転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜   作:だいたい大丈夫

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尖角と対峙した操。
沖田に戦術を見抜かれ、一度は勝ち筋を封じられるが、操には誰も知らない切り札があった。
英次の仇を討つため、そして蒼紫への愛を証明するため、少女がその本性を解き放つ。


愛ゆえの剛力

【新月村・広間】

 

「ハハハ!!俺を……殺すだと?面白い!!今まで99人を刻み殺した、記念すべき100人目の獲物はお前だ、小娘!!」

 

99人。

その数字がこの男にとってどれほどの重みを持つかは知らない。だが、罪のない人たちがその暴力で一方的に蹂躙されてきた事実は変わらない。英次のお兄さんもその犠牲になったのだと思うと、奥歯を噛む力が自然と強まる。

許さない。絶対に、ここで叩き潰す。

 

「たった99人じゃ威張れるものではない。幕末の京都なら一ヶ月のノルマだ」

 

蒼紫様……!!

さっきあの泥棒猫に不要だと切り捨てられて傷ついていたはずなのに、もうすっかり気力を取り戻していらっしゃる。しかもこの緊迫した場面で、的確に相手の虚を突く言葉を投げかけられるなんて。

 

やっぱりあたしの蒼紫様は世界一かっこいい。幕末の京都における一ヶ月のノルマ。その言葉に込められた狂気が、広間を満たしていた緊迫感を一気に塗り替える。悪党が誇らしげに掲げた数字が、蒼紫様の放った言葉の前にひどくちっぽけなものへと成り下がった。

 

「な、なんだと!?テメェ、俺の輝かしい殺しの記録をバカにしやがって!!まとめて肉の塊にしてやる!!」

 

さっきの不意打ちの時とは比較にならないほどの殺意が押し寄せてくる。

だが、あたしの網膜には、大男の動きがまるでひどくゆっくりとしたもののように映っていた。

 

「ふんっ!当たらないわよ、豚野郎!!」

 

床を蹴り、迫り来る豪腕をすれ擦れの距離で躱す。

かすりもしない。

 

大ぶりの打撃が次々と空を切る中、あたしは反撃の機会を窺いながら軽やかに身を翻し続ける。

右、左、沈み込み、跳躍。

重く鋭い一撃も、軌道が単調なら恐るるに足りない。御庭番衆の過酷な修練を潜り抜けたあたしにとって、見え透いた攻撃を浴びる道理はなかった。

 

「ちょこまかと……!!だが!!その程度のスピードなら俺にも追いつけるぜ!!速さは互角!!だがお前にはない、この圧倒的な力が俺にはある!!」

 

確かに、あの体格からは想像もつかない俊敏さだ。小柄なあたしが真っ向から挑めば、いずれ押し潰されるだろうと信じて疑っていない。力でねじ伏せられると確信しているのだ。

 

だが、ただ逃げ回っているわけではない。

打撃を躱しながら、確実に相手の体力を削り、隙を待っている。重い体を支える足にどれほどの負担が蓄積しているか。それを計算し、あえて大きく動き回ることで体勢を崩させようとしているのだ。

 

このままいけば、必ず動きが鈍る瞬間が訪れる。そこを、このデコ・トンファーで打ち砕く。

 

「尖角!!調子に乗らない!!相手は軽業で早さを釣り上げて、アンタの足に負担をかけるつもりよ!!むやみに追いかけないで、どっしり構えなさい!!」

 

声の主は、あの忌々しい女、沖田総司。

 

なんなのよあの女!!

こちらの狙いをいとも容易く看破し、あろうことか敵に助言を与えるなんて。彼女はあたしの視線など意にも介さず、ただ退屈そうに酒を喉に流し込んでいる。その余裕に満ちた振る舞いが、あたしの神経を激しく逆撫でする。

 

『……見抜かれている。流石は天才剣士・沖田総司でござるな。操殿の体格差を補う真っ当な戦術を、一瞬で……』

 

ここで引き下がるわけにはいかない。

 

「おっと……、沖田様、ありがとうございます。これでお前の勝ち目は完全になくなったぞ!小娘!!おとなしく首を出せば、一撃で楽にしてやるぞ!!」

 

助言を受けた男はぴたりと足を止め、広間の中央で岩のごとく構えをとった。無駄な動きを捨て、こちらから踏み込んでくるのを待ち受ける算段だ。

 

