家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第45話 魔法少女が心の平穏を守ってくれません

「……っ」

「う、動いちゃダメだよ……?」

 

 二人では少々手狭な更衣室の中。

 引っ張り込まれる際に掴まれた望の右腕は、そのまま妃菜が胸に抱き締めている。

 

 予期せぬ香澄らの入店。

 学園で美少女として人気を誇る妃菜と春休みに二人きりで出掛けていたなんて場面を見られれば、確実に平穏な新学期を迎えられなくなる。

 

 ゆえに見付かるわけにはいかず咄嗟のことではあった。ことではあった、が…………

 

(も、もろに当たってる……)

 

 見付かるか、見付からないか――その緊張感で身体が強張っていて無意識なのだろうが、妃菜が強く望の右腕を抱き締めている結果、決して小さくない双丘の弾力がありありと伝わってくる。

 

(ってか、その服で余計に強調されてて目のやり場に困るんだが……)

 

 タイトなハイウエストスカートが透け感のある白いレース生地のトップスを胸の下でキュッと絞っているせいで、凹凸の高低差が生まれていつもはそう意識しない胸の膨らみに目線が吸い寄せられてしまう。

 

 おまけに白い生地が薄っすらと黒い上の下着の形を透けさせてしまっていることもあって、更に理性への負荷が大きい。

 

「ひ、妃菜。そんなにくっつかなくても大丈夫じゃないか……?」

 

 更衣室と外界を隔てるものはカーテン一枚。万一にも香澄らに聞こえないように潜め声で望が言う。

 

 やはり気付いていなかったようだ。

 妃菜は自分の胸が望の腕にギュッと押し当っているのを見て、慌てて抱き締めていた力を緩めた。

 

「あっ、ゴメン。つい……」

 

 妃菜があからさまに顔を赤くして恥ずかしがるので、望もつられて居たたまれない気分になってしまった。

 

 手狭な空間だからこそなおのこと気まずいが、そうこうしているうちに香澄達が近くまで来たようで、その会話が鮮明に聞こえてくる。

 

「これとか香澄似合いそう~」

「ん、どれどれ……って、ちょぉっと私には可愛すぎるような気がするんだけど!?」

 

 連れの女子が「そんなことないって」と背を押すように言ってくれるが、香澄はあまり乗り気でないように唸る。

 

「いやぁ……こんなに可愛いの買っても、別に見せる相手がいるわけじゃないしなぁ~」

「えぇ、うっそだぁ。そんなこと言って、服部くんとか御守くんとかと仲良くしてるくせにぃ~」

 

 まさかこんなところで自分の名前を聞くとは思わず、望は少しビクッとした。妃菜はカーテンの隙間からこっそり様子を覗き見ているようだ。

 

「えぇー、ミモリンはともかく俊也は別に仲良くなーい」

 

 ここでも扱いが酷い俊也に、望は涙――否、哀れみの笑みが禁じ得ない。

 

「んじゃあ、御守くんに見せて『可愛いぜ』って言ってもらえば~?」

「ぶっ、あはははは! ミモリンが『可愛いぜ』とか言わないってぇ、キャラじゃないも~ん!」

 

 香澄はしばらく可笑しそうに笑ってから息を整える。

 

「でもまぁ、アレだねぇ。これを私が着て見せたらミモリンの純情を弄ぶ罪な女になっちゃうから、やっぱやめとこ~」

 

(はい? 誰が誰の純情を弄べるってぇ?)

 

 わけがわからない、と更衣室の中で曖昧な表情を浮かべていた望に、妃菜は少し不服そうに張り合うような視線を向けていた。

 

「望くんの純情は私が守るもん」

「あ、アイツが勝手に言ってるだけだから……」

 

 確かに香澄もなかなかに距離感が近くて戸惑うことはあるが、それで言えば妃菜も大概だ。

 

 純情を弄んでいるかどうかはともかく、私生活も共にしている分、動揺させられる機会が多いのはむしろ妃菜の方であった。

 

「他も見てみよ~?」

「おっけー!」

 

 どうやら香澄達は店を出ていったらしく、遠ざかっていった話し声もすぐに聞こえなくなった。

 

「……い、行ったか?」

「う、うん。もう大丈夫そう」

 

 念のため妃菜にカーテンの隙間から見てもらい、確実に姿がなくなっていることを確認。

 

 ふぅ、と望の口から安堵の息が吐き出される。

 

「じゃあ、取り敢えず出るか」

「あ、待って? その前に……」

 

 妃菜がカーテンを開けようとする望の手を取って、ギュッと握りながら上目遣いで見詰めた。

 

「わ、私は……望くんに見せたくて、服選んでるんだよ……?」

「……っ!?」

 

 先程香澄が『見せる相手がいるわけじゃないしねぇ』と言っていたからこその発言だろう。

 

 望は否応なしに早くなる鼓動を抑え込もうとするように、自分に言い聞かせる。

 

(た、他意はないっ……あくまで、俺を喜ばせて白魔力を回復させようとしてくれてるだけだぞ……!?)

 

 少し顔を熱くしながら、望はジッと半目を作った。

 

「あ、あのなぁ、妃菜さんや。あんまりそうやって勘違いさせるようなことを言うもんじゃないですよ……?」

「望くんは、勘違いしちゃうの……?」

「いやまぁ、しないけどさ……」

 

 望はポリポリと頬を指で掻く。

 

「とはいえ多少はドキッとするので、魔法少女なら俺の心の平穏も守ってほしいというか……」

 

 そう伝えると、妃菜はクスッと笑って悪戯っぽく目を細めた。

 

「うぅん、私はちょっと街の平穏を守るので精一杯だから、これからも望くんの心には犠牲になってもらわないと……かな」

「そんな殺生な……」

「何かを守るということは、何かを守らないということなんだよ、望くん……」

「魔法少女の言葉の重みが凄いけど、絶対使いどころ間違ってるのよ」

 

 呆れ半分で困ったように望が指摘しても、妃菜はくつくつと楽しげに笑うだけだった――――

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