家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~ 作:水瓶シロン
「あのぉ、御守様ぁ? 朝方に頂戴したたんこぶ触ったらまだちょっと痛いんですけどぉ……?」
「その痛みをしっかり噛み締めておけ」
「ひどぉーい!」
翌日。
下校すべく階段を下りて本校舎の玄関へと向かっていく道中のこと。
今日は生徒会の用事もないと校門まで一緒に帰るつもりでついてきている香澄が、頭頂部を押さえながら望にわざとらしい涙目を向ける。
「女の子の頭を叩くなんてサイテー」
「俺は真の男女平等主義者だからな」
「馬鹿になったらどうしてくれんのさー」
「ついに不動だったスミの学年一位の座を揺らがせるかもしれないとは……何て罪深いんだ、俺の手」
「他人事みたいなテンション!?」
くわっ、と喚く香澄。
望もそんなやり取りに付き合ってはいるが、そもそもたんこぶが出来るほど強く叩いてはいない。
妃菜との間に居たたまれない空気感を作ってくれた香澄に、今朝、挨拶がてらいつもより多少は強いかな程度の力加減で手刀を落としただけ。
大袈裟だなぁ、なんて望が考えているうちに、玄関に着く。各々慣れた手つきで靴を取り出して履き替える。
望も同じようにしていると、ちょんちょんと肘の辺りを突かれた。振り向けば、妃菜があまり面白くなさそうな半目を作って見つめてきている。
「望くんって、俊也くんと香澄ちゃんには遠慮がないよね……」
「え、えぇっと……?」
それはどういう意図で指摘してきているのか。望はよくわかってないままに、少し首を傾けながら答えた。
「そりゃまぁ、去年も同じクラスだったし?」
「むぅ、扱いの差を感じる……」
しゅん、と俯きながらローファーに履き替えた妃菜。望はその呟きを拾って小さく笑った。
(なんだ、拗ねてたのか)
俯いているせいでいつもより少し低い位置にある頭に、望は優しくトン、と手刀を当てた。驚いたように目を丸くして見上げてくる妃菜に、改めて笑う。
「別に、二人を贔屓してるワケじゃないぞ。アイツらはああいうキャラだから自然と砕けた接し方になってるだけでさ」
俊也とは俊也との付き合い方が、香澄とは香澄との付き合い方があるように、妃菜とも妃菜との関わり合い方がある。
たまたま俊也と香澄が明るい性格ゆえに、傍から見れば特別打ち解けているように見えるかもしれないが、だからと言って望が妃菜に何か遠慮をしているという話にはならない。
そんな望の考えを理解したのか、妃菜は「ふふっ」と淡く微笑んで目を細めた。
「なら、いいよ」
「おう」
柔らかな表情を向かい合わせる二人。
そんな二人の様子を一歩後ろから眺めていた俊也と香澄。
「……んなぁ、香澄」
「ん?」
「月ヶ瀬がいつにも増して可愛く見える」
「引き立ててる人が目の前にいるからねぇ」
「クッ、羨ましいぞ望ぅ……!」
「妬むんじゃあないよ~?」
「それが、自分でも不思議なんだけども……!」
ガシッ、と俊也は顔の前で両手を握り合わせた。
「あの二人、推せるんだよっ……!!」
「……はぁ、やれやれ…………」
隣で香澄は呆れたように首を振ったあと、見事なアルカイックスマイルで遠い目を向けた。
「まさか、この私が俊也と同意見だとはね……」
片や力一杯拝むような格好の俊也。
片や悟りを開いたような表情で佇む香澄。
靴に履き替えても一向に出てこないのを不思議に思って振り返り、そんな二人の姿を目撃した望の心境はというと…………
「……置いてくぞ?」
◇◆◇
本校舎の正面玄関を出たあと、四人で他愛もない雑談を交わしながら正門へ向かって歩いていると――――
「何だありゃ? めっちゃ人だかり出来てんだけど?」
ちょうど望らも気付いた頃に、俊也が代弁するかのように疑問符を浮かべる。
多くの英志院学園生にとっての出入り口である正門は、確かに人の出入りが盛んではあるが、今は人の数はそのままに流れが滞っている状態だった。
ざわざわ、と一定の距離を保って何かを取り囲むように集まっている生徒達の声がごちゃ混ぜになって聞こえてくる。一つ一つの詳しい内容はよく聞き取れないが。
「むむむぅ……?」
香澄が手でサンバイザーを作るようにして唸りながら目を凝らす。何が見えるのかその答えを待っていると…………
「あ、れ、はぁ……ん~、
華女――華乃井女子学院。
一言で言えば由緒正しき名門お嬢様校である。
学力だけでもここ英志院学園と比肩するレベルに加え、同時に家柄なども見られる敷居の高さ。挨拶は「ごきげんよう」を素で通すとの噂。
どうやらそんなところの生徒が、英志院学園の正門前に立っているらしい。
「マジか。何の用だろう……」
望も目を凝らせば、人混みの合間からチラリとその人物の姿が見えた。華乃井女子のベージュを基調としたセーラー服と、艶やかな黒髪。
そして――――
「……っ、見付けた」
「ん」
パチッ、と遠巻きながらにその紺碧の瞳と視線がぶつかったような気がした。が、それが気のせいでなかったことを望はすぐに思い知ることになる。
それまで周囲を見渡すばかりで動こうとしなかったその少女が、突き動かされるようにカツッと硬いローファーのヒールを鳴らす。
全身から放たれるお嬢様のオーラに気圧されてか、興味深そうに取り囲んでいた英志院学園の生徒らは道を開けるように後退る。
それはランウェイ上のウォーキングか。
カツカツとヒールを鳴らす度にどこか青みがかった長い黒髪が揺れ、その凛とした視線は狙い違わず望の姿を射抜く。
「なぁ、あのお嬢様? こっち来てない?」
と、俊也。
「来てるっぽいねぇ……」
と、香澄。
「の、望くん……!」
と、彼我の距離が近付いて行き先を察した妃菜が不安そうに。
「えっ、し、知らん知らん……!」
望は一歩、二歩、と後退りするが、それを逃がさず――――
「望っ……!」
「んなぁっ――!?」
ギュッ、と望の手を両手でしっかり握り込んで、そのまま正面から身を寄せて望の胸に顔を埋める少女。
驚愕のあまり声が出ぬ一同。
望も完全に身体を強張らせていた。
しかし、少女は周囲のことなどお構いなしに紺碧の瞳で望を見つめる。
「ずっとこの日を待ちわびていたのよ、望」
色んな意味でドギマギしてしまいながら、望は思わずにはいられなかった。
(だっ……誰ぇっ……!?)