ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』   作:ガチャガチャクツワムシ

92 / 92
終幕:Club 蓮華の長い夜 ―― 語り継がれる“純情”少年

「あら、いらっしゃい! 駆ちゃんにしのぶちゃん、それに美緒ちゃんまで。珍しい顔ぶれじゃない」

 ド派手なネオンが輝くゲイバー『Club 蓮華(れんげ)』の扉が開く。カウンターの奥で出迎えたのは、街の顔役にして誰もが恐れ敬うオネェ、鬼龍院蓮だ。

 184センチの筋骨隆々な体に黒いヒョウ柄のタンクトップ。真っ赤なハイヒールを鳴らして歩く姿はまさに「動く要塞」だが、バッチリ決めたケバいメイクの下には、垂れ目の優しげな美形が隠れている。

 「……ママ、いつもの。美緒としのぶちゃんには、適当に甘いもんでも出してやってくれ」

 駆は赤面を隠すようにハットを深く被り直し、カウンターの隅に腰を下ろした。だが、蓮の鋭い眼光は誤魔化せない。

 「なによ駆ちゃん、その茹で上がったタコみたいな顔は。……美緒ちゃん、さては何か面白いこと聞いたわね?」

「あはは、バレちゃった? 蓮さん、聞いてよ! お兄ちゃんがサマナーになった時の話!」

 身を乗り出した美緒が、アザゼルから聞いた「泥だらけのイヌガミを力ずくで押さえつけた少年・駆」のエピソードを意気揚々と披露し始める。

 「ははぁ、なるほどねぇ! あの泣き虫だった駆ちゃんが、『一人になるのが怖かったんだろ』なんて! ヒーッ、傑作ね!」

 蓮が豪快に笑い、カウンターを叩く。その筋肉が躍動するたび、駆は生きた心地がしない。脳裏には、自分を裏の世界へ引きずり込んだ師匠・久遠寺鴉の、モリアーティ教授のような食えない笑顔が浮かぶ。

 (……ったく。あのアネゴも、あの胡散臭い師匠も……。俺の周りには、まともな大人が一人もいねえのかよ)

 「……ふふ。ですが、駆さんのその“青さ”があったからこそ、私も今ここに居られるのです。本当に、素敵なマスターですこと」

 しのぶが慈しむような視線を向け、追い打ちをかける。駆はもはや顔を上げることもできず、差し出された超・強炭酸レモンサワーを一気に煽った。

 「……ッ、くぅ……効くぜ。ハーフボイルドな夜には、これくらい尖ってる方が丁度いい」

 喉を焼く刺激で一息ついた駆に、蓮が真っ赤なネイルの指先でカウンターをトントンと叩いた。

 「なによ駆ちゃん、私まで美緒ちゃんに吹き込まれたと思ってるの? あんたのその『青っちょろい英雄譚』なんて、とっくの昔にあのジジイから聞いてるわよ」

「……っ!? 師匠が……?」

 むせ返りそうになる駆を余所に、蓮はおかしそうに肩を揺らす。

 「あのジジイが自慢げに電話してきたのよ。『面白いガキを拾った。悪魔の孤独に寄り添うなんて、サマナー失格の聖人君子か、底なしの馬鹿だ』ってね。……でもね、最後にはこう言ったわ。『だからこそ、あいつには居場所が必要だ。蓮、あいつの“甘さ”を殺さずに育ててやってくれ』って。……珍しく真面目なトーンでね」

 「……。……フン。余計なお世話だ。俺は、勝手に育つよ」

 駆はぶっきらぼうに吐き捨て、二杯目のグラスを注文した。

 派手なネオン、しのぶの微笑み、美緒の笑い声。そして、遠い街から自分を見守る師匠の影。

 (……やれやれ。これじゃ、ハードボイルドになれる隙なんて、一ミリもねえな)

 喉を焼く炭酸の刺激が、不器用なサマナーの照れ隠しを優しくかき消していく。

 神代探偵事務所の夜は、こうして「愛すべきお節介」に満ちたまま、賑やかに更けていくのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

立ちて死すとも心火は消えず(作者:巌颪)(原作:呪術廻戦)

護廷の開祖が今一度、目を覚ます。▼呪いが廻る混沌とした世界で・・・


総合評価:148/評価:-.--/連載:4話/更新日時:2026年05月05日(火) 17:00 小説情報

冬木の番外次席(作者:甘めのコーヒー)(原作:Fate/Zero)

Fate Zeroにキング・ブラッドレイを参加させました。▼最強で、どこまでも人間らしくありたい、そんなキャラにしてます。▼オリジナルストーリーにしてるので、原作とは違う終わり方にします。▼


総合評価:427/評価:7.79/連載:102話/更新日時:2026年06月12日(金) 17:18 小説情報

魔法科高校の異端魔術師(作者:もやしになりたい)(原作:魔法科高校の劣等生)

死の間際、佐藤雄馬は他人を庇って命を落とした。▼その死は、本来あるはずのないものだった。▼神の手違いにより、『魔法科高校の劣等生』の世界へ転生した雄馬は、英霊たちとの縁を与えられ、新たな人生を歩み始める。▼そこで彼が触れたのは、魔法が技術として完成された世界と、英霊たちが語る神秘としての魔術だった。▼想子によって情報体へ干渉する“魔法”。▼魔術回路と魔力によ…


総合評価:2352/評価:7.25/連載:37話/更新日時:2026年05月14日(木) 16:46 小説情報

個性『スーパー戦隊』 うん。……ちょっと待て?????(作者:翠吏)(原作:僕のヒーローアカデミア)

 拝啓、特撮オタクの親友へ▼俺はどうやら「僕のヒーローアカデミア」という漫画の世界へ転生してしまったようです。それだけなら何んだ?と言うでしょう。個性が『スーパー戦隊』でした。俺頑張るよ。▼ ▼※掲示板あり。基本的に控えめ。▼初投稿です。▼なので誤字脱字、キャラ崩壊等があると思いますが、温かい目で見守ってください。


総合評価:566/評価:5.88/連載:20話/更新日時:2026年05月24日(日) 11:00 小説情報

転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜(作者:だいたい大丈夫)(原作:るろうに剣心)

かつて京都を震撼させた「人斬り抜刀斎」と並び称された、新選組一番隊組長・沖田総司。▼労咳の運命を越え、彼女が手にしたのは平穏な明治の世と、亡き夫が残した一人息子・弥彦だった。▼しかし、その剣はまだ、錆びついてはいない。▼「たまには人を斬っておかないと、腕が鈍るでしょう?」▼昼は息子の教育に頭を悩ませる士族の未亡人。夜は月夜に紛れ、暗殺者として死体の山を築く。…


総合評価:3057/評価:6.76/連載:88話/更新日時:2026年06月07日(日) 22:37 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>