結ヶ丘女子高等学校の生徒会長、葉月恋には秘密があった。月明かりの強い日の夜に際限なく巨大化し成長してしまうという秘密だった。こんな特異体質をみんなに知られたら嫌われてしまうと思い秘密を隠し通してきたが、運悪くその日にアクシデントが発生。電車がストップして復旧の目処も立たないということで、同じLiella!のメンバーであり後輩である鬼塚夏美と鬼塚冬毬が帰れなくなってしまった。恋はやむなく二人を家に泊めるが、その日は月明かりが強い夜で……。

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月明かりの大きな恋

# 秘密を抱える少女

 

夕方、葉月恋は自室の窓から空を見上げていた。雲一つない夜空には大きな満月が輝いている。

 

「また今夜……始まってしまうのですか」

 

胸に手を当てながら呟いた言葉には、諦めと恐れが混ざっていた。小学三年生のある夜、初めてそれが起きた時、恐怖で一睡もできなかった記憶が鮮明によみがえる。そして翌朝、自分の姿を見て泣き崩れた両親の顔。あれ以来、家族以外誰にも打ち明けられない秘密だった。

 

スマホの着信音が鳴る。夏美からのメッセージだ。

 

「恋先輩!大変ですの!電車止まりましたの!」

 

画面を見た瞬間、血の気が引いた。予感していたことが現実になろうとしている。続いて冬毬からも似たような内容の連絡が来る。

 

「……やはりそうなるのですね」

 

ため息をつきながら返信を打つ。「私の家に来られますか?家が広いので」

 

---

 

夜八時過ぎ。玄関チャイムが鳴った。

 

「恋先輩、お邪魔しますの〜!」

「突然申し訳ありません。お世話になります」

 

玄関で迎えた恋は、いつも通り完璧な笑顔を作っていた。

 

「お疲れ様です。さあ、どうぞ上がってください」

 

二人をリビングに案内し、温かいお茶を入れる。普段通りに振る舞っているつもりだが、どこかぎこちなさを感じている。

 

「それにしても、満月が綺麗ですね」

 

冬毬が窓の外を見て言った瞬間、恋の心臓が大きく跳ねた。

 

「そ、そうですね……あっ、もう遅いですから早めにお風呂に入って休みましょうか?」

 

急いで話題を変えようとしたが、上手くいかない。内心の動揺が表情に出ないように気をつけながら、湯船にお湯を張るために浴室へ向かった。

 

廊下の鏡に映った自分を見て思う。

 

(今夜だけは耐えてください……お願いだから……)

 

月光を浴びないようにカーテンをしっかりと閉めてから戻ると、二人がソファに座ってテレビを見ていた。

 

「あの……実は」恋は意を決して切り出した。「今夜は特に気をつけていただきたいことがあります。とても大切な……約束ごとがあるのです」

 

二人は不思議そうな顔をしている。当然だろう。しかし全てを説明するわけにはいかない。

 

「とにかく……皆さんが眠る部屋からは絶対に出ないようにしてください。何かあっても、決して……」

 

そこまで言って言葉を飲み込んだ。言い過ぎてしまったかもしれない。あまりにも切羽詰まった様子に、夏美と冬毬は顔を見合わせている。

 

「わ、わかりましたの」

「アグリーです」

 

二人の反応を見て少し安心した恋は、静かに微笑んだ。

 

「それなら良かったです。さあ、お風呂の準備ができました。順番に入りましょうか」

 

リビングを出て行くとき、ふと振り返る。背後に見えた二つの影が妙に大きく感じられたのは、自分の不安が投影されているからだろうか。

 

そして彼女は気づいていなかった。月明かりの影響で自分の身長が既に2cm伸びていることに。

 

---

 

「ねえ冬毬」

「はい、姉者」

「恋先輩、今日はなんだかいつもと違いますの……」

「確かに。何かあったのでしょうか」

「それとも……私たちが知らない秘密が……」

 

二階の客室で囁き合う声が、月明かりの中で次第に大きくなっていく。

 

 

# 巨大なる秘密

 

冬毬の寝息が聞こえ始めてから1時間ほど経った頃、夏美はベッドから身を起こした。眠気はあるものの、昼間の恋の言葉が頭から離れない。

 

「気をつけてください……決して……」

 

その時、ズズン……という鈍い音と共に床が揺れた。夏美は反射的に窓辺に駆け寄った。

 

「地震?」

 

しかしそこに広がっていた光景は、地震どころではなかった。

 

月明かりの中、恋の姿がゆっくりと、しかし確実に巨大化していた。まるで時間が引き伸ばされたように見えるのに、彼女の身体は恐ろしいほどの速さで成長していた。

 

最初は3メートルほどだった身体が、5メートル、7メートルと膨張していく。元々均整の取れていたプロポーションがさらに洗練されていき、長い髪は脚元にまで達していた。

 

「これは……夢…?」

 

夏美は震える指で窓ガラスを押さえつけた。心臓が激しく鼓動し、呼吸が浅くなる。理性はこれが夢だと告げているのに、肌に感じる冷や汗が現実であることを物語っていた。

 

恋の口元がわずかに動いた。彼女の目に月光が宿り、その瞳は遠くを見据えていた。巨大な手を空に向けて伸ばす仕草は神々しくもあったが、同時に底知れぬ恐怖を呼び起こした。

 

「見ないで……」

 

遠くからかすかな声が聞こえてきたような気がした。夏美は反射的に視線を逸らそうとしたが、体が言うことを聞かない。

 

巨大化は徐々に緩やかになり、ついには止まった。高層ビルのように聳え立つ恋の姿に、街灯が小さな宝石のように点々と光っていた。

 

「恋……せんぱい……」

 

夏美が小さく呟いた瞬間、恋がこちらに視線を向けた。遠すぎて表情は見えないはずなのに、夏美は確かに見られていると感じた。

 

「見てしまいましたか」

 

耳元で囁かれたような錯覚に襲われる。それは声ではなく、直接脳裏に響く思念のようだった。

 

「大丈夫です、怖がらなくていいですよ」

 

巨体のままゆっくりと膝をつき、頭を夏美のいる部屋の高さまで下げてくる。窓越しに見つめ合う二人。夏美の瞳に映るのは、いつもの優しい恋の顔だった。

 

「これは私の……秘密なのです。小学三年生の時に始まって、今でも止められない……」

 

「どうして……そんな……」

 

言葉が出ない夏美に、恋は続けた。

 

「月の力なのか、私の中に眠る何かなのか……誰にもわかりません。でも……今日から貴方も知ってしまいましたね」

 

柔らかい月光の中で、恋の巨大な顔が悲しげに微笑む。

 

「幻滅しましたか?」

 

「いいえ!全然!」

 

夏美は思わず叫んでいた。思ったより大きな声に自分で驚く。

 

「ただ、びっくりしただけで……全然気持ち悪いとか思わなかったですし!むしろ……綺麗で神秘的で……」

 

恋の眉が少し持ち上がった。

 

「本当に?」

 

「はいですの!それに……」

 

言葉を選ぶようにして夏美は続けた。

 

「もし恋先輩が嫌でなければ、もっと教えてほしいですの。こうなるのが月のせいなら、他に方法がないのかとか……一緒に考えさせてほしいですの」

 

巨大な恋の目に涙が光った気がした。

 

「ありがとう、夏美さん……」

 

その言葉と共に、恋の姿が再び縮小を始めた。しかし今回は元に戻るのではなく、夏美と同じ大きさになるよう調整されている。

 

「え?待って、まさか……」

 

信じられない光景に言葉を失う夏美の前で、恋は人間サイズの身体を取り戻し、窓を軽くノックした。

 

「開けてもらえますか?お話があります」

 

震える手で鍵を開けると、そこにはいつも通りの恋が立っていた。ただし、今の彼女は普段よりも身長が高く、スタイルも良く、髪も幾分長くなっている。

 

「夏美さん……」

 

部屋に入ってきた恋がそっと夏美を抱きしめた。温もりと安心感が伝わってくる。

 

「私の秘密を共有できる人ができたことは、正直嬉しいです。でもこれ以上誰にも知られてはいけないんです。わかりますよね?」

 

「はいですの……もちろんですの」

 

まだ状況を受け入れきれていなかったが、夏美は強く頷いた。

 

「冬毬には?」

「彼女には言わないほうがいいと思います。混乱させたくないので」

 

恋の表情に影が差した。その時、寝台から小さく呻き声が聞こえた。

 

「しまった!冬毬が……」

 

「大丈夫」恋が素早く指を立てて制する。「私には時間の流れを少し操る力もあるんです」

 

彼女が一瞬目を閉じると、部屋の時計が動きを止めた。いや、正確には部屋全体の時間が遅くなったように感じる。

 

「月の光のおかげで、今夜だけは特別なことができるみたいです」恋が小さく笑った。「この間にすべてを整理しましょう。そして明日の朝には、何もなかったように……」

 

その時、廊下の向こうから階段を上がる足音が聞こえてきた。

 

「サヤさん?」

 

恋の雇っているメイドだろうか。夏美は緊張で硬直する。

 

「大丈夫」恋が囁いた。「サヤさんも知っています。協力してくれるはずです」

 

ドアが控えめにノックされ、美人な若い女性が入ってきた。サヤだろう。

 

「お嬢様、大丈夫ですよ。夏美様にも話したんですね」

 

