(前回からの続きです。)
まだ、鳴き虫や鳥も居ない静かな雪原と雪に覆われた白い森の風景に冷たく穏やかな風が吹いて、馬屋から黒き馬と狸と共に出てきた彼女のフードを軽く揺らしてくる。
― ヒュゥ ―
彼女の従者である物部布都の大きな別荘の藁葺き屋根が白い塊に染まっていることに気がついて、彼女は白い息を吐いて喋り出す。
「ふぅ………御年の冬は結構雪が振りましたね。その分積もってしまいましたか………その内、従者達を呼んで雪掻きをしなければ。」
そう言って風で軽くめくれたフードを軽くかぶり直した彼女は、雲一つなく澄み切った綺麗な朝空を見上げる。
「ふぅ〜……今日はいい天気です。雪も振らなくなってきた頃ですから、初春は迎えたのでしょうか?…………春が待ち遠しいですね。黒駒?狸さん?」
「ブルル」「キュー」
彼女の問いかけに応える動物達に対して、彼女は冷え始めた両手を温めるために擦り合わせた後、温かい息を吹きかけると白い息となって出てくるのを見つめていた。
そして、その間は手綱が離されていたのにもかかわらず主人には忠実な黒い馬は、逃げることもせずピタッと主人の隣で静止して主人が自分に乗るのを鼻を鳴らして待ち望んでいた。
その主人に誠実な黒い馬の様子に彼女はニコリと笑いかけてくて、黒い馬にまたがる。
それと同時に、ついてきていた狸が彼女の空いている鞍の股の間の上にひょこっと飛び乗った後、先程馬屋で言われた彼女の言いつけの通りに、身体を丸まらせてきっちりと落ちないように身体を固定させる。その手慣れた様子から既に何度もこの仕草をしているのは言うまでもない。
「さて、黒駒。今日は手心を加えてくださいよ?最近、身体が重くなってしまってきていましてね。運動は続けていきますが、今は特に大事な時である為、無闇に怪我をしたくないのです。」
「ブルル……。」
「ふふっ……心配しなくても大丈夫ですよ黒駒?あと少しで、私達は尸解仙になれるのですから。「ブルル?」……ええ。そうです。だから怪我が出来ないように、いつも通り、丁重にお願いしますよ?………さて、出発しますからね?………スゥ〜…はぃやぁっ~!」
― ヒヒッ〜ン ダダダッ ダダダッ ―
息を大きく吸った後、立派な掛け声をあげた彼女が手綱を強く揺らす。
すると、黒い馬は鳴き声を静かな空に響かせて雪原を蹄を響かせながら猛スピードで森の道へと入っていった。
雪で追われた山の中を進む黒い影。その姿は目に捉えることは難しいだろう。それ程の俊敏さと馬力がこの馬にはあった。
ビュウビュウとすんざく風の音が狸と彼女と黒い馬の耳に入っていく中、既に秒速を超えそうな程の速さに達した彼女の馬は崖上まで一瞬で辿り着く。
例え、目の前が先に地面がなく断崖絶壁となったとしても、この黒い馬は決して立ち止まることはなかった。
何故ならば、この馬はその比類なき脚力によって空を飛ぶことが出来たからだ。
― パカラッパカラッ ―
「さあっ!今日も貴方のお力を見せてもらいますよ!黒駒!」
「ヒヒッ〜ン!!」
そして、黒い馬は崖から飛び立ち、またたく間に雲を足元に呼び出してその雲の上を走るかのように空を飛ぶ。字面だけみれば、余りにも絵空事だとは言うが、彼女は空をその比類無き脚力と馬力にて駆け抜けることで飛ぶことが出来ることは事実だった。
そう、彼女と狸が乗っているこの黒い馬こそが、聖徳太子と『甲斐の黒駒伝説』、その生きる伝説であった。
彼女の比類なき脚力は、奈良から飛び立ってからたったの3日で長野まで辿り着くことが出来る程を力を有する。
故に、多くの者達の間で囁かれてきた伝説だった。
しかし、ここに黒駒はいる。
伝説は生きていて、今でも未だに眠りから覚めていない都の頭上を走っていく。
「はいやぁ〜!!やはり貴方は最高です!黒駒!!」
「ヒヒッ〜ン!」
「キュー!」
「そうですね!………貴方の言うとおり、もう直ぐ…いつも見ているあの景色をが見れるでしょう。……おっと……そろそろですね……?」
彼女がそう言った瞬間、太陽が地平線から顔を見せ始めた。
綺麗な日の出の光が都の街並みを明るく照らしていく。人々に朝の訪れを知らせる為に。
そんな幻想的と言えるような風景を彼女は毎朝見ている筈だ。だが彼女は本当に初めて見たかのように、そして、この自分達が作り上げた立派でそして美しい都の姿を目に焼き付くかのように、息を呑んで見惚れていた。
「………綺麗だ。何度見ても…この景色は見足りない。屠自古や布都にも見せてやりたいくらいだ。」
「キュー。」「ブルル。」
「ふふ……貴方達も私達がイチから作り上げたこの景色を気に入ってくれてとても誇らしいことですよね。勿論、私が一番、この空から見下ろした時の都の景色を気に入ってますがね。」
「ブルル」「キュー」
「え?……私の自画自賛の自惚れですって?ふふっ……別に良いんでしょう?
