モルガン陛下が最初のバーサーカーになったマスターの末路 作:湿度100モルパーセント
一度起きたから見知らぬとまではいかない天井。起き上がった原因は夢で見た内容なのは間違いない。
気がつけば普段のカルデアで過ごしているときと同じ服を着ている。
(なんでこんなことになってんだ…?)
深く考えようとした瞬間、バタンと大きな音を立てて扉が開き、焦った様子でバーヴァンシーが駆け込んでくる。
「ウーサーさん!魔物が!」
「…任せろ!」
悩むより先に露払い。彼女の言葉を受けて槍を手に持ち、外へと走って出る。
安全だったはずの町は、どこまでも荒れていた。ワドルディたちの死体が積み重なっていないことを考えると、恐らく逃げてくれたのだろう。
呼んでくれた彼女を背に悍ましい魔物と対峙する。どこもかしこも燃えているのは、まあ、襲撃のせいだろう。
「とりあえずお前らを殺す」
『Urrr…』
唸り声とナニカ別のものが混じり合った気持ち悪い生命体へと正面から突き刺して引き抜く。槍に傷ついた様子は一つもないが、それから吹き出た体液が地面を腐食させた。
「何なのかはわからないですが、ひとまず気をつけてください…!」
「言われなくともわかってらぁ!」
緩慢な動作で体の一部を飛ばしてくる。本来なら避ければいいのだが、いかんせん毒の可能性があるならばそうもいかない。
(逃げられないってのはキツイな…!)
想像よりも速いソレラを槍を振り回して叩き落とす。黒い泥は地面に落ちるだけで石畳を音を立てて溶かしていく。
「ウーサーさん…」
「…あーくそ、キツイかもな」
自分が倒れたとしても誰かが助けてくれる─なんて、甘い希望は捨てた。即刻で
(─それがどうした)
いっそ絶望する自分ごとあざ笑え。
してやったなどと相手に思わせるな。
恐怖を興奮に変えて前に出ろ。
「ぶっ殺してやるよ」
目、喉、首、心臓、脳髄、ふくらはぎ。急所を乱れ突いて弱点を探すことも忘れない。
微かに怯んだ様子すらない圧倒的な不定形さに舌打ちしつつ、地面を打ち砕いて足止めと戦闘する数体だけ首を刎ねる。
「よし消えた…!」
一息つくこともできず、増援が正面からなだれこんでくる。槍でもやれないことはないが、魔術を使ったほうが安全に守り通せる。
「
一瞬で魔物が倒せたという事実に心が綻び、少しだけ慢心してしまう。
─その隙は逃さない。
小さい声が聞こえた瞬間、咄嗟に槍を落として飛んできた剣を素手で止める。
「ウーサーさん!?」
彼女が悲鳴をあげながら近づいてこようとする前に飛んできた方向へと返し、槍を握り直す。
「…俺を殺しに来たってわけか?あぁん?」
「あぁ、マスターからの命令でね。…出来れば大人しく死んでほしかったのだが」
手に持っている干将・莫耶と剣を飛ばしたこと。誰なのかはこの時点で察した。軽く土を踏む音から目の前に堂々と立ちふさがる彼は油断していない。
「エミヤ。こちらとしては大人しく殺されてもらえると助かるんだが」
「悲しいけど遠慮させてもらうさ。君ではなく聖杯に呼ばれたサーヴァントだからね─無論、全力で殺しにかかるとも」
相手の手札が頭で思い出す最中、ギリギリ何かが投擲されたとしても反応可能な間合いで槍を構える。
(バーヴァンシー達に用があるのかね…?)