サヤは状況を察していたようで、冷静に対応してくれた。

 

「はい」恋は短く答えた。「夏美さんは信頼できます」

 

「わかりました。では、これを用意しました」サヤは小さな箱を恋に渡した。

 

「ありがとうございます」恋は丁寧に受け取り、「夏美さん、少しお待ちください」と言って部屋の隅に向かった。

 

数分後、恋が戻ってきたとき、その姿は完全に元通りになっていた。髪の長さも、体型も、いつもの恋だ。

 

「月の力をコントロールする薬です」恋は小瓶を見せた。「満月の夜に飲むことで、ある程度抑えられるようになりました」

 

「すごいですの!」夏美は感嘆した。

 

「サヤさんの一族が研究してくれたんです」恋は恥ずかしそうに微笑んだ。「でも副作用があって、効果が切れると一気に巨大化してしまう。それが今日だったのですが……」

 

恋の声が沈んだ。

 

「夏美さんを見たとき、一瞬焦りましたが……あなたに出会えて良かった」

 

サヤが時計を見た。「そろそろ時間ですね。明日の朝には何もなかったようにしましょう」

 

三人で作戦を確認し合った後、サヤが静かに部屋を出ていった。

 

「夏美さん、本当に感謝しています」恋が改めて深々と頭を下げた。

 

「そんな!頭を上げてくださいですの!」

 

「でも、もし迷惑だったら……」

 

「全然!むしろ……」

 

夏美は勇気を出して続けた。

 

「むしろ……この秘密を守れるのが自分だけだと思うと、ちょっと嬉しかったりして……」

 

最後の方は小声になったが、恋には十分聞こえていたようだ。彼女の顔に安堵の色が広がった。

 

「そうですか……」

 

窓の外では、月が少し傾いていた。その光が弱まるにつれ、恋の顔色も和らいでいくようだった。

 

「さて、そろそろ冬毬さんを起こしましょうか。時間が動いてしまいましたから」

 

恋が小さく笑うと、夏美も自然と笑顔になった。

 

「はいですの!」

 

二人で冬毬の寝ているベッドに向かいながら、夏美は決意した。この秘密を守り抜こう。そして、恋と一緒に解決策を見つけようと。

月明かりの中で交わされたこの約束は、二人の新しい関係の始まりだった。

 

# 月の秘密を追って

 

朝日が部屋いっぱいに差し込み、恋は窓辺に立ちながら薬を手のひらに乗せて見つめていた。昨夜の騒動が嘘のように静かな朝だが、薬の小瓶が全てを物語っている。

 

「恋先輩、準備できましたの〜」

 

ドアから顔を覗かせる夏美に、恋は軽く微笑んで振り向いた。その微笑みには昨日までの緊張感とは異なる穏やかさがあった。

 

「私も終わりました。行きましょうか」

 

三人で家を出たのは、いつもより少し早い時間だった。冬毬が歩きながら昨日の話題を振り返る。

 

「それにしても、満月の夜に電車が止まるなんて珍しい偶然でしたね」

 

恋と夏美は思わず顔を見合わせたが、すぐに平静を装った。夏美は機会を捉えて話を冬毬に振る。

 

「そういえば冬毬、あなたのクラスにいるマルガレーテってヨーロッパ出身らしいですけど、冬毬から見てどんな子なんですの?」

 

冬毬は不思議そうに首を傾げた。

 

「マルガレーテですか?確かにヨーロッパ出身で、日本語も上手ですけど……どうして急に?」

 

恋が咳払いをして会話に入る。「実は最近、月に関する興味深い本を見つけまして。西洋の文化では月について独特の解釈があると聞き、専門知識をお持ちの方がいればと思って」

 

「月に関してですか?」冬毬の目が好奇心で輝いた。「確かにヨーロッパには様々な伝承がありますね。マルガレーテに聞けば何か面白い話が聞けるかもしれません」

 

夏美は胸の内で拳を握った。(恋先輩の特異体質について解決の糸口があるかも……!)

 

「ぜひ聞いてみてほしいんですの!」

 

「わかりました。お昼休みにでも話してみます」冬毬は快く引き受けた。

 

学校に到着すると、3人は別々の教室へ向かった。夏美は教室に入るなり、友人たちに挨拶しながらも、昨夜の出来事が頭から離れなかった。窓際に立ち、青空を見上げる。夜になれば、またあの不思議な光景が……

 

一方、恋は教室で何事もなかったかのように授業に集中していたが、時折左手首に巻いたブレスレットを無意識に触れている。サヤから渡された薬と一緒に貰ったもので、月のエネルギーを一部吸収する効果があると聞いた。

 

---

 

昼休み、食堂で食事を終えた冬毬は約束通りマルガレーテを探していた。紫髪の少女は中庭のベンチに座って本を読んでいる。近づくと、冬毬に気づいたマルガレーテが本から顔を上げた。

 

「何か用?冬毬」

 

「こんにちは、マルガレーテ。ちょっとお聞きしたいことがありまして」

 

マルガレーテは無表情に頷いた。「言ってみなさい」

 

「月についてなのですけれど、ヨーロッパでは特殊な伝承はあるのですか?」

 

マルガレーテの瞳が一瞬鋭く光った。次の瞬間、彼女は本を閉じ、冬毬に向き直った。

 

「なぜ急に月に興味を持ったの?」

 

「えーと……単なる興味ですよ」冬毬は慌てて取り繕う。

 

「嘘が下手ね」マルガレーテはクスッと笑った。「まあいいわ。月には神秘的な力があるって、昔から言われてるわよ。狼男に変身したり、人の運命を変えたり……」

 

「それから?」冬毬は身を乗り出した。

 

マルガレーテは周りを見回してから、小声で言った。「満月の夜、自分の潜在能力が最大限引き出されることもあるって聞いたことがあるわ。ヨーロッパの古い文献にはね……」

 

「潜在能力?」冬毬は目を丸くした。「具体的にはどんな?」

 

マルガレーテは立ち上がり、冬毬に近づいた。「あまり詳しくは言えないけれど、人によっては超常的な力が解放されることもあるって。例えば……巨大化とかね」

 

冬毬は息を呑んだ。(巨大化!?まさか恋先輩のことが?)

 

「それは本当なのですか?」

 

「ただの伝説よ」マルガレーテは肩をすくめた。「でも、もし本当だとしたら面白いと思わない?」

 

授業開始の鐘が鳴り、マルガレーテは背を向けた。「またね、冬毬」

 

去り際、彼女が小さく呟いた。「恋先輩に伝えなさい。『三日後の新月の夜、真実を教えに来る』と」

 

冬毬は戸惑いながらも、その言葉を刻み込んで教室に戻った。

 

---

 

放課後、部室で練習の準備をしている恋のもとに、冬毬が走り込んできた。

 

「恋先輩!マルガレーテのことですが……」

 

そこで冬毬は言葉を詰まらせた。部室には恋だけでなく、夏美もいたからだ。夏美は興奮した表情で近づいてきた。

 

「冬毬!どんな情報がありましたの?」

 

冬毬は少し迷った末、全てを伝えることにした。「月に関する力を持つ人の伝承があるそうで、マルガレーテは『三日後の新月の夜、真実を教えに来る』と言っていました」

 

夏美と恋は顔を見合わせた。

 

「新月の夜……」恋が小さく呟く。

 

「なんか怪しいですの」夏美が眉をひそめる。「でも、私たちのこと知ってたみたいですし、何か関係あるかも……」

 

恋は静かに頷いた。「そうですね。でも今は練習に集中しましょう。話はその後で」

 

「了解ですの!」夏美が元気よく返事をしたが、その目は明らかに冒険への期待で輝いていた。

 

---

 

その日の練習はいつもより厳しかった。恋は集中力を欠いており、ステップを踏み外す場面もあった。夏美と冬毬は互いに目配せして心配そうに見ていたが、恋は何事もないかのように取り繕った。

 

解散の時間となり、帰り支度をする恋に夏美が近づいた。

 

「恋先輩、大丈夫ですの?何か気になることありますの?」

 

恋は笑顔を作ったが、その笑顔には疲労が滲んでいた。

 

「少しだけ。でも心配しないでください。ただ……明日の練習は休ませてもらってもいいでしょうか?体調が良くなくて」

 

「もちろん!しっかり休んでくださいですの」

 

恋は感謝の意を示してから一人で部室を出た。廊下を歩きながら、ポケットの中の小瓶を握りしめる。

 

(マルガレーテさん……一体何者なのでしょうか?そして三日後の新月の夜……)

 

校舎を出ると、夕焼け空が広がっていた。恋は月を探すように東の空を見上げたが、まだそこには小さな半月が浮かぶばかりだった。

 

(これから何が起きるのでしょうか……)

恋の胸には、不安と希望が入り混じった感情が渦巻いていた。

 

# 新月への不安

 

夜九時半、恋はいつもの公園に立っていた。薬の効果はとうに切れていた。今夜の月はまだ細く、巨大化の速度は比較的遅いものの、それでも確実に彼女の身体は天を突く高さへと伸びていく。今や十数メートルの巨人となった恋は、街を見下ろしながら自分の存在の重さを感じていた。

 

「いつまで続くのでしょう……」

 

囁きのような呟きが、街路樹の葉をそっと揺らした。彼女の視界に映るのは、自分が住む住宅街。そして遠くに見える学校の建物。恋は無意識のうちに学校の方角に顔を向けた。まるでそこに何か重要なものが潜んでいるかのように。

