機動戦士ガンダムSEED / Re.00 -西暦の蒼き翼-   作:コエンマ

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お待たせしました

それでは、新章突入であります


第二章 序
序章Ⅱ  予感


 

 

 深夜零時三十分。地中海上空を音速に近い速さで飛行する民間旅客機のエンジン音は、穏やかな寝息を立てる乗客たちを抱くように包み込み、深い静寂を満たしていた。

 

 窓の外には重々しく垂れこめた雲の群れが成す分厚い雲海。雲間から時折見える先には黒みがかった海洋が広がり、機体はそのどちらも置き去りにするように両者の上を滑るように飛ぶ。乱気流の兆候もなく、室内正面上部に取り付けられた電子時計が穏やかに時を刻んでいた。

 

 空に浮かぶ月は頼りなく細められ、光量自体はごく僅かだ。そんな間もなく新月というべき地球の相棒から齎される光に溢れるような力強さなどあろうはずもなく、闇夜に沈む白き輪郭をうっすらとした銀色に縁取るにとどめている。

 

 減灯された薄暗いキャビンの中で、アザディスタン王国第一皇女、マリナ・イスマイールは自席のシートに深く背を預けていた。膝の上に置かれた薄型端末を目を落としながら、ひっそりと息を吐き出す。彼女の顔を照らすように淡く光る画面には各国の要人や関係機関を巡る外交スケジュール、そして虚しく終わったそれら協議の記録が並んでいた。

 

 未明にイギリス領を出たこの飛行機の目的地は会談予定地のカイロ。

 そこで現地を統括するAEU高官と会い、それが終わり次第すぐさまアフリカ地域を発って明後日にはアザディスタンに帰国する予定となっている。

 

 目まぐるしく変わる情勢の中ようやく取り付けることができた会合の場。だがその脳裏にはいままでの対外活動における重苦しい成果──いや、成果とすら呼べない厳しい現実が浮かんでいた。

 

 今回の外遊は彼女の初めての対外政策にして、重大な使命を帯びてのものだ。

 

 自国に太陽光発電システムの技術者を迎え入れるための、切実な支援要請の旅。化石燃料の輸出規制で国の産業に楔を穿たれたアザディスタンにとって、軌道エレベーターの齎す莫大な恩恵にあずかるための技術導入は、貧困に喘ぐ民を救うための、まさに国家の命運を左右する至上命題であった。

 

 しかし、残念ながらその情熱と苦労が実を結ぶには至っていない。各国へ太陽光発電の技術者を派遣してもらえるよう働きかけるべく飛び回ったものの、色よい返事をくれた国や勢力はまだ一つとしてなかった。

 

 自分の至らなさは勿論ある。

 しかし目下最大の要因は、世界に突如として現れた私設武装組織『ソレスタルビーイング』の存在であった。彼女が外遊による国家救済を推し進める最中、莫大な軍需産業が絡むモラリアでの紛争に対し、彼らが突如として武力介入を行ったのだ。

 

 しかも事態はそれだけに留まらなかった。

 

 介入行動の余波として発生した、ソレスタルビーイング排斥を掲げる『ラ・イデンラ』による世界規模の無差別テロ。大規模な武力干渉とそこから始まったテロ組織とのさらなる全面衝突──、戦禍は各国の予想を超えて大きくなり、モラリアという小国の枠組みなど遥かに超えて、世界を巻き込んだ大騒動に発展した。それら一連の出来事も彼女にとって不利に働いてしまう結果となる。

 

 未曽有の混乱により、その煽りを受けた各国は対応に追われた。マリナ自身も要人安全確保という建前のもと、AEUのイギリス領外交領事館内にほぼ缶詰状態に置かれることを余儀なくされた。

 

 政治交渉どころか、まともに建物の外に出ることすら叶わない。そんな状態で自分の裁量で出来ることなどたかが知れていた。

 

 テロ自体は数日前にようやく終息を迎えたものの、外遊先の諸外国はテロの事後処理や安全保障体制の再構築にてんやわんやだ。政治的・外交的な余裕もない。そんな状況下で中東の一国家に過ぎないアザディスタンの、それも若き第一皇女との実入りの少ない腹の探り合いに割く時間など残されているはずもなかった。

