「たかねさん。たかねさんや。この写真機どうかな?」
「う〜ん……確かにこれは文ちゃんにはよく似合うね〜?……ん?これは………。」
その翌朝、一人前の儀式の準備をし始めた文達と天魔様の屋敷前で別れた私は、妖怪の山の玄武の沢の近くにある森奥の、集落の端で行われている市場で『たかね商業』に赴いていた。
因みに妖怪の山では元々あった天狗の里に継ぐ第二の市場となって、天狗以外の妖怪達の利用客で賑わっている。そのお陰で需要と供給がどちらか偏ることもなく、商人たちの利益争いや衝突も無くて、いい感じに棲み分けが出来るように配置しているのは流石の龍さんである。
そうだ。時間があったら妖怪の山の奥地の崖の上には偽ぎ天棚てんだなと呼ばれる高地の廃墟にしか見えない建物で営業しているらしい『駒草山如(こまくささんにょ)』さんの賭場にでも行ってみようかな?
なんでも、特定の日に、いずれかの建物に会場の目印としてドラゴンのキセルをぶらさげているらしいから、探せばあるとは聞いてるしね。後が楽しみだった。
「あ〜!……確か、文ちゃんの為に取っておいた代物だったっけ?懐かしいねぇ〜?
別に買ってくれてもいいけど………これって……200年以上前の旧式だよ?もう河童達の工場や工房でも生産ラインも止まりかけてるだろうし、そうなると部品も少ないだろうし。
にとりに頼んでみても、オーダーメイドになるだろうから必然的に修理費も高くなるよ?私がどうにか収集出来れば…多少はまけてあげれるけど………それでも良いのかい?」
「文があの頃からこの型が好きだって、ずっと話してたからさ。流石に譲れないかな。これにするよ。それに……これは思い出深いからね。修理代も私持ちでいいよ。文がにとり工房に修理しに来たら私に教えて。その時に払うから。」
「相変わらずワガママでお人好しなヒトだね……分かったよ。因みに………その思い出深かったってのは………"椿ちゃんとの思い出"かい?」
「………………。」
この旧式型の写真機のモデルは、椿ちゃんが生きてた頃に河童達によって試作品として開発された代物だ。文のわがままがきっかけに私がたかねと交渉して取り押さえて貰った思い出の品。
そして、時々実験として、触らせて貰った時に数々の思い出の写真を生み出したという特別であり、歴戦の試作品。
そして、椿ちゃんが亡くなった後に、狙ったかのように次の世代のタイプの写真機に成り代わったしまったせいで、試作品であったこの写真機はもう殆ど生産されていない代物だ。
他の山童が運営しているの店わ河童達の工房も回ったが、たかねやにとりに文が独り立ちするまでの間を、この写真機を取り押さえて貰っていたこの写真機しか残っていなかったくらいだから、たかねの言っていうことは本当だ。
だからこそ、思い出深い代物なんだ。
そして、唯一無二であって、かつ皆で共有出来る思い出がしっかりとあるんだから。皆がこの写真機を見つめた時に、思い出せば、その度に忘れ去らないようにしていければ、記憶はいつの日か、それぞれで補完し合えるんだから。
そうすれば誰も椿ちゃんのことを忘れない。忘れなければ椿ちゃんは完全には死なない筈だ。
いつか再会出来るかもしれないずっと先の年月まで椿ちゃんは本当の意味で死なない。そうすれば椿ちゃんは私達の心の中で生き続ける筈なんだから。
「…………まあね。忘れないためだよ。絶対に。文も椿ちゃんの記憶は出来るだけ忘れたくないってさ。」
「……そうかい。文ちゃんも椿ちゃん仲が良かったもんね〜…まあ、文ちゃんや鴉くんの気持ちは分かるけど、切り替えは大事だよ?椿さんには人間としての寿命があるってことは、彼女が亡くなる前に元から覚悟は出来てた訳なんだしさ?」
「……うん。」
本当に人間は儚い生き物だ。これは前世の人間から今世の人外となった今、気がついた新しい認識だ。椿ちゃんは現人神ではあったけれどそれでも身体は人間だ。
故に他の人間と同じく儚く脆かった。あれほどの輝く光を見せてくれ続けてくれていた椿ちゃんも、年月が過ぎてしまえば、その輝きも消えてしまった。
そう………覚悟は出来ていた。私は椿ちゃんの人間としての生を受け入れる覚悟も出来ていた。
でも、理解は出来ても感情は納得出来ないのと一緒で、辛いものは辛い。彼女を失ってしまった悲しさと虚しさは、今も底なしに溢れている。
けれど、それでも私は椿ちゃんと約束したんだ。『もう一度会おう』って。『これからも生ある限り、私は楽しく生きる』って。
いつの日か来るだろう、椿ちゃんとの再会の時に、語り尽くせない程の楽しい物語を、椿ちゃんにめいいっぱい教えてあげる為に。
「お〜い?戻ってきなよ〜?鴉く〜ん?そんなに黙り込んじゃって…………真剣な顔なんか、鴉くんらしくないよ〜?」
「あっ…ごめんごめん。ついボーとしちゃってたね?
