家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第83話 お、俺のために争わないでぇ……

「魔法少女装束って、和装もあるのかっ……!?」

「えっ、そこ……!?」

 

 驚きと感嘆を同居させたような声を漏らす望に、警戒を前面に出していた妃菜も思わず振り返る。

 

 対して、大太刀の傍らに降り立った魔法少女は興味を持ってくれたことが嬉しかったのか、どこか得意げな様子で口許に弧を描いた。

 

「もちろんよ。魔法少女装束はその者の心象を反映した姿――その種類は魔法少女の数だけあるわ。まぁ、和装の姿を取る魔法少女の絶対数が少ないのは事実だけれど」

 

 以前望も妃菜から聞いたことがあった。

 それこそ、アフィスティアと初めて会ったときだ。妃菜はアフィスティアの魔法少女装束が由菜と同様のものだと言っていた。

 

「どう? 綺麗かしら?」

「あ、えと……」

 

 クスッ、と口元に手を当てて微笑む和装魔法少女の姿を、望は改めて確認する。

 

 青いメッシュの入った烏羽色の長髪は後頭部の高い位置でポニーテールに束ねられており、晒される白いうなじは凛と輝く紺碧の瞳は深い海のような静かさと圧力を内包している。

 イメージカラーは青といったところか、身に纏う和装も青や藍が基調。垂れた袖は蝶の羽のようで、腰の高い位置で絞られた袴は両サイドに深く切れ目が入っており、すらりとしたおみ足がその姿を覗かせている。

 

 全体的に露出こそ少ないが、イコール色気がないなどと言うのは大間違い。品のある淑やかさは十二分に魅力的に感じられる。

 

「凄く似合ってます!」

 

 グッと親指を立てて堂々とサムズアップ。

 望のハッキリとした感想に、和装魔法少女は勝ち誇った笑みを浮かべて妃菜を見据える。

 

「フッ、残念だったわね月ヶ瀬の」

「ぐっ、ぬぬぅ……もぉう、望くんっ……!」

 

 ぷくぅ、と大きく膨らむ頬には、不満という気体が大量に詰まっているのだろう。妃菜が向ける顔に、望は慌てて手を振った。

 

「ま、待て待て、他意はない!」

「ホントかなぁ……?」

「ホントだって! そんなの妃菜も似合ってるし……!」

 

 素直な望の言葉を浴びて、妃菜は意表を突かれたように目を丸くした。やや恥じらったように頬を色付かせ、恐る恐るといったようなジト目を作る。

 

「た、他意は……?」

「っ、そ、それはっ……」

「…………」

「…………」

 

 見つめ合って居たたまれない空気を作り出す望と妃菜。それを傍で眺めていた和装魔法少女が――――

 

「私を忘れてイチャつかないでくれるかしら」

「「イチャついてないっ!」」

 

 くわっ、とたまらずツッコミを入れる望と妃菜の声がアンサンブルした。

 

「ふぅ、それで……」

 

 息を吐いて呼吸と精神を落ち着けた妃菜が、淡紅色の瞳を冷静に細めて和装魔法少女を見据える。

 

「今と言い放課後と言い、日比峰の魔法少女が何の用かな?」

 

 そんな質問を先に拾ったのは本人ではなく、妃菜の後ろに立つ望だった。眉を顰めて呟く。

 

「ん、放課後……日比峰……?」

 

 数秒思考して、目の前の和装魔法少女に覚えていた既視感のその先を覆い隠していた霧が晴れる。「あっ」と声を漏らした。

 

「もしかしてお前っ……薫か……!?」

「えぇ、そうよ? ようやく気付いてくれたのね。望ったら、そうやっていつでも私を待たせて……わざとかしら?」

「んなワケあるか。お前についてる加護の問題だろ」

 

 呆れ半分で望が指摘すると、和装魔法少女――薫は「あら」と顎先に手を添えて小首を傾げてみせた。

 

「放課後会いに行ったときも、すぐに気付いてくれなかった気がするのだけれど?」

「何年も会ってなかった奴と突然再会して気付けってのは無茶な話だろ。成長もしてるだろうし」

「私は見た瞬間気付いたわ」

「いや凄いな」

「ずっと貴方のことを考えて生きてきたもの」

「いや重いな」

 

 望が半目を向けても、薫は恥ずかしがする振り一つなく堂々と涼し気に佇んでいた。

 

「それで、貴女の質問に対してだけれど……」

 

 逸れた話を元に戻し、薫が妃菜を正面から見据える。

 

「望は私が貰っていくわ」

「うん、ゴメン無理」

「…………」

「…………」

 

 とんでも発言を放った口で弧を描く薫の顔と、それに対して即答し微笑む妃菜の顔とが向かい合う。

 両者の間には、放課後と同様に不可視の火花が飛び散っているようだった。

 

「見ての通り望くんは私の御使いだよ? 正式な契約のもとに結ばれたパートナーなの。誰にも渡すつもりはないよ……?」

「そんなこと知っているわ。貴女と並ぶ望を見掛けたとき、探すために魔法少女協会の情報を調べさせてもらったもの」

 

 俺のプライバシーどこ行った? と望は心の中で涙を流す。

 

 流石に魔法少女協会も赤の他人に個人の情報を開示することはしないだろうが、知人かつ魔法少女である薫が問い合わせたのであれば、コンタクトを取るため所在地くらいは伝えたかもしれない。

 

 望も御使いとして正式に魔法少女協会に登録されているし、仮に直接望の情報を聞けなかったとしても、望が魔法少女である妃菜と関係を持っていることを知っていれば、妃菜方面でアプローチを掛けて情報を集めればいいだけの話。

 

 この辺りの地域の防衛戦力の要であり、名家である『月ヶ瀬』の魔法少女ともなれば、それなりに情報も集まるだろう。

 

「で、パートナーだから何かしら? 契約なんていつでも解約出来るのだから、些末な問題でしかないわよ」

「っ、誰が解約なんか……!」

「するわ。させるわ。だって、貴女は望に相応しくないもの――月ヶ瀬妃菜」

 

 そう薫が口にした次の瞬間――――

 

 ブワッ!! と妃菜の全身から魔力が滾って溢れ出した。生み出された突風が足元の砂を巻き上げ、薫の袖を揺らす。

 

「私のこと……私達のこと、よく知りもしないクセに……言い切ってみせるんだね、日比峰薫ちゃん」

「そうね、興味ないもの。とはいえ家が大きいせいか聞いてもない情報があれやこれやと耳に入ってくるのよ」

 

 例えば――と、薫は紺碧の瞳を挑発的に細めて言った。

 

「間抜けにも月ヶ瀬の次女が組織に連れ去られた、とかね?」

 

 刹那、妃菜の眼前を掻き消すように光の奔流が迸った――――

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