IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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―求められるのは、変革。



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第五幕  Catalyst act.6

 

 

 

―数日後 夕方

 

ドリームエンジェルス事務室

 

 

 

教官や関係者たちが集う教室のような場所になっているこの場所で佐藤真子は自分のデスクに座っていた。

生徒達の資料を一通り見てから静かにトントン纏めるようにし、ファイリングしようとした時にコンコンとドアをノックする音が聞こえて来る。

チラリとそちらに目を向けて「入りなさい」と許可するとノックしてきた人物が入ってきた...舘由梨花だ。

 

 

 

 

 

「失礼します、教官。コチラが今週のレポートです」

 

 

 

 

「ご苦労さま、そこに置いておいて」

 

 

 

 

真子の指示通りにデスクの片隅に提出するレポートを静かに置く由梨花。横からチラリと生徒資料が目に入ると立ち止まってからもう一度「教官」と話し掛けた。

 

 

 

 

「少し...お話があるのですが」

 

 

 

 

「お話?」

 

 

 

 

「ええ...斎藤真奈美さんについてです。正直、私達のレベルに合っていないと思うのですが」

 

 

 

 

由梨花の言葉に間を空けるようにする真子。そんな彼女に対し、更にその思いに至った経緯を話し始めた。

 

 

 

 

「実技、フィジカル、筆記...全てにおいて最下位クラスです。一緒に学んでいるだけでも分かるレベルで追いついていません...これでは全体で切磋琢磨するなんて出来ません。

一部では五十嵐選手の教え子だから採用されたなんて声も上がり始めています...」

 

 

 

 

「それで、私にどうしろと?破門にでもしろと?」

 

 

 

 

その答えは出さないが、真っすぐとした目で見てくる限りは由梨花も割と本気で苦言を言った様子だ。そんな彼女にまるで子供の文句でも耳にしたかのように真子はクスッと笑うとあるものを手渡した...それは先程まで彼女が目を通していた資料だ。

 

 

 

 

「...これは?」

 

 

 

 

「特別に見せてあげるわ、本当は見せてはダメだけれども」

 

 

 

 

そう言われて資料を手に取り、恐る恐る目を通し始める由梨花...彼女が気付きやすいようにと真子は更に一言付け加えるようにした。

 

 

 

 

「全員の経歴に目を通してみなさい、彼女の経歴部分だけ明らかに違うから」

 

 

 

 

そう言われて全員の経歴を見てから真奈美の経歴に目を通す由梨花...すると、あることに気づいて軽く目を見開いた。

 

 

 

 

「こ、これは...」

 

 

 

 

目を見開いて気付いたと察した真子。彼女は小さくクスッと笑ってからこう呟いた。

 

 

 

 

 

 

「気付いたかしら?貴女達生徒の大半が他のレーシングスクールや、カートでの順位が書いてある中...彼女だけレース関係の経歴が何も書いていない」

 

 

 

 

「ということは...?」

 

 

 

 

「18で免許を取ってからドラテクを磨き始めた。貴女達の大半が幼少期からカートなどで技術を身につけているのに対し、彼女は免許を取ってから5年も経たない歳月であれだけ出来るようになった。これがどういう事だか...分かるかしら?」

 

 

 

 

確認するように問いかけに対し、どんなことなのか察しはつくも答えない由梨花。それを言った瞬間に自分を含めた真奈美以外の生徒は全て否定されるような気がしたからだ...そんな彼女に対してフフッと小さく笑みを浮かべた真子は資料を返して貰おうと手を伸ばしつつもこう答えた。

 

 

 

 

 

「彼女の成長率は異常よ、一番成長しやすい幼少期というわけでもないのにスゴいものよ。1ヶ月毎の伸び率をみれば貴女達を凌ぐわ」

 

 

 

 

「ですが、現状は最下位に変わりはありません」

 

 

 

 

「そうね、現状は...でも、これが1年後や卒業間近となったらどうなるかしら?更に言えばこのスクールはただの中間地点に過ぎない...卒業後はどうかしら?」

 

 

 

 

 

いつになく意地悪染みたような口調にも聞こえる言葉に若干眉間にシワを寄せる由梨花。そのまま伸ばされた手に従うように資料を返しつつもこんな質問を投げ掛けた。

 

 

 

 

「教官、恐れ入りますが...貴女の発言は彼女以外の生徒を否定するようにも聞こえます」

 

 

 

 

「否定はしてないわ。私からすれば逆に貴女達が彼女を否定しているように見えるわ...異質な存在だとしてね。

それから、最終試験で彼女を推薦したのは私よ...スクールでも初めて採用するタイプだから否定的な目で見られがちだけど、私は彼女の成長に期待してる。何も五十嵐選手の教え子だから贔屓したりとかはないわ。社長もそういうコネで上がっていくのは嫌いだし。その辺りは...貴女も重々承知してるんじゃないかしら?」

 

 

 

 

 

確認するような問いかけに対し、何も言い返せない様子の由梨花。そんな彼女の様子をチラリと見ながらも立ち上がった真子はコーヒーカップを手にし、部屋の片隅置かれたコーヒーメーカーの方に足を運びながらもこう告げた。

 

 

 

 

「抜かれないようにがんばりなさい?

