家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第18話 まさか魔法少女タッグだったとは……

「ここにスポーツドリンクとかゼリーとか置いておくぞ。あとは……他に何かほしいものとかあるか?」

「ううん、大丈夫だよ」

 

 ありがとう、とはにかむ妃菜は、汗を拭いて寝間着も着替えてスッキリ出来た様子で、すっぽり顔の下半分まで布団を被ってベッドに横になっている。

 

 あとは妃菜がしっかり眠って身体を休めるだけなので、もう望に出来ることはあまりない。

 

「よし。んじゃ、俺は部屋に戻って……」

「…………」

 

 勉強でもしようかなぁ、と言い掛けた望だったが、妃菜が無言でジッと見つめてきていることに気付いて、困ったように後ろ頭を掻く。

 

(そんな捨てられた子犬みたいな目をしなくても……)

 

 熱で弱っているせいか、淡紅色の瞳が妙に潤んで見えて、さらに庇護欲を掻き立ててくる。

 

 ここで何も見なかったフリをして自室に戻れるほど、望のメンタルは強くない。

 

「んあぁ、やっぱここにいることにした」

「ど、どうして……?」

「いやまぁ、ほら。身体が弱ってるときってなんか心細くなったりするだろ?」

 

 望は少々照れ臭そうに頬を指で掻いて、妃菜が寝ているベッドを背もたれ代わりにして床に腰を下ろした。

 

「月ヶ瀬が寝るまではここにいる」

「……ふふっ」

「な、なんだよ?」

「ううん。御守くんが傍にいてくれると安心するなぁって、思っただけだよ……」

 

 さいですか、と望は少し素っ気なく反応してしまったが、それが照れ隠しであることが伝わったようで、妃菜は口元を布団で隠してくつくつと笑った。

 

 仰向けに寝る妃菜が頭を九十度転がすと、望の後頭部がベッドとその上に敷かれたマットレスの高さを超えて、ひょっこり飛び出して見える。

 

 じぃ……と、妃菜がいくらその柔らかそうな質感の焦げ茶色の髪に視線を注いでもに、望は気付かない。

 

 そして、そんなたいしたことのない事実が何だか可笑しく思えて、妃菜は一人楽しげに目を細めていた。

 

 折角の二人きりの時間。

 どうしてこんなになるまで無茶をするのか、何のために魔法少女をやっているのか……望には妃菜に聞きたいことがあるはずで、今は絶好のタイミング。

 

 もちろん、妃菜もそのことを理解している。

 

 しかし、望は聞かない。

 妃菜が語ろうとしないことを、無理に聞き出そうとはしてこない。

 

 今は身体を休めることを最優先だと考えているからなのか、それともいつかは妃菜が自らの口で教えてくれるだろうと信じているからなのか…………

 

 本当のところの理由はわからないし、推測の域を出ることはない。

 

 それでも、望が意図してこの心地の良い沈黙を作ってくれているのだということだけは、確かにわかる。

 

 その思いやりが、妃菜はどうしようもなく嬉しかった。

 

 頼っていい。

 ワガママになっていい。

 甘えていい。

 そのうえ沢山心配してくれる。

 

 今この瞬間、一番近くにいてくれて、最も自分のことを考えてくれるこの人になら――と思ったときには、妃菜は静かに口を開いていた。

 

「……ねぇ、御守くん。聞いてくれる?」

「あぁ、何でも聞くぞ」

 

 柔らかいその声に微笑んだ妃菜は、見つめていた望の後頭部から視線を外して天井を見る。

 

「私、一年前まではもう一人の魔法少女と一緒に活動してたんだ。彼女の名前は月ヶ瀬由菜――私の一個下の妹」

 

 マジかっ、と望は驚きのあまり声を上げそうになるが、今は静かに妃菜の話に耳を傾けることにする。

 

(その名前どこかで……あっ、月ヶ瀬がうなされてるときに呼んでた名前か……)

 

 まさかその人物の正体が妹だとは思ってもみなかったが、だとすると当然新たな疑問が生まれてくる。

 

 組んでいた魔法少女が――妹がいたのに、どうして今は一緒にいないのか。

 

 その答えが、すぐに妃菜の口から語られる。

 

「でも、ある大規模な戦いがあったときにね……連れ去られちゃったんだ……」

「連れ去られた? 誰に……」

「街に蔓延る怪異現象の元凶にして、妖精の国に敵対する者達――通称、悪の組織に」

 

 随分とチープでまんますぎる通称だが、日夜街の平穏を脅かしているあの怪異の元凶であり、魔法少女協会もあるあの妖精の国と敵対しているとなると、その危険度はついこの間まで普通の日常生活を送っていた望には到底推し量れるものではなかった。

 

 そして、そんな恐ろしい組織に妹が囚われてしまった妃菜の悲しみも。

 

「だから私、どうしても由菜を連れ戻したくて、助け出したくて……少しでも多くの怪異を倒して、倒して、倒して回って、悪の組織の手掛かりを探してたの……」

「……なるほどな。それで無茶してたワケか」

 

 つまるところ、それが現在の妃菜にとっての魔法少女活動の動機。

 

 どうしてそこまで頑張るのか。

 何がそこまで無茶をさせるのか。

 

 望の頭の中に常にあったそんな疑問が、ようやく晴らされた。

 

 でも、望はここで「大丈夫」とか「きっと助け出せる」とか、安易に寄り添ったつもりになるような言葉を吐くつもりはない。

 

 妃菜には頼ってほしいし、ワガママになってほしいし、甘えてほしい。そして、望は沢山の心配をする。

 

 しかし、それは弱い妃菜を依存させたいからじゃない。

 

 まだ出逢っていない頃から、そして出逢ってからも、無茶だったかもしれないし無理だったかもしれないけど、妃菜は一人で頑張ってきた。

 

 望は、妃菜が強いと知っている。

 

 だから、力になるとか助けてみせるとかそんな根拠のない己惚れたことは言えなくとも、せめて妃菜が少し羽を休められる居場所になれればと願う。

 

 そして、休んだあとはまた飛び立てるようにそっと背中を押してあげるのだ。

 

「だったら、早く元気にならないとな」

「……御守くん?」

 

 望は振り返って妃菜の顔を覗き込む。

 

「妹を助けるはずのお前がダウンしてたら本末転倒だろ? だから、今はしっかり休んで万全の状態を取り戻して、次は無茶しないように頑張ろう。そのために俺が出来ることなら、何でも協力するからさ」

 

 な? と穏やかな笑みを浮かべながら優しく頭を撫でてくる望に、妃菜は丸く見開いた目をキラリと輝かせた。

 

「ふふっ、うん……!」

 

 妃菜は望の手の温もり心地良さそうに目を細める。

 

 そのあとしばらく撫で続けていると、妃菜の意識はどんどん深いところに沈んでいって、望が手を離したときには静かな寝息を立てていた。

 

 望はそんな妃菜の寝顔を見て安心したように表情を緩めたあと、起こさないように静かにドアを閉めて部屋を出た。

 

(月ヶ瀬の熱が治ったら、まずは魔力を回復させないとだよな……)

 

 一体どうすれば……と、困ったときに、望が自室の棚から取りい出したるは――――

 

「……そうそう、これこれ」

 

 望の手には『誰でもわかる!御使い業務マニュアル!』があった。

 

 妖精の国でテュカが陰ながらサムズアップをしていることだろう――――

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