 

---

 

一方、鬼塚家の二階では、冬毬が夏美を壁際まで追い詰めていた。姉の青白い顔には疑念が浮かび、冬毬の橙色の瞳が鋭く光っている。

 

「姉者、本当のことを教えてください。昨晩、窓から見たものは何だったのですか?」

 

「う……冬毬……」

 

夏美はベッドの上で困ったように頭を掻いた。もう逃げ道はない。彼女の口から、昨夜見た全てが語られ始めた。満月の下で巨大化する恋の姿。サヤさんとの会話。月の力を抑える薬。全てを聞き終えた冬毬は、しばらく黙り込んだ。

 

「信じられない……」ついに彼女が言った。「ですが、マルガレーテの言葉と一致します。新月の夜に真実を教えるというのは……」

 

「やっぱり恋先輩に関係してるんですの!?」夏美が身を乗り出す。

 

「可能性は高いですね」冬毬は頷いた。「姉者、恋先輩が今後どうなるか、私たちに何ができるか考えるべきです」

 

「そうですの!でも……」

 

夏美は言葉を切って窓の外を見た。月が昇りかけている。

 

「もしかして恋先輩は今も……」

 

「おそらく」冬毬も窓に近づいた。「行きましょうか」

 

「え?どこに?」

 

「恋先輩のもとへ」

 

---

 

公園の端から見上げると、巨大な恋の姿があった。二人は木陰に隠れながらも、その威容に圧倒されていた。

 

「すごいですの……」夏美が息を呑む。

 

その時、恋が二人の気配に気づいたように首を巡らせる。街灯の下で彼女の巨大な瞳が二人を捉えた。

 

「夏美さん……冬毬さんも?」

 

声が風のように吹き抜ける。冬毬は思わず耳を塞いだ。

 

「恋先輩、大丈夫ですの?」夏美が叫ぶ。

 

恋の顔に苦笑いが浮かんだ。

 

「あまり大丈夫ではないですが……心配しないでください」

 

「冬毬からマルガレーテの話を聞きましたの」夏美が続ける。「新月の夜、何かあるんじゃないですの?」

 

恋は空を見上げた。新月まであと三日。

 

「詳しいことはわかりません。ただ……」彼女は言葉を選んでいるようだった。「三日後、私は何か重要な選択を迫られる気がします」

 

冬毬が前に出た。

 

「私たちにできることはありますか?」

 

巨大な恋は二人を見つめ、そしてゆっくりと手を地面に伸ばした。その指先は優しく二人の上に置かれた。触れることはなく、ただ風圧だけで包み込むような感触。

 

「あなたたちの友情が何よりの力です」恋の声には温かみがあった。「それがあれば、どんな困難も乗り越えられるでしょう」

 

突然、恋の身体が光り始め、縮小し始めた。月が雲に隠れたのだ。

 

「行ってください」恋が懇願するように言った。「そして明日の練習は欠席します。マルガレーテさんと対峙する準備をしなければなりません」

 

二人が駆け出そうとした時、背後から新たな声が響いた。

 

「それで良い判断だわ、恋」

 

振り向くと、そこにはマルガレーテが立っていた。紫色の長い髪が風に揺れている。彼女はニヤリと笑った。

 

「新月の夜、この公園で待ち合わせよ。全てを終わらせてあげるから」

 

そう言い残すと、マルガレーテは闇の中に消えていった。

 

---

 

翌日の学校は二人にとって拷問のように長かった。授業に集中できないまま、午後の練習時間を迎えた。恋はやはり来ていない。

 

部室でストレッチをしていると、冬毬が言った。

 

「姉者、マルガレーテの目的は何だと思いますか?」

 

「わからないですの」夏美は率直に答えた。「でも、何か重大なことを知ってるのは確かですの」

 

「しかも恋先輩が巨大化する能力を持ってることまで……」

 

「なんでそれを知ってるんでしょうね?」夏美が天井を見上げる。「もしかして……」

 

「マルガレーテも同じ能力を持つ者……?」

 

姉妹は互いの考えに言葉を失った。その時、部室のドアが開き、部長の千砂都が入ってきた。

 

「今日は恋ちゃんがいないけど、代わりに見学の人を連れてきたよ」

 

千砂都の後ろから現れたのは、なんとマルガレーテだった。部室内の空気が凍りつく。千砂都だけが純粋な笑顔で紹介した。

 

「マルガレーテちゃんっていうんだ。ヨーロッパからの留学生で、スクールアイドルに興味があるって!」

 

マルガレーテは一瞬夏美と冬毬に意味ありげな視線を送ってから、千砂都に向き直った。

 

「よろしくね、千砂都先輩」

 

その日の練習は波乱含みとなった。マルガレーテの振付のセンスが非凡だったのだ。夏美は悔しさと同時に、彼女の才能に感嘆せざるを得なかった。

 

練習後、更衣室で夏美と冬毬が話していると、不意にマルガレーテが近づいてきた。

 

「明日の放課後、旧校舎裏で待ってるわ」彼女は小声で言った。「恋先輩を救う方法を教えてあげる」

 

「なんで……どうして恋先輩のことを知ってるんですの?」夏美が食ってかかる。

 

マルガレーテはクスリと笑い、謎めいた言葉を残して去っていった。

「それは明日わかるわ。ただ言っておくと……恋先輩は選ばれた存在なの」

 

# 交錯する秘密

 

放課後の校庭で、部活動が終わったばかりの夕暮れ時。冬毬は約束通りマルガレーテが待つ旧校舎裏に立っていた。夏美には「宿題のことで相談がある」と伝えたが、姉の鋭い視線を避けることはできなかった。

 

「来たわね」薄暗がりからマルガレーテが現れる。紫の髪が西日に染まり、不気味な赤みを帯びていた。「さあ、行きましょうか」

 

二人は無言で歩き出し、街外れにある古びた洋館に到着した。マルガレーテが扉を開けると、埃っぽい匂いと共に暖かな照明が灯った。アンティーク家具が並ぶ居間には、テーブルクロスのかかった円卓と、ワイングラスが二つ。

 

「ここは……?」冬毬が警戒しながら尋ねる。

 

「私の仮住まいよ。誰も来ないから安心して」マルガレーテは紅茶を注ぎながら微笑んだ。「さて、本題に入りましょうか」

 

窓から夕陽が射し込む部屋で、マルガレーテはゆっくりと話し始めた。彼女の瞳は光の角度で色を変える魔法のように見えた。

 

「冬毬、あなたは恋先輩の秘密を知っているでしょう?月光の下で巨大化する能力について」

 

冬毬はゴクリと喉を鳴らした。「どうして……」

 

「私にも同じ力があるからよ」マルガレーテの言葉に冬毬は息を呑んだ。「私の場合は逆ね。太陽の光で巨大化する。昼間は普通だけど、夜になると……」

 

マルガレーテが立ち上がり、窓辺に向かう。日没が始まり、彼女の影が長く伸び始めた。

 

「見せましょう。私の秘密を」

 

太陽が山の稜線に隠れると同時に、マルガレーテの身体が歪み始めた。最初はわずかな光のゆらめきだったが、次第に彼女の輪郭がぼやけていく。そして……縮小し始めたのだ。

 

「え……縮むんですか?」冬毬が驚きの声を上げる。

 

マルガレーテの姿は10歳程度の少女に変わり、さらに縮んで小さな子犬ほどの大きさになった。彼女は小さな体でくるりと回り、再び元の年齢の少女の姿に戻る。

 

「これが私の能力」マルガレーテは小さく笑った。「でも本題はここからよ」

 

「本題?」冬毬は混乱していた。

 

「恋先輩のことよ」マルガレーテは深刻な表情になり、「明日、全てが変わってしまう。彼女の月の力は暴走寸前なの」

 

「どういうことです?」冬毬が身を乗り出す。

 

「説明するわ。でもそのためには、私の過去から話さないといけない……」

 

マルガレーテの顔に影が落ちる。

 

「私たちは選ばれた存在なの。ヨーロッパには古くから月と太陽に導かれる双子の伝説があるのよ。月の力を持つ者が災いを招くとき、太陽の力を持つ者がそれを鎮めるという……」

 

冬毬の思考が追いつかない。ただ、重要な情報を得ようとして必死に耳を傾けた。

 

「つまり、私が恋先輩を助けられるということよ」マルガレーテの声が強くなった。「明日の新月の夜、彼女の力は最も弱まる。その時こそ……」

 

その時、外で雷鳴が轟いた。突然の豪雨が窓を叩き始める。

 

「始まったわね」マルガレーテが囁く。

 

---

 

同時刻、恋の家。

 

恋は熱っぽい体をベッドに横たえていた。体調不良は方便のはずだったが、薬の副作用が思いのほか強く出ていた。窓の外には雲が厚く垂れ込め、満月の光さえ遮っている。

 

「サヤさん……どこに……」恋がかすれた声で呼ぶ。

 

普段なら常に側にいるメイドの姿がない。部屋の中は異様に静かで、雨音だけが響いていた。

 

突然、激しい頭痛が恋を襲った。ベッドから転がり落ちるようにして床に這いつくばる。全身の骨が軋むような痛み。巨大化が始まっている—でも今夜は違う。

 

