兎の群れ√ 出会いの果ての未来   作:サイセンサイ

66 / 70
ゼラ・クラネル

 

 

 雨が降っていた

 まるで自分の心境を表しているような

 冷たく激しく少しずつ何かを削り取っていくような感覚

 

 一人の少女がオラリオの大広場に立っていた。豪雨が振り注いでいるその中、傘も差さずにただ直立不動でそこに立ち 豪雨をその身に浴び続けている

 可愛らしい容姿のアマゾネスだった だがその顔にある赤い目はなぜかとても黒く見える

 たまたまそこを通りかかる者は何事かと思ったが、その少女の沈んだ瞳が恐ろしく近づくことができなかった。夢の都市だ何だと言われているオラリオだが、どんな場所だろうと何らかの闇が湧き出るもの、例え平和の世だろうとそれは必然

 彼女に何があったのか、想像の選択肢は多い、主に冒険者関連は死と隣り合わせ、心が折れた者も壊れた者も多い、それはもはやよくあることとも言ってよかった

 

 そこに傘を差した少女が近づいていった

 

「ゼラ、風邪引いちゃうよ」

 

「!」

 

 雨に濡れた少女に傘が向けられる。同じアマゾネスで同じ黒髪、同じ赤い目、顔は違うが姉妹の想像がすぐに浮かんだ。傘の少女はおそらく少女の姉なのだろう

 

 そしてその顔はとても身に覚えのある顔だった

 

 何故ならそれは『英雄の顔』だったから

 

 

「お姉ちゃん」

 

「どうしたの?ゼラ」

 

 傘を差した少女は『リコ・クラネル』

 英雄の娘の一人であり、父譲りの顔と性格をしている一部から熱烈なファンがいる冒険者

 彼女を姉といった ということは濡れた少女も英雄の娘ということになる。いったい何があったのか、邪推に塗れたその視線が豪雨の中だろうと2人に集中する

 

「なんで、、、なんでなんだろう」

 

「何かあったの?」

 

「なんで『現実』はこんなに不公平なんだろう」

 

 リコの一個下で同腹の妹ゼラ、彼女は奥歯をギリリと食いしばり自分の中にある確かな衝動を喉の奥に溜める。相手は愛している実姉、だからこそゼラはバイオレンスで怒号が飛び交う兄弟姉妹喧嘩によく巻き込まれるその鼓膜が頑強であることを知っている。そんな相手に遠慮などいらない、思う存分吐き出せる。

 

 だから彼女は叫ぶのだ

 

 

 

 

 

 

 

「なんで『強い』上に『おっぱい』まで大きい人がオラリオにはたくさんいるんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 見物客の目が死んだ。通りすがりの目が死んだ。あまりにもしょうもなさすぎて死んだ。豪雨よりも寒さを運ぶ豪雪がその場に吹雪いているような空気のなかで、リコだけは違った。

 

 ひっくり返った

 背中からひっくり返った

 今はつま先を天に向かって突きだしている

 ピクピクと震えている

 

 神々で言うところの『ズコー』である

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おかしいよ!強いだけならまだいいよ!?だけどなんでおっぱいまで付いてるの!?なんでみんなみんな欲しくてたまらない物を二つも持ってる、、、おっぱいは二つだから正確には3つだけど!とにかくどうしてこんなにも不公平なのさ!?頑張って強くなってもおっぱいがこの先膨らむとは限らない!うらやましいとか妬ましいが努力で消えてくれない!こんな気持ちで私はずっと生きていかなきゃいけないなんてどんな罰だよクソーーーー!!」

 

「だからってあんな人目につくところで雨に打たれなくても」

 

「オラリオは夢の都市なんて言われてるのに、、、なんで夢を求めて強くなっても埋まらない『現実』に苦しまなきゃいけないの!」

 

「落ち着いてゼラ」

 

「お姉ちゃんだって将来『非』有望じゃん」

 

「うぐぅ!!」

 

「やっぱり私たちみたいな下位組はどうにかしておっぱいを手に入れる方法を探さないと!ぶっちゃけ自分の血に期待は出来ない!」

 

「ゼラ!!お母さんだってあるんだよ!」

 

「子供産んでから大きくなったのはノーカンだよ!自分の実力じゃなくてお父さんの実力じゃん!」

 

「でもお母さんの凄いところはあの明るさだよ!胸じゃないよ!」

 

「そりゃそうでしょ、お母さんのおっぱいを凄いって言ったら誰だって嘘だっていうし」

 

「つまり、、、その、、、お母さんの事を話すときは一回胸のことを忘却して」

 

 

      ゴチン!! ゴチン!!

