冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~   作:斉宮 柴野

86 / 86
今回は、真樹が自身の過去に違和感を覚え始める回です。

そして、ついに冠位英霊が登場します。

シリアスとギャグが入り混じる、いつもの冬木をお楽しみください。


記憶の綻びと、冠位の剣豪

私の名前は言峰真樹。二十九歳。夫と三人の子供がおります。

 

現在、間桐のお家の跡地にて、未来からやってきた我が子たちと感動の再会中。お母さん、立派になった二人を見られて嬉しいわ。嬉しいんですけどね?

 

その母親に「獣に戻れ」とは、どういう教育を受けてきたのよ!

 

未来の私、ちょっと出てきなさい。あなたの子供たち、久しぶりに会った母親への要求がおかしいわよ。いえ、今の私の子供でもあるんですけど!

 

そもそも獣って、どうなればいいわけ?

 

綺礼さんに夜這いでもかける? 私から上にのしかかって、今日は寝かせませんよと迫ればいいのかしら。ううむ、それなら経験が――。

 

「マキよ……何を考えているか大体想像がつくが、それは断じて違うぞ」

 

御指摘をいただいてしまった。

 

「む……私の思考を読むとは、流石は王様ね」

 

「貴様は昔から……む?」

 

何よ、その途中で止まるの。続きが気になるでしょうが。

 

呆れ顔だったのに、今は笑ってもいない。私の顔、その下、また顔へ。何かついてる? この状況だから、泥も煤もついてるでしょうけど。

 

「王様。気づかれましたか?」

 

白野ちゃんまで、何なの。

 

「いや……まさか……。我が……?」

 

「そういうことです」

 

いや、どういうことです!?駄目だ、説明してくれそうな顔じゃない!

 

「ちょっと! 二人で分かり合ってないで、私にも説明しなさいよ! 何があるの!?」

 

「何でもない。そなたは自分のやるべきことを考えよ」

 

「え? まあ……考えてはいるけどさ」

 

考えた結果を今、断じて違うと否定されたところなのよ。

できれば正解の方も教えていただけませんかねえ。

 

「要するに、真樹さんは何をすればいいんだ? ビーストになることの是非は置いといても、方法が分からなきゃ始まらないだろ」

 

そう、それ! 士郎君、よくぞ聞いてくれました!

 

「えいやあ、でなれるものでもないんでしょう?」

 

イリヤちゃん。それで済むなら、お母さん、とっくに叫んでるわ。えいやあでも、とりゃあでも、お望みとあらば腹の底から声を出しますとも。

 

「マキは前回、私たちを『格付けチェック』なるものに巻き込んでいました。魂のあり方を観測し、操り、私たちを全人類の縮図とすることで、儀式を完成させたのです」

 

……え?

 

アルトリアさん。今、それ、私の話をしてるのよね?

 

格付けチェック。うん、言葉は分かる。そんなことをやったような気もする。けど、魂を観測して、操って? 全人類?

 

ちょっと待って。私、何をしたんだっけ。

 

綺礼さんに抱きついたことは覚えてる。あの時、下半身がすっぽんぽんで。いや、そこは今あんまり詳しく思い出したくないけど!

 

その前よ。その前に、私は――。

 

「……私、そんなことやってたっけ?」

 

「なるほど。儀式としては即席でしょうが、成立はします……ね」

 

モルガンにまで納得されてしまった。専門家のお墨つき。では実施した本人から一言。

 

まったくついていけておりません!

 

でも、そうか。一度できたことなら、もう一度同じことをすれば。

 

「分かった! 格付けチェックをもう一回やればいいのね!」

 

「もちろん、もう一回やればいいってことじゃないけどね」

 

りっちゃん、母の名案をもうちょっと大事に扱って!

 

「……違うのかあ」

 

駄目だ。さっきから思いつくたびに却下されている。そりゃ私だって、その、儀式? に詳しいわけじゃないけど。前にやったというなら、少しくらい思い出せてもよくない?

 

「では、あの時のように『役を被る』というのは? マキ様はプリテンダーとしての適性を持っておられる。ビーストを演じたうえで、グランドも騙す……そういう筋書きなら」

 

ランスロットさんまで期待を込めた目で見てくる。

 

困るって。そんな大役を振られても。

 

「何を言ってるの? 私、役者じゃないのよ?」

 

……ん?

