第二次聖杯戦争から少しだけズレた平行世界での一幕   作:ささのき

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GWも今日で最後。
次の投稿は未定です。

明日は月曜日らしいね。



第9話 害悪は浄化し、されど厄災は止まらず

 

◇◆◇

 

 その場に召喚されたのは、円卓の騎士が一人にしてランスロットの実子、サー・ギャラハッド。

 

「よく来てくれました、ギャラハッド卿。貴方はどこまでも公平な人ですから、もしかしたら応じてくれないかもと思っていましたが」

 

「…………本来、僕が召喚されることは無い。私利私欲で呼び出していたら召喚には応えなかった」

 

 ギャラハッドは聖杯戦争で呼ぶことは出来ない。円卓の騎士確定ガチャである円卓の欠片を利用しても、召喚することは不可能だ。

 

 何故か。それは生前に、かの騎士が聖杯をその手にしているから。聖杯を求める魔術儀式では呼べない。

 それ以外にも、彼は絶対的なまでの公平性を有しており、私利私欲が混ざる戦いにおいても通常状態で召喚されることは無い。

 

 今回も臓硯側の『道具は渡さない』とする姿勢とアルトリア側の『少女を助ける』という姿勢、両方共に私欲が混ざった戦いだ。召喚に応じる道理は無い……はずだった。

 

「だが、救いの機会は平等に与えられるべきだ」

 

 それがギャラハッドが召喚に応じた理由。

 召喚に際して、アルトリア経由で彼女らが助けようとする少女について情報を得た。憤るべきもの、しかし魔術師とは往々にして、それらが当たり前という認識もある。

 

 ならば問題はその少女に選択権があったのかどうかだ。逃げられる余地があり、無知であることが理由で落とされた地獄ならば、少女にも非はあるとした。

 

 しかし、当時の彼女が保有していたであろう能力や環境では、それは不可能である。罪なき地獄、ならば救済の手は伸ばすべき。

 

「貴方らしい回答ですね、ギャラハッド卿」

 

「僕の在り方が変わることは無い。死ぬまで貫き通した信条は、そう簡単に覆らない」

 

 ニコニコとした笑みを浮かべるアルトリアと仏頂面を崩さないギャラハッドという面白コンビが誕生した。

 

「あ、ありえん。使い魔(サーヴァント)使い魔(サーヴァント)を召喚だとっ!? あまつさえ、互いに何も契約を結んでいない…なぞ、認められん!」

 

 それは聖杯戦争における英霊召喚や令呪開発者としての矜持か、はたまた存在するだけで周囲を浄化せんとするギャラハッドの力への反抗か。

 

「王と騎士が契約を結ぶ必要はない。例え死後の世界でも、僕が円卓の騎士であることに変わらない」

 

「頼もしい限りです、ギャラハッド卿。さて、時間もありませんし、お願いしてもいいですか」

 

「拝領した。確かに眼前の敵性存在と、僕は非常に相性が良いようです。陛下のマスターは指示が的確だ」

 

 王からの要請を受け、一歩前出たギャラハッド。それに合わせて押されるように一歩退くのは臓硯。

 生前に魂を昇華させた騎士が纏う気配は魂を腐られた妖怪にとって、もはや毒に匹敵する。

 

「"人の心はかくも醜く"」

 

 詠唱が始まる。それに付随して間桐の土地を囲うように大規模な結界が構築される。

 

「"世界はそれを許容した。僕はそれを拒絶した"」

 

 この結界は、臓硯がセイバーに気を取られている隙に、花の魔術師お兄さん…………が現世に寄越した分霊が、外に控えているエリゼに指示を出しながら構築させたモノ。

 

「何だ、この結界は……」

 

 その効果は結界内に居る存在の、魂の繋がりを明確にすること。ただそれだけの効果しか持っていない。

 

「"国の命を見殺した。王の(おわり)を理解した"」

 

 ギャラハッドは一つの杯を取り出した。

 

「"後悔しよう、自らの在り方を。されど認めよう、それ(公平)こそが僕なのだと"」

 

 そう、聖杯探索の末にギャラハッドが手に入れた聖杯そのものだ。これを保有するからこそ、彼は聖杯戦争に参加することが無い。

 