現状は貴女がトップだけれど、彼女以外の生徒も貴女が座る位置を虎視眈々と狙ってる。貴女に出来ることは日々の精進するように励むこと、他人を卑下することじゃないわ。

次の中間実技試験...楽しみにしてるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―翌日 昼

 

チューニングショップ・スパイラル

 

 

 

 

ガレージの前で照明に照らされている新しく仕上がった愛車の86とご対面する真奈美...

 

純白の白いボディはエアロパーツなどは変わっていないものの、ホイールの奥で新しく装着された6POTタイプの大口径ブレーキと分厚くゴツい紺色のキャリパーの存在感から思わずニヤニヤが止まらない。

 

 

 

 

「かっこいいぃぃ!エモいぃぃぃ!!」

 

 

 

 

しゃがみ込んだままスマホを構えてパシャパシャ!と写真を撮っていく真奈美。そんな彼女の方に奥山が後ろから歩み寄るとこう促した。

 

 

 

 

 

「ブレーキだけじゃない、こっちも見てくれ」

 

 

 

 

そう言って86のボンネットを開けてガッと上げていく奥山。支え棒で固定している最中に真奈美が横からひょいっと覗き込むようにすると、そこには今まではなかったパーツ...スーパーチャージャーがエンジンに付与する形で鎮座されていた。複雑なパイピングの組み方に思わず「ふへー...!」となる真奈美。彼女はスマホを構えてパシャパシャ!と写真を撮ってはこんな事を呟いた。

 

 

 

 

「こうして見るとこんなエンジンルーム内にスゴい組み方...パーツメーカーもよくこう組めば綺麗に収まるって考えますよね」

 

 

 

 

「まあな...でも、86のエンジンルームはまだマシなほうだぞ?作ったトヨタもチューニングされる前提で設計しているから今時の車にしては割とゆとりがある方だ。

それにスーパーチャージャー自体、構造的にターボよりも大きくスペース取る...それを考えれば仕方ないだろうな」

 

 

 

 

 

「にしても、これ...冷静に考えてみれば作業大変だったんじゃないんですか?パイプの組み方スゴいですよね」

 

 

 

 

「まあ、本音を言えばとターボ組むよりも大変だよ。それもあって最初は小径タービンを勧めたんだ。ターボの方が単純なパワーは出やすいっていうのもあって、うちの大半の86乗りの客はそっちに流れる...86のスーパーチャージャーは初めて組んだってわけじゃないが、かなり久々にやったよ」

 

 

 

 

そう言いながらも支え棒をボンネットから外し、そのままエンジンルームを閉める奥山。両手を腰の方に回して軽くストレッチするように仰け反ってから真奈美の方を見ると彼女にこう注意した。

 

 

 

 

「いいか?ちゃんと慣らし運転済ませてから回すようにしてくれよ。スーパーチャージャーは構造上、ターボよりもエンジンへの負荷が大きい。しっかり慣らさないとブローする」

 

 

 

 

「慣らしって...具体的にどうすればいいですか?」

 

 

 

 

「しばらくの間、エンジン回すのは3000rpmか4000rpmぐらいまでに抑えること。慣らしの走行距離目安としては短くても500km、欲を言えば1000kmだ」

 

 

 

 

「思ったより長いですね...」

 

 

 

 

「そりゃあ、そうだ。本来メーカー側も想定していない社外品のドーピングアイテムみたいなものをつけて走るんだ。少しでも回した時の急激な負荷を減らす為にそれぐらいは必要なんだ...それを理解して走らせてくれ。そうで無ければ簡単に逝く」

 

 

 

 

そう言いながらもチャリンッとある物を手にして手渡してくる奥山...86のキーだ。「ありがとうございます」と礼を言いながらも受け取り、歩いて移動しつつも運転席に乗り込もうとドアに手を伸ばす真奈美だったが、開ける前に「なあ、真奈美ちゃん」と呼び止められた。

 

 

 

 

 

「例の怪しい男の件...どうだ?」

 

 

 

 

 

怪しい男...恐らく自分をつけていた星野アクア似の男についてだろう。そう察した真奈美はドアに伸ばそうとしていた手を戻しては安心させようと小さく微笑みながらもこう答えた。

 

 

 

 

「大丈夫です、今のところは...」

 

 

 

 

「今のところはって...本当に大丈夫なのか?」

 

 

 

 

「まあ、アレから姿は見ていないので...でも、もしかしたらのこともあるので情報共有しますね」

 

 

 

 

そう言ってスマホを手にし、操作する真奈美...