 

口に出してから、引っかかる。

 

役者じゃない?

 

「いや、舞台女優は今でもやってるけど。家事の合間の趣味みたいなものだし、そんな……」

 

そんな、何?

 

続きが出てこない。

 

私、今、自分で何て言った?

 

痛い。指を当てると、押さえたところから奥へ響く。ちょっと待って、頭痛まで追加しないでよ。考えなきゃいけないこと、もう十分あるんだから。

 

知ってる。知らない言葉じゃない。ランスロットさんにそんなふうに頼られたことも、あったはずで。

 

その時、私は何と答えた?

 

ああ、もう。肝心なところで出てこない。台詞を忘れた時なら、相手の台詞を聞いて――。

 

違う。舞台の上じゃない。

 

私はここにいる。綺礼さんの妻で、カレンの母で、白野と立香の母で。そうよ、そこは間違えようがないでしょう。

 

綺礼さんと結婚して、子供が生まれて、その前には。

 

「……綺礼さんと会ったのは、駅前の、あのカフェで」

 

そう。あのお店。

 

「あの人から声をかけてきて……」

 

言える。こっちはちゃんと言える。

 

なのに、何でこんなに気持ちが悪いの。

 

「……ナンパ?」

 

綺礼さんから?

 

振り向こうとして、肩をつかまれる。そのまま胸へ引き寄せられて、顔を見る間もない。ちょっと、強い。いつものふざけ方じゃないでしょう、これ。

 

「どういうことだ……? 真樹……」

 

綺礼さんこそ、どうしたの。私を抱きしめるのに、そんな力を入れなくてもいいのに。

顔を上げる。怒ってる?

 

違う。こんな顔、私。

 

「綺礼さん……?」

 

ちゃんと触れる。そばにいる。私の名前も呼んでくれる。

 

「そうよね。綺礼さんは私の夫で……正義の味方で……」

 

「お前は私に、正義の味方を張り通すこと、生きる意地を教えてくれた。大丈夫だ。お前なら……」

 

うん。それは、覚えていたい。

 

あなたに何を言ったのか。どんな顔で言ったのか。きっと私は、いつものように偉そうに。そうでしょう? あなたの生き方に口を出して、勝手なことを言って。

 

思い出せ、私。何で、こんな。

 

「お母さん」

 

こんなに大きくなっても、りっちゃんって呼んでいいのかしら。さっきまで、あんなに普通に呼べていたのに。

 

「お母さんは、僕たちのお母さんであることは間違いないよ。だから、不安にならないで」

 

白野ちゃんも、その隣にいる。

 

私の子供たち。

 

ええ、そうよ。二人の顔を見た時、嬉しかった。大きくなったんだなあって。それは今も覚えてる。ついさっきのことなんだから、忘れたりしない。

 

「……うん」

 

頭が痛い。綺礼さんをつかんだ手を離せない。

 

カフェで声をかけられて、知り合って。

 

だったら私は、いつ、この人に生き方を教えたの?

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

まずい。

 

真樹さんの様子も気になる。師匠のあんな顔も初めて見た。頭の上から、またあの音だ。

 

見上げると、夜空の亀裂は七つ。さっきより広い。

 

真樹さんをあの状態のまま戦わせるなんて無理だ。少し時間を取って、落ち着いて話を――。

 

「私たちの干渉も、どうやら世界は許せないみたいです。こうなったら、実戦の中でお母さんのビーストへの道を模索しましょう」

 

白野、お前。

 

「実戦……? まさか……」

 

足音。

 

誰だ。

 

目を凝らす前から、背筋に力が入る。息を吸いたいのに、深く吸えない。気づいていなかった。俺、こんなに肩を固めていたのか。

 

何を持っている。どっちから来る。

 

見えた。着物。腰に、刀。

 

「グランドサーヴァント……!」

 

これが。

 

なのに、もう目の前かよ。

 

着物の色も、草履で下りてくる足取りも、はっきり見える。

こっちへ向ける顔には、気負いすら感じられなかった。

 

こっちは、指先を動かすのにも気を使っているのに。

 

「新免武蔵守藤原玄信――!! ……あっ!?」

 

「ごめん、やり直し!」

 

そんな、待ち合わせの挨拶を間違えたみたいに言われても。

 

駄目だ。つられるな。

 

「サーヴァント・グランドセイバー、新免武蔵、ここに推参!」

 

聞き間違いじゃない。宮本武蔵? あの二刀の?

