家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第28話 多分ニチアサでは許されない言い方ですよ、それ

 春休みに入って数日。

 春休み課題なんてサクッと終わらせて、既に粗方個人的に履修し終えている高校二年生の教科範囲を、今度はより応用が利かせられるよう深く理解するために、のんびり周回プレイするつもりでいた望。

 

 しかし、春休みは思ったより慌ただしくなっており――――

 

 

「おいおい、湧いてきすぎだろっ……!?」

 

 陽が落ちから久しい、街灯が点々と灯る公園。

 良い子はもう家で布団に入ろうかという頃合いを見計らって、ゆらゆらと地面や遊具から人型の影が生え出てくる。

 

「何でこんなに人影――えっと、シャドウだったか? がこんな場所に出現するんだよ!?」

 

 危なくないように少し離れた場所に立っていた望の文句とも言える叫びに、次から次へと湧いてくるシャドウの相手をしている妃菜が、戦いながら答える。

 

「こんな場所だから、だよっ!」

 

 右側から飛び掛かってくる人型シャドウを、手に持った長杖で横薙ぎに一閃して上半身と下半身をお別れさせる。

 

「シャドウは黒魔力の集合体なの」

 

 背後に回っていたシャドウを回し蹴りで吹っ飛ばし、クルリと回した長杖をさもライフルを構えるように持つと、先端から魔力を凝縮した弾丸を放つ。

 

 ビュン! ビュン! ビュンッ!!

 

 狙い違わず、器用に数体のシャドウをまとめて貫通させながら、ざっと五体を霧散させた。

 

「こういう沢山の人が訪れて色々な感情をもたらす場所は、言ってしまえばシャドウの苗床なんだよ」

「な、なるほどなぁ」

 

 望はどこか感心混じりに納得してしまった。

 

 いわゆる魔法少女モノの作品では、魔法少女が日常生活を送っている中で出先に都合よく敵が出現したり、それこそ悪の組織の幹部が現れて戦う相手を召喚したりするが、どうやら現実ではそうではないらしい。

 

(まぁ、アニメでは各話必ず一回は変身しなければいけないという大人の事情が絡んでたりするからなんだろうけどな……)

 

 魔法少女に変身するということは、つまり危険な状況にあるというワケで。それを強要する制作陣営の大人達こそ、真の悪の組織なのではないだろうか。

 

(っと、いかんいかん。そんなことを考えている場合じゃなかった)

 

 初めて出逢ったときと違って、今の妃菜はかなり白魔力も回復して黒魔力量も減り、心身の状態は良好。

 

 もちろん油断は出来ないが、あのとき望を逃がすので精一杯な立ち回りをしていたシャドウ相手に――ましてさらに多数を相手にしても、今の妃菜は余裕を見せている。

 

「はぁっ!!」

 

 ダッ! と地面を蹴り出して突進しながら長杖を振り抜いた妃菜が、シャドウの群れをまとめて斬り伏せていた。

 

(多分、本来の妃菜にとったらあの人型シャドウは雑魚敵なんだろうな……って、杖の使い方はアレで合っているのだろうか……)

 

 魔法少女を語る割に近接戦闘が多いのは、まぁ、あるあるだ。

 

 しかし、それは得物を持たない素手の魔法少女が行う戦い方であって、武器――ましていかにも魔法を使いそうな長杖を持った魔法少女が、それ手に振り回して戦うというのはやや先鋭的だろう。

 

 ようやく長杖を使ってマジカルな攻撃をしたと思えば、近代戦闘筆頭の銃火器を扱う軍人のように構えている。

 

 可愛らしいドレスのような装束を纏ってその構え方をしているのだから、絵面としてはなかなかにミスマッチ。

 

(んまぁ、戦闘において理に適ってるんだろうなぁ……)

 

 そう。

 これはファンタジーであって創作ではない。

 非日常な現実だ。

 

 魔法少女の使用するアイテムを玩具として販売する際の効果的な広告となるよう、作中で魅力的に映すために合理性を欠いた使い方をする必要はない。

 

 戦に勝つために必要なことをする――ただそれだけなのだろう。

 

「望くんっ!」

 

 大きく跳躍してきた妃菜が望の隣に立ち、並んで向こうに蠢いているシャドウの群れを見据える。

 

「どうした?」

「シャドウの発生が止まったから、多分あそこにいるので最後だと思う。だから、まとめて倒そうと思うんだけど……」

 

 妃菜が遠慮がちな上目を向けてくるので、望は軽く笑って答えた。

 

