家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第20話 これは帰ってからが怖いヤツ……

 キーンコーンカーンコーン…………

 

 四限目の授業が終わるチャイムの音。

 教卓で教師が使用した教材をまとめる中、生徒達が好き好きに立ち上がっては騒がしくし始める。

 

「ふぁ~、終わったぁ~」

「飯だ飯ぃ~」

「ねねっ、今日中庭で食べよ?」

「ウチ、まーじでお腹ペコペコなんだけどぉ」

「うっわ、弁当忘れた! やっちまったぁ~!」

 

 そんな騒がしさの一角で、俊也はのんびり教科書を片付けていた望の肩を叩いた。

 

「のーぞむっ! 学食行こうぜ、学食!」

「おー」

 

 望は間延びした返事をして立ち上がる。

 

「あ、ちなみに今日お弁当です」

「えっ、マジ!?」

「マジマジ」

 

 望はカバンから風呂敷で包んだ弁当を取り出して、「ほら」と俊也の顔の前に出す。

 

 そんなときだった。

 望は背中をトンと触れられる感覚がしたので振り向く。

 

「あっ、マジだ~!」

 

 望の背中に手を当てて体重の支えにし、脇から身体を前のめりにして覗き込んでくる少女の顔があった。

 

 カールの掛かった亜麻色のサイドテール。

 望にとっては見慣れた頭だった。

 

「……何やってんの、お前?」

「んえ?」

 

 望が半目で尋ねると、少女は栗色の瞳をキョトンと丸くして見上げてきた。

 

「突如持参されたミモリンの手作り弁当に対する、場の驚き及び好奇心指数を相乗的に上昇させる試験?」

「よくそんなスラッスラと噛まずに論文の題名みたいな文字列を並べ立てられるな、おい」

 

 望のツッコミに対し、少女は片手を腰に、もう片方の手を顔の前に持ってきて人差し指を立てる。

 

「ちっちっち。アタシは別にプロジェクターの光に目を細めて『素人質問で恐縮ですが』の枕詞に怯えたいワケではないのだよ! 目指すはトップ! 日間ランキング一位!」

「なろう系かな?」

「そうそれっ!」

 

 二度目にして満足いくツッコミが得られたようで、少女は立てていた人差し指をその名の通りビシッと望に向けた。

 

 望は「なるほどな」と苦笑する。

 

「長文タイトルの締めによくある『件』を『試験』の音で揃えてんの、芸が細かいな」

「フッ、そこに気が付くミモリンも冴えてるぜっ……」

 

 少女がニヒルに笑って細めた視線を向ける先で、望は呆れ笑いを浮かべ、その隣に立つ俊也に関してはもはや会話についてこられていなかった。

 

「お、俺にはお前らのやり取りの意味がサッパリわからん! いや、いつものことだけどさぁ!?」

「あー、うん。俊也ハブろうと思って」

「ちょっ、今の聞いたか望!? 俺イジメられてるんですけどぉ~!」

 

 嘘泣きしながら「助けて望ぅ~」と抱き付いてくる俊也を鬱陶しそうに引き剥がしながら、望は改めて少女に視線を向けた。

 

「んで、今日は一緒に食べよう的な感じか、スミ?」

 

 スミと呼ばれたその少女――綾乃川(あやのがわ)香澄(かすみ)はグッと親指を立ててウィンクしてみせながら「イェス!」と肯定した。

 

 傍に置いてあった弁当の入っていると思しき袋を持つと、自然な流れで望の腕に肘を掛けてグイッと引っ張っていく。

 

「ほらほら~!」

「あ、ちょ……!」

 

 身長は平均的か少し低いくらいなのに、同世代の女子と比べて発育の著しい胸が望の腕に割とガッツリ押し当る。

 

「シュン、コレお前の幼馴染だろ。どうにかしてくれ……」

 

 食堂に向かっているのだろう。

 教室から廊下に連れ出された望は、居たたまれなさそうな表情で助けを求めるが、一歩後ろを歩いてついてくる俊也は肩を竦めて首を横に振った。

 

「どうにか出来るならもうしてるって」

「……そりゃそうか」

 

 望は諦めた。

 

 そもそも、望や俊也程度でこの綾乃川香澄をどうにか出来るワケがないのだということを思い出した

 

 自由奔放で明るい性格。

 一見お馬鹿っぽくも見える香澄だが、これでも不動の学年成績一位の特待生であり、同じ特待生でも現在三位の望よりも頭が良い。

 

 おまけに実家はこの辺り一帯の大地主という、正真正銘のお嬢様である。

 

 そのため、頭脳的にも、経済的にも、政治的にも勝てる要素は何一つない――――

 

「――ちょわっ!?」

「うおっと!?」

 

 ――かに思われるが、たった一つある。

 運動神経である。

 

 ちなみに、その点においてはこの学園に所属する生徒で香澄に勝てない者は一人もいない。

 

 早速その証拠を見せんとばかりに、香澄がすぐ隣を歩く――というか自分が引っ張って連れていっている望の足に自分の足を引っ掛けて躓いた。

 

 大きく傾く香澄の身体。

 望は咄嗟に踏ん張ろうとするが、組んだ腕がそのまま引っ張られてしまって失敗。

 

 ドサッ! とそのまま床に二人折り重なるようにして倒れた。

 

 不幸中の幸いか、仰向けに倒れる香澄の頭の下に望が手を滑り込ませることが出来たので、床に後頭部を強打するというコトはなかった。

 

 しかし…………

 

「実際にこんなこと起こるんだね~?」

「いや、こうはならんやろ……」

「なっとるやろがい」

 

 それはまるで上に四つ這いで跨る望が、香澄を組み敷いているような格好。

 

 もちろん往来の生徒も驚きの視線を向けてきているワケで、しょうもないコントのようなツッコミを受けている場合ではないのだ。

 

 そして、不幸中の更なる不幸で…………

 

「あっ……」

「……あ」

 

 転んだのは隣の教室の前だったらしい。

 ちょうど扉から出てきて何も知らない妃菜と目が合う望。

 

「どしたの月ヶ瀬さ――うわっ」

「え、なになに~?」

「これ、何事ぉ……!?」

 

 妃菜に続くようにして教室から出てきた生徒も、望と香澄の格好を見てビックリする。

 

「あ、えと、これはコイツが転んで……」

 

 変な焦りに掻き立てられるように望が状況説明をしようとしたところに、押し倒されているような体勢の香澄がわざとらしく恥じらったような表情を作ると、いつもよりピッチが高い声で言った。

 

「もう、ミモリンは節操なしなんだから~」

「おまっ……これがさも状況証拠ですみたいに仕立て上げんなよ!?」

 

 違うからなっ!? と慌てて望が顔を上げると、なぜだろう……こちらを無感情に見下ろす妃菜の瞳からハイライトが消失しているように感じた。

 

「……行こ、みんな」

「ぁ……」

 

 身を翻して去っていく妃菜。

 望の弁明の試みも虚しく、その機会は失われた。

 

「……誤解されちったかな?」

「誤解させたの間違いですよね!?」

 

 他人事のように語る香澄の頭の下からスッと勢いよく手を抜き取った望。

 

 そのせいでゴツッ、と香澄が床に頭をぶつけて「痛ったぁ~!」と悲鳴を上げる。

 

「今のでシナプス十本は切れたぁ~!」

「少しは余計なことに頭が回らなくなってくれ」

 

 望は近くに転がった弁当を拾って立ち上がり、少し帰宅を憂鬱に感じてしまうのだった――――

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