小賢しい。

あたしのヒットアンドアウェイはこれで封じられた。自分から懐に飛び込めば、あの丸太のような腕に捕まり、へし折られる。

 

そう思い込んでいるのだろう。

勘違いしないでよね。

足を止め、両手に握っていたデコ・トンファーを下げて、ダラリと腕を落す。

 

「誰が……。そうね。力が私にはない?そう言っていたわよね?」

 

「ああそうだ!この俺の圧倒的な力に勝てるわけがねえ!お前みたいな小石、いつでもひねり潰してやる!!」

 

本当に愚かだ。

目に見えるものだけで判断し、相手の真の脅威を測ろうともしない。

 

あたしは武器を下ろしたまま、その場から一歩も動かずに両腕を大きく広げる。相手の攻撃を真正面から受け止める、純粋な力比べの構え。

 

「いいわよ!小細工はなし。真正面から来なさい!」

 

「ふん!スピードを捨てて力比べとは、愚か者め!!自分の死に場所を自ら選ぶとはな!!その細い体ごと、ミンチにしてやる!!うヴァあああ!!!」

 

速度も策も捨てた、純粋な暴力の塊が押し寄せてくる。

蒼紫様も、緋村たちも、息を詰めてこの衝突の行方を見守っているのが肌で感じられる。誰もが、あたしがこのまま跳ね飛ばされ、無残に潰されると予感しているはずだ。

 

ドスゥン!!!

 

「ぐ………ぐぐ……な、なんだこいつ……岩を抱えているみたいにビクともしねえ……!この……!」

 

顔を紅潮させ、血管を浮かび上がらせて、全力であたしを押し込もうとしている。

だが、あたしの足は床板に根を張ったように微動だにしない。

あたしは、自分を囲い込んでいる太い腕を、逆に上から両手でガッチリと掴み返す。

 

「その程度?99人殺した大男が、こんな小娘の細腕一つ押し込めないの??」

 

男の瞳に、明確な恐怖が浮かび上がる。自分がどれほど常軌を逸した相手に挑んだのか、ようやく悟り始めたのだ。

 

だが、もう遅い。

あたしは掴んだ腕に、ギュッと力を込める。

 

メキッ……メキメキィッ!!!

 

鈍く気味の悪い音が広間に響き渡る。本来曲がってはいけない方向へ、骨が無理やりへし折られる音だ。

 

「ぎゃあああああああ!!!!」

 

聞いたこともないような、醜く情けない悲鳴が弾ける。

 

あたしがただ腕力だけで雑巾を絞るように捻り上げると、太い両腕の骨が安い飴細工のようにあっけなく砕けていく。筋肉の繊維が千切れる音さえ耳に届く。男の誇る剛力など、あたしの前ではただの紙屑に等しい。

 

抵抗する力を完全に失った体を、あたしは冷たく払いのけた。

ドサリと重い音を立てて崩れ落ちる。

 

折れ曲がった腕を押さえ、涙と鼻水を撒き散らしながら床をのたうち回っている。あたしはその無様な姿を見下ろしながら、自らの内に秘められた真実を告げる。

 

「御庭番衆秘伝の『筋力増強の秘薬』……甘く見ないでよね。この十年で、式尉さんの5倍の量を、毎日欠かさず服用しているんだから」

 

そう。

あたしの身体は、とうの昔に常人の枠を超えている。

 

御庭番衆に伝わる秘薬。あの式尉さんでさえ悲鳴を上げるような致死量レベルの5倍を、あたしはこの十年間、一日たりとも欠かさず飲み続けてきたのだ。

 

飲むたびに内側から筋肉が引き裂かれるような激痛に襲われ、骨が軋み、地獄のような苦しみを味わう。最初は血を吐き、何日も寝込むことの繰り返しだった。

 

それでも、あたしは決して屈しなかった。

どんなに苦しくても、泣きながら薬を飲み下し、強くなるための鍛錬を重ねた。その結果が、この身体に宿った常軌を逸する剛力なのだ。

 

「操……!!それは致死量に近いぞ!体の組織が崩壊する!!なぜそんな無茶を!」

 

常に冷静な蒼紫様が、珍しく顔色を失い、悲痛な声を張り上げる。

そこには、あたしの体を本気で憂う深い愛情と焦燥が滲んでいる。

 

ああっ、蒼紫様があたしのことをこんなにも心配してくださっている!