………あっそれで、お財布事情に関しては……まあ大丈夫だよ。臨時収入がまだ残ってたからまだ余裕はあるし。最近は萃香さんからの酒代も少しずつだけど定期的に入ってきてるからさ。」
「…………へぇ〜?定期収入源を仕入れてくるなんて………中々やるね〜?鴉くん。鴉くんは実は商売人の素質があるのかもね?」
「アハハ。そうかも?……取り敢えずはその臨時収入があるし、足りなかったら、少しづつ返すからツケにしといて。」
「臨時収入ね〜?………確か、にとりが自慢してきたあの蟻妖怪の巣の鉱石の奴か?確かに、あの"機械バカ"のにとりにとっては高価な代物だから、高く売れるだろうし納得だね。
……にしても、あの万年金欠な"鴉くん"がね〜。小金持ちになるとは……で、今度は何処に行ってきたんだい?」
「まぁ、ちょこっと、大陸の方に飛ばされてね。まさか、自分が飛ばされるなんて思わなかったけど。」
「……はいよ。文ちゃんのは包装に包んでおいたからさ。まあ、鴉くんは相変わらず人のためにばっかお金を使うね?ずっと金欠なのはそれが理由だろうに?
………………もう少しはケチになるか、もしくは自分のためにお金を使うようになったら?そしたら少なくとも自己での満足感は得られるだろうにさ?」
「ありがとう…………でも、大丈夫大丈夫。私は旅ばかりしてるせいでお金はなくても自給自足で生きていけるし、例え見ず知らずでも困っている人とかの為にお金を使ったほうが楽しいからね。
もし今みたいに沢山あっても、いつかは持て余すだろうし、たかねくらいしっかりしてないと財災に遭うと思うからね。
……私、普段の運はない方だし、酷い目に遭う前に散財する方が吉なのは経験で分かりきってるからさ。」
「成る程ね。流石、神様だ。説得力が違うね。」
「私は化けガラスだよ!………よし、取り敢えずは文の方は決まったし、次ははたての写真機を選ぼうかな…………。」
「今度ははたてさんの写真機かい?……う〜ん?
……あ〜!これなんてどう?これは今のうちの最新型だけど?というか、あんまり顧客さん達に余りウケが良くなくてさ、あまり売れてなくてさ。丁度良いし、安く売ってる感じなんだけど?どう?高性能ではあるから少し奇抜な見た目を気にしなければ十分おすすめだよ?」
そう言ったたかねは手のひらにグーをポンとおいて閃いたかのような動作をした後、ガラケーと言う名の携帯電話を座っていたお会計代の引き出しか、取り出してきた。
…………いや、古代から機械を作っていることはまだいいとして時代の先取りをし過ぎである。
特に最近のにとり工房は神奈子さんや私も時々開発に関わってきているせいか、技術革新がうなぎ登りだったりするからなんだか怖い。
私がどれだけ彼女等の機械や技術暴走を抑えるためにしてきた、苦労譚を語ると長くなるので割愛するが、凄く大変だったことは察してほしい。
「確かに……はたてが好きそうだね……というか私があげたお土産とか全部気に入ってくれてるから普通に風変わりでも大丈夫だと思う。」
「………はたてさん。意外と寛容なんだね?」
「まあ……土地によっては、色々な風習があるからね。自然と色々な文化にあたっていけば目利きが出来るようになるし………丁度たかねが収集家の金持ちに売りつけたくなるようにね?」チラリ
「ギクッ………やっぱりバレてた?鴉くん?」
「にとりから聞いたんだよ。」
「賄賂の品は?」
「きゅうり。」
「なら、仕方ないか。私だったらそうするし。」
「やっぱり凄いな…………きゅうり。まあ、気に入ってるお土産は飾ってくれてるから許してあげる。でも、許すかわりに?少しまけて?少し足りないからさ。」
「………ズルい客だ。脅して値段を下げようとするなんて。この最新型、にとり工房でも生産が少ないのに、これ以上下げたら量産料のよりも高くなっちゃうのに。それに、旧式品の部品の取り寄せの難しさも知ってるくせに、……この商売人泣かせめ。」
「あはははッ……私のお土産を黙って売ってたことの仕返しだよ。お土産を売るかどうか健闘するなら、次からはちゃんと交渉として私に手をこねることだね。
その時はお金も払ってもらおう。そっちのほうが後腐れなくて良いでしょ?」
「グッ………急にケチになるじゃないか。私の文言を利用されたら私は引き下がるしかない。………考えたね?鴉くん?」
