スタンド使い、吉良吉影は討たれた。
調査中の偶然の邂逅であった。
重ちー、矢安宮重清の殺害の証拠品を辿っていた承太郎が襲撃されたのだが、機転を利かせた承太郎がそれを反撃したのだ。
康一は去っていくキャタピラ付き爆弾スタンドを見て喜声をあげた。
「す、凄いですよ承太郎さん!一体何をやったんですか!?」
「別段特別なことはしていない。奴のスタンドは遠隔自動操縦のようだからな。真実を書き換えて『使用者自身を狙う呪いのスタンド』に変えさせてもらった」
こともなげに言うそれは、まさに反則としか呼べない御技であった。
スタープラチナ・オーバーヘブンが全能のスタンドと言われる所以だ。
敵スタンドのスタンド能力そのものに干渉し、その力を捻じ曲げる。
真実とはかくも恐ろしい、敵でなくて良かったと思わせるスタンドである。
少し距離をとってキャタピラ付き爆弾スタンドを追っていけば、角の向こうで派手な爆発音が聞こえた。
どうやら自身のスタンドに不意打ちを喰らい、片腕を丸々失った吉良吉影がうずくまって呻いているようだ。
触れさえすればあらゆる事が可能なスタンドと、そのスタンドを使いこなす歴戦のスタンド使い。
そこに負けは存在し得ない。
承太郎は少しだけ気だるそうに己の汗を拭って言った。
「ぶっ飛んだ奴だった。あれほどの硬度のスタンドとはな。
スタンド自体の真実の書き換えはやはり身体に負荷がかかる」
「えっ、大丈夫ですか!?」
「問題ない。一晩寝れば回復するだろう。康一君は無事か?」
「はい、僕は特に何もなく…承太郎さんにばかり任せてしまってすみません」
「気にするな。まだ君はスタンドを発現して日が浅い。慣れる事が大切だ」
康一の連絡を受け、増援として到着した仗助と億泰が、倒れ伏す吉良吉影の姿を確認して慄いている。
承太郎が帽子を被り直して前へと出る。
「こいつが重ちーを殺った奴、なのか…?」
「スタンドは封じた。もう心配はいらないだろう」
ぐぐぐ、と血まみれの吉良吉影が体を起こして虚言を口にする。
「な、なんのことだ…私はただ道を歩いていただけで…何を話しているのさっぱりだ…」
「お前のスタンドはお前自身だけを追い、爆破する。そのように真実を書き換えた。何を言おうとも無駄だ」
「………」
「とりあえずとっ捕まえるぜ!」と億泰が拘束のために近づいていく。
吉良吉影のその目に憎しみが消えていないことを理解して、承太郎が静止の声を上げた。
「待てっ億泰君!!」
「もう遅い!キラークイーン!」
瞬間、猫の如き特徴的な人形スタンドが立ち上がる。
吉良吉影は二つのスタンドを持っているのか、それとも何かの能力なのか。
あっと声を上げた康一の行動は全くもって遅かった、
キラークイーンとやらに触れられた億泰が、次の瞬間爆発して吹っ飛ぶ。
激しい爆風。
あらゆる破片が食い込んで、康一は思わず痛みに目を瞑った。
もちろん目前にいた吉良吉影とて無事ではない。
爆風に吹っ飛んで縁石にぶつかり、呻きながら愉悦に口端を吊り上げた。
「ははは…私を前に舐め腐った対応をするからそうなる…ッ」
もはや煙のみで肉片一つ無い。
完全になくなってしまっては、いくらクレイジー・ダイヤモンドでも戻せない。
「億泰ッッッ!!!」と仗助の叫びが心を引き裂く。
康一も思わず叫びが漏れ出しそうになり。
その、瞬間である。
にゅっ、とタコが触手を伸ばして煙に触れた。
静かな声がなんてことのない様に街角にこだまする。
「イエロー・トライアンフ」
煙でしかなかったそれは、瞬く間に肉を伴って復元する。
あるいは承太郎の言によれば「再生」だろうか。
瞬きの後、丸裸の億泰が放り出された。
億泰は疑問符を撒き散らしながら己の全身を確認し、その無傷に目を白黒させている。
「な、なんだぁ!?さっきあの爆弾ヤローが俺に触れたと思ったら…」
「億泰!お前さっき、」
動揺する仗助が視線をうろうろと左右に振る。
