CODE VEIN Ⅱ 世界を『楽しむ』旅路 作:ミヤビコウ
注意!
この物語は多大なネタバレを含みます。
念頭に置いて楽しんでいただたなら幸いです
「おはようございます。ユキ」
「……んぅ?ルゥ?なんで私の上にのってんの?」
「貴方とキスがしやすいからです。んっ…」
「んんっ!?」
水没都市へ向かう輸送船の一室で、朝一番でルゥからのキスで、ユキの寝ぼけていた頭が一気に覚醒する。
輸送船に乗り込んでからルゥはずっとこの調子。隙あらばユキとキスをするようになったのだ。
あのおとなしい性格のルゥが、ここまで情熱的になるとは誰がというかユキにも思いもよらなかった。ゼノン。本当に何をしたんだよ。あの頃のルゥを返せ。今の積極的なルゥも大好きだけど。
「起きましたか?」
「これだけ幸せな起こされ方されれば一発で目が覚めるって。一先ずどいて。顔とか洗うから」
「……分かりました」
「ちょっと待って。さっきの間って何?」
「キスしにくいな、と」
「ルゥがキス魔に変異しちゃったよ~」
「もう我慢しません。覚悟してくださいね?」
「……なんだろう。愛が重いと感じる私はおかしいのかな?」
「……ふふっ」
「だからその笑い方怖いって!!」
数時間後、輸送船は予定通りに水没都市の港に到着。船内の点検作業や、監獄島に積荷を降ろした空のコンテナの積み下ろし作業が始まる。やることは監獄島での作業と同じで、人が降りるのは一番最後。その時まで船室で待機することになる。ということは、ルゥがユキにキスし放題の時間だということだ。
「はぁ…ユキ、もう一度いいですか?」
「私が『嫌だ』って言ってもキスしてるじゃんか。逃げられないように抱きしめてるし」
「こうしないと貴方に逃げられてしまいますので」
「いや逃げないからね?私からキスしてやる。受け身なのも何か癪に障るし」
「……」
「キス顔で待機しちゃってるよ私の恋人!」
「キスしてくれないのですか?」
「泣きそうな顔で言わないで。罪悪感に苛まれるから。んっ…」
この旅が始まったときに感じていたルゥの『重荷』が、空気のように軽くなったのだろうとユキは思う。
何となくではあるが、ルゥが何かに悩んでいたことは知っていた。
きっと、旅先で出会った仲間たちが、その重荷を軽くしていったのだろう。本当に感謝カンゲキ雨嵐だ。誤算だったのは、このようにキス魔に変異したことぐらいだが。
でも、以前に比べて格段に笑顔が増えた。恋人として、パートナーとして嬉しい限りだ。
『ゼノン様のご友人。下船の準備が整いました』
「はぁ…だって」
「手は繋いでいて下さい」
「了解しましたお嬢様」
うやうやしくユキはお辞儀をすると、優しくルゥの手を取って恋人繋ぎをしてルゥの荷物を持ってそのまま船室から出て、廊下を歩いて二人仲良く下船する。
外は快晴。潮風も心地よく気持ちがいい。
あとはマグメルへと戻るだけだが、どうせなら遠回りで戻りたい。一先ず地図を広げて道順をルゥと相談しようと考えた時だった。
肌に突き刺さるような殺気を感じて、愛刀であるマサムネを顕現させてルゥを自らの背中に隠す。
久しぶりに背中に冷や汗が伝う。これほどの殺気を感じたのは『英雄たち』や『リンネの心殻』と対峙した時と同じ。それほどの敵がこんな場所に出現するなんて―――!
