鉄仮面の中のタキシード仮面 ~断罪者カロッゾ・ロナは、なぜか月の騎士の幻を見る~   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

14 / 21
【UC0123/3月】フロンティアIV侵攻作戦、論理の開始

宇宙世紀0123年3月16日。

 

運命の日が訪れた。

 

俺 ── 鉄仮面が技術と戦略の全てを統括したフロンティアIV侵攻作戦が、静かに、そして冷徹に開始された。

 

クロスボーン・バンガードのモビルスーツ部隊は、ザビーネ・シャルを先頭に、フロンティアIVコロニーへと侵攻を開始した。

 

デナン・ゾン、デナン・ゲー、エビル・S ── 小型化された、効率の権化たる機体群が、コロニーの空を埋め尽くす。

 

娘ベラ、つまりセシリーは、ブリッジでその戦闘映像を見ていた。

 

彼女の瞳には、まだ小さな揺らぎが残っていた。

 

論理として組み込んだセシリー・フェアチャイルドという人格と、切除しきれず残ったベラ・ロナとしての心 ── それが、静かに軋んでいる。

 

「セシリー。連邦のモビルスーツが情動で揺らぐ一瞬を逃さない。支配者とは、情動を持たない」

 

ベラは映像を見つめながら、無言で頷いた。

 

しかし彼女の沈黙には、確かな抵抗の微光が宿っていた。

 

侵攻が始まって間もなく、俺は激しいめまいに襲われた。

 

鉄仮面のバイザーの奥、俺の視界の隅に、避難する市民たちの先導に立ち、彼らを安全な区画へと導く、黒いタキシードにマントの人影が見えた気がした。

 

俺自身の姿だった。

 

俺の中の幻が、市民を守れと叫んでいた。

 

だが ── それは、幻視だった。

 

旗艦のブリッジに座したまま動かぬ俺の脳が見せた、妄想にすぎない。

 

実際のコロニーでは、誰も市民を導いてなどいない。

 

市民たちは、ただクロスボーン・バンガードの砲火に怯え、逃げ惑っていた。

 

史実は、無慈悲に正史のまま進行していた。

 

俺の良心がどれだけ幻の薔薇を撒こうと、俺の手が起こした現実は、1ミリも変わらなかった。

 

「鉄仮面様。ご気分が?」

 

オペレーターの声に、俺は我に返った。

 

「……問題ない。私の中の、処理すべきノイズが騒いだだけだ」

 

俺は、旗艦の艦橋の窓の外を見据えた。

 

ガラスに、鉄仮面の下から白い仮面が透けて見えた。

 

俺の中の幻が、まっすぐに俺を見返していた。

 

そして、赤い薔薇を1輪、天高く投げる幻を見せた。

 

それは、宣戦布告だった。

 

俺の中の守る者から、俺の中の断つ者への。

 

「面白い。ならば、この作戦で決着をつけよう。俺の中で守る薔薇が先か、俺の断つ論理が先か」

 

旗艦のブリッジに、俺の声が低く響いた。

 

「そこまでだ」

 

それは開戦を告げる合図であり、同時に、俺自身にしか意味の分からない、もう1つの祈りにも似ていた。

 

「全艦、砲門を開け。フロンティアIVへの道を阻む者は、この黒き薔薇の名において、すべて断つ」

 

だが俺は、心のどこかで理解していた。

 

この作戦は、俺という断罪の仮面と、俺の内なる守護の幻との、最後の戦いの幕開けなのだと。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。