鉄仮面の中のタキシード仮面 ~断罪者カロッゾ・ロナは、なぜか月の騎士の幻を見る~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0119年。
サナリィがフォーミュラ計画の初期試験を続ける一方、連邦軍内部では、マフティー動乱以降に強まった管理優先の論理が再び主導権を握りつつあった。
連邦は小型化の進化を抑制しようとしていた。
「この臆病な停滞こそが、技術の純粋性を腐らせる」
俺は、後にオールズモビルと呼ばれる宙賊勢力の台頭を確認していた。
旧式モビルスーツを魔改造し、情動を排除した効率重視の戦闘ロジックへと向かうその流れは、俺の計画と交差する。
この頃、ロナ家の当主マイッツァー・ロナが接触してきた。
彼は、貴族主義に基づく新しい秩序、コスモ・バビロニア建国計画を掲げていた。
俺にとって、マイッツァーの理想はどうでもいい。
だが、その権威は、俺の論理を宇宙規模で実装するための器として利用価値があった。
「マイッツァー卿。私の論理と、貴方の理想は、目的を共有している」
計画が動き始めたその夜、俺の研究室の窓ガラスに、再びあの男が映った ──
俺自身のタキシード姿の幻として。
「コスモ・バビロニア。貴族による支配。カロッゾ、君はまた1つ、大きな過ちを重ねようとしている」
俺の唇が、俺の意志を離れて動いた。
「過ちではない。修正だ」
俺は主導権を取り戻して応じた。
「愛だの、絆だので国を治めようとする愚かさは、必ず滅びる。ならば、俺は逆をいく。論理だけで統べる、完璧な秩序を築く」
窓ガラスの中の俺 ──
仮面の男の拳が、わずかに震えた。
俺自身の声に、初めて怒りが混じった。
「守るべきものを、最後まで守り抜こうとする心を、そのように嗤うな」
俺は嗤い返した。
「では、その心ごと、断罪してやろう。オールズモビルの戦闘データ、小型化の技術成熟、そして鉄仮面の設計。
すべてが1点へ収束しつつある。
俺の中のお前が守るという心では、俺の論理は止められん」
俺は、コスモ・バビロニア建国計画の設計図の山に、無意識に手を伸ばし、コートから取り出した1輪の赤い薔薇を突き立てていた。
書類は、薔薇の重みで音もなく崩れた。
窓ガラスの中で、仮面の男が静かに告げた。
「私は、君が捨てようとして捨てきれない、君自身の心だ。だから何度でも現れる。私は君だからだ、カロッゾ・ロナ」
それは、まぎれもない真実だった ── 俺が、それを認めたくなかっただけで。
研究室を出るとき、俺の纏う黒いコートの裾が、誰もいない廊下で音もなく翻った。
その残像だけが、いずれ鉄仮面と呼ばれる存在の輪郭を、静かに象っていった。
だがその影の傍らには、いつも、もう1つの仮面の影が寄り添っていた。
守る者と、断つ者。
2つの仮面の宿命が、この年、1人の男の中で確かに交差を始めたのだ。