「おお、それは正しく聖杯…………!」

 

 臓硯は現状がどれほど危機的状況にあるのか正確に理解している。だが、枯れ果てた魂は聖杯に惹かれてしまう。

 

「寄越せぇ! それは儂の物だぁ!!」

 

「…………これ(聖杯)は誰の物でもない。誰かの物であってはならない、僕自身でさえ」

 

 ギャラハッドは言った。

 聖杯を手にするべきではなかった、と。

 それは信条の果てに国すら見殺しにした後悔か、はたまた人が触れてはいけない禁断の果実への警告か。

 

「──『聖杯伝説(ル・コント・デュ・グラール)』……《かくて、聖杯は天に還る(ヘブンズゲート)》」

 

 

 捧げた聖杯が宙に浮き、天からギャラハッドに向かって一筋の光が差さる。

 

「お゛お゛お゛お゛ッッ身体が、身体っが崩れて、ゆくっ。い、いかん゛。こっのままで、は死んでしまう!?」

 

 彼が近づいたことで、その光を諸に受けたのは間桐臓硯だった。翁は光を浴びた直後から身体に異常をきたし始めた。

 

 そこは屋内であるというのに天から降る光は、屋根を透過してギャラハッド、そして傍にいた臓硯を照らし出す。

 

 全身が虫で構成されたソレは結合が覚束なくなり、焼けるように焦げ付いていく。

 

 

 

 《かくて、聖杯は天に還る(ヘブンズゲート)

 

 その効果は単純。

 

 宝具は逸話が昇華したもの。そして英霊の逸話は往々にして、その最後も鮮明に記録される。フランスの聖女ジャンヌ・ダルクの火刑が《紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)》となったように。

 

 ギャラハッドもまた、自らが聖杯によって昇天した最期を宝具として昇華されたに過ぎない。

 

 即ち、昇天宝具。

 しかも他を巻き込む事は出来ない。当然だ、聖杯で天に還ったのはギャラハッド一人だったのだから。

 そんな宝具としては意味をなさないモノ。

 

 だが、間桐臓硯には致命的だった。

 

 天から来たる光。

 それは浄化にして祝福である。

 

 堕ちたる妖怪に耐えられるものではない。そしてマーリンとエリゼが張った結界も中々に臓硯特攻となった。

 魂の繋がりを補強する効果を持つ結界は、人型臓硯を通して天上の光を、魂の込められた虫に直撃させる。

 

「き、消えるぅ。儂が、消え、てし゛まう!?」

 

 臓硯にまつわる全てが光に触れたことで消失していく。屋敷地下の蟲蔵から始まり、冬木市内に放った使い魔、雁夜に貪る刻印虫、桜を汚す胎の虫。

 

「や゛め゛ろ゛お゛お゛おっ!!!」

 

「…………陛下、僕はこれで去ります。ここから先は、貴方が聖杯を求める物語になるでしょうから」

 

 浄化されていく臓硯を横にギャラハッドは王へと告げる。自分はここまでだ、と。

 

「ええ、なればこそ感謝を」

 

「…………国を滅びを黙認した僕が言えたことではないかもしれない。でも、貴方の道行きを応援しています」

 

 天へと昇天していく自らの身体を動かして、アルトリアへと激励の言葉を贈る。これまでの天使的とまで言われた彼からは考えられない発言に、さしもの彼女も目を見開いた。

 

「まさか、貴方からそんな言葉が出るとは思ってなかった。天に召されて何かを得ましたか?」

 

「…………先程もお伝えしたが、僕の在り方は変わっていない。ただ、少しばかり目を外に向けてみただけです」

 

 変わらずの仏頂面に見えるが、ほんの少しだけ彼の表情には苦みを滲ませたようなものが浮かんでいる。

 

「では、そういう事にしておきましょう」

 

 人の心が分かるアルトリアは、彼の心情を理解して頷いた。天上の騎士は崩れる身体をそのままに、片膝を突く。

 

「陛下へ聖杯を届けられなかった未練、千年とお待たせして申し訳ない」

 