窓ガラスに映る自分の姿を見て恋は絶句した。普段なら上に向かって伸びていくはずの体が……横方向に伸びている。腕や脚が異常に長く、バランスを失った骨格。まるでクモのような……異形の姿へと変わっていく。

 

「うそ……こんな……」恋の声が震える。

 

身体はすでに人間のものではなくなりつつあった。床を這いずる姿勢で部屋の隅に辿り着き、窓から見える空を見上げる。雲の隙間から一筋の月光が差し込み、恋の姿を不気味に照らし出した。

 

その瞬間、部屋の電気が一斉に消えた。

 

---

 

洋館ではマルガレーテが突然立ち上がった。

 

「恋先輩が危険よ!来なさい!」

 

冬毬が制止する間もなく、マルガレーテは窓を開け放ち、身を投げ出した。冬毬が叫び声を上げる前に、マルガレーテの姿が一瞬で消え、次に現れた時には体が巨大化していた。

 

「えっ……嘘…」

 

冬毬は自分の目を疑った。マルガレーテの姿は月明かりの下で見る恋ほど大きくはないものの、既に普通の家屋を超える大きさになっていた。しかし彼女はそこで止まらず、さらに巨大化していく。家を飛び越え、街を見下ろす高さまで。

 

「どういうこと……太陽の光がないのに……」冬毬が震える声で呟く。

 

答えはなかった。マルガレーテはすでに遥か上空から街を見下ろし、恋の家の方向を目指して歩き出していた。

 

---

 

恋の家では、サヤが必死に玄関をノックしていた。

 

「お嬢様!中にいらっしゃいますか!」

 

しかし応答はない。鍵がかかっていることを確認したサヤは非常用の鍵で扉を開けた。家中には誰もいない—いや、奥の寝室から微かな息遣いが聞こえてくる。

 

「お嬢様!」

 

サヤが駆け込んだ部屋には、信じられない光景が広がっていた。天井近くまで伸びた異形の姿の恋。人の形を保てなくなった彼女の体は、今なお変化を続けていた。

 

「お嬢様……」

 

サヤの声に恋はわずかに反応した。その目には依然として理性の光が残っている。

 

「サヤ……さん……助けて……」

 

その瞬間、激しい地響きと共に部屋が揺れた。窓の外を見ると、巨大なマルガレーテの姿が家に向かって近づいてきていた。

 

「何……あれ……」サヤが呆然とする。

 

恋も窓の外を見て絶句した。

 

「マルガレーテ……さん?」

 

窓ガラスが震える中、外からマルガレーテの声が響いてきた。

 

「恋先輩!窓を開けて!助けに来たわよ!」

 

恋は苦悶しながらも最後の力を振り絞り、窓を押し開けた。隙間からマルガレーテの巨大な手が滑り込み、異形の恋を優しく包み込む。

 

「あなたの力を取り戻しましょう」マルガレーテの声が降り注ぐ。

 

その時、サヤが何かを悟ったように叫んだ。

 

「お嬢様!こちらです!」

 

彼女が差し出したのは、恋の薬ではなく別の小瓶だった。月の力を調整するための強力な抑制剤。

 

「これを使ってください!」

 

恋がその小瓶に手を伸ばそうとした瞬間、予想外の妨害が起きた。空が一瞬にして明るくなり、月の光が強烈に差し込んだのだ。

 

「うっ!」

 

恋の身体がさらに異形化し始める。マルガレーテもまた、巨大化のペースを加速させた。

 

「どうして……こんな……」

 

混乱の中、サヤは決定的な行動に出た。彼女は自らを犠牲にするかのように、恋を抱えるマルガレーテの指の隙間に飛び込んだ。

 

「サヤさん!?」

 

次の瞬間、サヤは恋の持つ小瓶を割った。中身がマルガレーテの皮膚に触れると、彼女の巨大化が突然止まった。

 

「何を……!」

 

マルガレーテの怒号が響く中、サヤは恋に向かって微笑んだ。

 

「お嬢様、ご安心を。私の任務は……」

 

その言葉は最後まで続かなかった。マルガレーテの巨大な指の間で、サヤの姿は急速に縮小し、消滅してしまったのだ。

 

「サヤさん!?」恋の叫びが空を切り裂く。

 

しかし悲しむ暇もなかった。マルガレーテが身を屈め、窓枠ごと家を破壊しながら恋に近づいてきた。

 

「もう終わりにしましょう、恋先輩」マルガレーテの声に狂気の色が混じる。「これ以上苦しむ必要はないわ」

 

異形の恋は必死に抵抗しようとするが、力が抜け落ちていく。

 

「そんな……私はまだ……」

 

突如、遠くから別の叫び声が響いた。

 

「恋先輩!マルガレーテ!」

 

冬毬だった。彼女は隣の家の屋根の上から二人を見下ろしていた。

 

「何をしているんですか!?」

 

マルガレーテは初めて冬毬に気づいたように首を巡らせた。

 

「邪魔しないで!あなたには関係ないわ!」

 

しかし冬毬は退かなかった。

 

「関係あります!恋先輩は私たちの大切な仲間です!」

 

その言葉に触発されたように、恋の瞳に意志の光が戻ってきた。

 

「冬毬……さん……」

 

マルガレーテの目が冷たく光る。

 

「愚かな……邪魔者は消えてもらうわ」

 

マルガレーテが冬毬に向かって手を伸ばした瞬間—

 

「そこまでですの!!」

 

上空から夏美の声が轟いた。彼女は隣町の教会の尖塔に立っていた。両手を広げた姿は月の女神のようだった。

 

「鬼塚流忍法……『月光影縛り』ですの!!」

 

夏美の放ったワイヤーが地上に向かって伸び、マルガレーテを拘束したかに見えた。だがその効果は一瞬だった。

 

「ふふ……可愛い試みね」マルガレーテは嘲笑う。「でも私はもう完全な力を取り戻したのよ」

 

夏美が息を呑む。

「そんな……」

 

# 明かされる真実

 

月が再び雲に隠れた瞬間、全ての状況が一変した。マルガレーテの巨大化が突然停止し、彼女の体は急速に縮み始めた。同時に恋の異形も人間の形状へと戻りつつあった。肉付きが均整を取り戻し、不自然に伸びていた手足は縮んでいった。

 

「なんとか……間に合いましたの」夏美が安堵の息を漏らしながら地面に降り立った。

 

マルガレーテは苦々しい表情で自分の元のサイズに戻っていく体を見下ろした。完全に通常の姿に戻った彼女は、崩れるように膝をついた。

 

「残念ね……」マルガレーテの声には諦めと悔しさが混ざっていた。

 

冬毬は怒りに満ちた表情で二人に近づいた。特にマルガレーテに対しては燃えるような目つきで睨みつけている。

 

「マルガレーテ、これはどういうことですか?恋先輩に何をしようとしたのです?」

「サヤさんが消えたのは……あなたたちの仕業なんですか?」

「新月の夜に何が起こるんですか?全てを話してください!」

 

恋もようやく立ち上がり、不安定な足取りで冬毬の横に並んだ。二人の鬼塚姉妹による厳しい追及に、マルガレーテはついに根負けしたように溜息をついた。

 

「……仕方ないわね。全部話すわ」

 

マルガレーテは座り込み、真夜中の暗闇の中から話を始めた。彼女の声は風の音に溶け込みながらも、四人の間に奇妙な静寂をもたらした。

 

「そもそも……私がここに来た目的は一つだけ。恋先輩の力を利用するためよ」

 

「利用……?」夏美が眉をひそめる。

 

「ええ。私の故郷にある一族の伝統でね。太陽と月の力を操る二人の巫女が必要なの」

「それぞれが極大化したときに生まれるエネルギーで……特定の封印を解くのよ」

 

「封印……?」冬毬が問い返す。

 

「古の竜よ」マルガレーテの目が暗闇の中で光った。「数千年前に封印された巨大な竜。その力があれば……私の一族は世界を支配できる」

 

恋は身震いした。「そんな……恐ろしい計画……」

 

「でも失敗したわ」マルガレーテは自嘲的に笑った。「恋先輩の力を完全に掌握できなかった。それに……」

彼女は窓の外を見上げた。雲間から再び月が顔を出している。

 

「新月の夜……つまり明日の夜が本当のチャンスなの。私の力が一番弱くなる反面、恋先輩の力が最も制御可能になる」

 

「だから今夜……」冬毬が理解したように言葉を継ぐ。「恋先輩の力を奪おうとしたんですね」

 

「正解よ」マルガレーテは認めた。「でもまさか……あなたたち姉妹がここまで嗅ぎつけるとは思わなかったわ」

 

恋が一歩前に出た。「あなたの一族のために人々を危険に晒すことはできません。竜の封印を解くなんて……許されるわけがありません」

 

「わかってるわ」マルガレーテは意外なほど素直に答えた。「でももう止められないの。一族の決定は絶対的だし……」

彼女は不意に立ち上がった。「だから、せめて被害を最小限に留めるために……協力してほしいの」

 

四人は顔を見合わせた。

 

「どういうこと?」夏美が問いかける。

 

「私と一緒に新月の儀式を行って」マルガレーテの提案は意外なものだった。「ただし儀式の過程で細工をするの。封印は解くけど……竜の力を永遠に無力化させる」

 

「そんなことが可能なのですか?」恋が慎重に尋ねた。

 

「理論的には可能よ」マルガレーテは自信ありげに頷いた。「問題は……あなたたち三人の協力が必要だってこと」

 

