家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~ 作:水瓶シロン
夜の市街地から帰宅後。
望と妃菜はそれぞれ寝る準備を済ませてから、いつものように魔力を計測すべくリビングソファーに並んで腰を下ろしていた。
「今日は久し振りに大技使ったからなぁ。一応俺が魔力補助したとはいえ、ここ最近に比べたら魔力消耗しちゃってるかもなぁ」
ポリポリ、と。
少しばかり心配そうに眉尻を下げて、こめかみの辺りを人差し指で掻く望。
「ま、それも踏まえて確認してみるか」
「ふふっ、望くんはいつも心配性だなぁ」
「慎重派と言ってくれ」
「えー?」
くつくつと肩を上下させて、冗談めかしく笑う妃菜。望もどこかおどけた態度で澄まし顔を作った。
「じゃ、魔力見るぞ~」
「うん」
ここまではいつも通り。
毎日、毎晩決められたタスクとしてやっていること。
しかし――――
妃菜が目蓋を閉じる。
それを見て望がゆっくりと顔を近付けていく。
額を重ねるべく、その距離が二十、十五、十センチ……と縮まっていき、互いの体温がじわりと伝わるか伝わらないかの協会に差し掛かったとき――――
『妃菜ちゃんは望ちゃんが好きなんですぅ?』
『もしかしてひなちーって、ミモリンのこと好きなの~?』
と、その場では咄嗟に否定したテュカと香澄からの言葉が、ここにきて妃菜の脳裏に過った。
「~~っ!?」
パチッ、と開かれる妃菜の目蓋。
妙に熱を蓄えた淡紅色の瞳が、至近距離から望の顔を映した。
「ん、妃菜?」
「っ、ま、待って……!?」
ふいっ、と妃菜が慌てた様子で顔を背けるので、望は目を丸くしながら近付けていた顔を引き戻した。
「どうかしたか?」
「いや……えっと……」
首を傾げる望の視線の先にある妃菜の横顔は、もう入浴を終えて久しいはずなのに少し火照ったように赤らんで見える。
妃菜も顔が熱くなっているのを自覚してか、それを申し訳程度に隠すように、曖昧に指を開いた片手を持ち上げていた。
チラリ、と妃菜は横目に望を見る。
しかし、それも一瞬のことで、若干戸惑っているようなその表情から逃げるように慌てて視線を適当な場所に戻した。
(あ、あれっ……? どうしちゃったんだろう……!?)
ドキドキ、と早鐘を打つ心臓。
変な汗を滲ませてくるような恥ずかしさ。
回転数だけやたら多くて空回りするような頭で、妃菜は必死に今の自分の状態を認識しようとする。
(こんなの、毎日やってることなのにっ……! お、おでこをくっつけることくらい、今更なんてことっ……!)
なんてことあった。
それはもうありすぎた。
顔の表面が燃えるように熱い。
耳が溶け落ちそう。
視線の焦点は遠近が定まらないし、バクバクと心臓が唸りを上げている。
「お、おい、妃菜……? 本当に大丈夫か……?」
明らかに普段と様子が違う妃菜を心配して、望が不安げな面持ちで覗き込んでくる。それを妃菜はさらに顔を背けて躱す。
「っ、だ……大丈夫だよっ……?」
「あの、俺の目を見てから言ってもらっても?」
「それは無理ぃ……!」
「なんでっ!?」
うぅ、と真っ赤になった顔を両手で覆い隠す妃菜。
(んもぉう! テュカと香澄ちゃんが変なコト言うからぁ……!)
他の人へ向ける気持ちと、望へ向ける気持ち。
そこに明確な違いがあることは疑いようもない事実でありながら、そのことに対して今まで深く考えることはしなかった妃菜。
好意は好意でも、それが友人に対してのモノなのか、魔法少女と御使いという一蓮托生のパートナーに対してのモノなのか、それとも異性に対する恋愛的な感情なのか。
何にせよ望が傍にいてくれると心強くて、安心出来て、少なからず胸の奥が騒がしくなることがあって。それらすべてをひっくるめて望という存在が心地良い。
そう思ってしまう自分の感情に、これまで名前をつけてはこなかった。名前なんてつけなくても、そこにその想いがある事実は変わらないから。
しかし、こうして改めて指摘されてその感情に、その想いに向き合わざるを得なくなると――――
「は、恥ずかしい……」
「い、今更……?」
「だ、だってぇ……!」
望が呆れた目を作るので、妃菜は言い訳するように熱を蓄えて潤んだ淡紅色の瞳を向ける。妃菜の口から理由が語られることはなかったが、望もおおよそ心当たりはついている。
望は後ろ頭を掻いて困ったように小さくため息を吐いた。
「ったく、スミが余計なこと言ったせいだよなぁ……」
そんな呟きに否定も肯定もしない妃菜の瞳を見て、望は図星だと察する。
「まぁ、アイツの勘違いなんだから気にすることないって。な?」
「う、うぅん……」
心を落ち着かせようとする望の言葉。
しかし、妃菜は曖昧な反応を見せる。
視線を右へ、左へ。
一度落として、口元で両手の指をピタリと合わせると、戸惑いがちに上目を向けた。
「か、勘違い……なのかなぁ……?」
「……っ!?」
妃菜の問いに、望はビクッと身体を震わせた。
香澄の勝手な思い込みを勘違いと断じない妃菜を前に、胸がざわつき首から上が熱くなる。
(な、何でそんなことを俺に聞くんだよっ……!?)
気付けば顔の赤らみを隠すように顔の下半分を片手で覆っていた望。何かに堪えるように力の籠った目元は細められ、とても妃菜を直視出来る精神状態ではなかった。
沈黙。沈黙。沈黙…………
望と妃菜を居たたまれない静寂が包み込む。
そんな静けさに耐えかねてか、望は手で覆う下で唇を震わせた。
「か、勘違いじゃ……ないのかよっ……?」
「~~っ!?」
ぎこちなくチラッと目をやる望。
妃菜は一秒と持たずギュッと目蓋を閉じて、手近な場所に置かれていたクッションを掴んで望の視線を遮るようにその顔へ押し付けた。
「しっ、知らないよぉっ……!」
「んがっ……!?」
このあと、互いが何とか額を重ねられるようになるまで小一時間掛かった――――
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【月ヶ瀬妃菜】
魔力量上限値:30
白魔力量 :16
黒魔力量 :3
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※白魔力:☆ 黒魔力:■ 枯渇:・
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