 

 外遊先では満足に会談の席すら設けられず、いくらマリナが窮状を訴えても満足な議論すら交わせぬまま門前払いに近い形で受け流される始末。

 

 当然のごとく、外交成果は皆無と言ってよかった。

 

 幸い、ソレスタルビーイングの矛先は、まだ此方には向いていない。

 

 しかし、彼らが世界に与えた衝撃の波紋は、めぐりめぐってアザディスタンの国内情勢を激しく揺さぶっていた。エネルギー政策の転換を巡り、伝統を守ろうとする保守派と、新たな政策を推し進めようとする改革派の溝は深まるばかり。対話の足がかりすら掴めぬまま、国民の不信感と焦燥感だけが加速している。

 

 それらは目に見えぬ形ではあれど確実に国を蝕んでいた。民たちの間に刻まれた断絶は日を追うごとに大きくなり、国がまとまる兆しは微塵も見えない。

 

「はぁ……」

 

 静かな客室の片隅で、マリナの唇から薄い溜息がこぼれ落ちた。

 

 あまりにも重要な使命を担って臨んだ、自身にとって初めての本格的な外遊。それが、ソレスタルビーイングによって完璧に段取りを乱され、何ひとつ得ることなく潰えてしまったのだ。一つの紛争が終結したとはいえ、それらを原因とする新たな紛争の火種すら引き込みかねず、予断を許す状態ではない。

 

 帰路に就く直前、自身の補佐官であり親友でもあるシーリン・バフティヤールからかけられた毒のある言葉が、耳の奥に余韻のごとく甦った。

 

『……全く、酷いものね。でも、覚悟しておいた方がいいわ姫様。成果ゼロで戻る以上、国内の改革派も保守派も黙っちゃいない。下手をすれば、これが姫様にとって最初で最後の外遊になるかもしれないわよ』

 

 呆れを含んだシーリンの厳しくも現実的な指摘。何一つ達成できていない自分には返す言葉もなかった。

 

(このままではいけないのに……)

 

 膝の上で、マリナは両手を固く握りしめた。

 

 一刻も早く太陽光発電システムの技術者を迎え入れ、軌道エレベーターから齎されるエネルギーを国民に還元しなければならない。でなければ、化石燃料への依存からはいつまで経とうと脱却できず、他国から外交的・経済的に締め付けられているアザディスタンはこのままではいずれ立ち行かなくなり、遠からず国そのものが崩壊してしまう。

 

 だが、どれほどマリナが奔走し力を尽くそうとも、現実は非情だった。

 

 今だ自らの立ち位置や権益を譲れずに対立を続ける国民。アザディスタンの弱みに付け込み、虎視眈々と利益拡大を狙う大国の政治家たち。荒れ果てた国土に入り込み、己の金のために意図的に対立を助長する傭兵たち。そして直接的ではないにせよ、結果として世界中の秩序を乱し、アザディスタンの首を絞めているソレスタルビーイングという存在。

 

 もはや、自分一人の努力や裁量でどうにかできる領域を、事態は遥かに超えてしまっているのではないか。理想を掲げる自分の手が、いかに無力で頼りないか突きつけられた心地だった。

 

(私にできることはあるの……?)

 

 答えの出ない問いが胸の中で渦巻き、感情の波に押し潰されそうになる。マリナは自らに襲い掛かる焦燥感から逃げるように、飛行機の円形窓へと顔を向けた。

 

 窓の外には、暗澹たる夜の闇と、三日月にぼんやりと照らされた雲の海がどこまでも広がっている。雲の頂がなだらかな起伏を描き、まるで凍りついた白い波のように静まり返っていた。その無限の静寂は美しいが、同時にあまりにも冷ややかで、自分の抱える孤独感をより一層際立たせるようだった。

 

 暗がりを背景にしたガラスに映り込んだ顔。久しぶりに見た自分自身は、今にも泣きそうなほどに疲れ果てていた。鏡のように反射する瞳の向こうから、先日邂逅した少年の声が反響する呪いのように自らの中に流れ込んでくる。

 

 

