家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第02話 家事代行先が同級生の美少女の汚部屋で気まずい

 土曜日の昼。

 望は休日であることを活かして家事代行のアルバイトに向かっていた。

 

「それにしても、立派な家だなぁ……」

 

 一人暮らしをしている自宅のアパートから自転車を走らせて十五分。住宅街の外れにある小高い丘を登ったところに洋風レトロな二階建ての一軒家が建っていた。

 

 ここが今日依頼を貰った家事代行先だ。

 

 あまり手入れの行き届いていない庭を通って、玄関の前のインターホンを鳴らす。

 

 ピーンポーン、ピーンポーン…………

 

 数秒の間を置いてインターホンのスピーカー越しに応答があったので、カメラ機能がついていない機種だとわかっていても仕事モードで背筋を伸ばす。

 

『はーい』

「本日ご依頼をいただきました、家事代行サービスの者です」

 

 簡潔に、もう何度口にしたかわからない定型的な挨拶をすると、スピーカー特有のくぐもった声で『今行きまーす』と返事が来る。

 

(女性の声……でも主婦の方にしては若すぎるような……?)

 

 微かにそんな疑問を浮かべていると、家の中から足音が近づいてくるのが聞こえてきた。

 

 タッタッタッタ、ガチャ…………

 

「お、お待たせしました。今日はよろしくお願いします」

 

 開かれる玄関扉。

 同時に聞こえてくるのは鈴を転がすような可愛らしい声の挨拶と、陽光を細やかに乱反射する新雪の髪の毛だった。

 

 咄嗟に望も家事代行としての挨拶を返そうとしたが、開いたその口はまったく別の――驚きの言葉を溢していた。

 

「えっ、月ヶ瀬……?」

「ん……あっ、確か……御守くん……?」

 

 もしかして、という思いが望にまったくなかったと言えば嘘になる。

 

 依頼を受けたときに得られる情報で依頼先が『月ヶ瀬様』とわかったときに、学園で美少女として人気を誇るあの『月ヶ瀬妃菜』の家である可能性を一瞬は考えた。

 

 しかし、まさかそんな偶然あるワケ……と、あり得るかもしれない可能性に蓋をして、それ以上深く考えることはしなかった。

 

 だが、実際こうして今目の前にいるのは――――

 

(月ヶ瀬妃菜だ。接点はないけど、隣のクラスだし廊下で何度もすれ違ってるから見間違いじゃない……)

 

 加えて、目の前に立っている少女自身が望の姿を見て同級生の『御守望』と結びついているのだから、疑う余地はなかった。

 

「隣のクラスの御守くん、だよね? 御守望くん」

「あ、あぁ。俺のこと知ってるんだ」

 

 少し意外そうに望が反応すると、妃菜は「もちろん」と言い切った。

 

「だって特待生だよね……? テストの成績貼り出されたとき、いつも名前が凄く上の方にあるから知ってるよ」

「な、なるほど」

 

 納得を示しながら望は逆に妃菜の名前を見たことがあるかどうか、記憶を掘り返してみるが……少なくとも成績が貼り出される上位五十名の中にその名前を見掛けたことはないはずだ。

 

(というか、こうして間近で見るとやっぱ凄い美少女だな……)

 

 綺麗な女性の形容の仕方は多々あるが、妃菜は大人っぽさのある美人というよりは、無垢で純粋な美少女というニュアンス。

 

 とはいえ可愛らしさ全振りというワケでもなく、下手に触れると壊れてしまいそうな精巧なガラス細工めいた儚さを孕んでいる。

 

 ただ、それにしても…………

 

「もしかして、体調悪い?」

「えっ……?」

 

 具体的に何を根拠にしてそう思ったかは、望自身にも定かではない。

 

 ただなんとなく、色白にしたって肌の血色が良くないように見えたり、浮かべる笑顔の端に無理をしているような感じがしたという程度。

 

「えぇっと、そう……見えちゃった……?」

 

 眉尻を下げて困ったような笑顔を作った妃菜に聞き返されて、望はハッとした。

 

「あっ、いや! ゴメン、失礼だった……!」

 

 つい口にしてしまったが、女性の姿を見て「体調が悪そうに見える」と言うのは、本心から心配していたとしても、捉え方によっては充分失礼にあたる発言だ。

 