「……我が騎士ギャラハッド、任務遂行お疲れ様でした」

 

「この身に余る御言葉────」

 

 その言葉を最期に、彼を中心とした浄化にして祝福の光が空間を明るく照らしだす。臓硯は断末魔を上げる間もなく浄化に焼かれ、雁夜は消えゆく意識が祝福に満たされる感覚を浸り、桜はポカポカとした暖かさに身を委ねる。

 

 

 

 

 光は落ち着き、空間に薄暗さが戻ってきた。

 

 アルトリアが周囲を見渡せば、そこにギャラハッドの気配はかけらもなく、残ったのは光に抱かれて死んでいった雁夜の死体と、ここ数年感じてなかった穏やかな感覚に当てられて眠ってしまった桜だけ。

 

 臓硯は跡形もなくその存在を抹消された。

 アルトリアは死体となった雁夜の横を通り過ぎ、倒れている桜に近寄りマジマジと見つめる。

 

「この娘が、件の少女ですね」

 

 すやすやと眠る桜を抱き上げるアルトリア。

 両手が塞がって抱っこしたはいいが、これからどうしようか悩む彼女。

 

 そんな時、外から足音が近づいて玄関が開かれる。

 

 

 

 

「問題は……なさそうだね」

 

『ほらー。言ったろう? あの子が対応するんだから大丈夫だって』

 

「そもそも、彼については心配していない。少なくともシスベシフォーウよりかは、優秀と思っているからね」

 

『⋯⋯もしかしてシスベシフォーウってボクのことかい? 原形が欠片も残ってないよ!?』

 

 漫才のような応酬を広げながら入ってくるのは、アルトリアのマスターであるエリゼ一人だ。彼が虚空に言葉を投げるとどこからともなく反応が返ってくる。

 

『ボクにはマーリンという立派な名前があるんだよ! りぴーとあふたーみー、マーリン』

 

「マギ☆マリ」

 

『……それもまたボクだから否定しづらいぞぉ』

 

 虚空の声の主はマーリン。

 アーサー王伝説に登場する宮廷魔術師にして、悠久を生きる夢魔。アルトリアを鍛えた師匠でもある。

 

 ちなみに本人ではない。

 最初は徒歩で行こうとしたが、流石に神秘が薄すぎて存在が保てない。だから分霊を作成して現世にやって来た。まぁ、身体を構築する魔力がギリギリなので分霊ですらも現界は厳しいらしいが。

 

 彼はギャラハッドのように召喚されたわけでもなく、ふらっとエリゼ達の前に姿を現した。何でも最近、王の話がマンネリしてきたので、新しい物語が欲しかったと。

 

 アルトリアの英霊召喚による円卓の召喚を教えたのは彼だったりする。彼女の心象で円卓と接続できれば、ギャラハッドにすら声掛けできると言って、半信半疑ではあったが、アルトリアは彼を呼び出し、そして成功した。

 

「エリゼ、そこらへんで。ギャラハッドの召喚と宝具の使用となりましたが、魔力は大丈夫でしたか?」

 

 まだまだ止まる気配を見せない二人に、割り込むように用件を告げるのはアルトリア。結界の構築に加え、先に述べたアルトリアの宝具と大聖杯に依らない英霊召喚、ギャラハッドの宝具、と立て続けに莫大な魔力を消費したマスターを心配するサーヴァントの鑑。

 

 アルトリアの発言でマーリンとのじゃれ合いを止めたエリゼは、懐から色がくすんだ宝石を取り出した。

 

「心配ありがとう。でも、聖杯戦争に備えて魔力を蓄積した宝石を持ち込んでるからね、この程度なら問題ないよ」

 

 長年……といっても5年程度だが、莫大な魔力生成量を誇るエリゼが複数個に分けて溜めた、かなりの貴重品。聖杯戦争の序盤ではあるがそれを間桐臓硯という、見方によればサーヴァントよりも厄介な存在相手に、消費するのに躊躇いなんて無かった。

 

「そうですか。なら安心ですね」

 

「宝石以外にも手は用意してある。それに急遽決まったことだけど、オレたちの最終目標は全陣営の撃破だ。こんなところで止まってなんていられないよ」

 