『話している間に人は死ぬ。クルジスを滅ぼしたのはアザディスタンだ』

 

 

 一方的に会談の中止を宣告され、ため息交じりに外交領事館に戻っていたその途中で出会った、同郷出身と思しきうら若き少年。少々困っていた彼を同じ故郷を持つ者であろうと思い助けたが、自分に向けられた言葉は凍てつくような厳しさと至上の覚悟に満ちていた。

 

 

『今でも、戦っている』

 

 

 彼は当初、カマル・マジリフと名乗り、出身をクルジスだと述べた。

 クルジス……アザディスタンの秩序を守るため、結果的に併合という道を辿った祖国のかつての隣国だ。二つの国は平和的道を模索しながらも、最後には武力によってクルジスは国の形を失った。

 

 掛けられる言葉はなかった。いかに言葉を尽くそうとも、彼の言い分は真実だったからだ。しかも、両国における戦いは6年も前に終結しているにもかかわらず、彼自身はいまだ戦い続けているという。その言葉は自分の心に大きなショックを齎すこととなった。

 

 が、自らの苦境はそれに留まらない。本当の衝撃はその後に続いた言葉だった。

 

 

 

『俺のコードネームは、刹那・F・セイエイ……ソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ』

 

 

 

 今だ謎に包まれたままの私設武装組織、ソレスタルビーイング。世界を混乱に陥れた狂信者の集団にして、脅威の機動兵器『ガンダム』を保有する世界の特異点。

 

 カマル……いや、刹那と名乗ったその少年はその恐るべき組織の構成員であり、あろうことかそのガンダムのパイロットだと告げたのだ。

 

 息が止まりそうな驚愕で震える中、彼は続けた。この先も紛争が続くのなら、いずれ祖国に……アザディスタンにも介入する、と。

 

 笑えない冗談だと思いたい。自らの祖国を奪った相手に対する性質の悪い嫌がらせなのだと。だが、鋭く細められたその瞳には一片の嘘も、自らを偽るような後ろめたい光も何も感じ取れはしなかった。

 

 もしも彼の言葉が真実だとしたら、祖国が行ったことが一人の少年の運命を大きく変え、そして今尚滅びの道を進み続ける国に刃を突きつける結果となってしまったことになる。仕方のないことだったなどと言えはしない。

 

 最善を選び取ったと信じていたことが地獄に繋がっていたなどという現実は、できれば知りたくなかった。

 

(私は一体、どうしたらいいの……?)

 

 陰鬱な気持ちに沈むマリナ。と、暗く落ち込んだ自分とは反対方向の座席から、静寂を破る小さな声が響いてきた。

 

 

 

「わぁ、きれー! ねぇねぇ、ママ、パパ、お外奇麗だよぉ」

 

 

 

 静まり返った客室の反対側の座席から可愛らしい声が響く。その声の出所へ向かうように無意識に首が動く。

 

 視線を向けた先にいたのは、一組の夫婦の間に座った女の子だった。まだ小さく、ともすれば未就学児というべき年齢かもしれない。

 

 どうやら彼女もまた自分と同じように窓の外を見ていたらしい。月明かりに照らされた雲海の広がりがよほど神秘的に映ったのか、純粋な感動を隠しきれない様子で、身を乗り出すようにして両親の袖を引いているのが暗がりの中でもわかった。

 

 しかし、今は真夜中。大半の乗客は深い眠りに落ちており、彼女の両親も例外ではない。

 突然の甲高い声で就寝を妨げられた両親は、困惑とほんの少しの不満を隠すことなく、周囲への配慮から慌てて娘を宥めにかかった。

 

「んぅ……もう、いつまでも起きてるの。早く寝なさい」

 

 母親が顔をしかめながら毛布を引き上げ、娘の背中を優しく撫でつける。父親もまた、申し訳なさそうな視線を走らせながら厳しくも穏やかなトーンで諭した。

 

「……アリス、騒いではいけないよ。みんな寝ているのだから、明日起きてからにするんだ」

 

 それだけ言うと、父親も再び瞼を閉じてしまう。ひそやかなトーンで落とされたその言葉に、少女──アリスは、あからさまに唇を尖らせた。

 

