ループ羂索の災難   作:めろんそー

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アニメで日車さんの自室をみて、机の配置を一緒にしようと夜な夜な机を動かしていたバカはコイツです。


3周目①:生前葬

「1度目の世界ではなぜ東雲の侵入が死滅回遊から15日も経ってからになったと思う?」

 

「上層部が決断をいつまでも先延ばしにしていたからだろう?」「ではそれに従っていたのはなぜ?」「……知らん」

 

羂索は3周目開始後すぐ、裏梅とともに得点の奪い合いが起こりにくい東京や仙台以外の結界――京都結界に侵入していた。呪霊操術を展開し、呪霊を四方八方に散らしながら裏梅に問う。

 

(確かに、東雲なら上層部を皆殺しにして結界に侵入することも容易いはずだ。そしてそれを許容される信頼と強さがある。)

 

考えてもわからなかった裏梅は"早く教えろ"というような目を向けた。

 

「私も知らないね。」「……」

――そうだ。コイツはこういう奴だったな。

 

もはや自分が答えを期待してしまったことを反省する裏梅。その反応を楽しみながら羂索は付け加える。

 

「ここで重要なのはアレが動くのが当分先であるってことだけさ。なら私達の勝利は"東雲の侵入前にどれだけこちらに有利な戦場(フィールド)を作ることができるか"にかかってくる。そのためには――」

 

――5点が追加されました!――5点が追加されました!――5点が追加されました!――5点が追加されました!――5点が追加されました――――

 

「彼女に明確なデバフを与えられる唯一の手段、死滅回遊の総則追加が必須なんだ。」

 

羂索は散らした呪霊による攻撃を開始した。まだ死滅回遊のルールに混乱する泳者を一瞬で葬り、次々と点をとってゆく手際の良さは泳者からすれば地獄そのものだったであろう。開始から15分、100点を貯めた羂索は新たなルールを追加した。

 

 

 

――リンゴンリンゴンリンゴン!!泳者による死滅回遊へのルール追加が行われました‼︎――

 

記憶の有無に関わらず、早すぎるルール追加に衝撃が走る。

 

――〈総則〉9 泳者は獲得した得点が上の者から下の者へ、コガネを通じてメッセージを伝えることができる。――

 

 

――東京第一結界――

(最初に追加されたのは情報伝達手段の確立、か。しかし得点の上下による一方通行にしたのはなぜ?しかもこれは明らかに1回目や2回目――2回目は1日も経たず殺されたが――とは異なっている。何が起きているんだ?)

 

レジィは頭を抱えていた。もともと死滅回遊には野次馬をする感覚で参加していたのに、1回目は避けようのない呪力の塊に殺され、かと思えば2回目が始まったのだ。

 

――100点を取り結界から出る。

 

そう決意したのを邪魔したのは日車――前回の100点保持者だった。日車が取れそうだった点を横取りしてしまったがために標的になったレジィは初見の誅伏賜死でなす術なく殺されてしまった。そして始まる3回目。目の前にいるのは何故か空中を走って泳者を作業のように狩っていく日車。

 

レジィはもう悟りの境地にいた。彼の視点では短時間で2回も殺されているのだ。天を見上げて己の不運を嘆くレジィだが、それに気づいた日車がこっちに向かってきて話しかけた。

 

「協力する気はあるか?」「……今何がどうなってるのか教えてくれたらね。なにせ君にたった今殺されたばっかりなんだよこっちは」「……すまない。俺たちは――」

 

こうして協力することになったレジィ(後に黄櫨も)は今に至るわけだが、日車の話を聞く限りルール追加したのは羂索だと当たりをつけた。

 

レジィは内心それに驚いていた。羂索は死滅回遊の泳者にはできるだけダラダラと戦って欲しかったはず。それを自らぶち壊すほど羂索を追い詰めている東雲という存在に改めて天を見上げた。

 

 

――東京第二結界――

情報伝達を可能にした羂索は、すでに100点に近い点をとっているであろう鹿紫雲に追加してもらうルールを伝えた。その内容は「虎杖悠仁、伏黒恵、禪院直哉、秤金次、パンダ、乙骨憂太を強制的に泳者として登録し、別々の結界に転送する。」だ。

 

鹿紫雲は今呼ばれた者たちがどういう人物か知らない。しかも1人(?)に至っては動物の名前ではないか。しかし、今説明されたルールを真っ先に追加したかったということは、彼らが東雲の関係者であることは間違いなかった。

 

――察するにあの大規模攻撃を防ぐための壁だろうな。

ただの一般人では意味がない。今の彼女は彼らを殺せる。狙うなら東雲があそこまでして守りたかった人物達だ。そして彼らを結界に入れてしまえば初手のあの攻撃は防げる。

 

「壁として温存?――それは、雑魚の思考だ。」

 

鹿紫雲は彼らが強者であることを確信していた。なにせ羂索が名前を覚えており、東雲との交友関係が深いのだ。

 

