家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第44話 色んな変身で悩殺しようとしないでください

「じゃ、じゃあ試着してみるから……望くんはここにいてね? 勝手にどっか行ったらやだよ?」

「わかってるって」

 

 確かに、女性向けのアパレルショップ内に男子一人ポツンと残されるのはそれなりに居たたまれないが、だからと言って妃菜を置いていくことはしない。

 

(そんな、かくれんぼで鬼一人だけ残してみんなで帰るイジメじゃあるまいし)

 

 妃菜が「ちょっと待っててね」と言って更衣室のカーテンを閉めたので、望は正面に置かれていた丸椅子に腰を下ろして待つことにする。

 

「…………」

 

 ジロジロと店内を見渡す勇気はないので、呆然と妃菜が入っている更衣室のカーテンを見つめていたのだが、

 

(こ、この布一枚向こう側で妃菜が着替えてんだよな……)

 

 意識していなかったそんな事実に気付いてしまった途端、少し身体が熱くなった。

 

 もちろん隙間なくカーテンは閉まっているので中の様子は見えないが、人が動いている気配は確かに感じるし、身体のどこかがカーテンに当って揺れるたびに心臓がドキッとする。

 

(って、思春期入りたての中学生か俺は……!?)

 

 ふぅ、と息を吐いて気を取り直していたタイミングで、カーテンが横に寄せられた。

 

 望が目を向けると、服装を一新した妃菜が気恥ずかしそうに視線を泳がせて立っている姿があった。

 

「ど、どうかな……?」

「おっ、おぉ……」

 

 襟の大きな白いブラウスに、黒いハイウエストのスカート。スカートは上太腿辺りまでの短い丈で、白くてしなやかなおみ足を惜しげもなく晒している。カジュアルでガーリーな雰囲気のコーデだった。

 

(妃菜の美少女っぷりを存分に発揮した可愛い系のファッションでめっちゃいいじゃないですかっ! それに――)

 

 望はついついスカートの下から伸びる生足に視線を下げてしまいそうになるが、そこを何とか理性で視線を逸らしていく。

 

「良くお似合いです……」

「な、謎の敬語だね……!?」

 

 真っ直ぐ見てこないうえに突然の敬語と、妃菜は望の本心ではないのではないかと少し不安になって眉を下げる。

 

「ホントに似合ってる……?」

「に、似合ってるって」

「ちゃんと見て言ってほしいなぁ」

「っ、はぁ……」

 

 望は心を落ち着かせるように息を吐くと、少し赤らんだ顔を妃菜に向けた。

 

「か、かなり……可愛いと思うぞ」

「そっ、そぉ……? そっか……」

「…………」

「…………」

 

 二人の間に気恥ずかしい沈黙が流れ、居たたまれなくなった妃菜が「じゃあ次……!」と隠れるようにカーテンを閉めた。

 

 望がしばし平静を取り戻すための猶予を噛み締めていると、再びカーテンが開かれた。

 

「こういうのは、どうかな?」

 

 一見可愛らしく清楚な白いワンピースに、少しダメージの入ったデニムのアウターを羽織った格好。可愛さとカッコ良さが相乗効果を生む甘辛いコーデだった。

 

 望はグッと親指を立ててみせる。

 

「……最高です」

「ふふっ。じゃ、じゃあ次は――」

 

 まだ試すんかい、と望が言う前にカーテンが閉められゴソゴソと更衣室の中で妃菜が着替える。

 

 その後、タイトなパンツスタイルや、肩出しのニット姿などと変身を繰り返しては、妃菜は望の反応を見て喜んでいた。

 

 しかし、順調に進んでいた変身も少し問題が出たようで…………

 

「……の、望くん」

「ん?」

 

 カーテンの脇からチラリと顔を覗かせた妃菜が遠慮がちに呼んで、手招きしてくる。

 

「どした?」

「ちょ、ちょっと手伝ってほしくて……」

 