「私たちも参加するんですの?」夏美が困惑した表情を浮かべる。

 

「正確には見届け人よ」マルガレーテは説明した。「儀式には証人が必要なの。そして……あなたの一族の血を持つ夏美」

「鬼の名を持つあなたたちの証言は特別な力を持つ。それに冬毬、あなたも恋先輩の秘密を知る者として重要なの」

 

三人は顔を見合わせた。冬毬がゆっくりと頷いた。

 

「条件をつけさせてもらいます」

「まず、サヤさんをどうしたのか教えてください。そして、新月の夜に何が起こるのか詳細を知りたい」

 

マルガレーテは一度目を閉じてから答えた。

 

「サヤさんは……一時的に異空間に移されたわ。私の力で明日の夜には戻すことができる」

「新月の儀式では、恋先輩と私の力を最大限に引き出し合い、互いの力を融合させる。その瞬間に特別な結界を形成して竜の力を封じ込めるの」

 

「危険はないんですの?」夏美が心配そうに尋ねる。

 

「リスクはゼロじゃない」マルガレーテは正直に答えた。「でも今の状況よりは安全よ。恋先輩の力は制御不能になりかけてる。私のように……」

 

彼女の言葉は唐突に途切れた。再び月が雲に覆われたのだ。マルガレーテの姿が一瞬だけ変化しそうになって止まった。

 

「……とにかく」マルガレーテは深呼吸して続けた。「明日の夜が勝負よ。場所は旧市街の廃墟神社。日没と同時に開始する」

 

恋は考え込むように俯いた。「本当に信頼していいのでしょうか?」

 

マルガレーテは寂しげに微笑んだ。「私はもう戻れない。でも……あなたちを傷つけたくない気持ちもある。だから……賭けよ」

 

冬毬が口を開いた。「わかりました。明日の夜に参加します」

「ただし、私たちにも準備の時間が必要です」

 

「もちろん」マルガレーテは立ち上がった。「明後日の朝7時に神社で会いましょう」

彼女は窓から飛び降りると、暗闇の中へと消えていった。

 

三人だけが残された部屋には沈黙が広がった。

 

「どうしますの?」夏美が恋に問いかけた。

 

恋は静かに窓の外を見つめた。「行くしかありませんね。サヤさんのことも心配ですし……」

「それに……もし本当に私の力で人々を守れるなら……」

 

「姉者」冬毬が決意に満ちた表情で言った。「明日の朝、学校でみんなに相談しましょう。特に千砂都先輩には……」

 

恋は首を横に振った。「いえ、これは私たち四人だけの秘密にしておきましょう。他の皆を巻き込みたくないのです」

 

「でも……」夏美が反論しかけた。

 

「信頼していますよ、みなさん」恋の言葉に、三人は深く頷いた。

 

その夜は短く感じられた。三姉妹(恋も含めて)は作戦を練り、必要な準備を整えた。午前零時を過ぎると月が再び雲間から顔を出し、恋の体に再び月光が降り注いだ。

 

「今夜はこれ以上の巨大化はさせません」恋は自分自身に誓うように言った。

彼女たちの決断の夜が訪れようとしていた。新月の暗闇の中で、二人の巫女の力が交わる時、どのような未来が待っているのか—それは誰にも予測できないことだった。

 

# 神聖なる対決

 

新月の夜。旧市街の廃墟となった神社跡に四人の姿があった。風化した鳥居の下で立ち尽くす恋とマルガレーテ。その傍らで固唾を呑んで見守る鬼塚姉妹。

 

「本当に……こんなところに竜が封印されているんですの?」夏美が周囲を見回しながら尋ねた。

 

「かつてここには強大な霊力を持つ巫女が祀られていた」マルガレーテが静かに答える。「その巫女が自らの命と引き換えに封印したと言われてるの」

 

冬毬が鳥居に刻まれた古文を読み解こうとしていた。「確かに古代文字で何か記されています。『月と太陽の巫女による結界』と……」

 

恋は不安げに星空を見上げた。「本当に……これでよかったのでしょうか?」

 

「他に選択肢はないわ」マルガレーテの声には珍しく迷いが混じっていた。

 

その時、突然雲が動き、星だけが空を飾る瞬間が訪れた。

 

「始まるわよ」マルガレーテの言葉と同時に、彼女の体が淡い紫色の光に包まれた。続いて恋の体も銀色の光を放ち始める。

 

「うっ……」恋が呻き声を上げた瞬間、二人の足元から光の柱が立ち上り、その体は宙に浮かび始めた。

 

「これが……儀式の第一段階よ」マルガレーテの声が遠くから聞こえてくるようだった。

 

突然、夏美と冬毬の足元にも小さな光の円陣が広がり、二人の体も浮遊し始めた。

 

「わぁ!?」夏美が驚きの声を上げる。

 

「動かないで」マルガレーテの冷静な指示。「あなたたちは証人として儀式に参加するの」

 

光の柱がますます強くなり、四人を包み込むと景色が歪み始めた。廃墟だった神社跡が見えなくなり、周囲は無限の宇宙のような空間に変わっていた。

 

「これは……」冬毬が目を凝らす。

 

「異空間よ」マルガレーテの声が響く。「現実と切り離された儀式の領域」

 

その言葉と共に、恋とマルガレーテの姿に変化が起こり始めた。

 

恋の長い黒髪が空中で波打ちながら伸びていき、その長さは何十倍にも膨れ上がっていった。まるで天を貫く漆黒の滝のようだった。彼女の体も比例して巨大化し始め、その細身のシルエットが残しながらもHカップほどだった乳房は急激に膨らんでいった。

 

「恋先輩……」冬毬が息を呑む。

 

恋の巨乳は美しく均整の取れた形を保ちながらも、そのボリュームは凶暴なまでの巨大さを獲得していった。完璧な半球型を描きながら、その重量感ある存在感を主張している。肌は月光を反射するかのように煌めき、血管すら透けて見える艶めかしさを持っていた。

 

マルガレーテの変貌もまた劇的だった。彼女の背中まで伸びる紫の髪は今や足元まで伸び広がり、星の光を受けて神秘的な輝きを放っていた。まだ弱冠十五歳でありながらEカップを誇っていた彼女の胸は、その若々しさを保ちながらも爆乳へと進化していた。

 

美巨乳と呼ばれる適度な大きさから脱却し、彼女の胸部は驚異的な量感と柔らかさを兼ね備えた超人的な形態へと変貌していた。柔軟性と弾力性が見事に調和したその二つの山脈は、重力に逆らうかのように上方に隆起し、絶妙な均衡を保っていた。

 

「すごい……」夏美が思わず言葉を漏らす。「こんな変化が……」

 

恋の声が異空間全体に響き渡った。「止まらない……力が溢れてきます!」

 

マルガレーテも同様だった。「私も……この感覚は初めて!」

 

二人の巨大化は止まることを知らず、その体は既に百メートルを超えようとしていた。恋の黒髪は星々に届くほどに伸び、その巨乳は巨大な惑星のように壮大に存在していた。マルガレーテの紫髪は広がって空間全体を彩り、彼女の爆乳は渦巻く銀河のような荘厳さを湛えていた。

 

「怖いです……恋先輩……」冬毬の声が震えた。

 

「大丈夫です」恋の声が穏やかに届く。「制御できます。私たちの力を一つにすれば……」

 

「そうよ」マルガレーテが同意する。「儀式の最終段階に入るわ」

 

彼女たちの巨大な姿が徐々に接近し合い、お互いの間でエネルギーが渦巻き始めた。星々が激しく輝き、異空間全体が脈打つように震えている。

 

「夏美さん、冬毬さん!」恋の呼びかけに姉妹は我に返った。

「見ていてください。これが最後です」

 

二人の巫女の巨大な影が交わり合う瞬間、眩い閃光が異空間を包み込んだ。夏美と冬毬は思わず目を閉じる—しかしその閉じた瞼の裏でも光は感じられた。

 

そして静寂。

 

目を開けると、そこには元の廃墟神社の景色が広がっていた。光は消え、夜空には依然として星だけが瞬いている。

 

しかし恋とマルガレーテは変わらず巨大な姿のままだった。数百メートルに及ぶ二人の姿が旧市街の闇に屹立している。

 

「成功した……みたい」恋の声には安堵の色があった。

 

「そうね」マルガレーテも頷いた。「結界は完成したわ。竜の力は永久に封じられた」

 

「じゃあ、サヤさんは?」冬毬が急いで問う。

 

「元に戻してあげる」マルガレーテが手を伸ばすと、小さな光の玉が浮かび上がった。「これは彼女の魂よ。本来の肉体に戻れば……」

 

光の玉が拡散すると、そこには通常サイズのサヤの姿があった。彼女は目を擦りながら周囲を見回した。

 

「お嬢様?何が……」

 

恋は涙を浮かべながら「サヤさん!」と呼びかけた。

 

「これで全て終わり……」マルガレーテが言いかけた瞬間、

 

地面が震動した。

 

廃墟の中心部から黒い煙が噴き出し始めた。地面が割れ、古代の封印紋様が浮かび上がる。

 

「そんな……封印が……」マルガレーテが狼狽えた。

 

恋の顔色が変わる。「まだ終わっていないのですね」

 

黒煙は渦を巻きながら上昇し、竜の形となって天を仰いだ。巨大な翼と鱗を持った幻影が旧市街の上空に浮かび上がる。

 

