家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第29話 それもこれも白魔力を回復させるためで他意はないらしい

 公園でシャドウを一掃したあとに帰宅した望と妃菜は、二人揃って夕食を取り、一日の疲れと汚れを妃菜、望の順番にそれぞれ風呂で洗い落とした。

 

 そして――――

 

「ふぅ、出たぞ~」

 

 風呂上がりでホカホカの望が間延びした声を出しながらリビングに戻ってきたので、それを待っていた妃菜は、自分が座っているリビングソファーの隣を手で叩いた。

 

「望くん、こっちこっち」

「はいはい」

 

 わかってますよ~、と望は仕方なさそうに小さく笑い、妃菜の隣まで足を運ぶ。

 

 特に理由はなく拳一つか二つ分程度のスペースを開けて座ると、妃菜が不満げな半目を向けてきた。

 

「この遠慮はなんなの……?」

「いや、別に遠慮とかじゃないけど」

「じゃあ、なに?」

「ほら、魔力測るときに近すぎるとおでこくっつけにくいんだよ」

 

 二人の身長が同じならそのまま顔を向き合わせれば額同士がくっつくだろうが、実際は望と妃菜では身長差がある。

 

 ある程度距離感を保って互いに少し顔を突き出すような格好にした方がやりやすいのだ。

 

(そう。なので、これは別に思春期な俺が恥ずかしがってるとかそういうことではないのだ)

 

 と、望は誰に対してかわからない言い訳を心の中で述べながら、どこか不満そうな妃菜に合理的な回答をする。

 

「ふぅん、そっか……じゃあ、早く魔力見ちゃって終わらせよう?」

 

 距離感を保っているのは魔力計測のため。

 では、魔力計測を済ませてしまえばその距離感はもう必要ない。

 

 そんなことを考えているのかいないのか、妃菜はスッと目蓋を閉じると、楚々と整った顔を投げやり気味に差し出してくる。

 

 もう何度も見ているその顔、その恰好に、望はやはり何度も胸の奥を騒がしくさせられる。

 

「ち、ちなみにさ。何で毎度のことながら目閉じるんだ……?」

 

 遠慮がちに望が聞くと、妃菜が片方の目蓋だけを器用に開いて淡紅色の瞳を向けてくる。

 

「逆に、開けてる方が良かった?」

「ど、どうだろう……」

 

 目を開けたまま額を合わせたことがないので何とも言えなかった。

 

 ただ、そうやって身長差を埋めるように少し顔を持ち上げた状態で目を閉じられると、さも別のどこかの部位を触れ合わせることを期待されているかのような想像をしてしまって、少々居たたまれなくなってしまうのだ。

 

「じゃあ、試しに……はい」

「いや、別に試したかったワケじゃ……」

「どうぞ?」

「……はい」

 

 余計なことを言わなければよかった、と微かな後悔を抱きながら、望は諦めて顔を近付けていく。

 

 パッチリ開いているわけではない。

 半開きにされた淡紅色の瞳が、静かにこちらを見つめてきている。

 

 二人の顔が近付くにつれて望は妃菜の瞳に映る自分の顔を、妃菜は望の瞳に映る自分の顔を認識し、やがて互いの瞳孔が大きく開くのを見たとき、額が重なる。

 

 

――――――――――――――――――――

【月ヶ瀬妃菜】

魔力量上限値:30

白魔力量  :14

黒魔力量  :4

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆・

・・・・・・・・・・・■■■■

※白魔力:☆ 黒魔力:■ 枯渇:・

――――――――――――――――――――

 

 

「……な、なるほど」

「どうだった……?」

「えっと……黒魔力は変化なくて、白魔力は戦う前より四消耗してるな」

 

 顔が熱いのは風呂上がりのせいなのか、それとも恥ずかしさのせいなのか。

 

 望はそんな疑問に答えを出すことはせず、顔を離すと視線をどこかへ泳がせながらそう答えた。

 

「そっかぁ……って、そうじゃなくて」

「何だよ」

「目、開けたまました感想は?」

「あぁ……気まずかった、かな?」

「求めてた感想じゃない……」

「何をおっしゃっているのかボクにはサッパリですな」

 

 拗ねて睨んでくる妃菜の前で、望はわざとらしく肩を竦めて首を横に振って見せる。

 

 すると、妃菜は面白くなさそうにぷくぅ、と頬を膨らませて膝を折り畳み、ソファーの上で体育座りをした。

 

「はーい、今ので黒魔力が一つ増えましたー」

「……ごめんって」

 

 恐らく冗談だろうが、それを言われてしまっては望としては強く出られなくなる。

 

 魔法少女の妃菜が御使いの望に繰り出せる、効果バツグンの一撃だ。

 

 望は妃菜のご機嫌を取るように手を伸ばし、風呂を出てから無造作に下ろされている白いセミロングの髪を撫でた。

 

「って、おい。まだ乾ききってないんですが」

「大体乾いてるからいいよ?」

「なワケあるか。ちょっと待ってろ」

 

 妃菜の髪の裏側に湿り気を感じた望は、一旦ソファーを立って洗面所へ向かい、ヘアドライヤーとブラシを手に戻ってくる。

 

 手近なコンセントにプラグを刺し、右手にドライヤーを持って再び妃菜の隣に座った。

 

「妃菜、後ろ向いて」

「んー」

「ちょ、おい……」

 

 望は後ろを向くよう指示しただけなのに、妃菜は背中を向けるとそのままリクライニングシートに座っているかのようにもたれ掛かってきた。

 

 ちょうど望が妃菜の方を向くために左脚をソファーに上げていたこともあり、滑り込んだ妃菜の身体がぴったりフィットしていて納まりが良さそうである。

 

「乾かしにくいんだが……」

「このままで乾かさなくてもいいよ?」

「ったく……」

 

 妃菜としては髪を乾かしてもらうことより、このすっぽり納まっている状況を優先したいらしい。

 

 望は呆れながらもドライヤーのスイッチを入れて温風を出す。

 

 サラサラ、ふわふわと揺れる妃菜の白髪に手櫛を通しながら、乾きの甘い箇所へ重点的に温風を当てていく。

 

 今度こそしっかり湿り気が取れたのを確認し、熱を帯びた髪の毛に冷風を当てて冷ましていく。

 

 ドライヤーを当て終えるとヘアブラシに持ち替えて、毛が細くて柔らかい妃菜の髪を撫でるように整える。

 

「痛くないか?」

「うん、気持ちいいよ……」

「さいですか」

「私、望くんにこうやってお世話されてると、凄く落ち着く……」

 

 その言葉に望は返って胸の奥がざわつくが、妃菜が後ろを向いているとはいえ動揺は口元をキュッと噤む程度に抑える。

 

「……さいですか」

「さいでーす」

 

 望の心の内など露知らず、妃菜はされるがままに心地良く目を細めてとろけていた――――

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