【供養】ブラボ主人公憑依転生オリ主(本編クリア後)をフリーレン世界にぶち込んで観測してみよう 作:啓蒙61
あの後、俺は平原を横断し、人がいる集落を探し、丸三日彷徨い歩いた。
そしてその果てに、小さな町にたどりついた。
そこで、情報を集めた。
主に、ここがいつの時代で、自分が転移した場所がどこであるのかをだ。
まず、現在は、勇者ヒンメルが魔王討伐後の世界。
そして勇者ヒンメルが亡くなっており、それから18年の歳月が過ぎている。
この時、フリーレンはというと、魔法収集のために、ひとりで中央諸国を冒険している頃だ。
あと2年後、フリーレンはハイターの自宅を訪ねて、幼いフェルンと出会う……といった時系列である。
そして次に、俺が転移した場所は、北部高原のノルム商会領付近であった。
もちろん、俺がたどりついた街というのも、ノルム商会の本部がある街である。
世界地図を確認すると、大陸の北側に転移してしまったらしい。
フリーレン世界において、大陸の北側は強力な魔物や魔族が出没しやすい。
さらに過酷な環境の土地も多く、人が生きるのには不便で厳しい。
「南に下ろう。温暖で、人が活発な中央諸国を目指そう」
俺は平穏に暮らしたいのだ。
なので、強い魔物が出没する土地に滞在したくはない。
俺は、比較的安全だとされる中央諸国へ向かうことにする。
そのためには旅支度をする必要がある。
とりあえずは、旅費のために、この世界の通貨を手に入れようと思った。
俺はいつものように頭の中で、インベントリ画面を思い浮かべる。
そこからいくつか、換金できそうなアイテムを選択し、現実へ引っ張り出す。
<真っ赤なブローチ>
<金のペンダント>
<連盟の杖>
だいたいこれらのものは、今後の生活で必要ではなさそうだし、売りさばいておくことにする。
それら金品を携え、ノルム商会に向かい、かなりの額の路銀に換金することができた。
そしてひととおり旅支度を整えたあと俺は、すぐに南を下った。
旅の道中は、魔物に襲われることがたびたびあった。
しかし、あのヤーナムにいた醜悪な敵たちに比べれば、悪辣さもなく、大して強くもない。
楽々これらを退けながら、旅路を進んだ。
ただ、時折、空しさを覚える。
そんな時、一人孤独で道を歩いていると<灯り>と出くわす。
俺は近づいて、ランタンの紫色の光に触れる。
そうすると、荒み切った心が少し和らぐ。
この<灯り>についてだが、フリーレン世界でも中継地点のように、道行く先で出現する。
そして、この<灯り>は他の者には見えず、俺のみが観測できるようだ。
ただ、かつてのように念じても、自分の拠点である<狩人の夢>へ移動することはできない。
しかしその代わり、他の発見した<灯り>へ瞬間移動することができる。
ファストトラベルできる機能は便利だ。
けれども、どのみち、自分は元来た道へ引き返すつもりはない。
それに、このファストトラベルできるのは<灯り>を認識できる俺だけであるらしい。
つまり他の誰かと一緒に、瞬間移動はできないわけだ。
だからしばらくの間、この機能は使うことはないだろう。
こうして俺は、1年かけて、大陸を南に縦断した。
最初の半年で魔法都市オイサーストを通過し、さらにもう半年費やして、目的地である中央諸国に到着した。
★
──勇者ヒンメルの死後から19年。
中央諸国。聖都シュトラール、近郊。
俺は、獣道を歩いていた。
道中、天候が悪化し、雨が降ってきた。
それもひどい雨だ。
ごおごおと強風が吹きつけているし、ゴロゴロと雷鳴が遠くで聞こえる。