画像フォルダからナンバーまでしっかり収められた白いレクサスISの写真と運転している星野アクア似の男の写真を選択して奥山に見せた。

 

 

 

 

 

「この男が...?」

 

 

 

 

 

「ええ...もし、ここに来たら注意してください。多分、他人を信じ込ませる能力が高い知能犯です。どんな話を振られても絶対に流されないように...」

 

 

 

 

 

黙りながらも写真をマジマジと見る奥山...自分の顎に軽く手を当てるような素振りを見せたかと思えば、「なあ、真奈美ちゃん」と話を振った。

 

 

 

 

「後で写真送ってもらっていいか?念のために」

 

 

 

 

「わかりました、また後で送ります」

 

 

 

 

そう受け答えしている間にピロンッと真奈美のスマホが何かをキャッチ...内容を確認した彼女は小さく微笑みまがらも奥山の方に目を向けた。

 

 

 

 

「奥山さん、ゴメンなさい...ちょっと用事があるのでこの辺りで失礼しますね」

 

 

 

 

 

「用事...?まあ、伝える最低限のことは全て伝えたし...気をつけて行ってきてくれ。あまり調子のって踏みすぎるなよ?」

 

 

 

 

「わかってます。じゃあ...行ってきます。ありがとうございました」

 

 

 

 

そう告げてから運転席に乗り込み、エンジンスタートボタンをプッシュ。ブゥォン!と軽快な水平対向4気筒FA20のサウンドを響かせながらもゆっくりと走らせていく真奈美...

 

去っていく白い車影を奥山は何処か心配そうな目で追っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―しばらくして

 

 

首都高速を周囲の一般車の巡航速度に合わせるようにして86を走らせる真奈美。ハイギアに合わせ、エンジンの回転数をなるべく上げないように気をつける...言われた通りに3000回転以上は回さないようにして労ってのドライビングを行なっていた彼女の目線は時折、純正メーターの右上に新たに設置されたブーストメーターの方へと向けられていた。

 

 

 

 

 

「(慣らし運転は最低でも500km...中間実技試験までになんとか慣らしは終わる。けど、問題は終わってから新しくなったこの子に慣れるようにどれだけ練習できるか...ゆっくりしてる暇はない)」

 

 

 

 

そう思いながらも彼女はある場所に向けて86を走らせていく。しばらくすると首都高速を降り、一般道を走らせていくとある家の前に到着した...ルビーとアクアの家だ。

路肩に車を停め、ハザードをカチッとつけるとスマホを手にしては早速ルビーとやり取りを始めた。

 

 

 

 

"今、ついたよ。外出れそう?"

 

 

 

 

"大丈夫。だけど、外に週刊誌の人とかいるかも"

 

 

 

 

警戒するような内容の返信を見てはスマホから目を離して辺りを見回す真奈美...少し離れてはいるものの、向かい側に同じように路肩に寄せるようにして停まっている黒いカローラを発見。

 

ナンバーなども身に覚えがある...?

 

それもそのハズ、ここに通っている間に何度か見かけた事がある車だからだ。この辺りに住んでいるとは言い難い雰囲気だ。

 

 

 

 

"それっぽいの見つけた。ちょっと待ってて"

 

 

 

 

そう連絡をつけてパタッとドアを開けて車から降りる...そのまま停まってるカローラの方へとズカズカと歩いていき、運転席の真横まで来れば怒り交じりの形相で「ちょっと」と週刊誌の記者らしき眼鏡を掛けた男に話し掛ける。

若干驚いたような様子を見せながらもウィンドウを開けてきた相手に対し、真奈美は表情を変えずにそこから畳み掛けた。

 

 

 

 

 

 

「妹のストーカーって、アンタ?」

 

 

 

 

「え、えぇ!?ストーカーって...!