 本来の目標にはなかったモノではあるが、英雄王からの直々の指令+公衆の面前で啖呵を切った以上、しないわけにはいかない。そして、それを可能にするだけの能力がセイバー陣営にはあった。

 

「それはいいとして、その娘が桜ね…………祝福の力が強すぎたようだ。拷問で内側に貯め込んでしまった負の感情が、一気に取り払われた影響かな」

 

 彼はアルトリアが抱えた桜に触れて、解析魔術で肉体状態を確認していく。桜は良くも悪くも、諦観や絶望と言った感情で精神を支え──ないし、耐えていたので、昇天の余波でそれらが掻き消されたことで気を失ったのだ。

 

「特に問題点は無い、かな? マーリンから見てもどう? 何かしら悪影響ってありそう?」

 

『君と意見は同じだよ。そも、ギャラハッドの昇天は癒しの力も含まれている。それは外傷だけではなく、内側にも作用するんだ。どうあがいても肉体精神とも健康になるよ』

 

 エリゼは自身の魔術で大丈夫だと判断したが、念のため自分より魔術の腕がたつマーリンにも意見を募った。

 

『浄化の負荷もそこまで重いものでも無いし、明日の昼頃には目を覚ますとも』

 

「そうか…………なら次の動きを考えるか」

 

 マーリンの意見も自身と変わらないと理解したエリゼは一つ頷き、次にやるべきことを考えていた。

 

「どうしますか、エリゼ? 今日はかなり派手に動きましたし、明日は少し落ち着いて様子を探ってもいいかも知れません。一日ぐらい、ゆっくりしてもそう簡単に他陣営が落ちるとは思えません」

 

 確かに今日は大きく動いた。

 主戦場となる夜まで民衆の前に姿を晒し堂々と冬木市内を練り歩いたり、三騎士の一角であるランサーを退場はさせずとも勝利し、バーサーカーを倒した聖剣使い。

 

 字面だけ見ても、一日でかなり大それたことをしたのがよく分かる。

 

「そうだね。桜の様子も気になるし、明日は夕方までは拠点で待機。その後は、この子が目を覚ましてからだね」

 

「分かりました。では手早く拠点へ帰還しましょう。寝床の準備もしなくてはいけません」

 

「ああ、ちょっと待ってね。文献とか聖遺物とか、回収できるものは全部持っていこう」

 

「…………戦争でも倒した敵国から物資や資金を徴収するのは、よくあることですからね」

 

 エリゼは貰えるものは全部回収しようの精神で、間桐邸を物色し始めた。もともとロシアの大家であるマキリ。ゾォルケンの代で血が限界を迎えたが、逆に言えば限界に達する程に遥か昔から受け継がれてきたモノがあるということだ。臓硯自身も500年に渡る研鑽を修めた資料が残っているはず。

 

 それらを求め屋敷の至る所を、それこそ地下や隠し部屋まで徹底的に探し出した。途中、屋敷の電話から間桐鶴野に連絡を取り、雁夜と臓硯が死んだ旨と魔術資料を全回収したと伝えた。

 最初は訝しげだったが、本当に死んだことをが分かると電話越しながら、彼は狂喜乱舞していた。

 

 そうして、隠してあった価値あるモノを根こそぎ奪いつくしたエリゼは、ほくほく顔で自らの拠点である双子館(東)へと帰った。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「……間桐が襲撃された?」

 

 場面変わって遠坂邸。

 贅沢に作られた書斎室で、現当主である時臣は弟子にして同盟を組んでいるアサシン陣営のマスター、言峰綺礼から報告を受けていた。

 

「はい。倉庫街での戦い後、セイバー陣営はその足で間桐邸を襲撃。屋敷全体を覆う程の結界が構築されるのをアサシンが確認しております」

 

 言峰は時臣の困惑した言葉に淡々と返す。

 

「…………理由は分かるかい?」

 

「詳細は分かりかねます。しかし、バーサーカーを倒した後での行動ですので、恐らくはバーサーカーのマスターが間桐の家の者であった可能性は高いかと」

 

「再契約を防ぐ為、か」

 