 

 

「「痛い!!?」」

 

「黙って聞いてればなんなのコラァ!!」

 

 そこは実家もといホームのリビング、そこで同腹の姉妹が熱い?談義をかましていれば家にいる家族が聞き耳を立てるのも仕方ない、そしてさりげなく自分をディスった娘二人に産みの母であるティオナは拳骨をかましたというわけだ

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 リビングにティオナが加わって談義は熱を上げる。それに興味を持った他の妻や子供達も聞き耳を立てる者が増えていった。正直、胸だなんだと言ってはいるがそれは容姿にもいえること、強い上に顔もよかったらそれは強い上に胸があるのと一緒でゼラは母譲りの恵まれた容姿をしているから恵まれてはいるのだ。だが産まれた時から美しい顔の母に囲まれていた子供達からすればその微差は認識しにくい

 

「ゼラぁ!!お母さん達も胸の大きい人多いじゃん!お母さん達にもそれと同じ事言える!?」

 

「それはそうだけど〜お母さん達は別というか〜あのアメイジングおっぱい軍団にまで嫉妬を向けてたら流石に身も心も持たないっていうか〜」   

 

「アメイジングおっぱい軍団!?」

 

「ベルは膨らむ前の私も可愛がってくれたよ!あの時から両端にアイズとレフィーヤがいても私で興奮してくれたし私の顔の左右で揺れまくってる2人にも負けないくらい」

 

「お母さん!この話はここまでで!!」

 

 山脈格差は難しい問題。ベルの妻達もスタイルのいいものが多くその娘達もそれを受け継いでいる

 というか娘達は母親のスタイルそのままに成長する者が殆どなのだ、デカい母の娘はデカくなり小さい母の娘は小さい、ベル譲りの遺伝子は首から上に継承されることが多くその証拠に子供たちには必ずと言っていいほど白い髪か赤い目に産まれてきている。優しい性格も全体的に受け継がれており、ベルの血は頭部特化なのかもしれない

 

「確かにおっぱいが下位のローリエ母さんやイルデ母さんの産んだ姉妹たちは同じく小さいけど顔はいいから羨まれるか」

 

 聞き耳を立てていたローリエとイルデの産んだ姉妹たちがビキリと青筋を立てるがゼラは意に返さずに言葉を続ける

 

「そもそもお父さんに見初められた時点で人類最高に幸運じゃんね〜お母さん達が英雄の奥さんだってこと忘れてたよ」

 

「忘れてたって、、、そういえばゼラって長い間私が産みの母だってこと理解してなかったよね」

 

「お母さん多いから仕方ないかもしれないけどそれはダメだよ」

 

 幼い子供の頃は自分の母親が誰なのか分からない者が殆ど、なんせ一夫多妻の特殊な家系だからそもそも自分を産んだのが誰かなど幼子にとっては特に関心が無い事、ある程度成長して自分が誰の子供か始めて理解する者が多い

 

  

「あーー!!!でもやっぱりおっぱいが欲しいよーー!揺らしてみたいーーー!!」

 

「話は聞かせてもらったわ!」

 

「「「え?」」」

 

 そんなシャウトを母と姉の前でしているとそこに一人の少女が歩いてきた。それはゼラにとっては一個下の異母姉妹にあたり、自分達兄弟姉妹の中でも珍しい戦闘力を持たないタイプの少女

 

「その不満、怒り、モヤモヤ、ぶつけたい世界への叫び!それはこと『芸能』に置いて強い武器となるわ!...とアフロディーテが言ってた!」

 

 母譲りの金髪をなびかせて歩いてきたのはハルモニア通称歌母の長女ソプラ

 そしてその後ろから付き従うように両脇に新たな二人が歩いてきた

 アイズの次女クラリネとリューの長女サクである

 

「私とバンドをやりましょう!ゼラ姉さん!!」

 

 母譲りの愛らしさで父譲りの笑顔が手のひらと共にゼラに差し出された

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ゼラ姉さんのバカーーーーー!!!!!」

 

「ごめんって」

 

 そこは『フィアナ・コーズウェイ』に祭りのためだけに設置された高級ホテルの一室

 そこでゼラは一個下の異母妹のソプラからお叱りを受けていた。他のメンバーも同じ部屋に集まっており正座させられているゼラを眺めている

 

「なんでホテルの屋上で『半裸』でいたの!!?男の人のスタッフもいるんだよ!!?始まる前から露出癖発覚!超人気バンドグループの淫靡な正体!なんて書かれたスキャンダルで私たちを潰すつもり!!?」

 

「いや〜つい実家感覚で、寒くなってきたから春母から教わった『カンプマサツ』をやってたんだけど」

 

「よりにもよってなんで暖を取るチョイスがそれぇ!!?」

 

「と言うか実家じゃアコーディオ兄さんに『煩わしいから止めろ』ってお尻蹴飛ばされてたよね」

 

「あ〜そうだったなー『部屋でやれ』って怒られたっけ」

 

 それは彼女たちにとってはよくある光景だった。

 ソプラはキラキラとしたこれぞ芸能人というふうに普段は振る舞ってはいるが、根が生真面目なので世間の常識からズレてるメンバーを叱りつけることが多い、年少だが大したものである

 だがメンバー内でその手の不満は全く出ていない、それはみんなみんなが一人一人の性格や主張をしっかりと尊重しているからだ

 

