家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第57話 夜の学校って一回探検してみたかったんだよね!

「それじゃあ、早速校内を探索するってことで問題ないよな?」

 

 各人挨拶も済ませたところで、望がグッと立てた親指で裏門の向こう側を指差しながら確認を取ると、亜莉沙が腕を組んだまま肩を竦めた。

 

「ま、良いんじゃない? 入ってみないことには人体模型が動いてるのか、それとも犯人がいるのかもわかんないし」

 

 美玖と優子、そして協力する形の妃菜ももちろん相違ないらしく、それぞれ頷いてみせる。

 

「おっけー。もう誰も学校にいないと思うけど、一応慎重にな。それでは――」

 

 望は握り締めた拳を夜空に向かって突き出しながら、近所迷惑に配慮した声量で掛け声を出した。

 

「レッツ不法侵入!」

「あ、あながち間違ってないけど、それじゃあ私達が悪さしてるみたいだよ……」

 

 どうやら士気を高めるにはイマイチな掛け声だったらしく、隣で妃菜が曖昧な表情を浮かべている。信号機魔法少女三人も少し反応に困っているようだった。

 

「バレたときは、まぁ……魔法少女協会に何とかしてもらおう」

 

 これは魔法少女による最近立て続けに起こっている怪奇現象の調査でした、と協会が言ってくれればお咎めもないだろう。

 

 望は問題が起こったら人任せにする気満々で、夜の学校という少しワクワクする世界へ通じる門に手を掛けた。と言ってもきっちり施錠されているが。

 

「よっ、と」

 

 望は少しばかり助走をつけてジャンプし、閉められている門の上を掴んで身体を引っ張り上げる。足を置くことが出来れば、あとは校内に飛び降りるだけだった。

 

 そんな様子を見ていた亜莉沙が、怪しむように眉を寄せた。

 

「ちょっと、おにーさん? 身のこなしが随分手馴れているように見えるんだけど、まさか……常習犯?」

「失礼な。こんな優等生掴まえて何言ってくれちゃってんだ」

 

 望がわざとらしく格好をつけて胸を張りながら言うと、亜莉沙はさらに訝し気な表情を浮かべる。

 

「ゆーとーせー? おにーさんがぁ?」

「ふふっ、こう見えて望くんは英志院学園高等部の特待生なんだよ?」

 

 妃菜が少し可笑しそうに代わって答える。

 亜莉沙は「嘘でしょっ!?」とナイスリアクションを見せてくれた。美玖と優子も目を丸くしている。

 

「そうそう、特待生――って、ちょっと妃菜さん? こう見えてってどういうことでしょうか? 一体俺はどういう風に見られてんの?」

「えぇ~、うぅん……ほら、望くんって飄々としてるから、パッと見では凄い人なんだってわかりにくいというか……あっ、でもね」

 

 流石は魔法少女。

 軽い跳躍一つで門を飛び越えた妃菜が、望の隣に静かに着地してからクスッと笑って言った。

 

「私はもう知ってるよ? 望くんが、凄く頼りになる人だってこと」

 

 ドキッ、と望の心臓が跳ねる。

 望は気恥ずかしくなって頬を指で掻いた。

 

「急に褒められても困る……」

「ふふ」

「それなら、私も知ってますよ!」

 

 同じく門を軽く飛び越えてきた美玖が、屈託のない笑顔を望に向けて言った。

 

「だからこうして協力をお願いしたワケですしね。とっても心強いです、お兄さんがいてくれると」

 

 流石に過大評価じゃないか? と望が思っていると、妃菜がにっこり笑いながらピンと人差し指を立てて美玖に言う。

 可愛らしい笑顔のはずなのに、ちょっと怖い。

 

「望くんが頼りになるのは御使いとしてだけじゃないんだよ? 掃除洗濯炊事も完璧で家事万能だし、凄く優しくて辛くなったときはいつも癒してくれるの」

「面倒見が良い、ですよね!」

 

 美玖も負けじと妃菜に言い返す。

 

「ほとんど初対面の私達の話に親身になって耳を傾けてくれますし、包容力って言うんでしょうか……お兄さんといるととっても安心します!」

「ふ、ふふっ……美玖ちゃんもちょっとは望くんの魅力をわかってるみたいだね? まぁ、他にももっと沢山あるんだけどね?」

「流石お兄さん! 素敵ですねっ!」

「ふふふ」

「あはは」

 

 望は一歩引いたところから妃菜と美玖の間に不可視の火花が飛び散っているのを確かに感じていた。

 

(って、中学生相手に何の対抗心燃やしてるんだよ妃菜は……)

 

 バチバチしているようだが内容としてはどれも自分を褒めるようなものなので、張本人である望からすればくすぐったい以外の何物でもない。

 正直早くやめて欲しかった。

 

 

◇◆◇

 

 

 玄関含めて校舎の出入り口と言える場所はすべて閉めて鍵が掛けてあったが、それを見越していた優子が、今日下校する前に自教室の窓の鍵を一つ開けておいてくれた。

 

 中学一年生の教室が並ぶのは校舎二階。

 望も時間を掛ければ登れないこともない高さだが、今回ばかりは妃菜に抱えてジャンプしてもらった。

 

 優子のお陰で望達は皆、スムーズに夜の校舎内へ侵入することに成功した。

 

 各学年クラスは五つ。

 校舎内に入るため最初に足を踏み入れた優子の一年C組には、件の動く人体模型は立っていなかった。

 

 まだ動いていないのか、それともすでに他の教室に移動して立っているのか。

 

(さてさて、本来人体模型がある理科室を先に確認するべきか、それとも各教室を見て回るか……)

 

 望はライトをつけたスマホを片手に持ちながらC組をあとにして、薄暗い廊下に出る。

 

(これで理科室まで行って人体模型がなかったとして、そこからまた戻ってきてどこの教室に移動したか確認するのも往復で手間だしなぁ……)

 

 それなら先に教室をササッと見て回って、もう移動済みなら確認完了。まだどこにもいないのであれば、理科室に行って動く真相を確かめた方が効率的だろう。

 

 考えがまとまったところで望が指示を出す。

 

「よし、それじゃあ二人二人一人で手分けして各学年の教室を見て……って、おい。どした?」

 

 妃菜が望の右袖を、美玖が左袖、亜莉沙と優子は後ろからシャツを摘まんで身体を強張らせていた。

 

 そんな魔法少女四人の姿を見て、望はまさかと思ってぎこちなく口角を吊り上げる。

 

「あ、あのぉ、お嬢さん方? もしかして、夜の学校が怖いとか言い出しませんよね……?」

 

 ギュッ、と望の右袖を掴む妃菜の手に力が籠った。

 

「の、望くんが一緒にいてくれるから……大丈夫だよ……?」

 

 つまり望が一緒にいないと大丈夫じゃないと。

 

「えっとぉ、私もお兄さんに傍にいてもらいたいです……」

 

 美玖も右に同じく。

 

「ふ、ふんっ、私はぜんっぜん怖くないけど。怖くないけど、ここはおにーさんにエスコートさせてあげようかなって」

 

 亜莉沙も強がるのが精一杯と。

 

「っ、うぅ……も、もう帰りたいですぅ……!」

 

 優子は何をしにここへ来たんだ。

 

 望は「マジか」と天井を仰ぎ見た。

 そして、心の中で思わずにはいられない。

 

(アンタらいつもおっかないのと戦ってんじゃん……!!)

 

 シャドウや悪の組織の幹部には立ち向かえても、夜の学校の闇には立ち竦む魔法少女達であった。

 

(ちょっとワクワクしてるの、戦闘力皆無な俺だけかよ……)

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