「ユキどうした?いきなり獲物を顕現するとは随分と物騒だな」
「そうですよ。お帰りなさいユキ義姉さん」
「あれ?ジョゼ!リーズ!どうしているの!?」
「私は統制局長官なんだぞ?ここには視察で来たんだ」
「てことはリーズも?」
「はい。姉さんと同じです。そして……」
リーズの視線がゆっくりとルゥに向けられる。というか睨みつけている。それも、今にも爆発しそうな怒りを心に貯め込んでいるような綺麗な笑顔のおまけ付きで。
ここでやっとユキが感じた殺気の出どころを理解した。
「実は私、ルゥさんと今後のことで『お話』がしたかったんです」
「え、えーと、リーズ?どうしたのかな~?」
「もちろんです。私もリーズさんと『お話』したいところでしたので」
「あ、あれ?ルゥ?」
「ユキ、怪我をしたくなければこっちに来い」
ちょいちょいとジョゼがユキを小さく手招きしてルゥとリーズから距離を離させる。普通ならばユキが離れれば瞬時に分かるはずのルゥが、ニコニコしながらリーズと睨み合うもとい笑い合う視線の間で、バチバチと激しく火花が散っているように見えるには気のせいではないだろう。
「ジョゼ、リーズどうしたの?」
「まぁアレだ。『女の戦い』というヤツだ。お前は口出しするなよ?大火傷するからな」
「まぁそうだけどさ……」
「「ふふふふふ……」」
~ジョゼの拠点・ジョゼの部屋~
「そうか。ゼノンは相変わらずか」
「相変わらずじゃないゼノンだったら、世界が終わると思うよ」
「確かにそうだな」
笑顔交じりで話すユキとジョゼ。最後に会ったのは数週間前だというのに、ちょっと懐かしく思ってしまう。
あのままジョゼたちと一緒にバイクでここまで移動してきた。ユキはルゥを、ジョゼはリーズを後ろに乗せたのだが、ルゥとリーズは視線が絡むたびに火花が散っていた。恐ろしい気まずさを抱えながら走行するユキとジョゼの心労は計り知れなかっただろう。
拠点のみんなに一通り挨拶を済ませると、そのままジョゼの部屋というか姉妹の部屋に移動してリラックスしたかったのだが……
「「ふふふふふ……」」
ルゥとリーズが火花を散らしながら笑い合って睨み合っている状況は絶賛継続中なのだ。この状況下でどういった話題をルゥとリーズに振ればいいのか、ユキとジョゼは悩むのだが、そこには触れないで話を進める。
「積もる話は色々とあるが、それは置いておこう。実はこの辺境域において重要な問題が発見されたんだ」
「問題って?」
「『時空の狭間』は知っているな?」
「それはもちろん。百年前にヴァレンティンと閉じてたから」
時間遡行は本来危険極まりない力。だからこそルゥもその術式を封印してもらった。
時間遡行の影響は時空間に多大な影響を及ぼす。その一つが平行世界を生み出してしまうということで、この平行世界が増えすぎると、『今』の時間軸というか世界そのものが消滅してしまう危険性がある。
そこで、その平行世界が今の世界に影響が及ばぬように、時空間ごと閉じる必要がある。その場所は『時空の狭間』と呼ばれており、特殊な門から入って時空の狭間にいるイドリスの眷属を倒す必要がある。
「てことは、時空の狭間に繋がる門が見つかったと。でもどこで?」
「マグメル島で発見された。洞窟の発掘調査中に見つけたとヴァレンティンから報告を受けた」
「まだあったんだ」
「ああ。ノアとヴァレンティンが門を閉じようと入ったそうだが、異様な気配を感じて戻ったそうだ。これはマズイとな。そういう理由もあって、ヴァレンティンから協力要請が来たんだ『どうか力を貸してほしい』と」
「『最高戦力』で挑みたいってこと?」
「ああ。私たちが港にいた理由も、本当はこのことをユキたちに伝えるためだった。もちろん無理強いはしない。我々に任せてもらっても」
「ジョゼ。それ以上は野暮ってやつだよ」
実際、ヴァレンティンだって時空の狭間が発見されたが解決したという事後報告で済ませたかったが、『もしも』を考えてしまうと、ユキとルゥに助力を頼むしかないと、申し訳なさそうにジョゼとリーズに言っていた。
だが、あのユキがそのような事後報告を果たして『よし』とするだろうか?答えは決まっている。『否』だ。
