家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第84話 ちょっとこうなる未来は見えてました……

「間抜けにも月ヶ瀬の次女が組織に連れ去られた、とかね?」

 

 地雷も地雷。

 なんなら隠れてすらいない超特大高火力の見え見えの爆弾に火をつけた。

 

 由菜が連れ去られて妃菜がどれだけ辛かったか。助け出そうと無茶を繰り返してどれだけ苦しんだか。そして、これまでもこれからも由菜に対する心配でいっぱい。

 

 誰よりも近くで見て、そのことを知っている望は、流石に今のは聞き捨てならないと薫に訂正するよう求めるべく、口を開こうとした。

 

 しかし、声を出すより早く――――

 

 カァッ――!!

 

 眼前を掻き消すように光の奔流が迸り、一瞬夜の帳が斬り裂かれる。

 

 白熱する視界。

 あらゆる輪郭を覆い隠す黒が、あらゆる輪郭を掻き消す白に変貌する。

 

 再び訪れた夜闇に望の目が慣れる。

 まずは妃菜が長杖を振り払った状態で静止している後ろ姿が目に入り、次に熱せられて焼け焦げた地面を確認する。

 

 そして、最後に大太刀を身体の前に逆さに持って佇む薫と、その背後だけ元の色を保っている地面が見えた。

 

「なるほど、噂は本当だったわけね」

 

 薫はヒュンと刃で空気を切りながら、身の丈をも越すような大太刀をゆるりと右手一本で持ち直す。今の一合など、たいして気にも留めてなさそうな口振りだ。

 

 呆気に取られて声が出せずにいた望は、まだ少し喉につっかえるものを感じながらも口を開く。

 

「お、おい薫。妃菜に謝るんだ」

「あら、何故かしら?」

「なぜって……妹が連れ去られて、妃菜が平気だとでも思ったのか? 一番辛いに決まってんだろ。なのにそれをお前は……」

 

 薫は望の言葉に耳を傾け、対峙する妃菜に目を向ける。スッと細められ力の籠った淡紅色の瞳は、怒りで爛々と光っていた。それを見て、一度目蓋を閉じ、再び開ける。

 

「……そうね。望の言う通りよ」

 

 薫は静かにそう呟き、紺碧の瞳を妃菜に向けた。

 

「月ヶ瀬妃菜、今のは放言だったわ。ごめんなさい」

「……ふぅ」

 

 昂った感情を落ち着かせ、加速した鼓動を鎮めるためだろう。妃菜は小さく息を吐いてから長杖の柄尻を地面について真っ直ぐ立ち直した。

 

 互いに向け合っていた矛もこれで納まるかと思って、望は一安心しようとしていた。

 

 しかし――――

 

「でも、失言だとは思っていない」

「ちょっ、薫……!」

 

 口を挟み掛けた望を、妃菜が静かに手を挙げて制止する。

 

「どういう意味、かな?」

「わからないかしら」

 

 警戒しながら問う妃菜に、薫は気圧されるどころかむしろ覇気で圧倒するくらいのスタンスで口を開く。

 

「自分の妹さえ守れなかった貴女に、望は預けられないと言っているのよ」

 

 カタッ、と地面についていた長杖が揺れた。

 柄を握る妃菜の右手に力が入っている。

 

 薫はそれを見ても構わず言葉を並べた。

 

「確かに望は普通の人より魔力が多いようだけれど、魔法少女の御使いを務める他の妖精と比べたら誤差のようなもの。とても戦闘の助けになるとは思えないし、むしろ戦場に出すだけ望を危険に晒すことになる」

 

 それに――と、薫が続ける。

 

「貴女ほどの魔力量があれば、御使いなんていなくても充分に活動出来るはずでしょう? ますます望を必要とする意味がわからないわね」

「望くんは必要だよ!? 私にとってもう欠かせない存在になってるんだから……!」

 

 理屈で望の存在意義を奪われていることに焦燥を感じてか、妃菜がどこか焦ったように否定する。

 