 聖杯戦争で勝つ方法は概ね二通りだ。

 一つはサーヴァントを倒すこと。聖杯に呼び出された七騎の英霊を倒すことで、儀式は達成することを考えれば、英霊を退去させるのは当たり前のことだ。

 二つ目はマスターを殺すこと。サーヴァントはマスターからの魔力供給が無くなると、途端に現界するのが難しくなる。単独行動のスキルを持たないサーヴァントは、一時間すら残ることは出来ない。

 

 しかし、逆に考えれば少しの間ならばマスターを失ったサーヴァントという存在が成立するのだ。使い魔を失ったマスターと、拠り所を失ったサーヴァントが出会えばどうなるかは必然だろう。そんな再契約を防ぐ為に、聖杯戦争から敗退したマスターを確実に始末するのは実際、かなり理に適った行動だ。

 

「もう何点か、お知らせすべきことがございます」

 

「…………何かね」

 

「セイバー陣営は戦利品として、間桐邸にあったと思われる神秘群を粗方回収したようです」

 

「…………良くも悪くも聖杯戦争、敗者に慈悲は無いということか。そういえば綺礼、セイバーのマスターについて情報は手に入ったかい?」

 

 間桐襲撃だけでも既に胃が痛い案件であったが更にダメージが入った。『常に優雅たれ』という遠坂家に伝わる家訓のおかげで取り繕ってはいるが、胃薬を処方しようかと内心思う程に痛みが走る。

 だからこそセイバーのマスターという、あまり胃が痛くならなそうな情報へ逃げた。

 

「はっ。調べた結果、スイスの代表魔術貴族ワーグナー家の人間であることが判明しました。調査が難航しているようで、詳細は依然として不明のままです」

 

「ふむ。ワーグナーか」

 

「ご存じで?」

 

「ああ、かの家は第二次聖杯戦争でアインツベルンから招待され、外様のマスターとして参加していたのだ」

 

 そこから時臣が語るのは、第二次聖杯戦争のこと。大聖杯を用いた根源到達、それには御三家だけでは手が足りないことが第一次で分かった。そこで彼らは外様の魔術師を聖杯の起動式の提供を条件に招致し第二次を開いた。

 しかし大聖杯の根源到達は一名のみの枠だった。それが判明し御三家は割れた。当然だ、いち早く根源に辿り着くのは、魔術師としての悲願であるから。

 

 そこで問題になったのが、外部から呼び込んだ魔術師だった。彼らは御三家が割れたのを見て自らにもチャンスがあると判断し、召喚しすぐに退去させる予定だったサーヴァントを用いて、聖杯の所有権を得るために争いだした。

 結果的に時間切れなのか聖杯やサーヴァントは自然消滅し、第二次聖杯戦争も終わりを迎えたと伝わっている。

 

 そんなチャンスに乗り込んできた、外様のマスターの一人であったワーグナーの魔術師。第二次聖杯戦争が終了してから、彼女が当主を務めて以降ワーグナー家の発展は著しく、気が付けば中堅でしかなかった一族は大家と言われるほどに成長を果たした。

 

「前々回の経験を代々に伝えて、この第四次聖杯戦争に備えていたといったところか。なるほど強敵だ、流石はセイバーのマスターと言わざるを得えない」

 

「……思わぬところから繋がりましたか」

 

「どうやらそのようだ。こちらには英雄王が居るとはいえ、油断できる相手では無い…………綺礼、セイバー陣営を最重要警戒対象に定めよ」

 

 500年を生きる間桐臓硯。聖杯戦争にてサーヴァントシステムそのものを構築した天才。老化による衰えが見られたとしても、その実力は折り紙つきだ。生半な英霊では勝つことすら難しいだろう。

 それを倒したとあれば、警戒は必至だ。

 

「しかしそれでは、アインツベルン側が手薄になってしまいますが、よろしいので?」

 

「ああ。この段階になってなお、サーヴァントすら晒さない臆病風に吹かれた傭兵よりも、御三家を下したセイバー陣営の方が優先度が高い」

 

「…………かしこまりました」

 

