家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~ 作:水瓶シロン
「……ふっ、最後まで私だと気付きませんでしたね。お馬鹿さん」
黒と紫を基調とする魔法少女装束に変身を果たした少女が、肩越しに振り返って薄らと笑う。望は数秒目と口を開け広げた状態で固まっていたが、すぐに仕方なさそうに破顔した。
「ったく、そういうことならもっと早く言ってくれ。通りでどっかで会ったような気がしてたんだよ……」
「加護の影響で私だとわからずに接してくる貴方、滑稽で見ていて実に面白かったですよ」
アフィスティアはそう言って顔を正面に戻すと、右手一本で軽々と大鎌を持ち上げた。
「さて、早々に片付けてしまいましょうか」
「なんやかんやで一時的に敵が協力してくれる展開だぁ……アツすぎる……!」
この状況でそんなことを言っている場合かとツッコミを受けるのは承知の上で、望は手で口元を覆って申し訳程度に冷めやぬ興奮を抑える。
「ちなみにこのままずるずると仲間になってくれたりは――」
「――するワケないでしょう、馬鹿ですか」
「ですよねぇ」
「借りを作っておくのが嫌なだけです」
「別に貸しにした覚えもないんだけどな」
「……はぁ、筋金入りのお人好し」
アフィスティアはため息交じりに呟くと、スゥ……と身体から力が抜けたように前傾になり――――
「損するタイプですね」
ザシュッ!! と大鎌を横薙ぎに一閃。
望が瞬きする間に正面の狼型シャドウに肉薄しており、三体をまとめて斬り飛ばしてしまった。
四つ足獣の輪郭が崩れ、シャドウとしての思念が消え失せ、単なる黒魔力の残滓として黒い靄になる。
「ん、消えない……?」
望は不思議そうに首を傾げる。
もう何度も妃菜がシャドウを駆除するところを見てきたが、倒されたシャドウはいつも完全に消滅していた。
しかし、こうしてアフィスティアが斬ったシャドウは、その肉片とでもいうべき黒魔力の残滓がその場に漂ったまま。
あの鋭い一撃で消滅しないのか、と望は疑問と共に目の前のシャドウの脅威度を自分の中で更に高く認識しようとした。
だが、望の疑問を察したアフィスティアがそれを否定する。
「私が振るう黒魔力の攻撃で、同じ黒魔力の集合体であるシャドウを浄化することは出来ませんよ。黒魔力を浄化出来るのは白魔力で戦う魔法少女だけですから」
「お前じゃシャドウを倒せないってことか?」
「当たらずとも遠からずですね」
アフィスティアは淡々とした語り口とは裏腹に、迫りくる人型シャドウの腕を横目に躱して通り抜け様に斬り伏せ、頭上から飛来する鳥型シャドウの突撃を見切って回し蹴りで地に落とす――と、機敏な身のこなしを見せる。
「跡形もなく完全に浄化して倒し切ることは確かに出来ません。ですが、こうしてシャドウを崩壊させて、単なるエネルギーとしての黒魔力に戻して無力化することは出来ます」
「その場に残った黒魔力はどうなるんだ?」
「放っておけばまた寄り集まってシャドウ化するでしょうね」
ダメじゃん、と望は無言のまま半目で訴えた。それが伝わったのかどうかはわからないが、アフィスティアは巧みに大鎌を操りながら後処理方法を口にする。
「まぁ、黒魔力は私がありがたく回収して持ち帰らせていただきますのでご安心を。境内は綺麗サッパリです」
「うぅむ……本当は持ち帰らせちゃダメなんだろうけど、俺にはそれを止める力がないからな。好きにしてくれ」
「えぇ。それと――」
一拍の間。
望は自分の顔がごく至近距離にある黒銀の仮面に反射したのを見た。足払いされたのだと気付いたのはあとのことで、驚く間もなく足が急に地面を見失って身体がふわりと重力を感じながら仰向けに落ちる。
「――少しは自分でも周囲を警戒してください」
アフィスティアがそう忠告した刹那、望は先程まで自分の頭があった場所で勢いよく閉じられる狼の咢を見上げた。ぶわっ、と冷汗が噴き出す。
アフィスティアは望を足払いした挙動から繋げてその場で身を一回転させ、振り返りざまの裏拳で狼型シャドウの頭部をバシャッ! と粉砕。
望は尻餅をついた状態でゴクリ、と唾を飲み込んだ。
「お、お世話を掛けます……」
「まったくです」
望は差し出されたアフィスティアの手――なんてものは当然ないので自力で立ち上がり、周囲を見渡す。十体は軽く超えていたシャドウが、もう片手で数えられる程度しか残っていなかった。
シャドウもこのままでは狩られるだけだと考えたのか、望とアフィスティアの視線の先でそれぞれの身体の輪郭をぼやけさせて一つに集まると、全長三メートルはあるかという大蛇の形を取ってとぐろを巻いた。
「何アレこっわ……!?」
「わざわざ数を減らして的を大きくしてくれたんです。ありがたいじゃないですか」
「あらヤダ、心強いわ……!?」
「……気持ち悪い声出さないでください。怖気がする」
「言い過ぎではっ!?」
確かに助けられるお姫様だか令嬢だかの気分で裏声を使いはしたが、そこまで辛辣な言葉を刺してこられるとは思わず、望は泣きたくなる。
そんな望の心中など知ったことかと、アフィスティアはとぐろを巻く大蛇に正面から相対し、巧みに回した大鎌の柄を両手で握って上段に構える。
そして――――
ブワァァアアアアアッ!!
全身から黒魔力を乱気流の如く解き放ち、黒銀の仮面の下から紫炎色の双眼で大蛇を睨みつける。
「来ないようなら、こちらからいきます」
「シュルルゥ……!!」
ザリッ! と砂利を弾き飛ばすように力強く踏み出されるアフィスティアの一歩と、蛇体が縮めていた全身のバネを解放するのは同時。
「
グワァッ、と眼前で関節の外れた顎が開かれ、鋭利な牙が肉薄する。
そこに構わず上段から振り下ろされる大鎌の斜切り。
「――《クリセント・ナイトメア》」
三日月の如く湾曲する大鎌の刃を模した赤黒い鋭利な斬撃が、顎を裂き、そのまま巨大な蛇体を迸って二枚に卸した。
飛びついてきた大蛇の勢いはそのままに、両断された蛇体がアフィスティアとその背に立つ望を両脇に避けるようにして飛んでいった。
そんな光景を見開いた目で見ていた望は、一種の感動と共に呟く。
「……技名、言ったぁ……!」