 望が更衣室の前に来ると、妃菜はカーテンを半分ほど開けて背を向けた。

 

「ここのホック留めてほしいんだけど」

 

 繊細な白いレース生地のトップス。

 妃菜が背中に流れる髪を持ち上げるようにして分けた合間から見える後ろ首のところには、確かに一つ小さな金具がついていた。

 

 そこが留まっていないせいでペロンと服が捲れており、細い首と鎖骨が望の視界に入る。

 

(む、無防備すぎんだろ……)

 

 ざわざわと胸の奥が騒がしくなるのを感じながらも、望は「了解」となるべく動揺を見せないように短く答えて両手を伸ばした。

 

 邪魔にならないように妃菜が髪を持ち上げてくれていたものの、二、三本後れ毛が掛かっていたので、指で掬うようにして取ると――――

 

「ひゃんっ……!?」

 

 望の指がうなじを撫でた感触に、妃菜は思わず裏返った声を溢してしまう。戸惑ったようにパチクリと瞬きを繰り返し、赤くなった顔を望に振り返らせた。

 

「へ、変な声出すな……!」

「だ、だって望くんが変な風に触るからぁ……」

「髪の毛が少し残ってたのを除けたんだよ……!」

 

 妃菜が望の指が触れた後ろ首を手で押さえながら言う。

 

「自分で触ってもなんともないのに……」

「いやまぁ、それはそういうもんだろ」

「……ここが敏感だなんて知らなかった」

「ちょっとよろしくない意味に聞こえるから黙ってようね」

 

 望は妃菜に後ろを向かせると、同じ轍を踏まないように注意しながらサクッと小さなホックを留めてみせた。

 

「はい、留まった」

「あ、ありがと……」

 

 望がとてもホック一つ留めただけとは思えない疲労感を感じていると、何気なく目をやった更衣室の鏡に、見知った少女の姿が反射して見えた。

 

 今まさに同じ店に入ってこようとしている。

 

「やべっ、スミ……!?」

 

 私立英志院学園における不動の学年成績一位にして、俊也の幼馴染にして、春休みまで一年間クラスメイトだった香澄の姿がそこにあった。

 

 三人ほど友達と思しき女子を連れており、呑気に「あの服可愛い!」などと楽し気にお決まりのサイドテールを揺らしながら入店。

 

 念のため鏡越しではなく振り返って確認してみるが、見間違いなどではなかった。

 

「スミって、あぁ……前に望くんが学校の廊下で押し倒してた……」

「言い方に悪意を感じるがソイツだ……!」

 

 ワントーン声を低くする妃菜に答えながら咄嗟に身を屈めて商品棚に身体を隠すが、香澄が店内を巡って来たらすぐに見付かる。

 

(ど、どうする!? 妃菜と一緒にいるところを見られるのはマズイ! 春休みに二人きりでとか勘違いしか生まないぞ……!?)

 

 香澄に見られるのはまだいい。

 友人だし、口止めすれば周囲に言い触らしたりもしないだろう。

 

 だが、一緒にいる三人の女子は別だ。

 見知った顔もあるので三人とも同じ英志院の生徒で間違いなく、その三つの口を完璧に封じることは出来ないだろう。

 

 噂が学園内で一気に広まるのが目に見える。

 

(取り敢えず妃菜は更衣室の中に隠して――って、じゃあ何で男の俺がこの店に一人でいるんだってなるだろ、勘弁してくれ!?)

 

 焦る頭で必死に打開策を考えているうちに、香澄ら四人は一歩また一歩とこちらに近付いてきて――――

 

「望くん、入って……!」

「え、ちょ――」

 

 妃菜に腕を引かれ、望は躓きそうになりながら更衣室の中へ。

 

 背中にカーテンの閉まる音を聞き、気付いたときには二人で入るにはやや手狭なスペースで密着して向かい合っていた――――

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