家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第49話 とはいえ、やっぱり一度は技名言うところも見てみたい

 始業式から数えて初めての休日。

 

 望は相も変わらず朝に一人では目を覚まさない妃菜を昼前に起こし、ブランチと言えば多少は格好のつく遅めの朝食を用意。

 昼からは休み明けに提出の課題をサクッと終わらせ、自分で購入した参考書や問題集を使って自主的に勉強を進めた。

 

 そして、それらに一区切りをつけた今は、リビングソファーにゆったりと腰を落ち着けてスマホ片手にくつろいでいる。隣には妃菜。

 

「望くん、何見てるの~?」

「ん~? マンガ~」

「どんな?」

「異世界ファンタジー。冒険者になって戦う感じの」

 

 妃菜がピタッと肩を触れ合わせて隣から覗き込んでくるので、望は少しスマホを寄せて二人で画面を見やすい位置に持っていく。

 

 画面には主人公がモンスターに手をかざして魔法をぶっ放しているシーンが映っていた。

 

「……妃菜もこんな風に戦ってみたら?」

「えっと……『ファイア・アロー!』みたいな?」

 

 ちょうど映っていたシーンを見様見真似で再現してくれる妃菜に、望は少し笑ってしまいながらも「そうそう」と頷いた。

 

「通常攻撃はともかく、妃菜の場合大技も色々あるだろ? 極太のビーム放つやつとか、砲弾ぶちかますやつとか、大量の光の欠片を降らせるやつとか……それぞれに技名とかないのかなって思って」

 

 バトルものの漫画やアニメでは、もはや技名を叫ぶのは一種の様式美となっている。それが特に戦況を決定づける一打となるような大技に小洒落た名前がついていると、一層厨二心が擽られるというもの。

 

 果たしてその感覚は現実にも適用されるのか、それともやはり現実で技名を叫ぶと見ていられないことになるのか……望は少し気になってしまっていた。

 

「そ、そうだね。私は攻撃に名前とかはつけてない、かな。つけたところで威力が上がったり魔力の消費が抑えられたりするワケじゃないしね」

 

 もしかしてつけてほしかった? と妃菜が興味深そうにチラリと上目で窺ってくるので、望は少し気恥ずかしくなりながら首を振る。

 

「あぁ、いや。そういうワケじゃないんだけど、魔法少女モノのアニメでもやっぱ技名言ったりするから現実とは違うよな~って単純に疑問に思ったというか」

「そうだねぇ。まぁ、実戦で銃を撃つときに『アサルトライフルぅ~!』って叫ばないし、『いけっ、ミサイル!』って言わないのと一緒かな」

「なるほど」

 

 納得する望の隣で、妃菜が頬に人差し指を当てながら何かを思い浮かべるように視線を天井にやった。

 

「あぁでも、確かに名前はつけてないけど、攻撃手段としての技の種類というかパターンみたいなものは作るようにしてるんだよ? さっき望くんが言ってくれた大技の三つのパターンもそれだね」

「え、それって自分で作ってるのか? てっきり魔法少女にはそれぞれ決められた技があるのかと思ってた。攻撃スキル、みたいな」

 

 これがいわゆるゲーム脳というべきか、創作の世界に脳を焼かれているがゆえの発想なのだろう。

 

 アニメでも魔法少女モノならそれぞれに固有の必殺技が、異世界ファンタジーなら魔法なりスキルなり形の定まったものが元々あって、それを習得していくパターンが多い。

 

 だが、実際の魔法少女はそうではないらしい。

 

「魔法少女に出来ることって、基本的に魔力をイメージ通りに放出することくらいなんだけど、ビームなのか弾なのか、尖ってるのか丸いのか、硬いのか柔らかいのか……それらをきちんとイメージしないと上手く形にならないの」

 

 実際にイメージしてみているのか、妃菜は両手を色々動かしながら説明してくれる。

 

「でも、そんなものを戦いの中で毎回考えて決めてたら大変だし隙が生まれちゃうでしょ? だから、あらかじめいくつか攻撃手段を自分の中で作って決めておいて『この状況ではコレ!』みたいな感じで使い分けてる人が多いよ」

 

 まさか技のパターン化にそんな合理的な理由があったとは思わず、望は素直に感嘆の息を溢していた。

 

「す、凄いな。考え抜かれてる……」

「もしかすると、そのパターンごとに技の名前をつけてる人はいるかもしれないね。その方がイメージしやすいとかで」

「妃菜は名前がなくても覚えてられるってことか」

「うん。大体『こんなヤツ』とか『あんなヤツ』で大丈夫かな」

 

 スポーツや武術に技の名前があるのは、大きな理由として自分以外の相手に教えるとき、決められた動作を表す共通言語があった方がわかりやすくて便利だからということがある。

 

 その点で言えば、妃菜は別に弟子を取っていたりするわけではないので、自分のイメージを他人に伝える必要がない。

 

 だから、言ってしまえば自分さえわかっていればそれで良いということになる。

 

 戦いの中で、自分がパターン化したいくつかの技のイメージを選択して出力することが出来るなら、それ以上何かを付け加える必要はない。

 

 ただ…………

 

「その感覚がもう少し勉強にも発揮されると良いんだけどなぁ……」

 

 望が微苦笑混じりにそう吐き出すと、妃菜は「うっ……」と居所が悪そうに目を細めた。

 

 決して妃菜はお馬鹿さんではない、世間的には。ただ、私立英志院学園という環境で見ると、やはりある一定水準以上の学力を持った生徒が集っているため、相対的に成績は真ん中から少し下辺りに落ち着いてしまっている。

 

(いや、ある意味感覚肌すぎるのが原因かもな……)

 

 望が何度か妃菜の勉強を見る中で、もちろん覚えてないから答えられない、解法がわからないから手詰まりになるということも多い。

 

 ただ、そこから更に点数を落とす要因として、いわゆる凡ミスがあまりにも多発しているのだ。

 

 少しだけ英単語のスペルが違っていたり、漢字の形を一部違って書いていたり、同じ苗字を持つ歴史上の人物とそれぞれの時代や成したことがバラバラになっていたり…………

 

 実にもったいない。

 

「の、望くんにこれからも沢山教えてもらうから……大丈夫だよ……!?」

「俺が面倒見る前提かよ」

「だ、だって……望くんが教えてくれると、いつもよりちょっと頑張れる気がするから……」

 

 自分で言ってて恥ずかしくなったのか、妃菜はじわぁ……と顔を赤く染めて、胸の前で指を絡め合わせていた。

 

 そんな姿を見てしまって、望にもその恥ずかしさが伝播する。視線の居場所を失くしながら、少し熱くなった頬を指で掻いた。

 

「まぁ、そんなことでやる気が出るなら安いもん、だな……」

「……ふふ、お得でしょ?」

 

 家事を任される者として、お得という言葉には弱い望だった――――

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