「フッフッ〜……それは化けガラスだからね。少しくらい賢しくいかないと。」
「はいはい…行った行った。私の負けだから勘弁してくれ。はいよ。ちゃんとオマケで品物は包装しておいたから。」
「ありがと。お代金はここに置いといたから。じゃあ、また来るね?たかね?」
「毎度あり。……あぁ、また来な鴉くん。鴉くんは金を落としてくれる良い常連客だし、落とさない時はいい暇つぶしの話し相手になる友達からさ。」
「そう言ってくれると嬉しいよ。次のお土産も楽しみにしといてね?」
「じゃあ、その時は不死の薬でも持ってきな。高値で買いとってあげるから。」
「ふふ……
「…………ワザとじゃないから。」
「それは知ってるよ。でも、良いんじゃない?ゲン担ぎみたいでさ?ふふ。」
「………はいはい。」
私はたかねからのジト目を少しだけ
全く同じ反応ということは普段いがみ合ってるたかねとにとりの二人は意外にも仲が良いのかもしれない。
そのうち、二人っきりのデートプランでも考えてあげよう。
そして、その2人の姿を私は影で見守るのだ。その間の2人のセコムは任せてね。全力で見守りお姉さんを遂行するからさ。
* * *
そして、夕方頃。私と文は龍さんと天魔様を仲介人に同席して貰い、普段修行に使っている鍛錬場に連なって建てられている、儀式の場で、一人前の為の儀式を始めていた。
「(共に生き共に果てなき生を分かち合い、共に心を分かち合おう。)」
「私は貴方。」
(貴方は私。)
「(対等の契約を誓う)」
文が自身の手の甲に口付けをした箇所に鴉形態の私はその紺色のくちばしをチョコンつけると、
辺りに契約が成されたときの合図である光のエフェクトが私と文の周りに浮かんでは消えていく。
そう、気がついたヒトもいると思うけど。一応話しておこう。文と私の『対等』の契約は天狗にとっての落ちこぼれという意味は払拭されていた。
それと、同時に、はたての鴉達の情報伝達などの活躍や、文と私自身の活躍や愛宕山大天狗を倒したという手柄が目立ったことで、落ちこぼれというイメージは容易く崩れ去り、今では日本列島にいる鴉天狗が、鴉へと対応が丁寧に対等に扱うようになっていったらしい。
そして、私達の契約が完全に終わることで、虐げられているだろう鴉の地位を昔の位置に戻すための終止符となる。
妖怪の山の天狗ではそこまで鴉への扱いは酷くないだろう。だって、実際に私は雛鳥のときにママンの巣からママンを中心とした鴉と鴉天狗が楽しそうに飛んでいる風景を見てきたから。
けど、それは私から見ている範囲でしかない。次回の及ばない所で、地方でも奴隷のような扱いを受ける可能性だってゼロじゃない。
だからこその大々的な文と私の一人前の儀式。
やっと。やっとだね。龍さん。貴方が小さい頃の鴉と鴉天狗が和やかに飛べるようのなる様子が当たり前になるんだよ。
私と文はとても穏やかな表情で見つめ合い、翼と手を添えてその短くも長く感じる契約の光が終わるのを待った。
そして、はたてと鴉達の契約も終えた後、私と文にはたてとはたての鴉達と共に龍さん後ろに立たされていた。
そして、元従者であった椛ちゃんと何故か巻き込まれて震えている久しぶりの優月ちゃんも私達の一番外側の列に加わって参列しいる。
前を向けば、目の前には、天魔様の娘と、その右腕の重鎮の娘の一人前の儀式という名目のおかげが、妖怪の山の一部の警備の白狼天狗以外の天狗達が勢揃いしていた。
天魔様は一番奥の御簾で囲われた小部屋にいて姿は直接見えない。真ん中の道が空いている両サイドには大天狗達が、そしてその列で私達から遠い所には鴉天狗や狼天狗、そして、珍しくも修行を中断して参加していた山伏天狗たちが揃って整列していた。
一応、天狗達の手先である鎌鼬達も一番遠くの位置に三人一組や二人一組で整列している。知り合いの椎菜ちゃんの微弱電波を確認しているので、どっかには混ざっているんだろう。
それだけじゃない。新しく移り住んできた天狗以外の種族の妖怪達が整列……は唯我独尊が普通の妖怪には難しいので、私達と向き合うように乱雑に並んでいる。
乱雑な列の先頭には、
河童の代表 河城にとり
山童の代表 山城たかね
山如の代表 駒草山如。
