機動戦士ガンダム クロスボーン外伝 ~腐敗した宇宙を焼き尽くす者~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0123年3月。
フロンティアIVコロニーでの戦闘が激化する中、俺——鉄仮面——のシステムは、予測不能な重大エラーに直面した。
それは、俺が完璧な支配者として育て上げたはずの娘、
ベラ・ロナ——セシリー・フェアチャイルド——による、システムからの離脱だった。
彼女は、シーブック・アノーとF91が示す「情動による戦闘」と、
俺が指揮するC.B.軍の「論理による非情な攻撃」との狭間に立ち、
心の亀裂が決定的なものとなった。
俺は旗艦ブリッジで、
娘の行動データが急速に、
俺の論理予測の範囲外へ逸脱していくのを確認した。
『あり得ない。セシリーの論理システムは、一点の誤差もなく構築されているはずだ。
何が、この重大なエラーを引き起こした?』
エラーの根源は一つ。
シーブック・アノーという“情動の媒介者”が、
彼女の心底に残っていた、人間的な共感——
ロナ家の血が抱える“柔らかさ”へ火を点けたことだった。
彼女は俺の教えた「支配の論理」よりも、
シーブックが命を賭して守ろうとする「人の命」という価値を選んだ。
——娘は、マイッツァー・ロナの“政治的な支配システム”からも、
俺の“技術的な論理システム”からも、
明確に離反した。
マイッツァーは激怒した。
血統主義という彼の理念が、
最も重要な継承者に否定されたからだ。
『鉄仮面!貴様の教育は失敗したのか!
セシリーはロナ家の象徴だぞ!あれが折れれば——』
だが、俺の視界に映るのは、
政治の言葉ではなく、
論理の破綻だった。
俺のシステムは、娘の行動を“反逆”ではなく、
「予測モデルを覆す未知変数」として検出していた。
ロナ家の血には、
人類への共感という情動が、ごく微細なノイズとして残存していた。
俺はそれを抑圧し、強制的に論理で上書きしたつもりだった。
だが、完全ではなかった。
俺の内部で、
鉄仮面の冷却系を通じてわずかな熱が上昇した。
情動遮断システムのログに、
“微細ノイズ”の警告が点滅する。
——ベラの決断を前に、
俺の論理が揺れたのだ。
『娘……。貴様は、ロナ家の象徴として、
支配者の論理を継ぐ存在だ。
情動に惑わされれば、宇宙は再び混乱に沈む!』
だがベラは答えた。
機体越しにも震えを感じるほど、強い声で。
『私はセシリーでも、あなたのプロセッサでもない!
私は……ベラ・ロナよ!』
その瞬間、俺のシステムに異常が走った。
論理システム内の整合性チェックが連続で失敗し、
“支配者=娘”という前提が破綻する。
予測モデルは崩落し、代替アルゴリズムが立ち上がる前に、
鉄仮面の内部でノイズが急増した。
『セシリー・フェアチャイルド……
貴様は、俺のシステムから離反した。
論理を拒むその情動が、宇宙の秩序を乱す……!』
俺は、自らの論理の絶対性を守るため、
娘への通信を強制的に遮断した。
『通信遮断。
ベラ・ロナのシステムは、修正不可能と判断。
ターゲットとして再定義する』
その決定は、俺の心に深い裂傷を刻んだ。
情動を切り捨てたはずの俺のシステムに、
消えるはずのない痛みが走る。
だが俺は、その痛みを認められなかった。
俺は認識したのだ。
娘の離脱は、ただの裏切りではない。
——人間の情動が、
論理システムを打ち破る“証明”である、と。
このエラーを黙殺するために、
俺の狂気の論理は次の段階へ進む。
情動を排除する最後の手段——
バグ(無人殺戮兵器)による、
“人間性の物理的削除”。
娘が選んだ情動の道を否定し、
宇宙の秩序を“俺の論理”で塗り替えるために。
俺のシステムは、
取り返しのつかない最終フェーズへ入った。