家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第35話 宿敵、襲来……!

「ふっ、はぁっ!」

 

 黒魔力の源泉と化した河川敷。

 五発の魔力砲撃で八割以上のシャドウを消し飛ばした妃菜は、その残党掃討をしていたのだが…………

 

「っ、キリがない……!」

 

 魔力というマジカルな概念であるもののエネルギーであることに変わりはなく、その量は無限ではない。

 

 初手の砲撃によってあれほどの数のシャドウを打ち払ったため、黒魔力もそれ相応に少なくなっていていいはずだが、今もなお黒魔力は溢れ続けシャドウを生み出し続けている。

 

 妃菜が長杖を横薙ぎに払って一体のシャドウを斬り飛ばしても、その間に新たなシャドウが一体、二体……と姿を現す。

 

 堤防の上から戦況を見守っていた望も、このままではジリ貧だと焦燥感を覚えていた。

 

「妃菜、もう一発デカいのいくか!?」

「ううん! 今ここにいるシャドウを消し飛ばしても、多分またウヨウヨ出てくると思う!」

 

 ズババッ!! と魔力の弾幕を放って周囲に群がっていたシャドウを払った妃菜が、右手に持った長杖の先端で川の中央に浮遊している黒い穴のようなものを指す。

 

「あの黒いのがこの辺りに黒魔力を垂れ流してるから破壊出来ればいいんだけど、近付こうとすると――」

 

 実際に妃菜が地面を蹴り出して真っ直ぐ川に向かって駆けていこうとすると、その行く手を物量で阻むように大量のシャドウが湧き出してきた。

 

 それらを前に、妃菜も足を止めざるを得ない。

 

「――こうなっちゃう……!」

「……なるほどな。でも妃菜、そう悲観することはなさそうだぞ」

 

 望は堤防の上でニヤリと口角を持ち上げる。

 

「こんなに慌てて守ろうとするんだ。アレが今回の騒動の中核ですって言ってるようなものだろ? キリがない戦いに思えたが、キリはある!」

「で、でも結局攻撃が通らないんじゃ……」

「なら、通るようにしてもらおう!」

 

 望は河川敷に立つ妃菜へ向けていた視線を大きく上げる。

 

 住宅街の屋根を足場にする者。

 堤防を疾走してくる者。

 大きな跳躍でさも空を飛んできているかのような者。

 

 登場の方法は様々だが、ようやく増援の魔法少女達が集い始めた。

 

 望は大きく息を吸うと、口元に両手を当てて拡声器のようにし――――

 

「川の真ん中に行く道を塞いでるシャドウをぶっ飛ばしてくれぇえええ!!」

 

 げほっ、げほっ……と、慣れない大声に喉が悲鳴を上げたが、その甲斐あって駆けつけた魔法少女達に声が届いたらしい。

 

 それぞれ御使いから魔力を送られた魔法少女達が、手を、杖を、剣を、弓を、銃を構える。

 

 そして――――

 

 流石に各々の一撃の火力は圧倒的な魔力量を誇る妃菜には及ばないが、妃菜の行く手を遮っていたシャドウを一掃するには充分だった。

 

 開けた道。

 すぐにシャドウが地面から生えてくる気配を感じるが、この一瞬のチャンスを妃菜は逃さない。

 

 蹴り出した地面を抉り、身体の輪郭が霞む勢いで真っ直ぐ疾走。川岸で跳躍し、宙に浮かぶ黒い穴に肉薄。

 

 これほどの数のシャドウを生み出すほどの量と密度を誇る黒魔力の塊は、通常攻撃で破壊することはもちろん、初手の砲撃でも消し飛ばすことは叶わなかった。

 

「なら、ゼロ距離から叩き込むっ……!!」

 

 堤防に立つ望とは距離が離れすぎていて魔力補助は受けられないが、自身の魔力だけでも大技二、三発分くらいは賄える。

 

(消耗した魔力は、家に帰ってから望くんにお世話してもらって回復させればノープロブレムだしねっ……!)

 

 黒い穴に突き立てた長杖。

 その先端に大きな魔法陣を展開し、白魔力を集束、圧縮させる。

 

 周囲の黒魔力が防衛反応を起こすようにして、幾本もの人型の手を伸ばしてくるが――その指先が妃菜の身体に触れる一瞬前に、景色が白熱した。

 

 カッ――――

 

「終わりだよっ!!」

 

 ズパァァアアアアアアアアアアアンッ!!

 

 黒い穴は数秒の間、ゼロ距離から射出される極太レーザーの如き白魔力の奔流を十字に弾いていたが、次第に受けきれなくなって白光に呑まれ、どす黒い輪郭を曖昧にし、やがて完全に消滅した。

 

 貫通した白魔力の奔流は宙を斜めに駆け抜けて、遠くの雲に穴を開けた。

 

 それに伴ってシャドウの発生は止まり、既に生み出されていたシャドウも駆けつけてきた他の魔法少女達の手によって掃討された。

 

「お疲れ、妃菜」

 

 望は堤防から階段を降り、河川敷で待っていた妃菜の隣に立って労いの言葉を掛けた。

 

「あはは、今回は流石に少し疲れたかも」

「だよな。家に帰ったらしっかり休もう」

 

 望が優しく笑いかけてくれるので妃菜も嬉しくなりながら、ちょっぴり今回頑張ったご褒美的なモノをねだりたいと欲が出てしまう。

 

「う、うん。あとね、結構魔力消耗しちゃったから……家に帰ったら、ちょっと回復するのに協力してくれると嬉しいなぁって……」

 

 横髪をクルクルと指で巻き取って弄びながらそう言ってくる妃菜に、望は気の抜けたような笑みを浮かべて肩を竦める。

 

「ま、最後魔力補助出来なかったのは俺の未熟さゆえだしな。その分のアフターケアはさせていただきますよ」

「ふふっ、ありがと……」

 

 淡く笑った妃菜がキュッと望の服の裾を摘まんだ。

 

 他の魔法少女らも一件落着ムードで、どこか拍子抜けだとすら感じている様子だった。

 

 しかし、平穏を取り戻して凪いだ水面に石を投げ入れて波紋を起こすような声が掛けられた。

 

「はいはい、お疲れお疲れぇ~」

 

 声のした方向を辿って皆が堤防へ視線を向けると、斜面に腰を下ろしてパチパチと適当に拍手をしている男の姿がった。

 

 中肉でやや低い背丈。

 癖のある赤褐色の髪の毛は男にしては長く伸ばされており、着込む黒い装束はただ者ではない雰囲気を醸し出していた。

 

(アイツ、どこかで見たことが……)

 

 男の姿に心当たりを覚えた望が眉を顰める。

 

 地元に帰ってきてから約一年。

 出会った人間はそう多くない。

 学校関係者か、近所の住人か。

 

(……いや、違う!)

 

 自分の記憶の中にはない。

 夢で見た妃菜の記憶にこそいた人物だ。

 

 十人近くもの魔法少女を返り討ちにし、戦いの末に妃菜の妹を連れ去った張本人。

 

「悪の組織の幹部っ……!」

 

 怒気を孕んだ静かな声に望が隣を見ると、妃菜が淡紅色の瞳を鋭く細めて堤防に座る男を睨んでいた。

 

 そして――――

 

「どこ……由菜はどこっ……どこへやったぁあああっ!?」

 

 妃菜が叫ぶと同時、突き出された長杖の先端から一つ時の魔力のレーザーが放たれた。

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