「最高戦力ってことは、クレイグにライル、ホリー先生、ゼノン…にはさっき会ったばかりだからなぁ。それにジョゼとリーズ、ノアにヴァレンティン。イリスも参加?」
「ああ。しかもラヴィニアとヤドヴィガもだ」
「ヤドヴィガさんまで!?珍しいな~」
「……すまない。こんな形で二人の旅を切り上げることになってしまって」
「そこは『ありがとう』って言ってよ我が許婚どの?サクッと閉めてみんなで宴会しよう!ジョゼのカレーが楽しみだよ~!!」
最初に出会ってからユキはいつもそうだ。
手を伸ばす『エゴ』を貫き続けた、素直でお人好しの人たらし。
だから愛してしまったのだ。生涯でただ一人の。
「よし!では早速マグメルに行くか!」
「バイクで?」
「ヤドリギでだ。移動に関しては問題ないからな」
「ジョゼ・アンジュー、招集に応じて参上した」
「同じく、リーズ・アンジュー、招集に応じて参上致しました」
「それと土産も連れて来た」
「たっだいまー!!ユキが帰ってきたよー!!」
「ルゥ・マグメル、只今帰還致しました」
「お、帰ってきやがったな」
「ノア!元気だった?」
「まぁな。無事に帰ってこられて何よりだ。話はジョゼから聞いているな?」
「もちろん。でもちょっと待ってて。荷物置いてくるから」
「お帰りルゥ」
「ただいま戻りましたイリスさん」
「それでさ、ユキと『いい仲』になれた?」
「な、何のことでしょうかイリスさん……?」
「はぁ……あんたさ、分かりやすかったわよ」
「そ、そうだったのですか///!?」
「それで恋人になったんでしょ?おめでと」
「あ、ありがとうございます……///」
「これで賭けは私の勝ちだなイリス。払うものは払ってもらう」
「はいはい。ちゃんと払うから」
「賭け?」
「お前がマグメルに戻るまでにくっついたら私の勝ち、そうでなかったらイリスの勝ち。稼がせてもらったぞ」
「お二人とも!」
「ルゥ」
「ラヴィニア、様」
「…貴方の迷いは、晴れたようですね」
「……はい。私も荷物を置いてきてもよろしいでしょうか?」
「…ええ。お行きなさい」
スタスタとユキを追いかけるルゥを見るラヴィニア。
以前の彼女なら、ラヴィニアを優先するように行動していた。
だが今はどうだろう。明らかに『自分』を優先した行動を取った。
かつて、リンネの封印の器としてでしか見ていなかったが、今は彼女の成長を見守りたいと思っている。
この思想の変化こそが、世界を根底から救うことのできた影響そのものなのだろう。誰もが明日を考えることができる。
「ラヴィニア」
「ジョゼ。此度の招集に応じて下さり感謝致します」
「気にするな。それに統制局長官としても看過出来ない。あいつらが守ってくれた百年を無駄にするような芽は摘み取らなければな」
「ええ…我々はその大恩に報いなければなりません」
「ああ。そうだな」
「よぉ!久しぶりだなユキ!」
「お久しぶりです団長!」
「いつも通りで構わないぜ、ユキ」
「そうだよね~!そうこなくっちゃ!」
「久しぶりだな副長。元気にしていたか」
「なにかと暴走する上官に手を焼く毎日です。ライルさん」
「しっかりと手綱を握っているようで何よりだ」
スッと突き出されたライルの拳に、ルゥも拳を突き合わせる。かつてのルゥならば戸惑う場面だろうが、ごく自然に拳を合わせる姿にノアとイリスは驚く。
「変わりすぎてない?」
「いいんじゃないか?ユキみたいでよ」
「だね。あ、ホリーだ」
「ユキちゃん!ルゥちゃん!元気そうで良かったわ!」
「もちろん!元気元気!」
「この調子なら、二人ともリハビリブースターを外して大丈夫ね」
「ホリーさん、リコリスさんとは……」
「ちゃんと休めってお父さんと一緒に られちゃったわ」
「リコリスさんらしいですね」
「ええ。またお話しましょうね」
「我が友人たちよ!ゼノン・グリフゴート、ここに参上したのである!!」
「最近会ったから久しぶり感ないな~元気だった?」
「もちろんだ我が友人よ。そして、我が友人の伴侶も壮健そうで何よりだ」
「はい。キスの天ぷら、楽しみにしていますよ」