5点をとって100点になった鹿紫雲はコガネにルール追加をさせる。

 

――リンゴンリンゴンリンゴン!!泳者による死滅回遊へのルール追加が行われました‼︎――

――〈総則〉10 虎杖悠仁、伏黒恵、禪院直哉、秤金次、パンダ、乙骨憂太を強制的に泳者として登録し、()()()()()()()()()()()

 

 

「やってくれるねぇ。元気で何よりだよ…!」

羂索は鹿紫雲に任せたことを後悔していた。苛立ってはいるが、あの強者への執着が健在であることが確認できただけで良しとしようと切り替えて引き続き点の獲得に勤しむ。また自分や日車、石流が追加すればいいだけの話ではある。

 

……そう考えたのがいけなかったのだろうか。再びコガネのあの音が響き、羂索は眉間の皺を一つ増やした。せっかく高専の人間が使いづらい通信手段を確立したのに、全く役立っていない。

 

――リンゴンリンゴンリンゴン!!泳者による死滅回遊へのルール追加が行われました‼︎――

 

――〈総則〉11 ()()()()()()()()に滞留している泳者は結界の移動を自由にできる――

 

これを追加したのは日車だった。日車はルールで言及された、おそらく東雲と関わりのある人物に興味を持ったていた。そして鹿紫雲が彼らのことを知るはずがないので、羂索に指示されての追加であることも推測する。

 

(なぜ東京第二結界に集めたんだ?……しかし、わざわざ結界の場所を指定しているということは結界外に出て欲しくはないはず。そして俺はそちらへ向かいたい。ならば追加するルールは――)

 

こうして、東京第二結界は一度入ったら出られない「檻」となった。

 

羂索の"東雲の侵入前に戦場を整えること"

鹿紫雲の"強者と戦うこと"

日車の"東雲の関係者と接触すること"

それぞれの狙いが交錯し、死滅回遊はかつてない混沌と化す。そしてそれは死滅回遊泳者と高専側の人間との戦いでますます大きくねじれてゆく――

 

――「もう300点分の泳者が死んだのか。1000人の戦いにしちゃあ展開が早過ぎないか?」

 

パンダは横にいる秤と禪院直哉に聞いた。始まって1時間ほどしか経ってないが、ルール追加までの動きはあまりに慣れた手つきだ。

 

「過去の術師が見境ない攻撃でもしとるんやろ。そんだけ手強い相手がゴロゴロおるっちゅうことや。――こっちにも来よったみたいやで。」

 

眼前に現れたのは緑かかった水色で長髪を団子でまとめた髪型の青年。手には如意棒を持っていた。

 

「おい、コガネ。ルールを追加したのはコイツか?」

 

秤の問いに、コガネは嬉しそうに跳ねた。

 

「おうよ!"鹿紫雲一"ってんだ!」

 

鹿紫雲は如意棒を肩に担ぎ、ゆっくりと3人を見渡す。

その目は、獲物を選ぶ獣のそれだった。

 

東京第二結界(ここ)のある程度骨のある奴らは全員殺したんだが……なるほど。お前らがさっき転送された東雲の仲間だな。」

 

「自分で呼び寄せといて何なんその反応?」

直哉が舌打ちする。

 

「せっかくの賭博場を広げるチャンスを潰したんだ。責任とってくれるよなあ⁈」

 

秤が前に出る。鹿紫雲も秤から出る強者の呪力に顔をニヤつかせる。

 

「まずはお前からか。名前は――」「大人しく1対1やるわけないやろ」

 

鹿紫雲が名前を聞こうとしたところで、横からもう1人の男に殴り飛ばされた。鹿紫雲の身体はコンテナに叩きつけられ、鉄板の方が悲鳴をあげる。

 

(速ぇな……!)

鹿紫雲は目を細めた。必中の術式ではないようだが、ほとんど見えなかった。だが――

「3対1でもやってやるよ!!」

 

(え……俺もやるのか……)

 

鹿紫雲の戦いに参加する予定のなかったパンダはギクリとするが、本気になった鹿紫雲からは逃げられない。

 

「行くで、パンダ。死にたくなかったらな。」

 

「……しゃーねーな!」

 

3人と1匹の戦いがついに幕を開けた。

 

 

――駅前のロータリーは、戦闘の余波でひしゃげた車と割れたガラスが散乱していた。

 

日車寛見は、倒れた子供の亡骸を見下ろしながら、ゆっくりと息を吐いた。

数秒前、その子供の頭が突如刃物に変形して日車の方に伸び、油断していた日車は肩にその攻撃を受けてしまっていた。子供は特攻の術式をかけられていたのか、頭が変形してすぐに、日車が反撃するまでもなく死んだ。空いた穴は反転術式で塞がりつつあるが、胸の奥の痛みは消えない。

 

