家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第74話 多分なんで同じ質問されるのかわかってない

 五月中旬に実施された中間テストから数日後。

 すべての結果が返却されてから、各学年階の中央階段の正面に学年成績五十名の名前と点数が掲示されていた。

 

 あまり成績に興味のない生徒は素通りするが、それでも多くの生徒が足を止めて目を向ける。仮に自分の名前がなくとも、一種ランキング争い的な趣向で楽しみにしている層も厚い。

 

 そして、楽しいかどうかはさておき、そんな成績上位者――中でも上位十名の特待生枠の当事者である望は、二年生に進級してから初めてそれを確認してゴクリと喉を鳴らした。

 

 一番上には『綾乃川香澄』の名前。流石は不動の一位。いつも通り。その次も引き続き特待生でよく見る名前で、一年次学年末テストを指す前回で望の名前があった三番目のところには、これまたやはり特待生だが別人の名前。

 

(んまぁ、別に順位はどうでもいいけど……)

 

 望は別に順位争いをしているワケではない。

 周囲がどう思っているかはともかく、特待生枠更新の上位十名に名前を連ねておけば何の問題もない。

 

 四番目、五番目、と他生徒の名前が続き、六番目に――『御守望』の文字。

 

「……ふぅ、今回も十位以内だな。よしよし」

「流石だね、望くん」

 

 魔法少女の御使いになってから初めてのテスト。

 前回より順位が下がったとはいえ、御使いとしての役割に集中しすぎて学生の本分を忘れてしまっていたなどということにならなかったようだ。

 

 確かに今は学費や生活費の心配がないため成績上位十名の特待生枠にこだわる必要はないが、それでも好成績を取ることによって削れる出費があるのであれば削るべき――というのは、しばらくのバイト漬け生活で身についた根性だろう。

 

「まぁ、俺はともかく。スミの奴は相変わらずなようで。今でもここの一番上に書かれてる名前と、あのポンコツな姿と結びつかないぞ……」

 

 望が少し呆れながら笑みを浮かべていると、二の腕辺りを妃菜がちょんちょん。

 

「ん?」

「そんなこと言ってるところに、香澄ちゃん本人と俊也くんが来たよ」

 

 妃菜が指を向ける先に視線をやると、したり顔の香澄が組んだ腕で豊満な胸を持ち上げながら仁王立ちしていた。その隣で、俊也が「よっ」と手を持ち上げている。

 

「おやおやおやおやぁ~? 六位陥落の御守くんじゃあありませんかぁ~」

「うぜぇー」

 

 また始まったよと言わんばかりの表情を向ける望に、香澄がわざとらしく偉そうに振舞いながら歩み寄ってくる。一歩、二歩、三歩――四歩とその主張の大きな双丘の頂が望の胸の下に触れそうな距離感で、ようやく足を止めた。

 

「現在のお気持ちをお伺いしましょうかぁ?」

「素直に十位以内で安心してる」

「はーい、悠長悠長ぉ~」

「んー、うぜぇ~」

 

 やや低い位置からニヤニヤとした視線を向けてくる香澄に、望は爽やかな笑みを作りながら内心で蹴りを入れてやろうかと思っていた。グーではなく、蹴り。もちろん冗談半分に。そう、半分に。

 

「私は一位!」

「知ってるよ」

「ほらほら~」

「知ってるっつってんだろ?」

「あうっ……!?」

 

 手頃な位置にあった頭頂部に手刀を振り下ろした望。流石に公然で蹴りはマズいかと理性が働いたので、最大限配慮したうえでの行動。表彰してもらいたい気分だった。

 

 香澄は両手で頭頂部を押さえながら、わざとらしく怒ったような表情を見せる。

 

「女の子に手を挙げるなんてサイテー!」

「やっぱ蹴りにしとけばよかったかぁ」

「うわーん! ひなちー助けてぇ~! ミモリンがイジメてくるぅ~!」

 

 嘘泣きしながら妃菜に抱きつく香澄。

 妃菜は「痛かったね~」と香澄の頭を擦りながら、チラリと望に視線をやって来る。そして、一瞬だけムッと頬を膨らませた。

 

(あれ、スミにチョップ入れたの怒ってる?)

 

 望と香澄のいつものやり取りとはいえ女子に手を挙げたことを怒っているのか、それとも何かまた別の原因があるのか。向けられた不満顔が一瞬だったため、望は判断出来なかった。

 

「はぁ、毎回言ってるだろ? 俺は特待生だったら別に何位でも良いの」

 

 テスト結果が張り出される度に同じことを言っているので、望は呆れて肩を竦める。

 

 確かに順位は大切だ。

 特定の環境下での自分の立ち位置を知るためには便利な仕組み。

 

 しかし、結局は相対的な値でしかない。

 仮に順位が物凄く上がったとて、その実周囲が怠けていただけだったら意味を伴わないし、仮に順位が下がっても、自分の絶対的な学力が保たれているなら何の問題もない。

 

 なので、望は順位の変動に興味を向けてはいない。ただ、香澄もそれを重々理解したうえで絡んできているので、もはやこれはお決まりとなった茶番である。

 

「えぇ~、終生のライバル同士あつぅーい学力バトルを繰り広げようよぉ~! 少年漫画的な激アツストーリーを描こうよ~!」

「ちょっ、くっつくな鬱陶しい……!」

 

 妃菜を解放したと思えば、すぐさま望の腕に飛びついて擦り寄ってくる香澄。望は腕を動かして振り解こうとするが、その度にむにっとした弾力が加わるので力を入れるのが躊躇われる。

 

「おうおう、やってんなぁ~」

 

 そんな二人の様子を、俊也は慣れた様子で面白可笑しそうに見守っていたが、妃菜はというと…………

 

「…………」

 

 ハイライトの消え失せた瞳でジッと見つめたまま、無機質な笑顔を作っていた。

 

 望は必死に抵抗していて気付かない。

 しかし、香澄の視界には妃菜の表情がチラリと映り――――

 

 一瞬キョトンとしたあとに、望の腕をパッと離した。

 

「ったく、ようやく離れたか。暑苦しい」

「あっはは~、満足満足~!」

 

 気恥ずかしさと呆れが混在したような顔の望に、香澄はおどけたように笑ってみせる。

 

「順位も確認したし、俺は先に戻るからな~」

「おっ、望ぅ~。今度さぁ――」

「ん?」

 

 自教室に向かって歩き出した望と、少し小走りしてその隣に並んで歩き出す俊也。

 

 あとに残された妃菜と香澄はそんな二人の背中を見守っていたが、「ねぇねぇ~」と香澄が好奇心に満ちた笑みを浮かべて妃菜に耳打ち。

 

「(もしかしてひなちーって、ミモリンのこと好きなの~?)」

 

 ビクッ、と身体を大きく振るわせて、真っ赤にした顔と真ん丸にした瞳を向ける妃菜。

 

「ち、違うよっ……!?」

「えぇ~? えへへ~?」

 

 少し前に魔法少女協会でテュカにされた質問と同じことを聞かれたため、妃菜が普段学校内で保っている外行きの仮面(キャラ)が、動揺のあまり完全に剥がれてしまっていた――――

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