「なぜ……儀式は成功したはずなのに!」マルガレーテの声に焦りが混じる。

 

「完全ではありませんでした」恋が静かに言った。「私の心に迷いがあった……」

 

黒竜の咆哮が夜を引き裂く。

 

「今さら後悔しても……」マルガレーテが歯噛みした。

 

恋は毅然とした表情で前を向いた。「でも諦めません。マルガレーテさん」

 

「何を……」

 

「最後の一撃をお願いします」恋の瞳に決意の炎が宿る。「私たちの力を一つにすれば、今度こそ本当に終わらせられます」

 

黒竜が攻撃態勢に入ろうとした瞬間、恋とマルガレーテはお互いの手を取った。巨大な二つの影が交わり、星々が再び激しく輝き始めた。

 

「姉者!冬毬!」夏美が叫ぶ。「私たちにできることは?」

 

冬毬は決然と答えた。「祈りましょう。恋先輩とマルガレーテの成功を」

 

三姉妹とサヤは手をつなぎ、月のない夜空を見上げた。その祈りが届いたかのように、巨大化した二人の巫女の間で眩い光の柱が立ち上る。

 

黒竜が攻撃を繰り出す直前、恋とマルガレーテの声が一つになり響き渡った。

 

「月と太陽の力を以て、古の竜よ眠れ!」

 

光の奔流が竜を飲み込み、その姿は徐々に透明になっていく。黒い霧となって空気に溶け込むように消滅し、やがて夜空は完全な静寂を取り戻した。

 

数分後、恋とマルガレーテの巨大化も収まり始め、少しずつ元のサイズに戻っていった。二人とも疲労の色を浮かべているが、その表情には達成感があった。

 

「終わりましたの?」夏美が恐る恐る尋ねる。

 

「ええ」マルガレーテは肩を落とした。「これで私の一族との契約も破棄されたわ」

 

恋は静かに頷いた。「全て解決しました」

 

空が白み始めている。新月の夜が明ける時が来た。

 

「これからどうするんですの?」冬毬が尋ねた。

 

マルガレーテは少し考えてから答えた。「帰るべき場所へ帰るわ。でもその前に……」

彼女は恋に向かって深く頭を下げた。

「あなたに謝りたい。私の行いを許してほしい」

 

恋は優しく微笑んだ。「もう充分です。大切なものを守るために戦った。それが全てです」

 

マルガレーテの目に涙が光った。

朝焼けが旧市街を金色に染めていく中、四人とサヤは静かに佇んでいた。新しい一日の始まりと共に、新たな関係が芽生えようとしていた。

 

# 夜の秘密

 

次の日はいつもより早く来た。朝日が教室の窓から差し込む頃、恋は既に学校に来ていた。机の上に広げたノートに何度も計算式を書き直している。

 

「おはようございますの~!」夏美が元気よく教室に入ってくる。「今日も恋先輩は早起きですのね」

 

恋は慌ててノートを閉じた。「あ、おはようございます。ちょっと宿題で分からないところがあって……」

 

「宿題?何の教科ですの?」

 

「数学です。この問題だけどうしても解けなくて」恋はノートを見せようとすると—

 

「それは普通科のクゥクゥ先輩に聞いてみてはどうですか?」冬毬が廊下から入ってきて言った。「昨日教えてもらったんですが、すごく分かりやすかったです」

 

恋と夏美が驚いた表情で冬毬を見る。恋はすぐに微笑みを作り直した。「そうですか。ありがとう、冬毬さん」

 

---

 

昼休み、恋は部室の鏡の前で立ち止まっていた。制服のボタンが少し窮屈に感じる。昨夜の巨大化の影響がまだ残っているのだろう。身長が163センチから170センチに伸び、バストもHからIカップに成長していた。

 

「恋ちゃん、お昼食べよう!」千砂都がドアを開けて入ってくる。「今日はランチルームで新メニューが出るって噂なんだ!」

 

「あ、すみません。実は今日は食欲があまりなくて……」恋は苦笑いする。

 

千砂都の表情が曇った。「やっぱり体調悪いの?昨日も練習休んでたし……」

 

「いえ、大したことじゃないんです」恋は強引に話を切り替えた。「それより千砂都さん、今度のお祭りに向けての準備はどうですか?」

 

「うまくいってるよ!ただ……」千砂都は少し躊躇った後、「あの新入生のマルガレーテちゃんが気になってて。恋ちゃんを狙ってるんじゃないかって……」

 

恋は一瞬固まった。「狙ってるというのは……」

 

「スクールアイドル部のことだよ!」千砂都は慌てて補足した。「彼女も凄い才能を持ってるから、きっと恋ちゃんに憧れてるんじゃないかなって」

 

恋はホッと肩の力を抜いた。「そういうことですね。彼女には期待しています」

 

「それから……」千砂都が急に小声になる。「マルガレーテちゃんって本当に留学生なのかな?」

 

恋は眉を寄せた。「どういう意味ですか?」

 

「なんとなく……外国の話をする時だけ目が泳ぐっていうか……」千砂都は申し訳なさそうに付け加えた。「気に障ったらごめんね」

 

「大丈夫ですよ」恋は静かに答えた。「みんな気になる時期ですから」

 

---

 

放課後、恋は医務室を訪れた。ベッドに寝かされていたマルガレーテは青白い顔をしており、額には冷たいタオルが置かれている。

 

「具合はいかがですか?」恋が優しく声をかけると、マルガレーテはゆっくりと目を開けた。

 

「最悪ね……」彼女は弱々しく笑った。「でもここで倒れたおかげで宿題を提出できたわ」

 

「宿題のこと……聞きましたよ」恋は椅子に腰掛けた。「マルガレーテさん、あなたは一体何を隠しているんですか?」

 

マルガレーテの表情が硬くなる。「何も隠してなんか……」

 

「嘘です」恋の声が凛と響く。「私の観察眼を甘く見ないでください。あなたの足音がいつも少し不自然なことに気づいていませんか?」

 

マルガレーテは驚いたように目を見開いた。「どうして……」

 

「それに昨日の会話も。"誰かの前では言えない"という言い方をするということは……」恋は一拍置いて続けた。「誰かがあなたを監視しているということですね?」

 

沈黙が二人を包む。窓の外では夕暮れが深まっていく。

 

「恋先輩」マルガレーテがようやく口を開いた。「あなたの鋭さには敬服するわ。でも……」

 

「でも?」恋が促す。

 

「今夜、七時までに私の部屋に来て超魔だい。本当のことを話すわ。一人だけで」マルガレーテは真剣な眼差しで恋を見つめた。「もちろん来なくても構わないわ。その時は……」

 

「行きましょう」恋は即答した。「大切な後輩の悩みを聞かないわけにはいきません」

 

---

 

その夜六時五十分。恋は校門の外で待っていた。スマホを見るとラインにメッセージが届いている。冬毬からだった。

 

『マルガレーテから連絡がありました。"恋先輩を連れ去るつもりはないから安心して"とのことです。ですが万が一のことがあれば、すぐに姉者に連絡してください』

 

恋は微笑んで返信した。『心配しないで。話し合いに行くだけです』

 

七時の鐘が鳴る。洋館の入り口にマルガレーテの姿が現れた。

 

「遅くなりました。ごめんなさい」恋が駆け寄る。

 

「いいえ」マルガレーテは少し緊張した様子で答えた。「では行きましょうか」

 

二人は静かに階段を上り、マルガレーテの部屋に入った。窓からは夕暮れの空が見え、月が薄く光り始めている。

 

「それで……」恋が切り出す前に、マルガレーテがソファを示した。

 

「まずは座ってちょうだい」彼女は紅茶を淹れ始めた。「お話の前に……」

「私の家族について知ってほしいの」

 

恋は言われた通りに腰掛ける。マルガレーテがティーカップを運んでくると、その手が微かに震えているのが見えた。

 

「私の父は……特殊な組織のトップなの」マルガレーテは一口紅茶を啜った。「世界中の神秘現象や超常現象を研究している秘密組織」

 

恋は息を呑んだ。「それは……本気ですか?」

 

「もちろん」マルガレーテは真摯な表情で続けた。「私には生まれつき特殊な能力があるわ。それを目覚めさせるため……あなたに近づいたのよ」

 

「私の力……ですか?」恋が怪訝な顔をする。

 

「ええ。あなたの巨大化能力と私の感知能力は相互作用する可能性があるの」マルガレーテは胸のペンダントを取り出した。「これが証拠よ」

 

ペンダントが青白い光を放ち始める。恋の体が微かに熱くなった。

 

「今夜……あなたが巨大化する瞬間に立ち会わせて欲しいの」マルガレーテの声が震える。「私の力が目覚めるかもしれない……そうすれば組織の支配から逃れられるわ」

 

恋は静かに考え込んだ。「私が……協力するとしたら?」

 

「解放されるわ」マルガレーテの目に希望の光が灯る。「自由に生きていけるの。それに……あなたを守る術も身につけるでしょう」

 

窓の外で月が雲に隠れる。突然恋の体が軋み始めた。

 

「今夜は新月の後だから……」恋が苦しそうに言う。「かなり大きな変化がありそうです」

 

「それなら……」マルガレーテは決意に満ちた表情で立ち上がった。「始めましょうか。恋先輩」

 

二人は窓辺に立つ。雲間から月光が射し込み、恋の体が輝き始めた。マルガレーテも同様に発光し始める。

 

