっちは、指先を動かすのにも気を使っているのに。
「新免武蔵守藤原玄信――!! ……あっ!?」
「ごめん、やり直し!」
そんな、待ち合わせの挨拶を間違えたみたいに言われても。
駄目だ。つられるな。
「サーヴァント・グランドセイバー、新免武蔵、ここに推参!」
聞き間違いじゃない。宮本武蔵? あの二刀の?
いや、女だろうと何だろうと、そこに引っかかっている場合じゃない。
こっちはまだ、真樹さんをどうするのかも決まってないんだぞ。
間合いを測れ。
ここから相手まで、何歩だ。抜かれてからじゃ遅い。いつでも動けるように、足を――。
「さて。被告のお姉さん、弁護人の準備は十分かしら?」
真樹さんへの問いかけ。
そっちを振り返る余裕はなかった。
親指。鍔に触れている。
まずい。
まだ鯉口を切ったところだ。刀身すら見えていない。分かっているのに、喉を守りたくなる。
この距離を、安全だと思うな。
準備ができているかって? できているわけ、ないだろ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は真樹の記憶に異変が生じ、ついにグランドセイバー・宮本武蔵が登場しました。
かつて共感の獣となった真樹が、再びその力を取り戻せるのか。
そして、冠位英霊との戦いがどうなるのか、今後も見届けていただければ嬉しいです。