ぼ、僕は最近になってこの辺りに引っ越してきたばかりで...!!」

 

 

 

 

慌てたように言い返す男に対し、チラリと男の手元を見ると咄嗟に何かを隠そうとしてるのが見えた...望遠レンズをつけた一眼レフだ。もちろん、見逃すなんてことはする気はない。隠そうとしている手の手首をガシッと掴むと軽く持ち上げるようにしてそれを露わにさせた。

 

 

 

 

「引っ越し先で車内からカメラ撮影するものなの?見苦しい言い訳やめなよ」

 

 

 

 

「ち、違う!話を聞いてく...!!」

 

 

 

 

「誰が聞くもんか、失せろ。警察呼ぶよ?」

 

 

 

 

一瞬引き攣ったような表情を見せる男...更に追い討ちを掛けるようにスマホを取り出し、ピッピッと操作して110番発信する手前の画面を見せると男は参ったような表情で「わかったよ...」と答えながらも一眼レフを助手席に置いてシートベルトをつける素振りを見せる。が、真奈美はこんな所では終わらずに最後に釘を差すようにこう告げた。

 

 

 

 

「次にこの辺りでアンタを見かけたら...問答無用で通報するから。顔だけじゃなしに、車種もナンバーもしっかり覚えたから」

 

 

 

 

その警告と共に86のスマートキーを手に取ってはポチッとドアボタンを操作。ガチャッという音と共にハザードがついたことで"あの車が自分の車=あれには近付くな"と言うことを間接的に植え付けると男の方も大人しく去っていった。

 

 

 

 

「(全く...あの娘も大変だね。あんなのに目付けられちゃって)」

 

 

 

 

内心同情しつつも去っていく車影を眺めながらもふぅ...と小さく息をつく。再びスマホを手に取るとメッセージアプリを開いてルビーに向けて再びメッセージを送った。

 

 

 

 

"追い払った。もう外は大丈夫"

 

 

 

 

"―出てもいいの?"

 

 

 

 

"もうちょっと待って。念のためにもっと車近づけるから"

 

 

 

 

 

そう返信しながらも一度辺りを見回してから86に戻り、家の出入り口にほぼ横付けするような位置まで走らせ停車。再び車内でスマホを手に取り"出てきていいよ"と送信すると程なくして黒を基調とした服装にサングラスと帽子で変装したルビーが出てきて足早に助手席に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

「乗ったね?行くよ」

 

 

 

 

そのまま出来る限り見つかるリスクを減らそうと颯爽と車を走らせていく真奈美。住宅街を抜けて大通りに出た所でルビーがサングラスと帽子を外す..それをチラリと見て確認してから信号待ちで車を停めると安堵するようにふぅ...と小さく息をつきながらも話を振った。

 

 

 

 

 

「大変だねー、芸能人ってのも...」

 

 

 

 

 

「ううん、もう慣れたから...それよりもさっきの追い払ったってどうやったの?」

 

 

 

 

 

「多少強引なこじつけをしただけ。

詳しいことは...んー、知らないほうがいい」

 

 

 

 

 

真奈美の言葉に頭上にハテナを浮かべたような感じでキョトンとした表情を見せるルビー。そんな彼女に対し、あまりそこの部分は掘り下げられたくないと真奈美はハンドルをスッと持ち直すような素振りを見せてから別の話を振った。

 

 

 

 

 

「ところで、外に出るのは何日ぶりだったりする?」

 

 

 

 

 

「活動休止になってから出てないから...3ヶ月ぶり、かな?」

 

 

 

 

 

「そっか...今日はリハビリも兼ねてって感じ?」

 

 

 

 

 

その問いに対し、小さく頷くルビー...

懸念を抱いているような表情を見せると共に恐る恐ると言った様子で口を開いて自分の胸の内を語り始めた。

 

 

 

 

 

「正直に言うと...外に出るの怖いんだ。

活動休止になったあの日以来、世間の目を気にして外に出なくなったんだけど、日に日にその怖さが増していって...」

 

 

 

 

 

「なんでそんな怖いって感じるの?」

 

 

 

 

そう問いかけつつもルビーの方を見ると俯くようにしつつもどう答えようか考えるように間を空けるルビー。そして、小さく息を吸って呼吸を整えてから再び恐る恐ると言った様子でこう答えた。

 

 

 

 

「...罪悪感からかな?

前に貴女に言われた通り、私の行動が結果として色んな人を巻き込んだ。本心では分かってた...けど、避けてたんだ。

ロリ先輩たちや番組関係者、ミヤコさんも巻き込んだ...そして、貴女のことも。誰かに責められたりしないかってスゴい怖かった」

 

 

 

 

 

今にも泣き出しそうな表情を浮かべるルビー...