貴方の前くらい、気楽に自慢ぐらいさせてください。本当に、この都を作り上げる為に本当に苦労したんですから。
動物相手ならしても誰も咎めませんし、それくらいなら大した罰は当たりませんよ。」
「ブルル」「キュー」
「ははは…手痛い言葉をありがとう。でも、貴方達こそ誇るべきですよ?
今この時に、この美しい景色をこんな高いところから見れるのは特等席で見れるのは私と黒駒と狸のお方だけですから。」
「ブルル?」
「空高く、飛ぶことが出来る貴方のお陰でなのは十分承知ですよ。いつもこの景色を観させて頂いてくれてありがとう御座います。黒駒。………所で、黒駒。少し高度が下がって来ていますが大丈夫ですか?」
「ブルルっ!?」
「………誇らしげなのは良いことですが………あ、安全運転でお願いしますよ?……朝から落下死なんてしたくないんですから?都中の笑いものにされてしまいますよ?」
「キュー………。」
彼女と黒駒と狸はそんな肩の力が抜けるような会話を続けながらも、伝説がほとんどの毎朝の誰も出歩かない静かな奈良の都である斑鳩宮の上を駆け抜けていった。
そんな彼女等の見下ろしていた都も溶けかけていた雪の太陽の反射で、とても綺麗に白く美しく輝いていたのだった。
* * *
太陽も地平線から完全に顔をだしてきた頃、"散歩"と揶揄された澄み渡った綺麗な空気の冬の朝空の旅を満喫した彼女達は、すっかりと都の雪景色に満足したようで、出発した地点に輪を描くようにして都を回っていき、布都の別荘の馬屋の近くへと降り立っていく。
「はいよぉっ〜!!」
― ヒヒ〜ン ダダダッ ダダダッ ―
そして、ゆっくりと速度を落としていった黒駒はやがて歩く程度の速度に変えて、馬屋の直ぐ目の前で立ち止まったのと同時に、彼女は狸と共に地面に降り立って、一瞬よろめいてしまったが、狸と彼女は顔は興奮の笑顔のままだった。
黒駒も慣れた様子で、自分の頭や首を使ってよろめく彼女を支えてくれる。
この黒い馬はいつも傲慢な性格や態度を示してくるが、こういった所で優しさを出してくるのは、中々の不器用で優しい性格の所以だった。
しかし、彼女はそれも込みでこの黒き駿馬を小さい子供の頃から気に入っているのだ。そんな性格も折れ込み済みで愛しているのは、主人として友達として当たり前だった。
なお、新顔の居候を決め込んでいる狸がその着地の時の勢いに倒れてしまうのは放置していて、そのことを倒れていて目が回って未だに立ち上がれない狸に『キュー!キュー!』と抗議されてもこの馬は知らん顔をしているが。
未だに目を回しながらも高笑いしていた豊聡耳神子には預かり知らぬところである。
「アハハハハッ!………毎朝同じことをさせてしまってはいますが、本当に毎度のことありがとうございますね?黒駒。
………にしても、ずっと空に浮いていると目を回して足腰が躍ってしまいますね。これだけはいつまでたっても慣れませんよ。」
「ブルル」
「……『それはお前の足腰が弱いからだろう?私のようにもっと足腰を鍛えろ弱虫!』ですか?貴方と比べられたら大体の馬や人間の足腰が弱いことになってしまいますよ?」
「ブルル?」
「…………いえ?……貴方は普通の馬ではありませんからね?まさか…無自覚だったんですか?」
「ブルル。」
「ふっ……黒駒はお互い小さい頃からずっと…愉快な相棒ですね。……それじゃあ、散歩の時間は終わりです。馬屋に戻りましょう。」
「ブルル。」
「『厩戸王って呼ばれてるんだから、ついでにお前も馬屋(厩)に来い』ですか?……う、うるさいですね。いつから貴方はそんなに面白い冗談を沢山言うようになったんですか?
