デカグラマトン編最新章までのネタバレがあります
「困りました。お金がありません」
「ええ....。急にどうしたの」
「いえ、旅をしているとなにかとお金がかかり、ついに我の貯金が底をつきてしまったのです」
「貯金とかあったんだ」
「まあ、一応」
私に深刻な顔をしてそう語る白い肌の美女の名はマルクト。
壮絶な騒動の果てにすべてを奪われてしまい、いなくなってしまった者たちの願いを叶えるために旅をしている私の生徒だ。
最近はちょくちょくシャーレに来ては私と添い寝したり、経験したことを話してくれているが、このような相談は初めてである。
要するに、私はとても驚いている。
「えーと、今必要な金額は?」
「5000円あれば今日はしのげます。ですが、我に支援は不要です。我はお姉ちゃんなので」
唖然とした。
なんという純粋さと清らかな目だろうか。
悪い大人に食い物にされてしまいそうで、私はこの娘の将来が怖いよ。
「.....いえ、お姉ちゃんでした」
「言い直さなくていいから」
しかしそうは言っても人は悲しいが生きていくのにお金がかかる。
そうだ。良いことを思いついた。
「そうだ。マルクト。仕事をしよう。私のお手伝いとしてね」
「先生の、お手伝い....」
「うん。最近書類が多くてね。まとめるのに結構手間取ってたんだ」
「しかし、いいのですか?」
「もちろん。ただとは言わない。もちろん給金は出すよ。で、ある程度のお金が貯まるまではシャーレに住み込みでもいいから」
ある程度は私もシャーレにいるし。
「.....わかりました。お世話になります」
「こちらこそ。まあ、とりあえず突き当たりにある空き部屋をマルクトの部屋を使ってよ」
誰も使っていないある程度きれいな部屋をマルクトの指定する。
あそこなら一ヶ月程度は大丈夫だろう。リンちゃんにはどう説明したものか....。
マルクトは素直に部屋を出ていった。
「.......」
一人になると、考えが、思考が、記憶が浮かび上がってくる。
私の頭には、先程のマルクトの「お姉ちゃんでした」という言葉が無限に反芻している。
自分の無力さを思い知らせるように。自分の無能さを見せつけられるように。
どうしようもなかったという言葉で済ますしかない現実を殴りたくなる。
先人ならばあそこで奇跡を起こせたのだろう。だが私には。
「......なにが、だ。人ひとり救えないくせに....。俺は....俺は、無力だ」
溢れる涙さえ恨めしかった。
▽
「先生。準備ができました」
「準備って…、まだ仕事は…っぶふぉっ」
背後から声が聞こえる。
なんの準備かはわからないけどおも、まだ仕事は何もないよと言おうと振り返る。そして、飲んでいたオレンジジュースを吹き出しそうになってしまった。
腰にはミニというには烏滸がましいほどの丈の短いスカート。大事な部分以外隠す気力すら感じられない黒いメイド服のような衣装。全身にはフリルがあしらわれ、セクシーさと大胆さをこれでもかと表現している。おまけにマルクトの魅入ってしまうほどの白に合わせるように白の猫耳が、彼女の頭でぴょこぴょこしている。さらには尻尾までついているらしい。大盛り無料の定食屋も卒倒してしまうほどのサービスだろう。
そんな破廉恥を体現した姿は私を驚かせるには十分だった。
「マ、マルクト?その姿は?」
「モモイさんにやらせてもらったゲームで学びました。人、特に男性に奉仕するならばこのような格好にするべきなのだと。にゃん」
丁寧にも語尾にニャンをつけている。
さすがだモモイ=サン。今度ユウカに告げ口しておこう。
「いいかい。マルクト。その知識は間違いだ。あと私が何か間違いを犯さないうちに着替えてきてほしい」
彼女の普段の格好とは違い、股の形容しがたい部分は隠されているが、雰囲気のせいでいかがわしさが数千倍だ。
カードゲームで表すならば1ターンキルといったところか。
「そうなのですか?にゃん」
「うん」
「成程。我は新たな知識を得ました。にゃん」
「だからとりあえず着替えてきて欲しいなって」
「我もこの衣装が気に入りました。これが、可愛い、ということなのでしょうか。にゃん」
嫌な予感がしてきた。
もしや彼女はこのまま着替えないつもりではなかろうか。
「我はこの姿のまま過ごそうと思います。にゃん」
「いや、でもね?」
「にゃにゃん」
「だから…」
「にゃにゃにゃーん」
負けた。彼女の猫の鳴き真似に。
「わかったよ。ただし明日は違う格好でくること。いいね?」
「わかりました。にゃん」
マルクトは可愛い声でそう言って、私の隣に立つ。
となりにいるだけで、人の温かみが伝わってくるようで、大変心地よい。変態的だなとは自分でも思う。
「それと、今日はまだ仕事は大丈夫だから、部屋に戻って休んでて。夕飯の時間になったら呼ぶから」
「いいのですか?」
「もちろん。疲れてるでしょ?」
「ありがとうございます」
その後、マルクトと一緒に夕飯を食べた。
彼女の幸せそうな顔は忘れられそうもない。私の大切な思い出だ。
▽
「先生。来ました」
「いらっしゃい。マルクト。今日はね......」
またもや私は言葉を失ってしまう。