 

いや、女だろうと何だろうと、そこに引っかかっている場合じゃない。

こっちはまだ、真樹さんをどうするのかも決まってないんだぞ。

 

間合いを測れ。

ここから相手まで、何歩だ。抜かれてからじゃ遅い。いつでも動けるように、足を――。

 

「さて。被告のお姉さん、弁護人の準備は十分かしら?」

 

真樹さんへの問いかけ。

 

そっちを振り返る余裕はなかった。

 

親指。鍔に触れている。

 

まずい。

まだ鯉口を切ったところだ。刀身すら見えていない。分かっているのに、喉を守りたくなる。

 

この距離を、安全だと思うな。

 

準備ができているかって? できているわけ、ないだろ。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回は真樹の記憶に異変が生じ、ついにグランドセイバー・宮本武蔵が登場しました。

かつて共感の獣となった真樹が、再びその力を取り戻せるのか。

そして、冠位英霊との戦いがどうなるのか、今後も見届けていただければ嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜(作者:だいたい大丈夫)(原作:るろうに剣心)

かつて京都を震撼させた「人斬り抜刀斎」と並び称された、新選組一番隊組長・沖田総司。▼労咳の運命を越え、彼女が手にしたのは平穏な明治の世と、亡き夫が残した一人息子・弥彦だった。▼しかし、その剣はまだ、錆びついてはいない。▼「たまには人を斬っておかないと、腕が鈍るでしょう?」▼昼は息子の教育に頭を悩ませる士族の未亡人。夜は月夜に紛れ、暗殺者として死体の山を築く。…


総合評価:3235/評価:6.83/連載:101話/更新日時:2026年10月11日(日) 00:04 小説情報

テスカになって冥界で魂を導く話(作者:ナイ神父)(原作:Fate/)

▼此処はミクトランパ、なんの因果か死後に冥府の神に成った男は今日も冥府にて死者と語らい魂を導く▼だがここに来る戦士は皆違う世界の存在で…?▼・作者が思いついた死んでほしくかったり諸々様々な作品の人を冥界でテスカトリポカ成り代わり主が導く話です▼・その都合上多重クロスオーバータグを付けていますが各々のシリーズではテスカトリポカ以外は他作品と繋がることはありませ…


総合評価:5914/評価:8.56/連載:7話/更新日時:2026年05月23日(土) 23:10 小説情報

紙芝居をしただけなのに(作者:何処にでもある)(原作:Fate/)

 昔々、蛮族の集団で悠々自適に過ごす為の芸が巡り巡って無辜の怪物になった男がおったそうな。▼ その者腕っこきはからっきし、童話を紙芝居で読むのだけは上手く、ペラ回し一本で英霊に立ち向かわざる得なくなって途方に暮れたそうな。▼ この者の本名を亀男、英霊としての名前をカルメン。▼ 無辜の怪物で周囲から理想のタイプの女に見える、しがない一般サーヴァントである。


総合評価:6070/評価:7.85/完結:27話/更新日時:2026年07月01日(水) 23:00 小説情報

Re:TS白黒ストライプバニー老害によるナツキ・スバルの悲喜劇観賞会(作者:F・M・T (フランチェスカ、マジ年増))(原作:Re:ゼロから始める異世界生活)

「アハハハハッ!始まり、始まりぃー♪パンフレット買った?ポップコーン持った?早くしないと世紀の戦いを見逃しちゃうよ?」▼ Fakeのあのキャラに転生したオリ主が、スバル君の奮闘を眺めてケラケラ笑いながら観賞をする話。▼「……あれれー?もしかして、このスバル君。放っておいたら正史から簡単に外れちゃうぅ?」


総合評価:7882/評価:8.84/連載:10話/更新日時:2026年10月03日(土) 23:59 小説情報

姉様、姉様、ごめんなさい(作者:イエスアマゾネス)(原作:Fate/)

死亡フラグ100%の種族にTS転生


総合評価:3389/評価:8.47/連載:5話/更新日時:2026年06月02日(火) 03:02 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>