いくら私が馬屋の近くで生まれたからと言って生まれた種族まで馬ではないんですから冗談にも程があります。
でも、また直ぐに合いにいきますから、貴方の世話を普段からしている舎人の『調子丸』には優しくしなさいよ?」
「ブルル!」
「『嫌だ』ですか?………はぁ…。高飛車過ぎるメスは、いい加減嫌われますよ?私はそんな貴方も大好きですが……。」
彼女のため息から、狸にはこの黒い馬の鼻息荒い返事が何を意味しているのかは察しがついてしまったが、どうせいつものことである。
この冬越の半年近くの間で、この馬の世話係が沢山振り回されているのを、狸は見てきたので十分に知っていたのだった。
そして、毎朝行われる名残惜しそうな鳴き声を鳴らす黒駒と馬屋で今生の渋々別れを告げるよう彼女による、謎の茶番劇を見せられるのも。
故に、狸と世話係の調子丸はいつものジト目で、一人の主人と一頭の黒駒による、謎の茶番劇の様子を眺めていた。
「ブルル…ヒヒ〜ン…!」
「あぁ〜!私だって貴方と別れるのは辛いんだ黒駒!!……だが、私にはこれから先、やることが沢山あるんだ!だから、暫しの別れだ。………また会おう。黒駒。」
そう、この流れは毎朝、散歩から返ってくる度に一度も一つたりとも欠かすこともなく行われのだ。
流石に狸や従者がジト目になってしまうのは仕方が無いことだろう。
非常にこの国を舵取りしているような偉い行政人とは思えない奇行であったが、これも彼女と黒駒のいつもの日課だった。非常に不本意ではあったが。
そんなにらぶらふ(?)なら、この馬と祝言をあげるべきだろうに。まあ、この黒い馬はメスだが。
この女には既に既婚者が四人もいて、この駿馬を入れれば5名いることになるので、女たらしのこの好き者に対して、なんとも言えなくはなるが…………。
(まさか……流石のこの女も馬とも恋愛事を通すことはないじゃろ?………いや…この調子だと……あり得るな……。
現に飛燕もナンパされたと本人から聞いておる。あの人たらしの化けガラスにも色目を使うのだ……この駿馬ともそのようなことをおかしくもない…………こと恋愛事にはあな恐ろしいお人じゃな。此奴は。)
そう、内心ヒヤヒヤしたマミゾウだった。
* * *
そうして、朝食を食べるために狸と彼女は、世話係のである調子丸の、黒駒に振り回されているだろう『ヒィ〜〜!?』という悲鳴がしている馬屋を、いつも通りの背景にして布都の別荘へと歩を進めていく。
既に、この『物部布都』という生意気な子供大人である彼女の別荘は、彼女等の導師修行のための拠点として、機能していた。
理由は様々だが、この別荘が建てられている広い土地は全てあのふざけた"のじゃロリ"の土地であるのが大きいだろう。
そもそも豪族であり、彼女以外の一族が滅びるまでヤマト王権の統一時代からこの国を支えてきた物部の一族だ。その末裔であり最後の物部一族と言える娘が持つ、彼女の庭に態々入ろうとする不束者は居ない。
そして、ここは斑鳩宮から少し離れた外れの土地。そもそも都の住人や貴族は用がない限り、豪族の私有地にはあまり近づかないのだ。
そのような要因から、彼女等の仙人修行の根本を担う拠点としてこの冬越しの間使われていたのだった。
最近行なっている道術の鍛錬とかいう仙人修行。元々あの邪仙達が訪れるまでは、大陸から伝わったという道術書を集めたものと、残りの知識は子供の頃からそれらを使っていたと、マミゾウは噂が大好きな奈良に住んでいる子分の化け狸達からそのようなことを小耳に挟んでいた。
しかし、邪仙に彼女等が弟子入りしてからは増々修行が捗っているらしく、もう直ぐ尸解仙になれるという所まで来たという話は、今現在玄関で自身の冬狸の身体を乾かすように優しく拭いてくれている彼女から、おしゃべりの時に時々聞いている。
政で忙しいだろう?と聞いたそとはあったが、冬の間は政関係の仕事は少ないのだそうだ。
税の納期は秋の間だったり、冬の間は人の行き来が少ないらしく、都の治安維持と恵まれぬ者の飯と仕事の斡旋くらいしかないとのこと。それでも、自由気ままに化け狸の大将として妖怪生を生きてきたマミゾウからすれば、部下達を統率するよりも面倒だとは思う。
人間とは面倒な生き物じゃ。だからこそ、面白いとも言える。儂ら化け狸にとってはそれこそ、化かしがいがあるからのう。クックックッ。
その別荘の引き戸を彼女が開けると、温かい空気が出てくる。その空気に彼女と狸はほんわかしながらも、鬼嫁の怒った姿を思い浮かべて玄関が冷たくならないように、急いで戸締まりをした。
そして、玄関で靴を脱いだ後、気が利く彼女の正妻であり従者がかけてくれていただろう布地で狸についていた雪が溶けて濡れた身体を拭き取っていると、台所があるだろう土間のある方向から声が聞こえてきた。
「太子様でしょうか〜〜?お帰りになられたんですか〜?」
(相変わらず勘がいい奴だのう。それとも、これも最近修練していた道術とかいうヤツの賜物か?
