家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第48話 どうやらまだまだ一緒にいさせてくれるつもりらしい

 その日の夜。

 タケノコご飯を炊いて出汁の香りが広がるキッチンに、妃菜がてこてことやって来た。ひょっこり顔を覗かせて、夕食の支度を進めている望を見つめる。

 

「じぃ~」

「その効果音は漫画家さんが妃菜のコマの隣に描いてくれるから、セルフで言わなくて良いんだぞ」

 

 学校が終わり、昼を一緒に食べた俊也や香澄と別れて帰宅するなり、妃菜は皆から求められる美少女像を演じる仮面の象徴とも言える制服を脱ぎ去り、部屋着にしている黒い長袖Tシャツを纏っていた。

 

 オーバーサイズで丈が余ってるのを良いことに、春に入ってからは大体コレ一枚。日々洗濯して服を畳んでいる望は、他に白色と灰色のカラーバリエーションがあることも知っている。

 

 私生活ではとことんずぼらな妃菜にとって、それ一枚すぽっと袖を通しておけば一応服を着ている(てい)が成せるモノはベストマッチなのだろう。

 

 まだ寒い頃は、起毛生地の服だったり、ニットや厚手のパーカーを着たうえで冷える脚をタイツでカバーするなどの工夫を見せていた。

 しかし、暖かくなってからはタイツも履かなくなり、今では眩しいおみ足が上太腿辺りまで存分に晒されている姿が日常と化している。

 

 それゆえ、家で妃菜と近くにいる際に目のやり場に困るというのが、最近の望の悩み。

 

 だが、そんな望の心情など知る由もない妃菜には今、別の悩みがあるようで…………

 

「望くんは、気にならないの?」

「ん~、何を?」

「ほら、今日香澄ちゃんが言ってたでしょ……? その……私の、家のこと……」

 

 尻すぼみに言いながら、妃菜は望の様子を窺うようにチラッと視線を向ける。

 

 月ヶ瀬家の事情は知っても決して面白いものではないし、積極的に他人に話すようなことでもない。妃菜自身も語りたいか語りたくないかで言えば、素直に後者になる。

 

 とはいえ、だ。

 その話題に触れようとする素振りすら見られないというのは、妃菜の乙女心的には少々複雑であった。

 

(もしかして、望くんってあんまり私に興味ないの、かな……?)

 

 頭ではわかっている。

 望はいつも自分のことを一番に考えてくれていて、日常での身の回りの世話も、御使いとしての役目もきちんと果たしてくれている。

 

 でも、感情が意図に反して不安にさせてくる。寂しくさせてくる。

 

 だから、妃菜は今自分が面倒な女になっていることを自覚しながらも、望がどう思っているのかを聞かずにはいられなかった。

 

「ん~」

 

 望はアスパラやスナップエンドウを薄切りの豚バラ肉でクルクルと巻いたものをフライパンに並べて焼き、その火の通り具合を目で確認しながら答えた。

 

「そりゃ、他でもない妃菜のことだからな。気にはなってるよ」

「っ、そ……そうなんだ……」

 

 望からしてみればただ思ったことを素直にサラッと口にしただけだったが、それが妃菜にとっては嬉しくて、仄かに赤らめた顔に垂れる横髪を掴んで寄せた。

 

 望なら妃菜を気遣って必要な言葉を送ることも出来るだろう。そんな優しさに妃菜は何度も救われてきた。

 

 ただ、こうして思惑など何もない本心が何気なく口にされた答えが、偶然にも心のどこかで自分が求めていたものだったときに身体の底から込み上げくる嬉しさは、やはり他では得られないもの。

 

 ついニヤけてしまいそうになっている妃菜に気付かず、望は料理している手元に目線を向けたまま言う。

 

「俺はまだ、妃菜のことを全然知らないと思う。もちろん妃菜が魔法少女やってることとか、妹のこととか、生活力が皆無なこととかわかったことも多いけど、こうして関わるようになってまだ二ヶ月も経ってない。やっぱり知らないことが多すぎて、まだまだ俺の目には妃菜がマジカルでミラクルなだけじゃないミステリアスな存在に見えるよ」

 

 ジュゥ~、と焼けるいい音を奏でる豚バラ巻きを、望が菜箸で転がしていく。その度に見えていなかった焼け目が上を向く。

 

 「だからこそって言えばいいのかな。妃菜のことなら何でも知りたいと思ってて、その分聞きたいことも沢山ある。けど、それは今じゃなくてもいい。明日でも、明後日でも、更にその先になったって構わない」

 

 望は顔を上げて、妃菜の方を向いた。

 惚けるようにこちらを向くその顔に、少し照れ臭く笑う。

 

「時間はまだこれから沢山ある。まぁ、俺が妃菜の御使いである限り、この家に住まわせてもらえる限りっていう制限付きではあるけど……少なくともそれまでの間は、少しずつ知らなかったことを知っていければ良いなって思ってるかな」

「望くん……」

 

 妃菜はしばらく望を見つめた状態で突っ立っていたが、ふっと柔らかく微笑むと、一歩一歩ゆっくりとした足取りで望の傍まで近付き、その頭を傾けて額を望の肩に触れさせた。

 

「ふふっ、じゃあ時間はたっぷりあるね」

「たっぷりあってくれると嬉しいな。仕事もあるし、住む場所の心配もないし、生活費も安上がりだし」

「もぉう、そういうことじゃないでしょ」

 

 望くんは時々イジワルだよ、と呟いて妃菜がコツンと額を打ちつけてくる。

 

「ごめんて」

「むぅ……」

「これで許せ」

 

 望は良い焼き加減の豚バラ巻きを一つ取り出すと、一口大にカットしてから指で摘まんで妃菜に差し出した。

 

 すると、不満を訴えるように頬を膨らましていた妃菜が、しょうがないなと言わんばかりに小さな口を開けてパクッと食べた。

 

 柔らかな唇が指先に触れてドキッとする望の視線の先で、妃菜がモグモグと咀嚼を繰り返してから飲み込んだ。

 

 淡紅色の瞳を半開きにして、身長差分見上げてくる。

 

「……許す」

「助かる」

 

 数秒互いに見合ってから、可笑しさが込み上げてきて二人でクスッっと一笑を溢した。

 

 妃菜はカットされた豚バラ巻きの片割れに視線を移すと、今度はそれを自分が摘まんで望の口元に運ぶ。

 

「私のこと、もっと沢山知っていってね?」

 

 悪戯っぽさもありながら、どこか儚くもある。そんな淡い微笑みを浮かべる妃菜が差し出してくるモノを見て少し気恥ずかしくなってしまいながらも、さっき自分もやったことなので逃げるわけにもいかない。

 

「少しずつ、な」

 

 味見をするつもりだったのに、唇に触れた華奢な妃菜の指先の感触が邪魔をした――――

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