家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第08話 これが新手のハニートラップ!?

 開いた口が塞がらない状態のまま、望は妃菜に連れられて巨樹の中――魔法少女協会へと足を踏み入れた。

 

 大きなドーム状の空間を真っ直ぐ進んだ先に、いかにも受付といった感じのカウンターがあり、白と緑を基調とした協会の制服に身を包んだ職員らが並んでいる。

 

 望と妃菜がその窓口の一つに顔を出すと、受付の若い女性職員がにこやかに出迎えてくれた。

 

「ようこそ、魔法少女協会へ」

「魔法少女の月ヶ瀬妃菜です。担当マネージャーのテュカに話があって来たんですけど……」

 

 身分証になっているのだろう。

 こちらの世界に来るときに使用した鍵を提示しながら妃菜が用件を伝えると、女性職員は「少々お待ちください」と言って、何か科学技術とは縁遠い結晶板――モノリスを操作する。

 

 数秒後に顔を上げた女性職員。

 

「お待たせいたしました。ただいまテュカを第十七庭園に呼び出しましたので、そちらの方にお越しくださいませ」

「ありがとうございます」

 

 行こ? と妃菜がカウンターを離れて歩き出すので、望はわけもわからないままついていく。

 

 フロアの端にいくつか、円形の台に紋様と文字が刻まれた装置が並んでいた。

 

「御守くん、ここに乗って?」

「お、おう。ちなみにコレなに?」

「ん~、フロアを移動するための装置、かな」

 

 エレベーターみたいなもんか、と勝手に解釈した望だったが、妃菜が傍にあったモノリスを操作して行き先を指定すると――――

 

 ヒュパッ……!!

 

「……え?」

 

 一瞬にして目の前の景色が変わった。

 

 巨樹一階の広大なドーム状の空間はどこへやら。

 今、望と妃菜の視界には、どこからか温かな日差しの差し込む緑の繭の中とでも表現すべき景色が映っている。

 

 手頃な広さの半球状の部屋。

 壁と天井は自然を感じる緑で、部屋の真ん中には丸テーブルとそれを囲うようにいくつか椅子が並べられていた。

 

「しゅ、瞬間移動した……!?」

「あはは、驚いた?」

「そ、そりゃな……」

 

 妃菜がテーブルに向かって歩いていくので、望もついていく。

 

「テュカはまだ来てない、か……」

「そのテュカって誰なんだ?」

「あぁ、えっとね」

 

 妃菜が椅子に腰を下ろしながら説明を始めるので、望もその隣に座って聞く。

 

「魔法少女は基本的にこの魔法少女協会に登録して管理されてるんだけど、テュカはそんな魔法少女達の管理をする職員の一人で、私の担当者なの」

「それって御使いとは違うのか?」

「うん。御使いは魔法少女をすぐ傍で支える、いわゆるパートナー。テュカは何人かの魔法少女達を管理監督するマネージャーっていうイメージかな」

 

 なるほど……、と望の疑問が少し晴れたタイミングで、先程自分達もこの部屋に来るために使用した転移装置がピカッと光った。

 

 そして――――

 

「ひぃ~なぁ~ちゃぁ~んっ!!」

「うわっ……!?」

 

 転移装置からそのまま真っ直ぐ飛び出して来た小さな何かが、妃菜の胸にダイブする。

 

 突然のことに驚いた妃菜だったが、すぐにその正体を理解したようで、どこか気まずそうな笑みを浮かべていた。

 

「え、えと……ひさしぶり、テュカ」

「『ひさしぶり、テュカ』じゃないですよぉ、もうっ!」

 

 文句を叫ぶために妃菜の胸から離れたそれは、妖精だった。

 

 両手の平にポンと乗る程度の大きさで、一見動物のぬいぐるみのような愛らしい外見をしている。

 

 一言で犬とも猫とも兎とも言い表し難いものの、取り敢えず薄桃色の毛並みが美しい生き物。

 