承太郎が目を見開いて、息を呑んで絶句していた。
視線の先には、頭に変なスピーカーを生やしたタコが偉そうに踏ん反り返っている。
タコは空間から太く長大な触手を幾重にも生やし、承太郎の前までくる。
「うーむ、危機的状況だったみたいだからひとまず回復させたけど合ってる?」
「………。テメー、時間感覚どうなってやがる。ゲーム十年もブッチされて花京院が怒り心頭だぜ」
「うっそまだ三ヶ月も経ってないはずなのに。というか承太郎君イケメンになったね。モテそう」
「もう娘もいる」
「まじか見せて見せて見せて!!!」
まったりした空気だが、どこか敵を前に警戒を崩さない。
軽口を叩く様は、戦い慣れた熟練の戦士の雰囲気にも似ていた。
タコがヒョイっと承太郎の帽子の定位置に乗って笑う。
「承太郎君、合体技は必要か?」
「まさか。この程度の小物にテメーが出る幕もねぇよ」
少しだけ、承太郎の口調が荒っぽい。
それは仲間内にだけみせる承太郎の稚気なのかもしれない、と康一は思った。
腕を押さえて立ち上がる吉良吉影は、ふらふらおぼつかない足取りだ。
触手に阻まれ、逃げ場がないのを理解して舌打ちする。
無言で吉良吉影は触手に拾った硬貨を弾いて当てようとする。
硬貨は触手に当たり、派手に爆ぜて……瞬時に再生した。
余計に焦り、吉良吉影が呻いてよろける。
「くっ…再生するスタンドだと…!?僕と同じ部位ごとの能力か、それともその間抜けなタコがスタンド使いだとでも言うつもりか!」
「タコって言うな!イカって言え!くっそもう怒った。やっちゃえ承太郎!」
「やれやれだぜ。これならハイタの方が利口だったな」
「えっ何その名前ミニタコ君の?奇遇じゃん俺の母星の羊飼いも…」
「ハスターとイカだ」
「雑!!!あまりに雑!!!」
わいわいがやがややっているけれど、その足並みは阿吽の呼吸そのものだ。
さりげなく包囲が狭められ、承太郎が前に出る。
手で大事なところを隠した億泰が「これはマジィぜ!いや、俺にも恥ズカシイってって感情ぐらいあるんだぜ!?」と吠えている。
仗助は己の上着を着せて、「今いいとこだから!黙ってろ!」と億泰の口を塞いだ。
億泰は制服の上だけを着たマッパの男になった。
武士の情けで、康一はルーズリーフの余りを億泰に渡す。
大事なところを隠すためだったが、億泰は顔を隠すのに使ったようだ。
それもまた正解ではあるが、急所の方を隠して欲しかった気がしないでもない。
高校生の乱痴気騒ぎはともかく。
承太郎の背後から、スタープラチナ・オーバーヘブンが立ち上がる。
その雄々しさはいつもの通りだが、金の装身具が揺れてどこか浮世離れした美しさを纏っていた。
承太郎がジロリとタコを睨みつけた。
「おい。さっきいらねーと言ったはずだが」
「俺にも活躍シーンが欲しい。そんな強欲です」
「テメェは出てきて早々何言ってやがる」
「あと承太郎君がお疲れに見えたのでちょっとだけ肩代わり。ちょっとだけね」
タコについた拡声器は「承太郎君が『白金の化身(スタープラチナ・トライアンフ)』と付けてくれたおかげでね。逆算して俺の化身になったわけさ」と可愛らしくウィンクする。
承太郎は「……やれやれだぜ」と再び大きく嘆息した。
そして吉良吉影と相対して、真っ直ぐに見る。
吉良吉影に逃げ場はもう残っていなかった。
敵は勝利を確信し、呑気にくっちゃべっている。
吉良はピクピクとこめかみを引き攣らせ、その勢いのままに「キラークイーン!」と叫んだ。
その前に立つのは立ち上るような黄金の気配を漂わせる、スタープラチナのすがたである。
そこに勝ち目がないことは誰しもがわかった。
薄く承太郎が笑う。
そしてその日。
凶悪なスタンド使い、吉良吉影は己がスタンドを「剥奪」されて、事件は幕を閉じたのであった。
・「羊飼いのハイタ」
ハスターのことを描いた原作小説。
別にミニタコ君のネーミングとは全然関係ない。
単にハスター+イカである。