「うむ。期待してくれたまえ。そしてヤドヴィガよ!元気にしていたかね!?お父さんは心配でしかたがなかったぞ!」
「気色悪いからやめろ」
「注文の品はもう少し待ってもらいたい。その代わりとして、これを作ったのだ。受け取ってくれないかな?」
「なんだ?……熊の人形?」
「フェルト生地を針で突き刺しながら形を整える手法で作ってみたのだ!」
「……バーカウンターの飾りにはなるか。受け取ってやるから感謝しろ」
「ルゥ、あれってツンデレかな?」
「かもしれません」
「お前たちだけ三割増し料金にしてやるから感謝しろ」
「「ごめんなさい」」
「みんな、今回の招集に応じてくれて感謝する」
「ヴァレンティン!」
「すまないね、ユキ。ルゥ」
「大丈夫だよ。充分楽しめたからさ」
「はい。それよりも解決すべき問題を片付けましょう」
「ありがとう。それでは改めて現在の状況を説明する。集まってくれないかな?」
「発見された門の場所は、かつて時間遡行でユキがノアと初めて出会った場所だ」
「え、そんなところにあったの?」
「俺達も驚いた。発見された経緯は知ってるな?」
「うん。ジョゼから聞いた」
「そこで分かったことが二つ。一つは『月』の影響が強い。ユキは常に『渇望の月』の状態に晒される」
「私は再生力使えないってことか。アンチ系の薬は……ダメだよね」
「試してみたがダメだった。そしてもう一つ。我々はユキに憑依出来ないということだ」
「つまり、対吸血鬼ハンターの空間だと?」
「むしろ対人間の空間だな。ヴァレンティンの言った月の影響は吸血鬼に然程影響はない。若干身体が重くなる程度だ」
マグメルの広場にて、全員が集まりヴァレンティンからの説明を聞く。ユキにしてみれば、なんだか懐かしい光景だ。百年前、リンネの再封印の前に集まったあの時のようだ。
「その若干の重さはどの程度のものなのだ?」
「人間一人が背中に乗っている感覚だ」
「術式はどうかしら。ユキちゃんが再生力を使えないのなら、治療術式での回復が必要になるでしょう?」
「術式は問題なく起動するが、いつもよりイコルを消費する」
「ということは、ルーンブレードも使い勝手が悪そうですね……」
「それについては問題ない。僕が証人だよリーズ」
「ふむ。ヴァレンティン君の話から現段階で考えうる対策としては、ラヴィニア君と我が娘に月の影響を限りなく軽減する術式を行使してもらうことであるな。ラヴィニア君、術式の構築は出来ているかね?」
「勿論です。ですが貴方にも術式を見てもらいましょう。改善点があるならば教えてください」
「勿論だとも!より完璧な術式にしようではないか!」
「ちゃんと働けよ」
「まかせたまえ!お父さんは頑張っちゃうぞ!」
「気色悪いからやめろ」
「あとはフォーメーションか。不測の事態に備えるならば、慣れた相手と組んだ方がいいだろう。俺とクレイグ、ジョゼとリーズ、ヴァレンティンとノア、ユキはルゥとがいいだろう」
「ちょい待ち。私は?」
「イリスはゼノンと組んでもらい、ホリーの護衛を頼みたい」
「分かった。ホリーは全員の生命線だしね。全力で守るよ」
「母上とヤドヴィガは、ここ、マグメルから術式援護をしてもらいます」
「不測の事態があった場合、指導者の役割を果たすためですね」
「はぁ。そのような面倒を背負いたくないから、無事に帰ってこい」
「よし。一先ずはこのまま進めよう。結構は明日。全員ここまでの移動で疲労を完全に抜くために、鋭気を養ってほしい。それでは解散としよう」
「ん~やっぱりここに座ると落ち着くな~」
「マグメルのピアノを聞くのは久々ですね」
「そうだね。バイオリンもいいけど、ここのピアノが弾きやすいかな」
―♪
―♪
―♪
「うん。調律もバッチリ。ルゥ、いつもの曲でいい?」
「はい。愛する貴方の奏でるあの曲がいいです」
「じゃ、ルゥに捧げるね」
~~~♪~♪~~♫~~♫~♬♬~~♪♪♪♪~~~~~
ユキがいつも奏でる曲。
優しくも魂の奥底を揺さぶるような旋律。
いつまでも聞きたくなる曲。長く聞いていると、あまりの心地良さに思わず眠くなってしまう。でも何故か眠くならずに魂が癒されていく。