「これが私の……使命なの」マルガレーテが囁く。

 

「そして私の……宿命ですね」恋も静かに応じた。

二人の影が月明かりの中で伸びていく。今夜の巨大化が始まったのだ。

 

# 巨大化の夜

 

雲が晴れ、月光がマルガレーテの洋館を照らし始める。窓際に立つ二人の体から放たれる光が部屋中に広がり、家具が微かに震えていた。

 

「始まったわ」マルガレーテの声が部屋に響く。彼女の紫紺の瞳が月光を反射し、幻想的な輝きを放っている。

 

恋の足元から微細な振動が床に伝わる。「やはり……新月の後だからでしょうか。制御が難しいです」

 

最初に変化が訪れたのはマルガレーテだった。彼女の頭上の髪が宙に舞い上がり始め、背丈よりも長く伸びていく。同時に背筋が伸び、服装が徐々に膨らみ始める。セーラー服の襟が浮き上がり、スカートの裾が風もないのに翻った。

 

「うっ……」マルガレーテが苦悶の表情を浮かべる。「普段よりも強い……」

 

一方の恋も変化していた。長い黒髪が一本一本が生命を持ったように躍動し始め、足元まで達していた長さが更に伸びていく。その毛先が床に触れてもなお伸び続け、フローリングに広がっていく。

 

「恋先輩!」マルガレーテが叫ぶ。「集中して!制御を意識するの!」

 

「分かっています……」恋の声が震える。「でも今回は……今までと違う気が……」

 

窓ガラスが揺れ始めた。部屋の照明器具が危うく傾き、壁際の本棚が震動している。二人の巨大化の兆候が明らかに異質だった。

 

マルガレーテの体が縦方向に伸び始め、窓枠の高さに到達しようとしていた。「まずいわ……こんな速さで巨大化するのは初めて……」

 

恋もまた急速に伸び続けていた。その身長はすでにマルガレーテを追い越し、部屋の天井に頭が接触しそうになる。巨大化と同時に体型も変化し始めていた。Hカップだった胸がさらに豊かになり、重力を感じさせない美しい曲線を描いている。

 

「恋先輩!外へ!」マルガレーテが焦燥を露わにする。

 

恋は瞬時に判断した。窓に向かって歩み寄ると、手をかけずに窓枠が内側から弾け飛んだ。破片が庭に降り注ぐ中、恋は窓を乗り越え、三階のバルコニーから直接夜空へと飛び出した。

 

月明かりの中、恋の巨大な影が街全体を覆い始める。30メートルを超え、40メートルを超え……そして60メートル。

 

「こんなはずじゃ……」マルガレーテもまた窓から身を乗り出していた。彼女も巨大化を続けるが、そのペースは恋ほどではなく32メートルで安定し始めた。その胸も比例してEカップからFカップほどの豊かな膨らみを示していた。

 

地上からは街の人々が騒ぎ始めていた。スマートフォンのカメラが二人の姿を捉え、SNSへの投稿が爆発的に増えている。

 

「恋先輩!停まって!」マルガレーテが叫ぶ。「このままでは街が……」

 

だが恋の巨大化は止まらない。80メートルを超えたところで一旦スピードが緩んだかに見えたが、再び加速し始めた。100メートルを超え、150メートルを超え……遂には200メートルの高さに到達する。そこでようやくペースが落ちたものの、それでも僅かずつ上昇を続けていた。

 

「200メートル……」マルガレーテが驚愕の声を上げる。「こんな数字見たことないわ……」

 

恋の声が遠くから聞こえてきた。その響きは地面を震わせる。巨大な口から発せられる声が空気を圧する。「マルガレーテさん……どうすれば……」

 

二人の上空をヘリコプターが旋回し始めた。報道各社のカメラが二人の姿を捉えている。

 

「何が起こってるんですの~!」夏美の声が耳元に響いた。マルガレーテが通信装置を接続していたのだ。

 

「夏美!状況が悪化してるわ」マルガレーテは急いで説明を始めた。

 

同時に冬毬からの連絡も入る。「姉者が異変を感じて起きたところです。私も窓を開けて見ていますが……信じられない光景です」

 

マルガレーテは唇を噛んだ。今夜の巨大化は想定外の事態だった。「恋先輩の巨大化が制御不能になった。助けを呼んでほしい」

 

「もうすでに呼んでますの!」夏美の声には焦りが混じっていた。「でも到着まで時間がかかりますの……」

 

「何とか時間を稼がないと……」冬毬が冷静に分析する。「姉者……恋先輩に話しかけてみてください」

 

マルガレーテは恋の方を見上げた。200メートル以上の恋が街を見下ろしている。その表情には恐怖と混乱が浮かんでいる。

 

「恋先輩!聞こえる?」マルガレーテの声が夜空に響く。

 

恋が顔をこちらに向ける。「マルガレーテさん……どうすればいいのですか?このままじゃ街が……」

 

「心を鎮めて」マルガレーテは深呼吸をした。「私たちは……繋がっているはずよ」

 

そう言いながらマルガレーテは自らの胸に手を当てた。ペンダントが再び輝き始める。

 

「私の力を使って……」彼女は集中した。「あなたの制御に……力を貸すわ」

 

マルガレーテの体から放たれる光が強く増幅し、恋に向かって一直線に伸びていく。その光が恋の胸に触れた瞬間、両者の体が共鳴するように輝きを放った。

 

「あれは何ですの?」夏美が驚きの声を上げる。

 

「共振現象……」冬毬が推測する。「二人の力が共鳴しているんです」

 

恋の巨大化のペースが徐々に鈍化していく。220メートルの地点で停止し始めた。

 

「成功ですの!」夏美が喜びの声を上げる。

 

しかし次の瞬間、遠くの空に新たな光が出現した。二人は同時に振り向いた。南東の方向から巨大な影が現れている。

 

「何ですの……?」夏美の声が震える。

 

そこに現れたのは……鬼塚姉妹だった。二人とも30メートル近い巨大な姿になっている。その胸も膨らみを増し、夏美のGカップが更にIカップへと大きくなっていた。冬毬も同じくバストアップし、EカップからGカップへと成長している。

 

「なぜ……私たちまで……」冬毬が戸惑いの表情を見せる。

 

「恋先輩の影響を受けているんですの!」夏美が理解したように叫ぶ。「私たちにも……潜在的な能力があったんですの!」

 

四人の巨大な姿が月夜の下に浮かび上がる。街全体が彼らの巨大な影に包まれていた。

 

「これは……計画外だわ」マルガレーテが呟く。「でも今は……状況に対処しなきゃ」

 

恋の目がマルガレーテに向けられる。「どうすればいいのですか?」

 

「全員の力を一つにまとめるの」マルガレーテは決意に満ちた表情で答えた。「四人の力を同期させて……バランスを取り戻すしかないわ」

四つの巨大な影が月光の下で接近し始めた。街の人々の目には未曽有の大パニックの光景が映っている。しかし四人にとっては、これは単なる偶然ではない—それは必然であり、彼女らの運命が交錯する瞬間だったのだ。

 

# 巨大なる結合

 

月光が照らす広大な公園に四人は集まっていた。中央区の商業地区から離れたこの場所なら、周囲への被害を最小限に抑えられる。

 

「本当に……できるのでしょうか」恋の巨大な声が夜空に響く。220メートルの巨人となった彼女は膝を折り曲げ、大地にしゃがみ込んでいた。そのRカップの巨乳が前方に垂れ下がり、その谷間がまるで深い峡谷のように見える。

 

マルガレーテは既に32メートルから40メートルにまで巨大化していた。「できるわ。私たちの力は波長が合うはず」彼女は恋の指先に手を伸ばした。

 

「私たちも準備できてますの」夏美が宣言する。鬼塚家の長女はすでに28メートルに達し、その胸はJカップに成長していた。

 

「いつでも」冬毬も応じる。次女の彼女は30メートル弱で、胸もFカップからGカップへと膨らんでいる。

 

「さあ」マルガレーテが恋の小指に触れた。「輪を作って。力を共有するの」

 

恋は慎重に腕を伸ばした。あまりに大きすぎて、自分の掌を見ることさえ困難な距離だった。しかし三人は懸命に接近し、ついに四人が手を繋ぐ輪が完成した。マルガレーテと夏美が左右から恋の指先を持ち、冬毬がその反対側を支える形だった。

 

「始めるわよ」マルガレーテが宣言する。「全員同時にエネルギーを開放して」

 

四人が同時に深呼吸をした瞬間—

 

恋の巨大なRカップの胸が揺れ、その谷間から生まれる風圧が前方の夏美を襲った。

 

「ひゃっ!」夏美が悲鳴を上げる。恋の右胸が彼女の顔面を覆い尽くし、「わたくしの目の前が恋先輩のお胸でいっぱいですの!」と困惑の声を上げた。

 

「ごめんなさい!」恋が慌てて胸を引き離そうとするが、その質量ゆえに簡単には動かせない。

 

「集中して!」マルガレーテが叱責する。「私たちには時間がないの」

 

冬毬が冷静に分析する。「恋先輩の制御能力が低下しているようです。心を落ち着かせてください」

 

「はい……」恋は深く息を吸い込んだ。「みなさん、力を一つにして……お願いします」

 