すると、彼女は少し間を空けてから「...ねえ」と勇気を振り絞るようにしてこう問いかけた。

 

 

 

 

 

「私は...今からでも罪を償えるかな?」

 

 

 

 

 

ルビーの問いかけに対して運転しながらも考え込むように黙る真奈美...そして、コンッと心地よくシフト操作してから小さく笑みを浮かべながらもこう答えた。

 

 

 

 

 

「完全に償えるとは...正直言うと言いづらいかな。

でも、幸いなことに今のところの被害は最小限で済んでると思う。それを考えた上で...貴女に出来ることはただ一つ」

 

 

 

 

 

「ただ一つ...?」

 

 

 

 

「...トップアイドルになって皆の願いを叶えてあげて」

 

 

 

 

 

その言葉にあまりパッとした表情のルビー...

そんな彼女に気づかせてやろうと時折助手席に座る彼女に視線をチラリと向けるようにして運転しながらもこう説明した。

 

 

 

 

「確かに貴女は過ちを犯した...でも、そんな貴女に期待する人達がいる」

 

 

 

 

「期待する、人....?」

 

 

 

 

「ミヤコさんを筆頭とするイチゴプロの人達や、ファンの皆...貴女のお母さんであるアイだって天国でそれを願ってるハズ。その人たちの期待に答えるために突き進むっていうのが私が思う貴女に出来る最大の償い。

特にミヤコさんはアイが成し遂げられなかった夢を貴女に託そうとしている...あまりプレッシャーを掛けないように立ち振る舞ってるけど、実際のところは期待してる。

かつておじさんと叶えられなかった夢の先にある景色を見るために...」

 

 

 

 

 

そう言っている間に再び信号待ちで停車。

エンジン回転数に気をつけるようにしつつ、丁寧なシフト操作を行なって停車してから先程までチラリぐらいしか見れなかった彼女にしっかりと視線を向ける...彼女はまだ何処か不安そうな表情だ。やや重めな雰囲気の車内でどう背中を押そうか悩んでいるとその不安を打ち明けようと恐る恐る口にした。

 

 

 

 

 

「でも、貴女に対する罪はどうなるの...?」

 

 

 

 

 

「そうだね...もし、私が言ったことを守って目を瞑ってあげる」

 

 

 

 

 

まさかの言葉に「えぇ...!?」と軽く目を見開くようにして驚くルビー。そのまま確認するように続けてこう問いかけた。

 

 

 

 

「い、いいの...?私、貴女に酷いことしたんだよ。

それに結果としてママを殺したヤツに目を付けられたし...」

 

 

 

 

 

ルビーの不安を払拭するように暖かい笑みを浮かべる真奈美。そこから更にニッと口角を上げて太陽のような笑顔を見せると彼女にこう伝えた。

 

 

 

 

「いいよ、大丈夫。私はみんなが幸せになれるなら多少のことは目を瞑ってられる。それに、命を狙われたからって殺される気はサラサラないし」

 

 

 

 

ハンドルを握り直しながらもふと前を見るとちょうど青信号になったのを確認...「さて」と小さく呟くとルビーに対してこう促した。

 

 

 

 

「こんな話ばかりするのもなんだし...予定通り、ご飯いこっか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―1時間後 群馬県 渋川市 

 

 

とあるファミレス

 

 

 

 

1台の白いレクサスISが駐車場に停まるとサングラスを掛けた一人の金髪の男が降りてきた...

星野アイと雨宮吾郎...その他芸能関係者らの殺人に携わりながらも、全く痕跡を残さずにここまで生きてきた男。

 

 

彼の名前はカミキヒカル。

 

 

今まさに斎藤真奈美という自分の目的を妨害する女に目を付け、死に追いやろうと画策している男だ。

 

 

時間帯が時間帯なこともあってガラガラの店内に入ると「いらっしゃいませー」と店員の声が聞こてきた。そんな中で4人がけの窓際の席に座ると店長と思われるベテランの風貌の男性店員が慣れた手でお冷とおしぼりをテーブルに置いてから注文を取ろうと伝票とペンに手を伸ばして尋ねてくる。

 

 

 

 

「ご注文は後で...?」

 

 

 

 

「いや、今頼めるかな。とりあえずガトーショコラのドリンクセットでホットコーヒーにしようかな」

 

 

 

 

「かしこまりました、少々お待ちください...」

 

 

 

 

伝票に書き込んでから立ち去ろうとする店長らしき男...そんな彼に対してカミキは「ねえ」と呼び止めるとスマホを操作して1枚の写真を見せた...それは斎藤真奈美の写真だ。

 

 

 

 

「この娘について何か知らない?僕の歳が離れた妹なんだ、急に家出紛いなことして家族全員困っててね...何か知ってることはないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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