まるで欠けた魂が元に戻るように。
忘れた何かを思い出すことができるかのように。
ゆっくりと、ゆっくりと、癒されるかのように。
迷惑だと思ったが、ルゥはユキの隣に座って体重を預ける。
ああ。やっぱりこの方に恋をして正解だった。
顔が赤い。
表情がとろける。
ユキのことを、独り占めしたくなる。
~~~♪
「ふぅ……」
演奏中の真面目は表情で、ユキからルゥに軽いキスをする。
とろけきった表情のまま、ルゥもユキにキスを返す。
好き。
好き。
好き。
ああ、本当に愛してやまない。
バーカウンターにて、ノア、イリス、ヴァレンティンが、ユキのピアノを聞きながら度数が弱めの酒を楽しむ。
「久しぶりにユキのピアノ聞いたな」
「だね。お酒の肴にピッタリだよ」
「イリス、嗜む程度に留めてほしい」
「分かってるってヴァレンティン。あ~お酒が美味しい!」
「ヴァレンティン。明日は必ず成功させるぞ」
「ああ。ユキとルゥに報いるためにもね」
「私も忘れないでよね。というわけで、乾杯」
「「乾杯」」
カチン。と、三つ分のグラスの音が重なった。
マグメルの食堂。ジョゼがキッチンを借りて、スライスした塊肉にスパイスを降ったステーキを焼く。付け合わせはホリーが好きな品種のキノコソテーだ。そっちはリーズが担当している。
「う~」
「リーズ、そろそろ機嫌を直したらどうだ?」
「姉さんいいの?このままだとユキ義姉さんが取られちゃう」
「折衷案を考えてあるから気にはならん。そろそろいいな」
バーから拝借したブランデーでフランベ。度数が高いから火柱が立ち上る。
焼き加減はミディアム。ジョゼもリーズも好きな焼き加減だ。
予め温めておいた鉄板にステーキとキノコソテーを盛り付けて、ジョゼ特製ステーキの完成だ。
「ごめんなさい。私までご相伴に預かってしまって」
「気にしないでくださいホリーさん。姉さんも私も料理好きですし」
「ああ。私の数少ない趣味なんだ。食べてくれ」
「ありがとう。いただくわ」
優雅にナイフとフォークを使って、キノコソテーにナイフを入れて食べる。
「美味しい!凄く美味しいわ!」
「良かったなリーズ」
ジョゼとリーズもホリーの前に座って、一緒になってステーキと、それに会うワインを楽しむ三人。おまけにBGMがユキのピアノ伴奏。最高の一言に尽きる。
「そういえば許婚の件、本当に大丈夫なの?」
「ああ。問題ない。ユキとルゥはくっついたが、私との関係は解消されていないだろ?それに、いっそのことリーズの許婚をルゥにしてしまえば、まとめて家族になる。リーズがユキのことを義姉と呼ぶことに何ら問題はないし、ユキとルゥの関係性を突っ込まれて聞かれても多少誤魔化せる」
「は、はあぁぁぁ!!?姉さん!!冗談にしてもひどすぎるわ!」
「でも、対面を考えるとその方がいいかもしれないわね。リーズちゃんにも縁談話が来ているのではないかしら?」
「副長官ともなると、すり寄ってくる連中が多いからな。虫除けとしてルゥを許婚とすれば万事解決なんだが……」
「理解しています。理解してるけど……」
「感情が追い付いていないのね。でもそれでいいじゃないかしら。」
「どういうことですか?」
「表面上は嫌かもしれないけれど、家族には変わりないでしょ?ユキちゃんは貴方のお義姉さん。それにユキちゃんが貴方を見捨てると思うかしら?」
「ない、と思います……」
「あとで聞いてみたらどうかしら?貴方はいつまでもお義姉さんでいてくれますかって」
「すまないホリー。本来ならば私の役目だったのに」
「私は医師よ。患者さんの心の診察も役目の一つ。明日は頑張りましょう」
「久しぶりの大仕事だな。腕が鳴るってもんだ」
「ああ。だがクレイグ、あまり無茶をするなよ」
「ここで無茶をしないでいつするんだよ。弟子と息子の前でいい格好させてくれ」
「息子か。その呼び方はまだ慣れないな」
「慣れるさ。黎明の旅団は全員家族だろ。今更だ」
「そうだな。勝ちを拾いに行こう、クレイグ」
「ああ。もちろんだ!」
「ふむ。これ以上ない素晴らしい術式だ。私が手を加える必要はない程に。だが、あえて言わせてもらうならば、この箇所をこのようにしてみてはどうかね?」