今日は嵐になりそうだ。
どこかで雨宿りしなければ。
偶然、通りがかった道のりで、一軒家を見つけた。
俺は、家の玄関でノックした。
「誰かいるか?」
玄関のドアが開いた。
そこから年老いたメガネをかけた老人が現れた。
俺は思わず、息をのんだ。
なんとなく予想がついていた。
聖都シュトラールの郊外には、彼が住んでいるのだから。
俺は、一瞬、迷った。
原作キャラと関わるということは、今後、自分がなんらかの危険に巻き込まれる可能性が高まる。
もっとも既にソリテールと接敵しているので、今さらそんなことを考えても、無駄か。
「すまない、一晩泊めてくれないか。路銀をいくらか渡す」
俺はハイターにそう言い放った。ハイターは人好きのしそうな笑みを浮かべた。
「構いませんよ。質素な食事しか振るまえるものはありませんがね」
★
「なるほど、あなたは中央諸国を目指して、はるばる北部高原の方から……」
「ああ、ただ別に何か大きな目的があるわけじゃない。南側の領土は北より安全だと聞いたから、移住しようと思ったんだ」
「そうですか、色々あったのでしょう。今日はゆっくりとお休みください」
ハイターに迎え入れられ、屋敷の中に上がる。
それから彼に従い、リビングに中央にある四角形のテーブルに座った。
「あんたは……かの有名な勇者ヒンメル一行の僧侶だったと聞く」
「はい、もうずいぶん昔の話ですがね。今では、しがない司教ですよ」
「あんたに聞きたいことがある」
「どうぞ」
「よく、俺のような身寄りもない男を家に上げたな。野盗か人間に扮した魔族だと疑わないのか?」
ハイターは、俺に対して、警戒心を抱いていないらしい。
客観的に見れば、漆黒の狩人衣装に身を包んでいる俺の姿は、不審者に見えるからだ。
「確かに、あなたはどこからどうみても怪しい」
「……そうか。そう思ったのなら、なおさらだ」
「だけど、あなたは決して悪人ではない」
「なぜわかる?」
「悪人は、あなたのような瞳をしていない。あなたのそれは、まるで何かひどいことがあって心が病んでしまった人間がするような目です」
「……」
どうやらハイターは、俺の精神状態をあっさりと見透かしているようだった。
「私は神を信仰しています。なので神の教えに従い、迷えるものの手助けをする……それが私のすべきことなのです」
「神なんてものは一番信用できない。そしてそんな神を信仰している敬虔な信徒とやらもな」
あのヤーナムの世界でも、教会勢力がはびこっていた。
『医療教会』と呼ばれる彼らは、最初高潔な目標を掲げていたが、結局は、私利私欲に走り、最後は醜い獣に成り下がった。
ゲーム画面越しではなく、実際にこの目で彼らと出くわしたとき……ひどく嫌悪したのを覚えている。
「きれいごとかもしれません。しかし、私の友人ならば、きっとあなたに手を差し伸べていたでしょう」
「『勇者ヒンメルならそうした』とでも?」
「よくご存じで」
俺が皮肉を飛ばすと、ハイターは軽快に笑う。
その直後、別室からトコトコとちっこい人影が現れる。
紫髪の幼い少女だ。
ハイターは、その少女を紹介する。
「ああ、この子はフェルンと言います。私が拾った南部地方の戦災孤児です」
ハイターは「彼女は今年でちょうど8つになります」と付け加える。
幼いフェルンは、きょとんとした顔でこうたずねてくる。
「はじめまして、フェルンです。あなたのおなまえは?」
椅子から立ち上がった俺は、かがんで、フェルンと目を合わせた。
「……狩人。俺は狩人だ。名前などないさ」
「狩人様……」