「むぅ……せっかく綺麗なのに……ふんだ」

 

 そっぽを向いてしまう少女。理不尽に怒られたとばかりに頬を膨らませる少女の様子は、どこまでも無邪気で愛らしい。

 

 その一連のやり取りを、マリナはシートの隙間から横目で見つめていた。

 

 親に叱られて拗ねる子供と、手を焼きながらも我が子を愛おしむ両親。

 どこにでもある、何気ない家族の風景。だが、紛争や対立の絶えないこの世界において、彼女たちが今過ごしているその時間は、間違いなく『幸せ』と呼ぶべき尊いものだった。

 

 少女たちの微笑ましい姿に胸の痛みが少しだけ和らぐ。三人を包み込んだ温かな時間に触れ、強張っていたマリナの顔に自然と柔らかい微笑が浮かんだ。

 

 争いも貧困もなく、誰もが穏やかに家族と寄り添い、美しい景色を素直に美しいと笑い合える世界。政治の現実から見ればあまりに甘く、決して届かないかもしれない理想。それでも、その理想を捨てきれない自分を噛みしめるように、マリナは心の中で未来を想う。

 

(……世界も、これぐらい優しければいいのだけれど)

 

 再び視線を窓の外へと滑らせる。

 

 張り詰めていた緊張がほんの少しだけ解けたためか、旅の疲労と精神的な消耗が重なり、瞼がゆっくりと重くなっていく。今日という長い一日を締めくくる最後の景色をその瞳に焼き付けようとするかのように、マリナは半ば無意識のうちに窓の向こう、果てしない暗闇の遠方へと続く夜空を望んだ。

 

 そんな中だ。

 

 ふと何気なく視線をやった景色の先、そこに映った『何か』に気づいたのは。

 

 

 

(え……?)

 

 

 

 遠く、遥か遠方の雲海。

 

 重なり合う雲の群れがほんの少しだけ切れた僅かな隙間。闇に薄い月明かりが差し込んだ先、そこに一つの影が音もなく浮き上がっていた。

 

 暗がりの中でも際立つような、清廉に浮き立った白い四肢。

 まるで闇そのものを切り取って塗り込めたかのような漆黒の胴体。

 機体を広く覆う、白く縁取られた大型の防御盾。

 

 だが何よりマリナの目を奪ったのは、月光を夜の静寂の中に反照させるが如く輝く、一対に広げられた蒼い翼であった。

 

 機体の背後から伸びる青白い噴射光が空を裂く。それは暗黒の空に彗星の尾のような美しい光の軌跡を描き出し、旅客機と似た方向へ向かって緩やかな進路をとって飛んでいた。

 

(モビル、スーツ……? 戦術的空白地帯であるこんな場所で、何故……)

 

 思わず息を呑む。

 

 民間機の航路であり、いかなる軍隊も展開していないはずのこの空域に、戦闘兵器が存在すること自体が異常だ。

 

 だが、マリナの胸を強くざわめかせたのは、それが単なるモビルスーツであることではなかった。

 

 未知の機体、あるいは所属不明機との遭遇といった突発的要因でもない。半ばぼんやりとした意識の中で捉えたその姿が、「どこか見覚えがある」などという生易しいものではなかったからだ。

 

 既存の国家群──ユニオン、AEU、人革連が保有するモビルスーツ、そのいずれとも一線を画した先鋭的なフォルム。

 

 人型でありながら航空機に近い速度を何の障害もないかのように飛行し、しかも単機で飛ぶなどという他勢力の軍事情勢を無視した戦術行動。

 

 そして、かすかに見えた特徴的な横顔の頭部。

 

 それらの要素が意味する存在は、今のこの世界においてただ一つしか存在しない。

 

 

 

(ガン……ダム……?)