 顔や雰囲気にこそ出していないが、内心では不承不承となりながらも師である時臣の命を聞く言峰。彼からすれば、確かにセイバー陣営を侮ることは出来ないが、それでも衛宮切嗣(魔術師殺し)の優先度を下げていい筈がない。

 

「さて、これから忙しくなりそうだ」

 

「申し訳ありません、あといくつか報告したいことが……」

 

「おっと、そうだった。私としたことが気が逸ってしまったよ」

 

 鷹揚に立ち上がり次の手の準備に移ろうと動き出した瞬間に、言峰から再度声を掛けられて止まる。中途半端な状態で止まってしまったので、かなり不格好だ。

 それを何もなかったかのように、ゆったりとした動きで元に戻し席に着く。

 

「それで、まだ私に伝えなくてはならないことがあったのかい?」

 

「はい。元ご息女、現間桐家の娘である桜お嬢様についてでございます」

 

「…………っ!?」

 

 自身の弟子からでは言葉に流石の時臣も優雅を貫けなかったのか、ひどく動揺した雰囲気が醸し出される。

 

「……セイバー陣営が間桐邸を襲撃後、屋敷内を調査したところバーサーカーのマスターである間桐雁夜の死体しか残っておりませんでした」

 

「……………………」

 

 時臣は険しい顔のまま、無言を貫いた。言峰はそれを続きの催促と判断し言葉を紡ぐ。

 

「襲撃時に大規模な結界が展開されたのは確認済みです。推測にはなりますが、それによって間桐臓硯は跡形もなく消滅させられたと判断します」

 

「……………………」

 

「桜お嬢様に関しては、セイバーが幼子を抱えた状態で拠点に帰投していたとアサシンから報告がありました。恐らくは連れ去られたかと」

 

「ッ、そうか。報告ありがとう…………桜に宿る魔術の素質は、凛に匹敵するほどに希少なモノだ。一介の魔術師であれば、解体し標本に飾りたいくらいには、特異な才能だ」

 

 桜の誘拐。当然といえば当然だ。桜の魔術属性は『虚数』、属性分類では架空元素の一つ『虚』に該当する。魔術属性の中でもノウブルと言われる希少属性『空』よりも珍しい架空元素だ。

 

 ある程度、魔術に精通していれば桜の才能を理解出来るだろう。それと同時に、素材としてどれほど価値があるのも分かってしまうのだ。

 

 時臣は普段取り繕っている顔を完全に歪ませて、優雅とは程遠い形相で言峰の報告を受け入れた。時臣は魔術師として、ではあるが娘の桜のことをしっかりと愛している。一般人からしてみれば狂った感性とはいえ、実の娘が攫われ標本にされる(憶測)ことを良しとする父親はいないだろう。

 

 そして、そんな時臣を見た言峰は現在、よく分からない感覚に襲われている。自らの師が娘が実質的に死んだことに表情を歪ませている。本来、弟子である自分も悲しむのが道理だろう。

 

 だが、言峰の心にはそれとは真逆の感情が渦巻いていた。

 

 ────即ち、愉☆悦。

 

(ッ! わ、私は今何を考えて…………)

 

 しかし言峰綺礼は品行方正な神父だ。

 無意識の内ではあるが自らの悪性感情に蓋をした。

 

「悲しい事ではあるが、切り替えよう。我々は止まってはいられない。綺礼、セイバー陣営の拠点は掴めたかな?」

 

「…………はい。アサシンの情報によれば、新都にある双子館を拠点としているようです」

 

「双子館。第三次聖杯戦争で呼び寄せた外様の魔術師、エーデルフェルトが建てた二つの館、その片割れか」

 

 また厄介な場所を拠点にしたものだ、と時臣は独り言ちる。

 

「綺礼、引き続き調査とセイバー関連の情報網を最大にしておいてくれ。何か動きがあれば逐一、私に知らせるように」

 

「承知しました」

 

「さて、他にも連絡事項はあるかな?」

 

 先程の反省を活かした時臣は、考えをまとめた後も席を立たずに弟子である綺礼に問う。これに対し言峰は首を振り否定を示す。

 

「いいえ、ございません」

 

「ならば進めるとしよう。一夜にして勢力図がガラリと変わったのだからね」

 