 特にゼラはこの『BUNNY・PARRY』の活動が気に入っている。

 彼女はほかの子供たちの例に漏れず 強くて優しい英雄の父親を尊敬して憧れを抱き幼い頃から鍛錬をして強くなってもダンジョンで冒険者として活躍してはいるが、十世長(ナンバーズ)や狼血のメンバーのように突き抜けた熱意を持っているわけではない、別にやる気がないわけではないが自我の塊である彼ら彼女らと比べるのは流石に比較対象が悪いだろう。

 戦うのも強くなるのも好きだが『特別』というには些か狂気が足りないと上の兄弟姉妹を見て感じておりこのままでいいのかな?と漠然とした不安を抱えていた時にソプラ達から声をかけられた。

 戦いとはまた違う別世界の『熱狂』新しい世界への『ワクワク』力だけでは成し得ないことを成せる『愉悦』 ゼラはその熱の虜となってこの活動を続けている。

 最初は胸が理由の妬みや怒りを買われて話を持ってきたのでいいのかな?と引け目はあったが、ソプラはそれが何だろうとゼラの立派な活力と言い切った。正直彼女にとっては本気の悩みだったのでとても嬉しかった。だから彼女はこのバンドメンバーに忠誠にも似た感情を捧げている。好きになったら一直線なのは両親双方に似たのだろう

 それと父親への憧れを薄れさせたわけではないので今もダンジョンで活躍はしている。

 他のメンバーも似たようなものである

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「もぉ~気をつけてよね〜」

 

「あははごめんごめん」

 

「それと…もう『気づいてるでしょう?』」

 

「!、、、うん」

 

 ソプラの言っていることはここに来てからの『視線』を意味していた。 

 最初に来たときは熱烈な歓迎をしてくれる方々の視線が殆どで分からなかったが、少ししたら『それだけではない』事にすぐに気づいた。

 

 自分達のことを『煩わしく』思っている視線が沢山ある

 

 彼女達も人気商売をしているのでアンチやら何やらの遭遇は珍しいことではないが、この場所では『数』が多いのだ

 人がたくさんいればそれだけ不満も多くなるのは仕方ないがそれでも比率的に考えて『多い』

 それはつまり自分達を嫌う『根本的な何か』があるということだ  

 

「この祭りは沢山の国が協力して動かしているから当然『主張』に合わない人たちも出てくる。特に顕著なのは『小国』の人たちね、黒竜討伐から始まった国同士の『先進競争』に数やら何やらで遅れを持って肩身の狭い思いをしてるのが現状だってアフロディーテも言ってたし」

 

 黒竜討伐で下界の救済が行われてから世界の国々は自国を『先進国』にする暗黙のレースをし続けている。それは前から行われていたことだが、人類共通の目的が消えた今、それが激化するのは必定、そしてそのレースに乗り遅れれば待っているのは『削られ続ける未来』少しずつ自国の名前が消えて『小さな文化』として後世に残る未来

 そんなことを良しとするわけもなく、後れを取っている『小国』はなんとか価値を証明しようと必死なのだ

 

「だからこそ私たちが気をつけなきゃいけないのは『異質な接触』大体考えつくでしょ」

 

「自国へのスカウト、政略結婚、お父様との繋がり、情報の盗作、とりあえず何らかの弱みを握れれば万々歳ってところ」

 

「そう!私たちは今や人気者!だからこそこれは芸能の試練として乗り越えて最終的にはこの祭りでお母さんを食うレベルのライブを成し遂げる!それが私たちの目標!」

 

 ソプラはこの中でも芸能特化の少女、だからこそその恐ろしさや異質さを幼い頃から知っている。それでも芸能の道を選び生きているのは母への憧れ、純粋な思い、そのためならどんな努力だって出来るし自分より遥かに強いメンバーを御す事もじさない

 

「やってやりましょう!伝説レベルのライブを!」

 

「「「おーー!!」」」

 

 そんなソプラにメンバーは付いていくのだ

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは数日前、祭りの開催場所から離れた『人目につかない』山奥の場所で少なくない人間が集まっていた

 

 そしてそこには『ランクアップ』を果たしているオラリオ外の者たちもいた

 

 ダンジョンの無いオラリオ外ではランクアップ出来た存在はとても希少、だがその場には何人もの達成者がそこにいたのだ

 

 彼らは独自のやり方、独自の練磨で強くなってモンスターを倒し偉業を成した尊敬されるべき者たち

 

 そんな希少な者たちが一堂に集まっているということは、何か大きな力が働いているということ

 

 

 ドワーフの狩人、エルフの防衛隊、獣人の蛮族、ヒューマンの騎士団、種族を問わない傭兵達、賞金稼ぎ、様々な理由で孤児となり生き抜いてきた生命力の保持者

 

 その者たちは娯楽好きの神から恩恵をもらって強くなった者たち

 レベル2、3の達成者すら混じるその場所で秘密の会合が開かれていた

 

 

 主に『密約を交わした小国同士』がかき集めた実力者達

 

 そんな彼らを一箇所に集めてやらせることなど決まっている

 

 

 

 誰かにとっては悪いことで

 

 誰かにとっては必要なことである

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。