「それを織り込んで構築したのです。手を加えてしまうと全体のバランスが崩壊してしまうのです」
「ほほう。確かにラヴィニア君の言う通りだ。我が娘よ。全力で協力してほしい」
「はなからそうする。お前の作った絵皿を飾りたいのでな」
「お父さん、張り切ってしまうな!!」
「気色悪いからやめろ。ヘルメットにハートを出すな」
翌日。全員が時空の狭間へと移動し、各々準備に取り掛かる。
本来ならば、外で準備をするべきなのだろうが、月の影響、そしてラヴィニアによる術式の起動状況を確認するためでもある。
「ラヴィニア君の術式は問題なく起動しているようだ。我が娘によって効果も増幅されている。ラヴィニア君、我が娘よ。そちらに問題はないかね?」
『今のところはありません』
『通信も上手くいっているな。こちらからは以上だ父上』
「ヤドヴィガ!もう一度言ってくれないか!?」
「また後で呼んでもらえばいいじゃん」
「ユキ、お前の体調はどうなんだ?」
「見事に渇望の月状態だね。おまけにデッドリーヴェノムも。異常状態軽減ブースター付けても意味ないね。再生力は……うわ、本当に使えない。回復量増加も無駄だね」
「ユキちゃん、ルゥちゃん。リハビリブースターは消えていないの?」
「それが、この空間に入った途端に消えました。ユキはどうですか?」
「うん。私も消えてる。正真正銘完全復活?」
「ちょっと診せて……うん。確かに消えている。こんな状況でなければ、もっと嬉しいのだけれど、完全復活おめでとう」
「ありがとうホリー先生。それと薬が本当に効かないのか試してみよう。ほいっと」
ユキは腰のベルトに付けているポーチから簡易注射器を取り出して、腕に突き刺す。注射嫌いのはずなのに、こういった場面では気にしない。というか、気にしたら命取りだ。
「一応効いてるような?でも効くだけマシだね。体感として数秒は消える。その数秒で再生力使うしかないね。ありがとうラヴィニア様、ヤドヴィガさん」
『一助となったようで何よりです』
『さっさと帰ってこい。秘蔵のスナック菓子が待ってるぞ』
「スナック菓子!?やったー!!」
「ユキ、お前まだ食ってたのか!?身体に悪いって言っただろ!」
「いいじゃんノア!美味しいんだからさ!ノアは私のお母さんかなにかなの!?」
「お前みたいな娘を持った覚えはない!!」
ギャーギャーと言い争うユキとノア。こんな状況だというのに、いや、こんな状況だからこそ必要なのかもしれない。
「まったく。スナック菓子は夜中に食べるから美味しいんだよ!ねぇルゥ!」
「旅の途中で食べたスナック菓子、美味しかったですね」
「ほら~!」
「ルゥを巻き込むんじゃねぇよ!」
『やはり分かっているな。ジャンクヌードルがあればさらに完璧だ』
「ほら~!」
「ノア。ユキには勝てないよ。それに皆の緊張もほぐれたしね。皆、聞いてほしい」
ヴァレンティンがみんなを見渡して声を掛ける。やはり纏め役。それだけで場が締まる。
「時空の狭間の影響は、各々感じてもらった通りだ。全体的な指示は任されたが、各々が動きたいように動いた方がいいだろう。本来なら真面目な話をした方がいいが、ユキに倣うよ」
「え?私?」
「笑顔で帰って宴会をしよう」
「私っていつもこんな感じだった?」
「私と会ったときも同じだったぞ」ジョゼが笑う。
「本人が一番自覚がないな」ライルが笑う。
「そうね。でもユキちゃんらしいわ」ホリーが笑う。
「それでこそ我が友人である」ゼノンが笑う。
みんなが笑う。下手をすれば世界が危ないというこの場面でだ。
そして笑いながら各々の武器を顕現させる。
ルゥは『献身の棘』を。
ノアは『信念の爪牙』を。
イリスは『ペインキャリアー』を。
ジョゼは『暴食姫の大業物』を。
リーズは『暴食姫の双眸・改』を。
ライルは『不撓不屈の刃・雷』を。
クレイグは『黎明の鉄塊』を。
ホリーは『スノードロップ』を。
ゼノンは『太陽斧槍・是音』を。
ヴァレンティンは『貴き血の刃』を。
ユキは『呪刀・マサムネ』を。
「それじゃ、始めますかね~」