(タチが悪いな。返り血がこびりついた俺に警戒することなく近付いてきていた時点でここでは生きていけない奴だとは分かっていたが……)

 

人を殺すことへの躊躇が薄れてきている日車でも流石にこれは心にくるものがあった。

 

――わざわざ子供を使ったんだ。そのビビリようなら術師は近くにはいないだろう。

 

残穢をしっかりと覚えてその場を離れようとした日車の後方に、また別の呪力を感じた。

 

それは東雲に並ぶほどの圧倒的な大きさだった。振り返ると刀を背負った黒髪の青年がこちらに歩いてきている。

 

「僕は乙骨憂太と言います。あなたが日車さん……であってますよね。」

 

「なぜ俺の名前を知っている?」「コガネにさっき聞きました。よければ少しお話ししませんか?」

 

――勝てないな。

 

そう判断した日車は乙骨に乗ることにした。2人は道路の縁石に腰掛ける。

 

「日車さんはさっきルールを追加した人ですよね。でもあなたは過去の術師ではなく覚醒型の人間と聞きました。……なぜそこまで積極的に動いているんですか?」

 

「……俺は死滅回遊に参加した時からこのゲームが術師の皆殺しという形で終わりを告げると知っている。それに抗いたいというのは誰でも思うだろう?」

 

「あなたは大勢を殺してでも生き残りたいんですか?」 

 

乙骨は日車の目を見ていた。かつての呪い()を受けた自分と同じ目をする日車が、どうしてもそんなことをする人間とは思えなかった。

 

「少し違うな。そちらに死んでも守りたい正義があるように、俺にも譲れないものがある。」

 

日車はゆっくりと視線を上げた。その目は迷っているのに、どこか決意の色を浮かべていた。

 

「俺は……“正しい側”に立てる人間じゃない。それでも、俺の目の前で必死に生きようとしている奴らがいる。それが羂索だろうが鹿紫雲だろうが、彼らは俺と同じ“この理不尽な世界に投げ込まれた人間”だ。」

 

乙骨は眉をひそめる。「羂索はどんな境遇であれ決して許されない罪を数えきれないほど犯している。それなのに罪悪感すら持っていない。あなたとは違う。」

 

乙骨は親友の身体を奪われ、瞳から色が消えた東雲を脳裏に浮かべた。

 

「確かにそこは違うさ。まったく違う。」

日車は苦笑した。自嘲とも、諦念ともつかない笑みだった。

 

「だが……違うからこそ、俺はあいつらと一緒にいたいんだ。」

 

乙骨の目がわずかに揺れる。

 

「俺は法に縛られている。自分の罪だけは絶対に許せない。でもあいつらは、罪を背負っても、背負わなくても、前に進むことをやめない。」

 

日車は拳を握りしめた。

 

「俺は……そんな人間の“弱さ”や“穢れ”を尊いものだと思っている。それは俺自身には適用できない。俺は自分を許せないし、許してはいけない。だが、あいつらの穢は……俺には眩しいほど人間らしいんだ。」

 

乙骨は沈黙した。

日車の言葉は矛盾している。破綻している。

だが、その破綻こそが彼の“人間性”だった。

 

「だから俺は動く。罪を抱えたままでも、間違ったままでも、俺は俺の足で前に進む。――誰かに正義を決めてもらうんじゃなく、俺自身の意志で。」

 

日車は静かに息を吐いた。

 

「それが、俺の譲れないものだ。」

 

「そうですか。……あなたみたいな人には仲間になって欲しかったんですけどね。」

 

(今の彼のような人がいたら、虎杖くんや東雲さんの心は少しなりとも救われるだろうか。)

 

「ここからは、全力でぶつかりましょう。もう話し合いで決まるものじゃない。」

 

――交渉決裂。

お互いが呪力の出力を1段階上げ、座っていた縁石から距離をとる。

 

(実力差がある人間には最初の誅伏賜死を必ず当てなければ勝ち目はない。そして相手は領域対策もしてくるはずだ。ならば――)

 

日車は鋭く変形させたガベルで己の左腕を切り落とした。乙骨の目が見開かれる。

 

血が地面に滴り、歯を食いしばって痛みに耐えている様子だが、日車の呪力は先程よりも濃く、強くなっていた。

 

(左腕を切り落とす縛りで自らを強化したんだ。彼に何があったのかはわからないけど、並々ならぬ覚悟を持っているのは明らかだ。)

 

乙骨は刀を抜く。

 

「領域展開 誅伏賜死」

日車がそう言うと、2人の周りの世界が白と黒に塗り替わる。

 

――そうきたか。左腕を犠牲にしたとはいえ領域の展開があまりにも速い。ということは、おそらく秤先輩のような必中のみの術式。ここまで習得しているんだ、相手を覚醒型というフィルターで見てはいけない……!

 

「……さあ、始めよう、ジャッジマン。」

 

日車はガベルで空中を2度叩き、裁判の始まりを告げた。

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