 まして、たいした交流もない男子からなんてなおさらだ。

 

「ホント、ごめん……」

「あ、あはは。大丈夫だよ?」

 

 浮かぶ笑みこそぎこちないものだったが、一応妃菜が許してくれたので、望はこれ以上余計なことを言わないように、脱線していた話を咳払い一つ挟んでレールに嵌め直す。

 

「えっと、本題だけど。家事代行の仕事とはいえ、もし同級生に家の中を見られたり弄られたりするのに抵抗があるようだったら、担当を代わってもらうように掛け合うことも出来るけど……」

 

 どうする? と望が配慮を込めて尋ねると、妃菜は首を横に振った。

 

「ううん、大丈夫。あ、でもこのことは学校では――」

「――もちろん、そこは弁えてるよ。お客様のプライバシーを漏洩させることは決してございませんので」

 

 あくまでここに立っているのは学園の同級生の御守望ではなく、家事代行サービスのスタッフ御守望だ。

 

 そこを明確にするために、望は仕事らしく丁寧に敬語で断言してみせる。

 

 望の誠実さが伝わったのか、妃菜は一瞬丸くした淡紅色の瞳をすぐに安心したように細めた。

 

「ふふっ、ありがとう。じゃあ、早速お願い出来るかな……?」

「ええ、お任せください――」

 

 ここからは完全に仕事モード。

 望が家事代行サービスのスタッフであるように、妃菜は一人のお客様。

 

 そのつもりで家に足を踏み入れ――――

 

 

 

(なんじゃこりゃっ……!?)

 

 玄関を入った先は早速リビング。

 薪ストーブがあってお洒落だなぁ、という感想は、それを覆すほどの部屋の惨状に揉み消されてしまった。

 

 垂直平行の取れていない家具配置。

 ソファーに投げつけられたように掛かっている衣類やタオルもあれば、床へ無造作に放り捨てられているものも沢山。

 

 出来るだけそれらを踏みつけないように、限られた足場を見定めながらキッチンまで移動する。

 

 案の定、シンクには洗われていない食器や調理器具が積み上がり、傍に置かれたゴミ袋の中にはインスタント食品のカップや包装などが大量に詰まっていた。

 

 この有様を前にしては流石に仕事モードの望と言えどぎこちない笑みを禁じ得なかった。

 

「あ、あはは……コレ、どうにか出来るかなぁ……?」

「すぅ……お、お任せください」

 

 今回の依頼は、キッチン回りとリビングダイニングの掃除片付け、そして夕食作り。

 

 不安と申し訳なさを滲ませる妃菜の視線の先で、望は腕を捲くって気合を入れた。

 

「では、始めさせていただきますね――」

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「――本当にありがとう、御守くん」

 

 日暮れ頃。

 妃菜は仕事を終えた望を玄関先まで見送っていた。

 

「いえいえ、お役に立てたのであれば幸いです」

「あはは、他人行儀だなぁ……」

「仕事ですからね」

「そ、そっかぁ……」

 

 妃菜は僅かに寂しそうな笑みを滲ませたが、望としては少なくとも完全に退勤し終えるまでは家事代行サービスのスタッフという立場を守らなければならない。

 

 同級生だからと距離感を測り間違えてはいけない。

 

「それにしてもビックリしちゃったなぁ。御守くんって、あんなに勉強も出来るのに家事も完璧にこなせるんだね。それに……」

 

 じぃ、と妃菜の瞳が真っ直ぐ見詰めてくる。

 

 望は思わずドキリとしてしまうが、すぐにそれは別物の不思議な感覚へと変わっていく。

 

 妃菜の澄んだ淡紅色の視線は、こちらの姿を捉えているというよりは、身体という入れ物のさらにその奥にある何かを見透かしてきているかのような…………

 

「それに?」

「……あっ、ううん。ごめんね、ちょっとぼーっとしちゃった。あはは……」

 

 何かを誤魔化したようにも感じたが、特に詮索する理由もない。

 

 仕事を終えた望は、最後に姿勢を正して頭を下げる。

 

「それでは本日はこれで失礼いたします。是非また家事代行サービスをご利用ください」

 

 望は妃菜の見送りを受けて小高い丘の上の家をあとにした――――

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