機動戦士ガンダム クロスボーン外伝 ~腐敗した宇宙を焼き尽くす者~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0120年。
F90の全ミッションデータが出揃い、小型モビルスーツの有効性が連邦でも否定できなくなりつつある頃、俺はロナ家が掌握する宙域外の秘密ステーションへ向かった。
目的はただ一つ。 サナリィ(S.N.R.I.)の主任開発者――モニカ・アノー博士との非公式接触だ。 そして、その背後に立つ若き試験パイロット――デフ・スタリオンの存在を確認するためでもあった。
サナリィ内部では、既にF90の発展系――後のF91につながる小型高性能機の基本設計が水面下で進行していた。 俺は、その設計思想が「情動の利用」という、最も危険な道へ向かいつつあることを、技術的直感として見抜いていた。
巨大な無重力ドックに、F90の残骸が静かに浮かんでいた。 その前で、俺たちは対峙した。モニカ博士と、その傍らに立つデフ・スタリオン。 彼の瞳には、戦場で培った確信と、モニカの思想への絶対的な信頼が宿っていた。
『アノー博士。貴君らのF90は、見事だ。だが、その成功を支えた純粋な小型化の論理を、貴君は自ら汚そうとしている』
俺はまず事実を認めた。 そして、ゆっくりと核心に触れる。
『貴君が提唱するバイオコンピュータは、感応波――つまり人間の情動という「ノイズ」を演算に組み込む。 それは、機体性能を安定させるための論理ではない。情動を前提とした補助演算だ』
デフが一歩前に出た。
『……それが、俺たちを救ったんだ。F90の戦場で、仲間を守れたのは、この技術のおかげだ。 人間の意思を信じることが、なぜ悪い?』
俺は冷徹に答える。
『悪ではない。だが、それは技術ではない。統計で担保できぬ非線形の毒だ。 情動を利用した性能向上は、一時的な幻想にすぎん。その技術は、必ず暴走する』
モニカ博士の瞳が鋭くなった。
『暴走などさせません、カロッゾさん。バイオコンピュータは、パイロットの感応波を取り込み、反応速度の限界を押し上げるための技術です。守るべきものへの情熱が機体の出力を押し上げるならば、それを論理的に利用するのが技術者の使命でしょう』
俺は、残骸の一部を指差した。
『ならば、貴君らは技術が持つ危険性という名の情動に、やがて飲まれることになるだろう。 技術に情動を持ち込む者と、情動を断罪する者。道は、最初から交わらん』
背を向ける俺に、デフが叫んだ。
『カロッゾ! 技術は人を切り捨てるためにあるんじゃない! 人を守るためにあるんだ!』
俺は振り返らなかった。 その声が、やがて宇宙世紀の闇に巨大な影を落とすことになる―― デフ・スタリオンの信念と、俺の鉄仮面の論理が、未来の戦場で激突する運命を確定させた瞬間だった。