 

「大丈夫です。副作用を克服するために、毒の訓練も死ぬ気でこなしていますから。すべては、愛する蒼紫様のために……少しでも貴方のお役に立つための、私の努力です」

 

そう、すべては蒼紫様のため。

隣に立つにふさわしい女になるため。足手まといにならないため。蒼紫様を守れる力を手に入れるため。

 

その一心で、どんな地獄の苦しみにも耐えてきた。毒に耐性をつけるため、自ら毒蛇に噛まれ、毒草を喰らい、何度も死の淵を彷徨った。その度に蒼紫様の顔を思い浮かべ、這い上がってきたのだ。

 

これくらいの代償、蒼紫様への愛に比べれば些末なこと。この力はすべて、蒼紫様への愛の結晶に他ならない。

 

蒼紫様は何かを言いかけて口を動かしたものの、最終的にはその想いの深さに圧倒されたのか、再び静かに口を閉ざされた。

 

ふふっ、蒼紫様ったら、照れていらっしゃるのね。愛おしい。

 

さて、蒼紫様との愛の確認も済んだことだし、この不快なゴミの掃除を終わらせなければ。

 

「………さて。覚悟はいいか、豚野郎?良くなくても殺すけど」

 

この村の人々を虐げ、英次の両親を奪い、そして何より、愛する蒼紫様が立ち向かう敵の配下であるこの男を、ここで確実に排除する。

 

この力と蒼紫様への無限の愛があれば、こんな男など瞬きする間に終わらせてみせる。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

床に這いつくばる男は、先程までの尊大な態度はどこへやら、ひどく無様な姿を晒している。へし折られた両腕を引きずりながら、ジリジリと後ずさりしていく。顔は恐怖と激痛に歪み、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。

 

人をゴミのように見下して笑っていた者が、いざ自分が追い詰められるとこの有様。本当に底の浅い、救いようのない屑。

 

「ま……待て待て……!99人殺したってのは、ただの言葉の綾だよ!!ちょっと見栄を張って話を盛っただけなんだよ!!だから助けてくれ!!頼む!!」

 

言葉の綾?盛った?

そんな寝言が、あたしの前で通用すると思っているのか。仮に数字が偽りだったとしても、この村で働いた非道な行いが消えるわけではない。

 

「だから何?アンタが何人殺したかとか、数字の誤魔化しなんてどうでもいいのよ。だけど、英次のお兄さんを惨殺して、見せしめに両親を吊るしたのは、他でもないアンタの仕業でしょ?その事実は何があっても変わらないわ」

 

今のあたしは、こいつの目に死神のように映っていることだろう。

 

そのまま息の根を止めてやろうと武器を握り直したその時、部屋の空気を恐ろしく重くするような、低い声が上座から降ってきた。

 

「………尖角……」

 

志々雄真実。

全身を包帯で覆った異様な男が、退屈そうに肘をついたまま、氷のように冷酷な視線を向けている。その声に怒りはなく、ただ無価値なゴミを処理するような冷淡さだけが満ちている。

 

「俺もお前に、最初から勝ちなんざ期待しちゃいねえがよ。……ただの小娘相手に、技の一つも出させないで無様に負けてみやがれ。俺が直々に、てめえを細切れにしてやる」

 

あたしに殺されるか、志々雄に細切れにされるか。どちらに転んでも未来はない。悪党の末路など所詮こんなものだ。

 

志々雄から放たれる圧倒的な重圧に、男の体がガタガタと激しく震え出す。

 

「あら、志々雄様とやらは、私の技を見たくなったみたいね。いいわよ。特等席で見せてあげる。……来なさい」

 

あたしが挑発するように構えると、退路を完全に断たれた男が、絶望と狂気が入り混じった顔で獣のような咆哮を上げた。

 

「う…………うヴァあああああああ!!!」

 

両腕が使い物にならない以上、ただの肉の壁として突進してくるしか術がない。

 

だが、そんなもの、今のあたしにとっては静止した的と何ら変わりない。

あたしは深く息を吸い込み、十年間限界まで鍛え上げ、秘薬で極限まで強化した筋肉のバネを総動員する。

 

 

「円殺轟鉤棍・連牙!!!」

 

踏み込んだ足が床板を爆発させるように砕く。

次の瞬間、あたしは男の懐へと神速で潜り込んでいた。

右のトンファーが横薙ぎの軌道を描き、脇腹に激突する。

 

ドゴォッ!!

