機動戦士ガンダム SilenceWar ~U.C.0096 The Legends Sing of UC Lullaby~   作:にわ@タイトル単位作品作成者

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SecretFile.01 蒼空

U.C.0096 6月末

 地球連邦軍 トリントン基地にて

 

 書類は、あっけないほど少なかった。

 

 最後の一枚に名前を書き終え、ユウ・カジマはペンを置く。

 

「これで手続きは終了です。長い間、ご苦労様でした」

 

 事務机の向こうに座る士官が言った。

 ユウは小さく頷く。

 

 それで終わりだった。

 

 戦場も、作戦も、命令も。

 すべてが、そこで区切られる。

 

 建物を出ると、乾いた風が頬を撫でた。

 

 空は高い。

 夏の気配が、もうすぐそこまで来ている。

 

 ふと、格納庫の方角に目が向く。

 

 あの中には、蒼い機体が眠っているはずだ。

 トリントンの空を駆けた――あのバイアラン・カスタム。

 

 もう、自分の機体ではない。

 

 ユウは視線を外し、基地の門へと歩き出した。

 

 その途中で、足が止まる。

 

 門の脇に、一人の男が立っていた。

 

 見覚えのある顔だった。

 

 短く刈った髪。

 少し真面目すぎるほどの姿勢。

 

 男はユウに気付くと、目を見開いた。

 

「……中尉?」

 

 どこかで聞いた声だった。

 ユウは足を止め、もう一度その男の顔を見る。

 

「サマナか?」

 

 サマナ・フュリス。

 かつての――モルモット隊の隊員。

 

「中尉! 生きていたのですね!」

 

 思わず駆け寄るサマナに、ユウはわずかに笑った。

 

「お前こそ。よく無事でいてくれた」

 

 ユウは小さく目を細める。

 

「だが“中尉”はやめてくれ。俺はもう退役した」

 

 サマナははっとして姿勢を正す。

 

「失礼しました。ユウさん」

 

 少し間を置いて、サマナは静かに続けた。

 

「探しましたよ……本当に」

 

 サマナは少し困ったように笑った。

 

「BD2との戦闘の後、ユウさんは行方不明になりましたから。

 生きているとは思っていましたが……どこにいるのか、まったく分からなくて」

 

 ユウは黙って聞いていた。

 

「それで、最近になって噂を聞きました」

 

 サマナは基地の方をちらりと見る。

 

「トリントンで、蒼い機体が単機で敵部隊を壊滅させたと。

 しかも、あり得ない機動をしていたそうで」

 

 苦笑する。

 

「それを聞いて、もしかしたらと思いまして」

 

 ユウは肩をすくめた。

 

「大した話じゃない」

 

「いえ」

 

 サマナは首を横に振った。

 

「ユウさんなら、やると思いました」

 

 しばらく沈黙が流れる。

 

 それからサマナが口を開いた。

 

「そういえば、モルモット隊の仲間のことですが」

 

「フィリップは?」

 

「元気ですよ。今はパン屋をやっています」

 

 ユウは少し驚いたように眉を上げた。

 

「パン屋か」

 

「ええ。結構繁盛しているみたいです。

 “今度来たらタダで食わせてやる”と言っていました」

 

 ユウの口元が、わずかに緩んだ。

 

「そうか」

 

「モーリンさんも元気です」

 

 サマナは続ける。

 

「お父上が決めた婚約者と結婚したそうです。

 今は普通に暮らしているみたいですよ」

 

 ユウは頷いた。

 

 それが一番いい。

 

 あの戦争に関わった人間が、普通に生きている。

 

 それ以上望むことはない。

 

 だが――

 

 サマナは少し声を落とした。

 

「ただ、一つ妙な話を聞きました」

 

「妙な話?」

 

「ブルーディスティニーの技術士官……アルフ元大尉です」

 

 ユウの視線がわずかに動く。

 

「彼が、ある新型機の開発に関わっていたという噂があるんです」

 

「新型機?」

 

「RX-0……という形式番号らしいのですが……」

 

 サマナは少し眉をひそめた。

 

「その機体には、NT-Dというシステムが積まれているとか」

 

 ユウは黙った。

 

 NT-D。

 

 ニュータイプ・デストロイヤー。

 

 その名は、二ヶ月半前に聞いた。

 

 トリントン基地で見た、白い機体。

 そのシステムの名称だと、アムロ・レイが言っていた。

 

 あの時、ユウは思わず口にした。

 

 ――EXAMに似ている。

 

 蒼い機体。

 暴走するシステム。

 赤く染まる視界。

 

 人を敵と認識し、排除する機械。

 

 アムロは少し考え、こう答えた。

 

『思想は似ているのかもしれないな』

 

 だが、その時はそれ以上の話にはならなかった。

 

 EXAMは、すでに消えた技術のはずだったからだ。

 

 だが――

 

 サマナの口から出た名前。

 

 アルフ・カムラ。

 

 ブルーディスティニーに関わっていた技術士官。

 

 その瞬間、胸の奥で何かが繋がる。

 

 あの白い機体。

 

 NT-Dというシステム。

 

 そして、EXAM。

 

 やはり――

 

 偶然ではなかったのかもしれない。

 

 ユウはゆっくり息を吐いた。

 

「その機体なら、もう封印された」

 

 サマナが目を瞬かせる。

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。トリントンの核兵器庫に永久封印だ」

 

 サマナは少し驚いたようだったが、すぐに頷いた。

 

「それなら安心ですね」

 

 ユウは肩をすくめる。

 

「俺にはもう関係ない」

 

 退役した身だ。

 

 軍の仕事も、機密も、もう背負うものではない。

 

 しばらく沈黙が続いた。

 

 やがてサマナが笑った。

 

「そういえば……ユウさんの話、まだほとんど聞いていませんね」

 

「長い話になる」

 

「でしたら」

 

 サマナは基地の外の町を指さした。

 

「腰を落ち着けて聞かせてください。

 お酒でも飲みながら」

 

 ユウは少し考え、それから頷いた。

 

「ああ。わかった」

 

 二人は基地の門をくぐる。

 

 背後にはトリントン基地。

 

 そしてその地下には、白い機体が封印されている。

 

 だが、それはもう自分の戦場ではない。

 

 ユウとサマナは並んで歩き出した。

 

 町の方へ。

 

 やがて二人の姿は、人混みの中へと溶けていく。

 

 空は青かった。

 

 それだけで、十分だった。

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