「おっけ、魔力供給すればいいんだな?」

「うん。お願い出来るかな?」

「それが御使いの仕事だからな」

 

 じゃあ――と妃菜が左手を差し出してくるので、望がそれを取ろうと右手を伸ばし、

 

「あっ、待って? ちょっと汗掻いちゃってるかも……!」

 

 望が掴む前に手を引っ込めた妃菜が、スカートに擦りつけて汗を拭う。

 

「別に気にしないけど……」

「わ、私は気にするのっ……!」

 

 魔力供給は基本的に身体接触を必要とせず遠隔的に出来るものであるが、それには練習が必要。

 

 この数日で何度か魔力供給をした望だが、それでもまだ遠隔で妃菜に魔力が送れるほど、御使いとしての経験も技量も足りていない。

 

 なので、現状魔力供給のためには身体に触れる必要があるのだが……乙女心的には少々配慮が必要なようだった。

 

「は、はい、もう大丈夫。握って……?」

「っ、あぁ……」

 

 いちいち言い方や仕草が可愛いのはなんなんだ、と望は気恥ずかしそうに顔を赤らめる妃菜に心の中で文句を言いながら、その手を取る。

 

 望としては普通に握手の形で掴んだつもりだったが、握った手を下げた妃菜が自然な流れで指を絡めてくる。

 

(……毎回この繋ぎ方するけど、こっちのが効率的なのか?)

 

 どうなんだろう、と気になりながら望がチラリと妃菜の横顔を盗み見てみれば…………

 

「~~っ!」

「…………」

 

 真剣にシャドウの群れを見据えているようで、その顔は耳の先まで赤くなっていた。

 

(まぁ、恥ずかしくてもやってるんだから効率的なんだろ……知らんけど)

 

 望も妃菜から視線を外すと、並んでシャドウの群れを見据える。

 

 残りは十数体。

 大きく後退してきて妃菜を見失った様子だったが、どうやらこちらに気付いたようで群れ全体で駆けてきている。

 

「送るぞ……!」

「うん」

 

 自分から魔力を送る感覚を掴むのに最初こそ苦労したが、今ではそう時間も掛からずに出来るようになった。

 

 身体の奥底にある貯水槽のようなものの栓を緩めて、そこに溜まっていたものを捻出し、熱い奔流を感じながら右腕を通して、繋がった妃菜の左手に送り込む。

 

 同時にずぅん、と一気に疲労感や虚脱感が押し寄せるが、まだ耐えられる範疇だ。

 

「んっ……うん、もういいよ。今回もしっかり望くんの熱いのが入ってきたよ……」

「これが変な意味に聞こえてしまうのは俺が悪いのか……?」

 

 何か言った? と望の独り言に妃菜が疑問符を浮かべてくるので、慌てて「何でもありません!」と答えておく。

 

 言い方に気を付けるよう注意するのはまた今度にして、今は目の前のシャドウを一掃して早く家に帰りたかった。

 

「じゃあ、終わらせようか――」

 

 妃菜が右手に持った長杖を頭上に掲げてくるっと先端で一周円を描くように回した。

 

 迫りくるシャドウを前にして、妃菜とその隣に立つ望の足元に魔法陣が描かれる。

 

 そんな様子を見た望が再び顔を上げると、自分達の頭上にいくつもの光の欠片が生成されて浮かんでおり――――

 

「行け」

 

 命令するように妃菜が呟いて長杖を振り下ろすと同時、光の欠片達が一斉に射出され、肉眼で追うことすら許されない速度で眼前のシャドウ達へと降り注いだ。

 

 ズザザザザザザザッ!!

 

 光の欠片の一片一片が雨粒のようにシャドウの身体を打ち抜いて地面を穿ち、瞬く間にその群れを一掃。

 

 地面にいくつも穴を開けた程度で、公園の遊具やその周辺の木々への被害もない。

 

 勝利後の静寂が訪れた。

 

「……ふぅ、終わったね」

 

 カツン、と妃菜が長杖の柄尻を足元に突いた。

 

「お疲れ様、妃菜」

「望くんも、ね?」

 

 労う望の優しく緩んだ顔に、妃菜も儚い微笑みを浮かべながら小首を傾げる。

 

「んじゃ、帰るか」

「うん。あ、帰ったらその……ちょっと魔力回復させてほしいかなぁって……」

 

 良いかな? と妃菜が恥じらい混じりに聞いてくるので、望はここ数日のことを思い出して少し熱くなった顔を背けながら頷いた。

 

「ま、まぁ、必要だもんな?」

「……ふふっ、うん。必要なの」

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