家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第13話 授業サボタージュ魔法少女

 翌朝、月曜日――――

 

「……よっし。朝ごはん完成」

 

 ブレザーの代わりにエプロンを制服の上に着る望が、ダイニングテーブルの前で腰に手を当てた格好で頷く。

 

 食卓に並ぶのは、フレンチトーストとサラダ、ホットミルクだ。

 

「月ヶ瀬ぇ~! ご飯だぞ~!」

 

 ……実はこの家に一人で住んでるんじゃないかと錯覚するくらいには反応がない。

 

(まぁ、一階から呼び掛けたくらいで起きてくるとは思ってなかったけど……)

 

 望はため息を一つ溢す。

 階段を上り、二階にある妃菜の自室の扉を三回ノック。

 

「起きないと遅刻するぞ~!」

「…………」

 

 やはり反応なし。

 望は突撃を決意した。

 

(……また、うなされてないといいけど)

 

 ガチャッ。

 

 昨日は同じことをして「寝顔を見られた」と文句を言ってきた妃菜だが、その妃菜が同じように起きてこないのだから、望もまた同じように寝顔を拝んでやるまでだった。

 

 部屋に背を向け、壁方向へ横向きに寝ている。

 

(よかった。うなされてはいないみたいだな……)

 

 望は取り敢えず拭えた不安にホッとしながら、それはそれとして家事を任されるものの務めを果たす。

 

 シャッ――と部屋のカーテンを開けて、朝日を窓から迎え入れる。

 

「おい、月ヶ瀬。起きろ~」

「……ん、んむぅ……」

 

 取り敢えず、夢の国からこちらの世界へ意識を引っ張ってくることには成功したようで、妃菜がごにょごにょと声を漏らしている。

 

「あと十分……」

「十秒なら待ってやる」

「……ん、三分」

「十秒だ」

「一分で良いからぁ……」

「値段交渉してんじゃないんだからさ……」

 

 家電量販店で店員にしつこくまけてくれるように交渉する迷惑客を相手にしているような心地になり、望は微苦笑を浮かべた。

 

「うぅん……じゃあ……」

「はい、十秒経ったので起こしまーす」

 

 バサッ!

 

 妃菜の身体を冬の朝の寒さから守っていた羽毛布団を勢いよく捲り上げる望。

 

「うっ……寒いよぉ……」

「一階は暖かくしてるから、って……!?」

 

 望の胸の奥が騒がしくなる。

 それこそ、朝の寒気など忘れるくらいに顔が熱くなった。

 

 朝っぱらから心臓に悪いことをしてしまったと後悔してももう遅い。

 

 布団を捲って露わになった妃菜は、まだ微睡の中に囚われているようにとろけた視線をこちらに向けてきている。

 

 ワンピース型の寝間着のスカートは大きく捲れ上がり、妃菜の細くてしなやかな白いおみ足が上太腿辺りまで惜しげもなく晒されていた。

 

 冷える外気から逃れようとしているのだろう。

 両脚を擦り合わせて少しでも摩擦熱を起こそうとしている悪足掻きが滑稽に思えると同時に、妙に色っぽくも見えてしまう。

 

 膝を折っているお陰でかろうじて下着が見えることはなかったが、むしろ見えそうで見えないそのチラリズム的魅力が、不覚にも望にぶっ刺さってしまっていた。

 

「んむ……御守くん……?」

「っ、は、早く起きろ。じゃないと朝食冷めて美味しくなくなっちゃうぞ」

 

 背を向けてそう言った望は一足先に部屋を出る。

 

「そ、それはだめぇ……!」

 

 そんな悲鳴が聞こえてきたのは、望が階段を下りている頃だった――――

 

 

◇◆◇

 

 

「望ぅー、トイレぇー」

「俺はトイレじゃありません」

 

 先生トイレ~、から始まるテンプレートなやり取りの派生形が意図せず行われた。

 

 休み時間になって席を立った俊也に、望は面倒臭そうな半目を向ける。

 

