機動戦士ガンダム クロスボーン外伝 ~腐敗した宇宙を焼き尽くす者~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0123年3月。
コロニー内部の混乱が拡大する中、俺—鉄仮面—は、F91のパイロットであるシーブック・アノーと行動している娘、ベラ・ロナ、つまりセシリーに対して、最終的な通信接続を試みた。
これは、システムから離反した重大なエラーに対し、最後の論理的再構築を行うための、非情なデバッグ作業だ。
俺は、艦隊の通信システムから、ベラのチャンネルに直接割り込んだ。
『セシリー・フェアチャイルド……いや、ベラ・ロナ。
貴様の離反は、ロナ家の支配の論理に対する最大の裏切りだ』
通信越しに返ってきたのは、疲弊した彼女の声だった。
シーブックという情動のバグに感染し、彼女の心は揺れ動いている。
『……あなたの“論理”は、人を守らない。ただ壊すだけよ。
私が離れたのは、その答えが分かってしまったから』
俺は即座に否定した。
『情動はシステムの破壊要因だ。
貴様が情動に傾く限り、宇宙の秩序は確立されない。
支配者の血を引く者が、なぜその簡単な論理を理解できぬ?』
だが、ベラは揺らがなかった。
『支配の論理なんて、私にはいらない。
シーブックは、人を助けるために戦っている。
あなたの“効率”より、その一瞬のほうが……ずっと正しい』
俺のシステムに、微細なエラーが走る。
これは、俺の遮断機能では処理できないノイズだった。
『ベラ・ロナ。
貴様はロナ家の血を継ぐ者だ。
その血には、支配者としてのロジックが刻まれている。
それを捨てるということは、存在理由そのものを否定することだ』
彼女の返答は短かった。
『血なんてどうでもいい。
私は……私自身で選ぶ』
その瞬間、俺の論理システムに重大な矛盾が生じた。
ロナ家の支配論理を絶対とするパラメータと、
娘を“プロセッサ”として再構築した論理が衝突したのだ。
俺は、その矛盾を押しつぶすように叫んだ。
『貴様の情動こそが宇宙の脅威だ!
そのバグを排除しなければ、コスモ・バビロニアは成立しない!』
だが、ベラはもう怯えなかった。
『……あなたは、情動を嫌ったんじゃない。
“愛された記憶”を思い出すのが怖いだけ。
母さんのことも……全部、忘れたふりをしている』
鉄仮面の内部で、遮断されたはずの情動が、痛みとして揺らぎ始めた。
俺はそのノイズを即座に切り捨てようとしたが、完全には無視できなかった。
『黙れ。
情動は、俺の論理を破壊する最悪のバグだ。
だからこそ排除する。
貴様も、F91も、そして……俺自身の中の残滓も』
通信が途切れる直前、ベラは静かに言った。
『お父さん。
もし本当に情動が“バグ”なら、どうして……あなたは今、そんなに怒っているの?』
俺の論理は返答を出せなかった。
システム内部で整合性チェックが連続エラーを起こし、内部パラメータが乱れ始める。
そして、鉄仮面の奥で、俺の肉体が、まるで外部から電流を流されたように激しく痙攣した。
制御を失った全身の筋肉が震え、情動を物理的に拒絶する痛みが、俺の全感覚を麻痺させた。
俺は強制的に通信を遮断した。
この対話は、俺の論理システムに最大の自己矛盾を刻みつけた。
そしてそれは、F91との最終戦闘へ向けて、俺の狂気をさらに加速させる結果となった。