空いた思考の中でエミヤの目線から狙いを探っておく。幸いにして相手側が攻撃をしかける状態からなら最低でも目的くらいはちらりと見るはず。
そう考えたところでカラドボルグが腹部ごと貫こうと差し迫ってくる。横にいなしても都合のいいタイミングで爆弾になるから槍で真っ二つに切り裂く。
「本当に人間かい?」
「るせぇ、ほざいてろ!」
槍のまま近接に持ち込む。本来なら長い間合いが不利になるが、目を逸らした瞬間に投影するものが何かわからない以上はインファイトで隙を潰したほうがいい。
「殴り合いならこちらに分があるぞ?」
「ならとっとと殺せよ」
横から飛んでくる飛来物を見ずにはたき落としながら右ストレート。エミヤが吹っ飛ぶのをみてひとまずもう一度あたりを見渡す。
「んにゃ…わにゃ…にゃにゃ…」
「あぁ、ワドルディか…」
安心して出てきたのだろう彼らのうちの一人が頭にズシッと乗ってくる。人を乗り物か何かだと判断してるわけではないのだろう。だろうけど今の状況じゃ悪すぎる。
(今は一応戦闘中だからあっちに行ってほしいんだよなぁ…)
なんて怒ることもできない。わざわざ一緒に戦おうとしている彼らの決意に水を差すのはそれこそ野暮というものだろう。
そんな風に、気が緩んだ。
「ユルサナイ」
一瞬の間隙。俺のところへと急接近するブリテンダーを避ける術も余裕もない。
わさわざ目線を合わせたな、と関係のない思考のなかにどこかで感じた血が逆流する感覚が体と肺に回る。
「死ぬなら─そこまで」
暗転する意識の中、聞き覚えのある澄んだ音がした。
見たことのないはずの弓に手をかけ、憎悪を込めて一撫で。
「ほぉら。速く逃げないと、フェイルノートに巻き込まれて死ぬわよ?」
聞き慣れたソレが響き渡ると共に不可視の弦が目の前の標的を狙う。
「お姫様のお目覚めか。善性が捨てられない妖精が勝てるとでも?」
当たらないように撃ったソレをザコは当然のごとく空を飛んで避ける。ハイヒールを履いたせいなのか異常にワドルディの機動力が上がっているため、気にせずに殺しにかかる。
(なんて後味の悪い……いや、中途半端に人格が残ってる気がする)
特異点による魔術から目を覚ました私は苦虫を噛み潰したような苛立ちを手の内でかき鳴らしていく。非力な頃の自分とは違い、敵から逃げて恐れる理由はどこにもなかった。
「だからムカつくんだけど…おい、死ねよ」
わざわざ私の記憶を取り戻させるタイミングを決めていたのかは知らないが、霊基の核ごと手を加えられたようでイライラする。
「そりゃそうか。まあ殺されても大筋は変わんないし…やれるもんならやれよ、妖精騎士」
もっとも原因はモースでもなんでもなく、今目の前にいる大げさな仕草ばかりの男なのは間違いない。
(チッ、なまじ力が戻った分抑えにくいったらありゃしねぇ)
普段の霊基であればできないような力技のフェイルノート。確かに当たったはずなのに、そこには青い炎が覆いかぶさって滴る血の代わりになっている。
「もしかして傷がつけられないことに悔やんでるのか?」
「このザコッ…!」
だが呪いをかけても何の痛痒も感じないのは確実だ。現に何本もの釘が刺さっても笑ってこちらを見下げている。
「まぁ、目的はもらえたし撤退でもいいんだよな。いや殺したいから殺すか」
青い炎がウーサーのところへと這い寄る。地面を伝ったソレを避けようとする意識は彼の中にあるとは思えなかった。
「ワドルディども!」
咄嗟の指示。水色の紙飛行機に乗ったワドルディが彼ごとまとめて持ち上げ、なんとか射程の範囲外まで避難させる。
「エアライドか…」
相手の残念そうなため息のあと、青い炎が壁のように立ちふさがる。悔しいけれど、私はそれを突破して殴れるとは思わなかった。
「バーヴァンシー。もしそいつが生きていたらキャメロットに連れてこい」
「……え?」
まわりくどいやり方というのもそうだし、そもそも生かしたいなら燃やそうとする必要がない。
意図をつかみかねている隙を無視して、炎の壁はアイツが立っていた場所を囲って飲み込んでいく。
(…どうしようか)
本当の─バーヴァンシーじゃない自分を声に出す。
「妖精騎士トリスタン」
なりたくない悪夢の象徴。救いようのない女王の後継。見られたくなかった醜い罪。
緊張の糸が切られた私には、焦げた空が酷く滲んで見えた。
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