「回数は限られてるけど、望くんに魔力補助してもらったらその分だけ私の負担は減るし、戦いやすくなる。それに戦闘だけじゃないよ。望くんはは私の心の支えだもん……望くんがいるから頑張れる、転んでも立ち上がれる、立ち上がらせてくれるの」

 

 妃菜の言い分を静かに聞き、薫はつまらなそうにため息を溢した。向ける視線は、どこか呆れてすらいるようだ。

 

「確かに、魔法少女には心の在り様が大きく関係してくる。それは事実ね。だから、貴女の言っていることはわかるし間違ってもいない」

「だったら――」

「――で、だから何?」

 

 薫が顎を持ち上げ、下目に妃菜を睨みつける。

 

「全部自分のためじゃない。今の言葉に、一つでも望のためになることがあったかしら」

「……っ!?」

 

 ザリッ、と妃菜のヒールが地面を浅く削る。

 瞳を揺らしながら、頭の中で自分の発言を振り返る。薫の言う通り、望のためを思っての言葉は一つもなかった。

 

「望がいた方が戦いやすいとか、望がいると心の支えだとか、それで私がはいそうですかと言うとでも? どうして私が貴女なんかの心配をしなければいけないのかしら」

 

 薫は下駄を鳴らして一歩、二歩、三歩……と妃菜のすぐ目の前まで近付くと、至近距離から迷いのない凛とした紺碧の瞳を向ける。

 

「そこを退きなさい、泥棒猫。貴女は望に相応しくない」

「ど、退かない……」

「貴女では望を守れないわ」

「そっ、そんなことな――」

「――ない、と言い切れるだけの説得力が貴女にあるのだとしたら、今、貴女の隣にはもう一人魔法少女が立っているのではないかしら」

 

 ギリッ……、と歯を噛み締める妃菜。

 しかし、すぐに反論することは出来ない。

 

 実のところ、望と妃菜が共にいるのは、何も妃菜の利益のためだけではない。

 

 もちろん妃菜としては生活の面倒を見てもらえることや、戦闘時には魔力を補助してもらえるというメリットがある。しかし、同時に望には住む場所が提供されているし、ある程度危険は伴うものの、御使いとして働くことによってそこらのバイトよりも高い報酬を貰っている。

 

 つまりはウィンウィンの関係。

 

 しかし、それを説明するためには望と妃菜が一つ屋根の下で同棲生活をしていることを伝えなければいけないし、そもそもその関係によって望が得ているものは、やろうと思えば薫にだって与えられるもの。

 

 どのみち、薫を納得させる理由にはなり得ないだろう。

 

 それでも……そうだとわかっていても、妃菜は引き下がることだけはしなかった。理屈で圧倒されても、背に隠す望の前からは動かない。

 

「……うん、ぐうの音も出ないよ。全部君の言う通り。私は一番守りたいものを守れなかった魔法少女で、根拠のある言葉なんてなんにも言えない……」

「そうね」

「でもっ、それでも私は守ってみせると言うよっ! もうあの頃の私じゃない……望くんも守るし、由菜だって連れ戻す!」

「そんなのワガママでしか――」

「――そうだよ、ワガママだよ。これは私のワガママ。でも、望くんが言ってくれたの……もっと頼って、ワガママになって、遠慮せずに甘えていいって。だから、私は私のこのワガママを貫き通すよ」

 

 開き直った無敵の人――と言ってしまえば聞こえは悪いが、利他的な思考をしがちな妃菜がこうまでハッキリ自分の意見を押し通そうとしているのを見て、望は嬉しくなって思わず表情を綻ばせる。

 

 対して、薫からすればこうなってしまった妃菜は厄介極まりないだろう。理屈で正当性を述べて追い詰めても、その盤面ごとひっくり返されたようなものだ。

 

 こうなっては、もう方法は一つしかない――――

 

「はぁ、仕方ない……」

 

 薫はうんざりしたように息を吐く。

 

「なら、私を納得させてみせることね。何とでもいえる言葉ではなく、その実力を持って証明しなさい」

 

 鋭利な刃物のような薫の視線が、妃菜を射抜く。

 

「どちらが望に相応しいか、勝負よ」

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