四人の体から発せられる光が強まり、繋いだ手を通じてエネルギーが循環し始める。マルガレーテの紫色の光、夏美の黄金色の光、冬毬の青白色の光—そして恋の純白の光が交差して虹色の輝きを放つ。

 

「あっ……」マルガレーテが痛みを堪えるような表情を浮かべた。「流れが……」

 

彼女の体から紫色の光が勢いよく放出され、徐々に体が大きくなっていく。45メートル……50メートル……その胸も膨らみを増していき、FカップがGカップへと進化していく。

 

「わたくしも!」夏美の声が大きく響く。彼女の体も急激に成長し始めた。60メートル……70メートル……その胸はKカップへと達しようとしていた。

 

「止めなければ……」冬毬は冷静さを失わないよう努めながらも、自分の体の変化を感じ取っていた。75メートル……80メートル……彼女の胸もHカップに成長していく。

 

「もう少し……」恋は三人の変化を見守りながら言った。「あと少しだけ……」

 

「だけど恋先輩!これ以上だと街が……」マルガレーテが懸念を表明する。

 

「大丈夫です」恋の声に自信が宿る。「制御は取り戻しつつあります」

 

四人の体から放出される光の流れが安定し始めると、マルガレーテと夏美の成長が90メートル前後で収束し始めた。冬毬は110メートルほどで安定する。

 

「成功……しましたの?」夏美の声が少し和らいだ。

 

「まだだよ」冬毬が警告する。「恋先輩の巨大化は抑制されていない」

 

恋の体は相変わらず220メートルの高さを保っていた。そのRカップの巨乳は月光を浴びて輝き、その表面に見える血管が美しい模様を描いている。

 

「私の力が……」恋が呟く。「皆さんからのエネルギーが逆流しているみたいです」

 

「なんてこと……」マルガレーテの顔が青ざめる。「これは想定外だわ」

 

その時、彼らを取り巻く空間に変化が起きた。夜空に浮かぶ月が二つに分裂し始めている。

 

「月が……」冬毬が上空を見上げる。「月が複製されていきます」

 

四人の力の融合が現実世界にまで影響を与えていた。もう一つの月が現れ、地球と月の引力のバランスが崩れようとしていた。

 

「恋先輩!」マルガレーテが必死の声を上げる。「力を完全に解放するの!今はその方が安全かもしれないわ」

 

恋は逡巡したが、「わかりました」と決意を固めた。「私が全てを受け入れます」

 

彼女の体から発せられる光が爆発的に増大し始めた。Rカップの胸がさらに膨張し始める。Sカップ……Tカップ……

 

「いやだ!」恋が叫ぶ。「これ以上は耐えられません!」

 

彼女の胸がXカップに達しようとした瞬間—

 

四人の繋いだ手から強烈な光が放出され、空へと突き抜けた。第二の月が粉々に砕け散り、数千個の小さな衛星となって夜空を舞う。

 

同時に恋の巨大化も止まった。326メートルで固定される。

 

「成功……?」夏美が震える声で尋ねる。

 

マルガレーテは頷いた。「そうよ。少なくとも今は……」

 

冬毬が冷静に状況を確認する。「でもこの状態は長くは持ちません。元のサイズに戻る必要があります」

 

四人は互いの顔を見合わせた。巨大化した彼女らには人類史上最も重要な決断が迫られていた—このまま巨大な姿で生存するか、あるいは元の姿に戻るか。そのどちらを選んでも、世界の常識は永遠に変わるだろう。

 

「私は……」恋が言葉を選びながら口を開いた。「元に戻りたいと思います。私たちの力が制御できる方法を見つけたら、また使えばいいんです」

 

他の三人も頷いた。「そうだね」「それが正しい選択ですの」「私も賛成です」

 

四人は改めて手を繋ぎ直し、力を分散させる作業に着手した。326メートルの恋を中心に、80.5メートルのマルガレーテ、76メートルの夏美、81.5メートルの冬毬が円形に配置される。

 

「皆さん、力を貸してください」恋の声が夜空に響く。

月明かりの中、四人の姿が次第に小さくなり始めた。巨大化現象が逆転し、元のサイズに戻りつつある。しかし完全に戻るまでには時間がかかる—この一夜の出来事が人々の記憶に刻まれることを、彼女たちは知っていた。

 

# 新しい日常への適応

 

朝の光が洋館の窓から差し込む。マルガレーテの寝室に集まった四人は、それぞれの変化した体に困惑しながらも、どこか安堵の表情を浮かべていた。

 

「まだ慣れないわね……」マルガレーテは鏡の前で姿を確認しながら呟いた。161センチの身長はクラスでも高かったが、今は183センチとそれ以上だ。Gカップの胸がシャツを押し上げており、制服のボタンが辛うじて留まっている状態だった。

 

「わたくしもですの……」夏美は窓際に立ち、自分の新しい姿を眺めていた。165センチというまだこの中では標準的な身長だが、Jカップの胸が制服のブラウスを窮屈にしている。それでも彼女は意外と嬉しそうだった。「スタイルが良くなったかも……」

 

冬毬はベッドに腰掛け、冷静に分析を続けていた。「遺伝子レベルでの変化は不可逆的でしょうね。この姿で生活していく覚悟が必要です」

 

恋は扉の前で立っていた。2メートルという高さゆえにドアを屈んで通らなければならない。Lカップの胸が彼女の動きを制限していた。「明日からの学校……どうしましょうか」

 

マルガレーテがタブレットを操作し、ニュースサイトをチェックした。「予想通り大騒ぎよ。"夜の巨人現象"って特集が組まれてる。目撃情報が日本各地から寄せられてるわ」

 

「我々の姿が……」冬毬は眉をひそめた。「詳細はどれほど?」

 

「ぼかし加工されているけど……」マルガレーテはスクロールしながら言った。「明らかに女の子だってことはバレてるわ」

 

「それなら!」夏美が突然立ち上がった。「堂々と名乗っちゃいますの!」

 

三人が驚いて彼女を見る。

 

「何言ってるのよ夏美先輩?」マルガレーテが詰め寄った。

 

「だって隠しても仕方ないですもの」夏美は誇らしげに胸を張った。「むしろ宣伝になりますの。私たちが巨大化できる能力者だって公表して……」

 

「危険すぎます!」恋が遮った。「そんなことすれば……」

 

「承知の上ですの」夏美は真剣な表情に変わった。「でもいつかはバレてしまうことですし。それに……」彼女は姉妹の間で目を移した。「私たちは特別な絆で結ばれました。これを隠すなんてできませんの!」

 

沈黙が部屋を包む。マルガレーテは考え込むように腕を組んだ。

 

「確かに……」彼女は静かに言った。「このままではいずれ誰かに追われることになるでしょうね。秘密組織も……」彼女は一瞬躊躇った後、「私を狙っていた奴らも動き出すわ」

 

「それなら答えは一つですの!」夏美は再び元気を取り戻した。

 

恋はしばらく考え込んだ後、決意に満ちた表情で言った。「そうですね。でも名乗り方は考えましょう。ただの自己顕示欲だと誤解されたくありません」

 

「その通りです」冬毬も同意した。「戦略的に情報公開すべきでしょう」

 

マルガレーテは深く溜息をついた後、少し微笑んだ。「あなたたち三人を見てると……私の人生観がどんどん変わっていくわ」

 

「それは良いことだと思います」恋が優しく言った。「一緒に新しい道を切り開きましょう」

 

外では報道陣が洋館の周りを固めていた。警備員と交渉する記者たちの声が聞こえてくる。

 

「そうね」マルガレーテは決断したように言った。「午後に記者会見を開きましょう。ただ……恋先輩の家では目立つから」

 

「うちでやりましょう!」夏美が提案した。「地元の敷地なら人口の割に広いですし、警備も整ってますの」

 

冬毬は頷いた。「合理的な選択ですね。姉者の豪邸ならメディア対策もできます」

 

恋は少し心配そうな顔をした。「でも……私の家族も心配してるかもしれません」

 

「今日一日はこちらでお世話させてください」マルガレーテが言った。「明日になったらきちんと説明に行けばいいわ」

 

四人は顔を見合わせた。一晩で人生が変わってしまった。それでも不思議と恐怖は感じていない。むしろ新たな可能性に胸を躍らせている自分がいる。

 

「よし」恋が立ち上がった。「それでは午前中は記者会見の内容を考えましょう」

 

夏美が跳ねるように立ち上がった。「わたくしに任せてください!最高のスピーチを書いてみせますの!」

 

「あなたが書いたら恋愛ドラマみたいになっちゃうでしょ」マルガレーテが呆れたように言った。

 

冬毬が冷静に補足した。「私が骨格を作りましょう。姉者は実行委員会の設置案を。マルガレーテさんは……」

 

「私が外交担当ね」マルガレーテがニヤリと笑った。「親戚のコネを使わせてもらいましょうか」

 

恋は四人の活気に満ちた姿を見て、温かい気持ちになった。巨大化という特殊能力を得てしまったけれど、これもまた神様の贈り物なのかもしれない。

 

「じゃあ」恋は扉に向かって歩き出した。「朝食を食べてから始めましょうか」

 

三人も続いて部屋を出た。新聞報道やSNSのコメント欄で様々な憶測が飛び交う中、四人の少女たちは新たな一歩を踏み出そうとしていた。この騒動がどう収束するか誰にもわからない。しかし四人は確信していた—どんな困難も、四人なら乗り越えられると。

 


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