……お〜!そこじゃそこじゃ!太子。そこが痒くて痒くて仕方なくてな。だが、儂の今の短い足や短い鼻先では、そこまでは届かなくてさっきから堪らんかったんじゃ!もっと掻いておくれ。)
「そうですか………ここですね?狸のお方?ほれほれ〜。」
(おう〜ふぃ〜……生き返るのう〜〜。感謝するぞ。)
「ふふ……そうですか?気持ちよさそうなら良かったですね?
………屠自古〜〜!私で〜す!今帰りましたよ〜!今、狸のお方の身体を拭いていますので、それを終わらせたら、そっちに向かいますがぁ〜?何か手伝うことはありますか〜?」
「そうですね〜!料理はもう殆ど出来上がっておりますのでぇよ!手伝いは不要ですよ〜!ですので、すいませんが代わりに〜!今頃、拗ねている布都を宥めてくださいませんか〜?」
「わかりましたよ〜!屠自古〜〜!!……あ〜……そうでしたね?今日も起こしに行ったのですが………全然布都は何度揺り起こそうとしても、全然起きませんでしたから、私はいつも通り散歩に連れて行かなかったんですよね。」
(……寝坊助な方が悪いと思うんだがのう〜?)
そんなことを2人して話しながら居間へと向かっていき、居間の襖を開けると、そこには今日も寝坊したことで朝の散歩に連れて行って貰えなかった布都がブスーと家臣としてはあってはならない不満顔を零しながら、太子と狸を見つめて出迎えてくれていた。
なお、机に片腕を立てて、その片腕の方のグーの手でほっぺたをへこませて座りながらだ。
彼女は完全にぶーたれていた。
「………太子様の…意地悪。」
「あ、あちゃー………その…布都?私はちゃんと何度も起こそうとしたんですよ?
事実、何度も身体を揺すったりしました。でも、布都は毎回起きてはくれないんですよ?」
「……太子様の意地悪。」
「…………。」(…………。)
マミゾウと太子は顔を見合わせて苦笑いを零してしまう。
何故ならば、このやり取りは冬の間数え切れない程、何度もやってきたからだった。
(次回に続く。)
依頼ではないんですけど、夜明けの早朝の斑鳩宮の上を、黒い空飛ぶ馬に乗った豊聡耳神子と狸が空を駆け巡っているイラストがあれば良いんですがね〜。似たようなイラストがなさそうなんですよ〜。
この話題のイラストを自分でイラストを描きたいんですけど、この小説の執筆作業で忙しくて中々描けないんですよね〜。チラチラ
読者の皆様にとっての女オリ主のイメージを教えてください!
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可愛い! ここに皆入れてね!
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格好いい! そう?まあそれもありだね?
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美しいね! エヘヘー分かってんじゃん!
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変態! でも変態なお姉さんは好きでしょ?
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人情姉さん! 私についてきな!君達!
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大人なお姉さん! 妥当だよねー!うふふ♪
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乙女だよ! 分かってるねー!
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人妻最高! 良い子の皆は入れないでね?
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未亡人最高! なんか投票欄が怪しくない?
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もっと強くなれよ! あっはい、頑張ります
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ポンコツだね。 ん?これは褒め言葉?