今日の彼女の格好はチアガール。布面積はほぼないと言って良いその衣装は、鮮やかな青色をしていて彼女の白い肌とのコントラストは美しいと言わざる終えない。
しかしそれを補って余りある背徳的な官能さは私の心すらも魅了してしまいそうだ。
「違う服って....」
「ヒビキさんにもらいました。先生はこういうの好きだろうからって」
何と言う偏見だろう。決して間違いではないのがとても悲しいところだ。
「では、今日の職務を」
「まだ業務内容教えてないんだけど....」
バッと彼女は腕を上げ、最初から装備されていたポンポンをしゃかしゃかしながら応援を始めた。
「フレーフレー先生。がんばれがんばれ先生。いけいけ先生」
耳元で。
マルクトが言葉を発するたびに、耳に息が吹きかかり、身体が反応してしまう。
そのたびに彼女の声は蠱惑的なものになっていき、いつしか甘い甘い吐息にすら感じてしまう。本能が飛び出たいと切に願っているが、それを理性で抑えつける。しかし、それすらも今は怪しい。
「フレーフレー、いけいけどんどん。先生がんばれ」
こんなにも応援されているのに、当の私はすでに負けそうだ。
「大丈夫ですか?先生。なにかあれば我に身を委ねてください。応援はしていますが、無理はめっです」
相変わらずの囁きは天使のように愛らしい。
だが、それは悪魔のように脳を揺さぶるのだ。
「負けても良いんですよ。負けちゃえ、負けちゃえ」
どこでそんな言葉を覚えたのか。
淫靡でセクシー、もしくはインモラルな言葉が私を誘う。
「安心してください。先生。我がいつでも応援しています。がんばれ、がんばれ」
真逆の性質の発言に脳がおかしくなりそうになりなってしまう。
耳元のしゃかしゃかという音さえも今は悪魔的なほどの誘惑を発揮する。
「ま、マルクト。応援は、大丈夫」
「どうしてでしょうか?我はこの行動に満足しています」
「私がもうそろそろ危ないんだ」
「?よくわかりませんが先生がそういうのなら仕方ありません」
最後に彼女はふぅーっと耳に息をやり、離れた。
「では先生。何をすればよろしいでしょう」
今度こそ書類仕事のサポートを任せた。
マルクトの働きによって仕事は予想以上に早く終わった。
▽
「王凱武装・始祖光来」
[you are i am we are the we are the king king ohger]
『先生....久々ですね』
「久しぶりにやりたくなってね」
マルクトが手伝ってくれるおかげで劇的に業務は早く終わるようになった。具体的に言えば私がおもちゃで遊ぶ時間が確保できるくらいには。
なので久々にこの王冠で遊んでいるわけだ。
「先生。今日は何をすれば....」
「今日は業務がもう終わってしまったんだ。だから今日は....」
「ない、ということでしょうか」
「まあね。でも、今日は私も自由時間が多いんだ。一緒に休憩でもしよう」
「はい。わかりました。では、着替えてきます」
「着替えるって....」
私が声を掛けるまでもなく、彼女は部屋を出ていった。
数分後。
「先生。お待たせしました」
彼女の声に振り返ると、私は思わず声を失った。綺麗、すぎたのだ。
純白の大きなドレス。たくさんのフリルは、彼女を見事なまでに引き立てる。まさに幸せ絶頂を象るような、そのウエディングドレスを来たマルクトは、美という言葉は彼女のために存在するのではないかと思ってしまうほどに、麗しく、綺麗で、愛らしい。
邪な感情など芽生えそうもないほどに美しさに見惚れてしまう。
「先生。どうかしましたか?」
「いや...その格好は...?」
「大切な人のための格好だと聞きました」
「そうだね。その認識で間違ってはいない」
幸せの象徴としても名高いウエディングドレスは、大切な人と幸せを掴むための晴レノ日の衣装だ。
「けど、それはとても特別な意味を持つものなんだよ。この人ともに幸せになりたいというときに着るべき衣装なんだ」
「そう、なのですね」
「そして、君が来ているその意味は、その、勘違いじゃなければ.....」
「ええ。勘違いではありません。我はあなたと幸せになりたい。だから....」
マルクトは言葉を紡ぐ。まるで、人に想いを伝えるように。
「我は、妹たちに生きてと、幸せになってと言われました」
妹たちの話をする彼女はどこか懐かしそうで、どこか悲しい。
「そして我は思ったのです。貴方と幸せになりたいと。.....これで、伝わったでしょうか」
「ああ。十分に」
「返事を、いただけますか?」
「悪いけど、今はみんなの先生なんだ。まだ生徒である君の可能性を潰すことはできないし、君の専属になることもできない」
「そう、ですか」
ごめんね。
私は君にそんな顔をさせたいわけじゃない。
だから。
「でも、君がもっと旅をして、それでも私を選んでくれるというのなら、そのときは.....」
彼女の顔を見つめ、微笑む。
「よろしくね」
「....はい」
彼女の微笑みは、最高に美しかった。
「先生、それではケーキを焼きましょう」
「二人で?」
「ええ。初めての共同作業は大事だと聞きました。そして特にケーキが良いと」
彼女と楽しくケーキを焼いて一日が終わった。