「ああ、変な響きだろう? もっとマシな名前を名乗りたいが、特に思いつかなくてな」
現代日本にいた頃の、自分の名前。
たしか……■■■■■■だったような……。
だめだ。いくら記憶を掘り返しても、思い出せない。
フェルンは、首を横に振った。
「いいえ、素敵な名前だと思います。ちょっぴりヘンな感じだけど」
「やっぱり変か……」
まぁ、素敵といってくれたし、気にすることないさ。
それから、俺はハイターとフェルンと共に、夕食を取った。
献立は、味付けのされていない、少し硬い焼きパンと、薄味のクリームシチューだった。
誰かと食卓を囲むのは、いつ以来だろう。
なんだか、普段は寂しさを感じるが、この時に限ってはそうではなかった。
夕食は、あまり良い味ではなかった。
しかし、悪い気にはならなかったのだ。
★
日の出前。
朝早くに起床した俺は、さっさと支度を終えて、玄関口へ向かう。
その際、少し多めに路銀をテーブルへ置いておく。
もう十分だ。俺のような得体のしれない奴を一晩とめてくれるどころか、温かい夕食を提供してくれたのだ。
これ以上、ここに居座るわけにはいかない。
自分のような血に塗れた人間が、彼らのような真っ当な人間に関わるべきではないのだろう。
「待ちなさい」
玄関口を出たところで、背後から声がかかる。
ハイターだった。
もう少し早くに出るべきだったな。そうすれば、気づかれることはなかったのに。
「止めるな。俺はあんたたちと関わるつもりはない。もう顔を合わせることもないだろう。放っておけ」
「あなたは、行く場所がないとおっしゃいましたよね?」
「ああ」
「もしよければ、ここで当分の間、滞在しませんか?」
「……正気か?」
ハイターは至って真面目な表情で答えた。
「あなたは、相当な手練れだ。並の魔物や魔族では相手にならない」
「どうしてわかる?」
「まず平時であるにも関わらず、体の動きに何一つ無駄がない。あなたからは戦士としてのオーラは感じません。しかしそれは、あなたが戦士ではなく獲物を狩る『狩人』だからだ」
「ご明察だ」
年老いたとはいえ、歴戦の僧侶である。力量を見抜く目は優れているのだろう。
「だからええ……つまるところ、あなたを護衛として雇い入れたい」
「理由を聞いても?」
「私は年老いている。かつてのような戦える力もない。もし強力な魔物や魔族が襲ってくれば、私はフェルンを守ることができない」
……嘘くさい。
ここは聖都の近郊だ。魔物など滅多に出没しない。
とはいえ、その危険性はゼロではない。
もっとも原作知識を知っている身としては、彼らがそんな危機に襲われることなどないことは知っているが。
「くだらない、俺にとってはどうでもいいことだ」
俺がそう笑い飛ばせば、ハイターは穏やかな表情を作る。
それは、若者を見守るような年長者の顔だった。
「嘘をつくのが下手ですね。あなたは今、動揺している」
「……」
動揺している……?
ああ、そうかもしれない。
このハイターという男は、どうしてこうもズケズケと俺に踏み込んでくるのか。
きっとそのせいだ。
……いや、そうではない。
俺はあのヤーナムの世界でもひとりだった。そしてこのフリーレン世界でも、一人で旅をつづけていた。
こうやって、純粋に誰かに必要とされるのは、いつ以来だろうか。
俺が黙り込んでいると、ハイターはいきなりこう叫んだ。
「ああ! 私のような哀れな老人は心が弱いのです。あなたに断られたショックで寿命が縮んでしまうかもしれない」
どこかふざけた態度。本当にこの男は聖都の司教なのだろうか?