虹龍洞の取締代表 姫虫百々夜、
鬼の総大将の萃香さん……のミニ分身と……そのミニ萃香さんを肩に乗せて戯れている、ゲストで何故か参加してきた紫様さんまでもが、戦闘の椅子に並んで鎮座していた。
まぁ……にとりとたかねは余りにも公すぎる場所にいるせいでガチガチに震えて固まってるけど………。
そして、他にも移り住んできた妖怪達の代表達を先頭に多くの妖怪達が私達の集まりにノリや勢いで参加している。
………相変わらず楽しそうだね。妖怪達も。
そんな感じでキョロキョロと辺りを見回していた私が、文の指に耳を引っ張られて遠回しに注意されていると、龍さんの演説が始まった。
「同胞達よ!私達は先日の戦を乗り越え、敵であった同胞と剣を混じり合い、風で身を血に染め合った!血は流れだろう!敵だった者達は強力だっただろう!
しかし!今、ここに地に立ち、真っ直ぐと私を見据えるそなたらの姿勢はどうだ?……そう。何処も弱い姿など見えない!なぜならば、そなたたちの一人一人には天狗としての誇りがあるからだろう!!」
「「「「オォ〜〜〜〜〜〜!!!」」」」
天狗達が歓声を上げる中、龍さんは一息ついてから演説を続けていく。
「妖怪の諸君!そなたたちは移住者ではあったが、今ではここ、妖怪の山という組織に属する同胞達だ!私は種族で何かを決めない!
何かしらの実力さえあるものは、その実力に見合った満足できる仕事や職の保証を与えよう!
また、実力なき者は、少ない税を対価に安息を与えよう!ようこそ、妖怪の山へ!!」
「「「ワァ〜〜〜〜〜〜〜!!」」」
そして、今度は龍さんの歓迎の演説に反応した妖怪達がお祭り騒ぎかのような歓声をあげる。
その声を手を軽く上げることで黙らせた龍さんは最後に私達に向き合いながら、止めていた演説を再会させた。
「今日……天魔様の御女である射命丸文と私の娘である姫海棠はたてが一人前の鴉天狗として新任することになる。さぁ!歓迎された者達よ!歓迎する者達よ!!彼女等とその伴侶と言えるべき鴉達に盛大なる祝いの歓声を与えてくれ!!」
「「「「ワァァァァ〜〜〜〜!!!」」」」
そうして、賑わいを増々盛り上がっていく妖怪達による宴が始まり、今夜の妖怪の山を賑わせていった。
なお、宴の描写はスキップです。最近は宴は沢山してましたからね。
読者の皆様にとっての女オリ主のイメージを教えてください!
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可愛い! ここに皆入れてね!
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格好いい! そう?まあそれもありだね?
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美しいね! エヘヘー分かってんじゃん!
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変態! でも変態なお姉さんは好きでしょ?
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人情姉さん! 私についてきな!君達!
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大人なお姉さん! 妥当だよねー!うふふ♪
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乙女だよ! 分かってるねー!
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人妻最高! 良い子の皆は入れないでね?
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未亡人最高! なんか投票欄が怪しくない?
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もっと強くなれよ! あっはい、頑張ります
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ポンコツだね。 ん?これは褒め言葉?