 

 

 

 半ば夢うつつに入りかけていたマリナの目が、驚愕に大きく見開かれる。ソレスタルビーイングの誇る恐るべき戦略兵器が、何故こんな場所に。

 

 眠気など一瞬で吹き飛び、その姿を注視しようとマリナは体を跳ね起きさせた。

 

 しかし──、

 

「あっ……」

 

 流れる雲群に視界を遮られてしまい、思わず声がこぼれる。彼女が状況を明確に認識し、その姿をさらに詳細に捉えようと身を乗り出したその時には、眼下に見えていた雲の切れ目は無情にも後方へと過ぎ去ったところだった。

 

 慌てて窓ガラスに顔を押し付け、見える限りの外を見渡すが、分厚い雲海と穏やかな夜空が広がっているだけ。先ほどまで確かにそこにあったはずの機体、清廉な輝きを放つ蒼き翼は既に影も形もなくなっていた。

 

(……いない……)

 

 どれだけ探しても、どこにもその姿は見当たらない。

 

 マリナはそっと周囲を見回した。

 

 周りの乗客は規則正しい寝息を立てており、通路を歩く乗務員にも慌てた様子や変わった素振りは一切ない。旅客機自体も、何らかの警報を発する気配すらなかった。

 

 この広い機内で自分だけが気づいた? 

 

 それとも、連日の疲労と心労が見せた、ただの幻だったのだろうか。

 

 だが、あの鮮烈なシルエットが網膜に焼き付いて離れない。

 

 報道資料などで見た記憶を冷静に反芻してみても、その外観は自分の知る四機のガンダムのどれにも当てはまらなかった。似ているがどこか違う、といった印象を受ける。

 

 それに、遠目かつ一瞬の出来事だったゆえに確信は持てないが、あの機体が残していた軌跡には違和感があった。

 

 ソレスタルビーイングのガンダムが必ず撒き散らすという、あの独特の光の航跡──そう、あの緑の粒子による特徴的な輝きもなかったような気がする。ただ、青白い純粋な炎のような光を噴射していただけだ。

 

 夜の闇に晒されながらもなお陰らないその威厳、そして遠目から見えた翼のようなシルエット。

 

 そうだ、あれはまるで──、

 

 

 

(天使……)

 

 

 

 その言葉が、すとんとマリナの胸に落ちた。

 

 本来であれば、それは人を殺め、街を焼き、世界に混乱を齎す破壊の権化であるはずだ。だが、不思議なことに、マリナの心の中にはあの機体に対する恐怖や嫌悪の念は微塵も湧き上がってこなかった。

 

 あれは紛れもなく、世界の理を破壊し尽くす破滅の象徴であるはず。だがそんな存在が、夜空の静寂という名の帳を何一つ崩すことなくそこに在った。

 

 夢を見ただけなのかもしれない。だが、自らの奥で静かに早まっていく鼓動は、それが単なる幻影ではないことを告げていた。

 

 争いに満ちたこの世界を静かに見下ろすが如く、どこか悲しげにすら感じる佇まい。傍目から見れば、どう考えても『同じ』系統の見た目であるにも関わらず、ソレスタルビーイングの持つそれとはどこか決定的に異なるその在り様。瞳の奥に刻み込まれたその風貌を思い返す彼女の胸に、何か言い知れぬ感覚が宿った。

 

 それは今まで世界を、そしてアザディスタンを縛り付けてきた絶望的な現実とは違う、説明のつかない未知の、しかし強い実感。

 

(何が起きようとしているの……?)

 

 窓を通じて夜の冷たさが伝わる中で、マリナ・イスマイールはもう一度だけあの蒼い翼が飛んでいったであろう空の果てを見つめた。

 

 暗闇へと消えた蒼き光の余韻を感じながら、これから訪れる未来に想いを馳せる。

 今まで自分が感じたことのない何かが新たに動き出そうとしている――そんな抗いがたい予感に、マリナは深く包み込まれていくのだった。

 

 




 【後書き】

まずは一つ謝罪を

先だって伝えていたお話ではないことの理由ですが、このお話を最初に持ってくるのをすっかり忘れてしまっていました

なので今回は急遽予定を変更し、第二章の始まりとなるこのお話を『序章Ⅱ 予感』としてあげさせていただくことにいたしました。

この次のお話が第二章本編となりまして、先に予告していた通り『落日の邂逅』となります

楽しみにしていただいておりました方には本当に申し訳ありません。只今、プロットを含め、鋭意執筆推敲中でありますので、今しばらくお待ちくださいませ
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