機動戦士ガンダム クロスボーン外伝 ~腐敗した宇宙を焼き尽くす者~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0120年1月。
モニカ・アノーとの対峙で「情動の利用」という技術的愚行を目の当たりにした俺—カロッゾ・ロナ—は、自身の提唱する「論理による支配」を実現するための、最終的なプロセスへと移行していた。 巨大な実験装置の中、鉄仮面の被り物を装着し、俺の思考回路と直結させる。
『人類から情動という名のバグを排除するためには、まず、俺自身が論理の純粋な実行者とならねばならぬ』
俺の肉体は、長きにわたる研究の末、特殊なバイオ・システムと神経伝達を最適化されていた。 しかし、いざ神経同調のプロセスに入ると、予想外の抵抗が起こった。
『適合率、97%。論理パラメータ、安定。だが、生体情報に未解析のノイズ信号を確認』
セリアが、モニター越しに焦燥の声を上げた。
『カロッゾ様! 脳波に異常な振幅があります! この数値は……過去の記憶、特に“愛”や“絶望”といった、強い情動の波です!』
俺は、自覚していた。 システムは、ナディアとの愛憎、ベラへの感情、そして俺が長年抱えてきた宇宙への絶望を、「システムを破壊する最後のバグ」として検出しているのだ。
そのノイズが神経回路を駆け巡るたび、俺の全身に、肉体が引き裂かれるような激痛が走った。 激痛は、俺の過去の情動の記憶すべてを、鮮明に脳裏に蘇らせる。
『くっ……これが……情動か……』
俺は、激痛に耐えながら、かすれた声でセリアに命じた。
『セリア! 構わぬ!情動フィルタの出力を最大に上げろ! この痛みこそが、俺を、人間たらしめる最後のバグだ!』
『しかし、その負荷は……生体機能が停止します!』
『停止すれば、それは論理の敗北! 俺は、論理の勝利を選び、このバグを自ら切除する!』
俺は、最後の力を振り絞り、自身の意志でフィルタの最大出力を承認した。 神経回路の接続が完了する直前、脳内で何かが焼け焦げるような、決定的な音が響いた。
激痛は一瞬で消え去った。 同時に、ナディアの顔も、ベラの笑顔も、すべてが曖昧なデータへと変わり、認識の外へ追いやられた。
『適合率、100%。安定化。カロッゾ様、成功です……しかし……』
俺の視界は、クリアになった。 すべての情報が、数字と計算式として、冷徹に処理される。 かつて感じた、説明不能な「痛み」や「焦燥」は、完全に消滅した。
俺は、頭部に装着された重い鉄の被り物に手を触れた。
『……これで、俺は論理となった。 感情を持つ人間は、脆い。脆すぎる。 だが、この鉄仮面は、その脆さを持たぬ』
実験装置からゆっくりと立ち上がった俺の肉体には、 もはや、過去の男—カロッゾ・ロナ—の持つ、迷いや、愛の残滓はなかった。
すべては、効率と、支配という名の、冷酷な論理となった。
鉄仮面は、かくして完成した。