家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第69話 自分を決めるのは結局自分しかいないですからね

「お陰様で色々な本を買えました。ありがとうございます、と言いたいところですが……」

 

 書店を出たところ。

 アフィスティアはやや不服そうに目を細めてお礼を言いかけながら、購入した本をにゅるりとどこかの空間に溶け込ませるようにして仕舞い込んだ。

 

 妃菜もよく同じようにして持ち物をどこからともなく引っ張り出したり仕舞い込んだりしているので、これも魔法少女の加護の一つなのだろう。

 

 便利で良いなぁ、とこれから夕食の買い物をする予定の望は思わずにはいられない。

 

「はぁ、同時に貴方のお陰で疲れました」

「それはそれは、光栄の至り」

「褒めてません――って、こういうところですよこういうところ!」

 

 ずびしっ、とアフィスティアが人差し指を望の胸の真ん中に突き立て、不満顔を近くに寄せた。

 

「桜の綺麗な場所へ案内していただいたり、本探しを手伝っていただいたりとお世話にはなりましたが、貴方に振り回されたことと差し引けば感謝は帳消しプラマイゼロです!」

「フッ、感謝は不要だ。見返りを求めてやったことじゃあない」

 

 望がおどけた風にキザったらしい態度を見せると、アフィスティアはこめかみに青筋を立てて睨みつけながらギリッと歯ぎしり。

 

「そ、う、い、う、こ、と、じゃ……なぁいっ!」

「怖いって」

「誰のせいだとっ……!?」

 

 尋ねられたので、望は周囲をキョロキョロ。

 それらしい人物はいなかったので顔を正面に戻し、澄まし顔で肩を竦めてみせる。

 

「チッ、貴方ですよっ! あ、な、た!!」

「おっと、俺だったか」

「素知らぬ顔でぬけぬけとぉ……! っ、はぁ~~」

 

 アフィスティアは何か言ってやりたい気持ちをグッと堪えて、湧き上がってきたものを大きなため息として消化させる。

 

「もういいです、疲れましたし。まともに貴方とやり合っても振り回されるだけですから」

 

 取り敢えず心を落ち着けたアフィスティア。

 詰まっていた望との距離を改めるように、一歩二歩と後退りした。

 

 少し離れたところで書店に隣接するスーパーの自動ドアが開き、客が出て行くと共に愉快な店内BGMが小さく聞こえる。

 

 しばしの無言を貫いたあと、アフィスティアがジッと望に紫炎色の瞳を向けた。

 

「貴方は、言ってこないんですね。あの魔法少女のように、私を由菜……でしたか? 彼女の妹だと」

「ん~」

 

 望は後ろ首を撫でながら、視線を適当なところに投げる。

 

「まぁ、俺は妃菜の妹の由菜に会ったことがないから、お前が同一人物なのかどうかは判断しかねる……ってのが、正直なところだ」

「…………」

「でも、お前を見てどことなく妃菜に似てるところがあるなとも思うし、妃菜が自分の妹と他人を見間違えるワケないとも思う」

「……そう、ですか」

 

 アフィスティアは望の考えを聞いてから目を伏せ、自身の胸の内と向き合うような数秒を挟んでから、再び顔を上げた。

 

「何度も伝えた通り、私はアフィスティア。それ以外の何者かである自覚は一切ありません。ですが……」

 

 ゆらり、とその紫炎色の瞳が僅かに左右に揺れた。重たく開かれた唇が小刻みに震える。

 

「由菜……由菜……危機馴染みのないはずのこの名前を口にすると、なぜだか少し懐かしいような気がするんです。それに、あの戦いの中で口を衝いて出そうになったんです……」

 

 河川敷で行われた妃菜とアフィスティアの戦いのことが、望の頭の中にも浮かぶ。

 

「姉さん、って……」

 

 今でもその言葉を口にしたことが信じられないのだろう。アフィスティアは片手で口元を覆う。

 

「私に姉などいません。生まれてこの方、一度としてそんな言葉を誰かに浸かったことがないのに……あの瞬間、私は間違いなく『姉さん』と言いかけました……」

 

 気付けばアフィスティアのもう片方の手が、服の上からギュッと胸を握り込んで深くシワを刻んでいた。

 

「今でもそう口にするたびに動悸がします。それで、頭が痛くなって、眩暈がしてっ……! 私はっ……私は一体何なん――」

 

 ――ポン、と。

 アフィスティアが迷走させる思考を止めるように、その頭に望の手が優しく置かれた。

 

 呆気にとられたアフィスティアは、言葉を続け損ねて口を半開きにさせたまま望の顔を見上げる。

 

 そこにはおどけてもいない、冗談めかしくもない、向けられるだけでホッとするような優しい微笑みがあった。

 

「お前はお前だよ」

「でも、私にはきっと何かがあって……」

「かもなぁ。お前が由菜と関係があるのかないのか。あったとしてどういう繋がりなのか。同一人物なのか、それとも別人なのか。わからないけど、多分無関係じゃないんだろうな」

 

 でも――と、望はアフィスティアの頭頂部に乗せた手を優しく左右に滑らせる。

 

「今ここにいるお前はお前以外の何者でもないよ。自分には何かがあるかもしれなくて、でもそれが何なのかはわからなくて……わかんないことだらけで悩んでしまうそういうところも含めて、お前なんだよ」

「……よ、よく意味がわからないのですが」

「あはは、だよな……」

 

 戸惑いがちな瞳を向けてくるアフィスティアに、望は曖昧に笑う。

 

「ちょっと伝えたいことが抽象的すぎて、多分俺も言ってて半分も理解してないわ」

「……ふっ、なんですか。それ」

 

 便りのない望の笑みに、アフィスティアは思わず口元を緩める。

 

 自分は何者なのか。

 考えれば考えるほど強張って険しく重くなっていた表情が、望の弛緩した空気に当てられて嘘のように柔らかくなる。

 

「まったく……」

 

 アフィスティアは頭を優しく撫でる望の手にされるがまま、大人しく目を細めて呟いた。

 

「本当に、貴方といるとペースが乱されてしまいますね……」

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