 

重い筋肉の鎧ごと、その奥にあるあばら骨を粉砕する確かな手応えが掌に伝わる。

 

だが、これはただの始まり。連牙の名の通り、一度始まったら相手が肉塊になるまで止まることはない。反動を利用して独楽のように身体を回転させ、今度は左のトンファーを鳩尾に叩き込む。

 

ガキィッ!!

 

巨大な岩をハンマーで打ち砕くような恐ろしい音が響く。ドーピングで跳ね上がった超重量の連撃が、神速の回転に乗って嵐のように男の体を蹂躙していく。

右、左、上、下。

 

打撃音が重なり合い、その度に男の体が宙に浮き上がる。肋骨が何本も砕け散り、内臓が破裂する気味の悪い音が、広間の中に容赦なく響き渡る。

 

ただの暴力ではない。これはあたしの怒りであり、英次の悲しみであり、理不尽に命を奪われた村の人々の無念を晴らすための鉄槌だ。

 

「ぐ……ぐわああああああああ!!!!」

 

だが、まだまだ。これっぽっちでは許さない。

英次の痛みに、全然足りない。

 

トンファーの回転をさらに加速させる。一撃ごとに骨を砕き、肉を抉る。

 

そして、回転の遠心力を極限まで高め、すべての体重と怒りを乗せた最後の一撃。

あたしは右手のトンファーを真っ直ぐに突き出し、太い喉笛めがけて全力で突き入れる。

 

ドシュゥゥゥッ!!!!

 

鋼の先端が肉と気管をいとも容易く突き破る。

 

致命的な一撃。

急所を完全に破壊された体が、ビクッと大きく跳ねる。

 

「ぐうう……、ゴボ……ごろじで……ゴボ……」

 

貫通した喉から大量の血の泡を吹き出しながら、意味をなさない音を漏らしている。

 

「……自分の血に溺れて、苦しみながら死になさい」

 

そう言い捨てて胸元を強く蹴り飛ばし、突き刺さっていたトンファーを力任せに引き抜く。

 

重たい音と共に、肉の塊と化した体が床に倒れ伏す。首の穴から間欠泉のように血が噴き出し、あっという間に床を赤黒く染め上げていく。数回痙攣させた後、白目を剥いて完全に事切れた。

 

武器にこびりついた血糊を振り払い、背後に立つ小さな少年のほうへ振り返る。

さっきまでの殺意を綺麗に拭い去り、一番優しくて、安心させるような微笑みを英次に向ける。

 

「……仇はうったわよ。英次」

 

あたしの言葉に、英次は大きく目を見張り、ポロポロと大粒の涙をこぼし始める。そして、小刻みに震えながら、あたしに向かって深く頭を下げた。

 

「………ありがとう。姉ちゃん……」

 

これで一つ、あたしのやるべきことは終わった。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

静かに、だが周囲の空気を圧迫するほどの確かな殺意を纏って、一人の男が一歩前へと進み出る。

あたしの愛してやまない、世界で一番強くて美しい男。

四乃森蒼紫様。

 

チャキッ……。

 

「刀を抜け……志々雄真実。俺が勝ったなら、沖田さんは返してもらうぞ」

 

あの泥棒猫に不要だと捨てられ、一度は心が折れかけたはずの蒼紫様。

だが、蒼紫様は決して立ち止まるような弱い男ではない。どれほど傷つき、絶望しようとも、自らの望みを取り戻すために最強の敵へ正面から牙を剥く。その姿のなんと美しく、誇り高いことか。あたしは思わず見惚れてしまいそうになる。

 

 

「……ほう?愛しの女を賭けて、この俺とやるってか?」

 

決死の覚悟を、退屈しのぎの遊戯としか思っていないかのような態度。

 

「お前の掲げる理は弱肉強食。強い者が全てを奪う……。ならば、文句はあるまい!!俺が最狂の牙となり、お前を喰い殺す!!」

 




ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は操VS尖角、そして操の隠された強さを描きました。
操の覚醒や、蒼紫への愛の重さについて感想をいただけると嬉しいです。
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