「トイレくらい一人で行けよ」

「えぇ~、さーびーしーいー」

「ガキか」

 

 高校生にも何言ってんだコイツ、と心の中でぼやく望だったが、会話内容で意識したせいか望も少し催すモノがあった。

 

 何も言わずに立ち上がると、俊也が嬉しそうな顔をする。

 

「なんだかんだ言って付き合ってくれる良いヤツだよなぁ~、望ぅ~!」

「違う。単に俺も行きたくなっただけだ」

「またまたぁ~」

「いや、別に照れ隠しとかじゃねーよっ!?」

 

 わかってるわかってる、と頷く俊也が本当にわかっているのかどうかは、その顔を見れば明らか。

 

(ああ、わかってないなコイツ)

 

 望はもう諦めた。

 誤解をそのままにしておくことにして、俊也と共に教室を出る。

 

「にしても、休日明けなのに今日は割と元気そうじゃん?」

 

 まばらに廊下に立っている生徒を横目に歩く途中、隣に並ぶ俊也が不思議そうに首を傾げる。

 

 一見するとおかしな疑問かもしれない。

 休日明けが憂鬱であるという点を除けば、土日で息抜きしたあとなので、普通月曜日は多くの生徒にとっては一週間で一番体力がある曜日だろう。

 

 しかし、望は違う。

 

 今まで休日の予定はバイトでびっしり詰まっていたので、精も根も尽き果てた状態で一週間の学校生活をスタートさせることが当たり前だった。

 

 平日学校から帰って夜遅くまで勉強するほうが、まだ身体を動かさないだけ休息になるという生活をしていた。

 

「まぁ、なんと言うか。良い仕事を見付けられたお陰で、ちょっと負担が軽くなったんだよ」

「ほぉん。ちなみに何の仕事?」

「一応、家事代行……?」

「え、今まで通りじゃん」

「いや、専属契約的な?」

「なぜ疑問形?」

 

 それは家事代行というか、もはや特定の人物の世話係のようなことをしているからです――とは、流石に言えない望。

 

 今朝も朝食を済ませたあと、あれがないこれがないと騒ぐ妃菜の持ち物を揃えてあげたり、寝癖が治らないという髪の毛を梳かして結ってあげたり、直前になって制服のブラウスのシワを伸ばすためにアイロンを掛けたり…………

 

(ま、まぁ、今までとは違った苦労があるけど、それでもだいぶ楽にはなったよなぁ……)

 

 改めて妃菜との巡り逢わせに心の中で感謝する。

 

 そのあとも他愛のない話を俊也としながらトイレで用を足し、自教室に戻る。

 

 その途中――――

 

「え~、ついてかなくて平気~?」

「ウチ、全然連れてくよ?」

「お、俺が一緒に――」

「――アンタはすっこんでろ」

 

 望と俊也が隣のクラスを通り掛かったときのことだった。

 

 数人の男女が心配するような声が聞こえる。

 

「あはは……そんなに心配しなくても、一人で大丈夫だよ」

 

 そう作ったような笑みで答えながら教室の後ろのドアから出てくるのは、妃菜だった。

 

「ちょっと保健室で休めば大丈夫だから」

 

 ひらりと手を振って身を翻す妃菜。

 ちょうど傍を歩いていた望に気が付き、視線が向く。

 

 望と妃菜の視線が一瞬合う。

 言葉は交わさず、妃菜は少し微笑んでみせてから、教室に戻る望と反対方向に歩いていった。

 

 そんな妃菜の存在に俊也も気付いていたようで、足を止めてから、離れていく背中へと目をやる。

 

「ん、体調でも悪いんかな~?」

「……さぁ」

 

 

 その後の授業中。

 とっくに自主的に履修し終えている範囲の授業に退屈さを覚えて、ぼんやり窓の外の景色を眺めていた望は、密かに一人学園の敷地から飛び出していく白い魔法少女の姿を見たのだった――――

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