なんだか、張りつめていた自分がバカらしくなってきた。
俺は踵を返して、家の玄関口に入る。
「……わかった。さっそく中で雇用条件について話し合おう」
ハイターはにこりと笑った。
それから、俺とハイターはテーブルにつき、契約内容について擦り合わせをおこなった。
まず、契約の報酬について。月給は銀貨10枚。
正直、護衛らしい仕事などあまりない。それを鑑みれば、これは破格の待遇だ。
分かりやすく言えば、詰所の衛兵の同等の給与だといえばいいだろうか。
この世界で生きていくならば、やはりお金は欠かせない。
冷静に判断すれば、断る理由などなかった。
そして、契約期間についてだった。
「雇用主である私が死ぬまでで、よろしくお願いします」
「……もし明日にあんたが死ねば、それで契約は終了というわけか」
「はい、もっとも私はしぶとい人間ですよ。もうあと数年は生きると思います」
「なら、もしあんたがあと30年生きれば、俺はあんたたちを30年間守っていくわけだ」
「はは、おっしゃる通りだ」
この契約は、5年後には終わる。
原作通りの未来をたどるなら、ハイターは、5年後に死ぬ。
そして、フェルンはフリーレンと共に、魂の眠る地オレオノールへ旅に出るのだ。
「いいだろう。では、これからよろしく頼む」
「はい。頼りにしています」
俺は、快諾した。
ハイターは、俺に手を差し出してきた。
俺は、わずかに躊躇ったあと、その手を握った。
あのヤーナムの世界にはない、人間のぬくもりが、その手から伝わってきた。
どうせこれから先、どこかの町に移住して、自分はただの人間として生きていくのだ。
金稼ぎのつもりで、少しくらい道草を食ってもいいかもしれない。
★
北部高原の大森林。
薄暗い森の中に、小さな山小屋があった。
そこはかつて猟師が使っていた小屋で、今では無人の空き家となっている。
ただ、人間が使用していないだけで、別の存在がそこを拠点にしている。
家の中で、ソファに座り、魔導書に目を通している、魔族の少女。
無名の大魔族である彼女──ソリテールは、魔導書から目を離して、どこかぼんやりとした目つきで天井を見上げる。
「分からない、分からない、いったいどうして?」
ソリテールは、そうつぶやいた。
「なんで魔族である私を生かしたの? どうして?」
魔導書を、本棚に戻して、ソリテールは息をついた。
もうここ最近は、ずっとこの調子だ。
おかげで人間の魔法の研究も、自分の日課である探求にも、まったく手が付かない。
あの日から、自分はどこかおかしくなってしまった。
ソリテールは、あの日のことを思い返す。
気まぐれに外を散歩しているときに、人間と出会ったのだ。
その人間は、狩人と名乗り、異常なまでに強かった。
あの時、自分は敗れて、殺されるはずだった。
だが、狩人は自分を見逃したのだ。
ソリテールには、分からない。
なぜ、あの人間は自分を見逃した? どうして自分を殺さなかったのか?
(私が取るに足らない存在だったから? 殺す価値もないと思ったから? いや、それはありえない。人間にとって魔族は害をなす存在だもの)
直前まで、あの男は自分に殺意を放っていた。
自分を獣だと、駆除すべき害獣だと、そう言って自分に刃を向けてきた。
だからますます理解できない。
まるで人格が変わったように殺意を消し、まるで興味がないと言わんばかりに、瀕死の自分に背を向けて立ち去った。
(分からない。もう何百年も人間を探求してきたけど、いくら考えても答えが出ないわ)
ソリテールは、魔族という種において、異端の存在である。
大抵、魔族は人類を食料か殺戮の対象としか見ていない。
ところが、このソリテールという大魔族は、人間の文化や生態や感情に興味を持ち、探求している。
魔族は、生涯に渡って1つの魔法を研鑽し続け、探求する。
しかしソリテールにとって、探求の対象は魔法ではなく、人間。
それゆえ彼女は、人間の魔法を学び、それを扱う。
だが、その探求も、この1年まったく進捗していない。
あの狩人という男のことで、他のことがまったく手つかずなのだから。
(知りたい、理解したい。あの人間のことが。あの時、あの人間はどう感じていたのか。なぜああしたのか)
ソリテールの頭の中を埋め尽くすのは、彼女が持つ最も強い感情。
すなわち好奇心だ。
あの人間のことが知りたい。
あの人間が何を考えていたのかを知りたい。
だから、ソリテールが感情に突き動かされて、行動するのは当然だった。
「探さなきゃ。あの人間を見つけて、会いにいって、尋ねないと」
ソリテールには、確信があった。
あの狩人という男は、自分には理解できない存在だ。
だからこそ、狩人と対話し、そのすべてを明らかにすれば、自分は人間という存在を真に理解できるのではないか?
それからソリテールは、自分の拠点を出て、歩き出す。
狩人という人間を探しだす、彼女の旅が始まった。