 そんな愛らしい妖精が、妃菜と目線の合う高さに浮遊しながら、腰に手を当ててぷんすかと怒っている。

 

「まったく顔を出さない挙句、魔法少女活動の報告書の提出はまばらで、ようやく出したかと思えば内容がたった一言『シャドウ十三体倒した』みたいな適当さっ! おまけにバイタルの定期検査も不定期でぇ……!!」

「う、うぅ……ゴメンね、テュカぁ……」

 

 妃菜が顔の前で両手を合わせながら申し訳なさそうな上目遣いで謝罪するので、妖精――テュカは呆れた視線を返した。

 

「はぁ、可愛い顔して謝ったからって何でも許されるワケじゃないですよぉ? というか、申し訳なく思っているなら、次からちゃんとしてくださぁい」

 

 しかし、テュカにも思うところがあるのか、少しの譲歩を見せる。

 

「まぁ、御使いがいない魔法少女は、本来こういった御使いが行う作業までやらなきゃいけなくて負担が大きいことはわかっているので、多少は期限なども延長しますけどぉ……限度というものがあるんですからねぇ?」

 

 ビシッ、と。

 それは指を立てているつもりなのだろうか。

 テュカがふにふにの肉球を向けている。

 

「あ、テュカ。そのことなんだけど」

「はい?」

「私、この人と契約したの」

「……ほぇ?」

 

 妃菜がスッと望の前に手を出して紹介する。

 

「こちら、御守望くん。私の御使い」

「……え、えと……人間、ですよねぇ?」

「うん、ちょっと成り行きで……」

 

 スススゥ、とテュカが空中を滑るようにして望の前に来る。

 

 信じられないものを見ているような目を向けてくるが、それは望としても同じこと。

 

「お、おい、月ヶ瀬……」

「ん?」

「この妖精? がテュカ?」

「う、うん。そうだけど……」

「マジか、めちゃ可愛いな……!?」

 

 望は瞳をキラキラと輝かせて、目の前に浮かぶぬいぐるみ――もといテュカへ両手を伸ばした。

 

「ひゃぁっ……!?」

「ちょ、御守くん……!?」

 

 驚いて短く声を漏らすテュカ。

 どこか慌てた様子の妃菜。

 

 しかし、望は構わず両手に収まる可愛すぎる生き物をモフっていた。

 

「ふわふわだし、サラサラだし、柔らかくて温かい……何だこの可愛いの権化はっ……!?」

 

 頭を撫で。

 頬を突き。

 腕をにぎにぎして。

 肉球に触れる。

 

 あまりに心地良すぎる感触に、望は虜になっていた。

 

 しかし――――

 

「あ、あのあの……あのぉっ……!」

 

 テュカが望の手の中で何かを訴えるように叫んだ次の瞬間。

 

 ボフッ! とやけにキラキラ光る煙を放って爆発したかと思えば――――

 

「初対面でセクハラですよぉっ……!?」

「……へ?」

 

 テュカは小柄であどけなさの残る人型の少女の姿に変身しており、望の両手はそんな少女の頬を挟んでいた。

 

 外見年齢は十代前半頃。

 ふわっとしたミディアムヘアは妖精の姿での毛並みと同じ薄桃色で、クリッと大きな黄色い目は少し垂れ気味。

 

 魔法少女協会の制服越しにも伝わる華奢な身体で、耳がファンタジー世界のエルフのように尖っている点と、アホ毛というには少々主張が激しい触角のような毛束がぴょこんと立っている点を除けば、ほとんど普通の人間と同じ外見をしていた。

 

 そんな少女がじわりと顔に熱を蓄えている。

 望は両手で頬を挟んでいるため、そのことを誰よりも正確に把握していた。

 

 望はテュカから恐る恐る離した手を自身の顔の両横に持ち上げ、ギギギ……と錆びついた機械が発しそうな擬音が似合う挙動で、妃菜に視線をやった。

 

 そして、青ざめた表情で言う。

 

「悪い、月ヶ瀬……明日から俺、ムショ生活かも……」

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