 アーチャー・アサシン同盟陣営。

彼らはバーサーカーを真っ向から打ち破り、御三家の一角・間桐を終わらせたセイバー陣営を第四次聖杯戦争の最大の敵と見定めた。

 

 翌日には勢力図が再び変動し、自身の胃が壊れるカウントダウンが始まっているのを時臣は知らない。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「あれ? あれあれ? もしかしてキエフ出身、全身虫蟲の妖怪お爺ちゃん、死んじゃった?」

 

 それは冬木に降り立った。それと同時に昨日の夜に起こった出来事を、土地の記憶から読み取った。

 

「wwwうっそでしょー! あはははっ!!! 腐った魂が死んじゃったwww 生への執念だけは愚かしくも人らしくて面白かったんだけどな~。しかも浄化だって! おもしろー」

 

 そこはビルの上、夜通しで移動を続けた少女は真昼の間に、聖杯戦争が開催されている地である冬木に到着した。そして読み取った土地の記録で、以前出会ったいけ好かない老人が、オトモダチ+聖処女似のセイバー達の手で浄化させられたと知り、大爆笑している。

 

「はぁーお腹痛い。あっ、いまの噓でぇす。痛覚なんて、ありませーん。でも笑いすぎてお腹が捩れそうになったのはホント―!」

 

 周囲には誰も居ないのに、一人でケラケラと笑いながらコント染みた事をしている。

そして笑うのに満足したのか、パッと切り替わる。

 

「うーん。どうしよっかな~? このまま会いに行っても別にいいんだけど、5世紀ぶりの再会なんだし、おめかしして行った方がいいかなぁ?」

 

 ふわりとした仕草で傍から見れば物凄く愛嬌の良い少女に映るだろうその姿で、邪悪は笑う。

 

「うんうん。やっぱり大事だよね☆ 待っててねジル、準備が出来たら迎えに行くから!」

 

 

 

 

 ────厄災はすぐそこに。

 

 

 ◇◆◇

 





かくて、聖杯は天に還る(ヘブンズゲート)
 ・ランク:EX
 ・種別:昇天宝具
 ・レンジ:1
 ・最大捕捉:1人
 ギャラハッド最大の逸話である聖杯による昇天。
 発動と同時に時間帯関係なく、使用者に向けて天より光が差し存在を昇天させる。発動者以外が昇天されることはないが、天から降る光には浄化、癒しなどの効果が付随されている。

・ギャラハッド
 大聖杯ではなく王の魔術で呼び出された。
 アルトリアの呼びかけが私欲によるもの(獅子王)であったら、召喚には応じなかった。
 それでもFGOでマシュの状態に憤ったりしていたので、桜の現状を知っていたら助ける為に来てくれるでしょう。

・間桐臓硯
 Zeroの二次小説で、すぐに消されてしまう人筆頭。
 今作では聖杯に執着して、何も出来ぬままに浄化された可哀想でもない人。

・間桐雁夜
 バーサーカーのマスター。
 昇天の光は死にゆく人にとっては温もりと同じであるようで、命は無いけど救われた人。

・マーリン
 幽閉塔から分霊を造って徒歩で来た。
 最近は王の話をする場面がなくなり(マーリン使う人が減ったから)、一人寂しく現世を確認していたら王の召喚を確認して、暇だったから来ちゃった半夢魔。

・ポップコーン持った?
 あーあ、アレが冬木に到着しました。
 原作だと臓硯が頑張って追い払ってたポイんですけど⋯⋯ん? 臓硯タヒんでね?
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▼気づいたらSAOの世界に迷い込んでしまった主人公。▼目の前に浮かぶウインドウ。そこに書かれた内容は──▼ミッション▼ ▼ ▼・多くのプレイヤーの救済▼ ▼・主要キャラの死亡回避▼ ▼・ラスボスの討伐▼ ▼・ゲームクリアをすること▼どうやら主人公はこのミッションをSAO内でクリアすることで、なんでも願いが叶うらしい。▼だけど鬼畜みたいな難易度だ!▼元の世界に…


総合評価:5617/評価:8.54/連載:9話/更新日時:2026年05月04日(月) 00:06 小説情報


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