宇宙世紀0112年。アナハイム・エレクトロニクスの主任技術者カロッゾ・ロナは、ある頃から奇妙な幻を見るようになる。白い仮面に漆黒のタキシード――19世紀の舞踏会めいた、見も知らぬ「仮面の男」の姿。

「技術は、感情から解放されるべきだ」。情動という名のバグを断罪すると誓った男の前に、その幻は幾度も現れ、赤い薔薇を掲げて囁く。「技術とは、誰かを守るために磨くものだ」と。

やがて鉄仮面と呼ばれる断罪者となってなお、彼は夜ごと夢遊病者のように赤い薔薇を活け続けた。娘ベラの枕元に。処置室に。自らの手で。

――これは、月の守護者の物語ではない。前世の記憶でも、異世界からの転生でもない。ただ一人の男が、殺しきれなかった自分自身の良心を「タキシード仮面」と呼び、その幻と争い続けた記録である。

断つ者と、守る者。同じ顔に重ねられた二枚の仮面が、一つに還るその日まで。

※『美少女戦士セーラームーン』本編のキャラクターは一切登場しませんのでご注意ください。
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