家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~ 作:水瓶シロン
「と、取り敢えず……ハグ、しよ……?」
「……はい?」
ソファーに並んで座る妃菜。
恥ずかしそうにしながらも、目の前で両腕を広げてこちらを受け入れる準備は出来ているとでも言いたげな姿に、望は呆然としてしまった。
(よ、よし。状況を整理しよう……!)
望はその英志院学園で特待生を死守してきた比較的優秀な頭脳をフル回転させる。
まず望は妃菜の記憶を夢に見た。
それは御使いとして魔法少女である妃菜と魔力パスが繋がっているだからだという。
(魔力を生み出すのは感情で、その感情を発生させたのはその生物の経験だから、魔力を介して相手の記憶情報が流れ込んでくることがあるんだよな。なるほど)
そこまではわかる。
どういう原理かはマジカルすぎて理解不能だが、少なくとも理屈はわかった。
で、だ。
魔力パスに関連して、今後のために魔法少女として戦う妃菜を遠距離から魔力補助出来るようになる必要がある。
だから、その特訓が必要。
ゆえに、取り敢えずハグをする。
(……うん、ぜんっぜんわからん!)
所詮は人の子の頭脳。
人知を超越したマジカルでミラクルな世界の住人のお考えを推し量ろうとするのは、思い上がりも甚だしいことだったようだ。
「望くん……?」
「ちょ、ちょっと待とうか」
「あ……」
望が広げられた妃菜の腕に触れて下ろさせると、妃菜が目を伏せて力なく微笑んだ。
「イヤ、だったかな……」
「違う違う。全然嫌じゃないけど、そうじゃなくてさ」
不安げに向けられる妃菜の視線の先で、望が気恥ずかしさを誤魔化すように人差し指で頬を掻く。
「遠隔で魔力補助出来るようになるための特訓の話から、どうしてハグになったのかなぁと思って……」
「それは、ハグが特訓になるからだよ?」
「悪い。そこの関連性が見えないんだが」
「ああ、えっとね……」
妃菜が少し照れた様子を見せながらも、手頃な位置にあった望の手を取って握った。
突然のことに望はドキッとしてしまうが、恐らく説明に必要なことなのだろうと思って指摘することはしなかった。
「知っての通り、契約を結んだ私と望くんの間には魔力パスが繋がってるの。でも、それは目で見えるものじゃないから、妖精や魔法少女じゃない普通の人にはとても知覚しづらいものなんだよね」
妃菜は握った望の手を持ち上げてみせる。
「だから、今はこうやって私との繋がりを物理的に感じることで、望くんは私に魔力を送ることが出来るの」
「あー、なるほど? もうBluetoothのペアリングが済んでるから無線でやり取り出来るはずだけど、俺がその電波を見付けられてないから今は有線で繋ぐしかない……みたいな?」
「そうそう」
身近な技術に言い換えた望の例えは正しかったようで、妃菜はコクコクと頭を縦に振る。
「でも、それがどうしてハグに?」
「うぅんと、実は凄く安直な方法なんだけど……まずは密着状態で望くんに私を感じてもらって、そこから段々距離を取っていって、最終的に完全に離れても私との繋がりを知覚出来るようにしようっていう……」
離れていても自分を感じてもらう。
捉えようによっては物凄く恥ずかしいことを言っている自覚を得たのか、妃菜は徐々に顔を赤くしていきながら声量を尻すぼみにして説明した。
しかし、それもこれも御使いが魔法少女をサポートするために必要なこと。
あくまで望の特訓のためであって他意はない、と妃菜は自分に言い聞かせていた。
「方法は理解出来たが、それなら現状手を繋いだ状態で魔力補助出来てるんだから、その辺りの距離感から始めれば良いんじゃないか?」
望としては純粋な指摘のつもりだったが、妃菜はどこか不満そうに目を細めた。
「……そんなに私とハグするのが嫌なんだ?」
「ち、違うって言いましたよねっ!?」
「そうかなぁ……?」
じぃ、と納得していなさそうに半目で見詰められるので、望はバツが悪そうに白状した。
「な、何と言うか……嫌ではないけど、ちょっと恥ずい……」
これまで妃菜には何度もドギマギさせられてきたが、その度に平然を取り繕ってきた望。
妃菜からすれば、自分が何をしても気にも留めていなさそうに見えていた望が、こうしてあからさまに照れている姿を見るのは意外で、珍しかった。
そして、それが嬉しかった。
「……ふふっ、望くんは私のことなんて何とも思ってないんだと思ってた」
嬉しさを隠し切れない妃菜は口角を緩ませながら、赤面して逸らす望の顔を覗き込む。
「そ、そんなことはない。俺だって一応男子なワケで……流石に同級生の女子と――それも妃菜みたいな可愛い奴とハグするのは、緊張する……」
少し慣れてはきたとはいえ、今でも毎日魔力を測定するために額を重ねるときには密かに鼓動が早くなる。
それを妃菜にバレないようにしているだけ。
「そ、そっか……まぁ、この儚げで可愛い見た目の女の子とハグするのは、思春期の男の子にはちょっと刺激が強いよね」
ふふん、と自分が唯一誇れる点で自信を見せる妃菜だったが、望は呆れたようにため息をついた。
「はぁ……あのなぁ、俺が可愛いって言ったのは別にお前の容姿に限った話じゃなくて、それ以外も……」
中途半端にそこまで言って、望は口を閉じた。
「やっぱ何でもないです」
「え、えぇ……?」
耳を傾けていた妃菜は続きが聞けなくて不完全燃焼な様子。
(あ、危ねぇ……つい気恥ずかしい雰囲気に当てられて、更に恥ずかしいことを口走るところだった……)
コホン、と望は気を取り直すように咳払い。
「ま、まぁ、ともかくだ。妃菜が必要だって言うなら必要なんだろ」
すぅ、はぁ……。
望は高まり続ける心拍数を抑えられない代わりに、せめて呼吸と精神だけでも整えようと深呼吸。
覚悟を決めて、真っ直ぐに妃菜を見据える。
「ど、どうぞ……!」
「うぅん、何だかモヤモヤするけど……じゃあ、失礼します……」
次の瞬間、スッ……と自分のものとは違う体温を胸に感じた――――
次回、本格的にギュッとしたりスリスリしたりします!(?)
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作者が魔力を滾らせて喜びますので!
ではっ!